◎国内現地の新しい動き


北海道の企業的牛農家二題

(財)新農政研究所理事長 松浦龍雄


北海道の企業的牛農家二題

  永年、農村の現場を歩いている。日本農業に生じている新しい動きはどこにある
のか。焦点を絞り込んで見たり、聞いたり。20年にもなると、ある特徴というか、
あるいは一つの兆しが読めて来たように思う。それは高齢化社会だ、後継者不足だ、
嫁飢饉だといわれるものの、明らかに21世紀に向けて、「他人はいざ知らず、俺
は農業をやるんだ」と自信を持って言い切り、またそれだけの実績をあげ、かつ後
継者もチャンと確保している農業者が、全国に存在している事実だ。果たして彼ら
が日本農業全体をどちらの方向に持っていくのか言い切れる訳ではない。しかし少
なくとも、「農業は将来真っ暗だ」と口々に言い立て、騒ぐ人たちの、ごく身近な
ところに、同じ村に、文字通り日本農業の将来の担い手たちが数は多くないものの
明らかに存在している。

  どんな村でもよい。「貴君の村に、これならば立派に農業をやっていると推薦で
きる人はいますか」と質問すると、必ず「居ますよ」という返事がかえってくる。

  こうして推薦された農業者に会って見ると果たせるかな、立派な人であり、立派
な営農成績を上げていることが確認できる。日本農業はお先真っ暗なのではなくて、
前途洋々ではないかと思いたくなるほどだ。そしてそのような農業者に質問してみ
ると、そこに共通した特徴というか、人間像が浮かび上がってくるのである。私な
りにその特徴を次の五項目にまとめている。

1.地域農業のあり方を考えながら、常に自家農業の経営採算の改善を図り、特に
 資金繰りを明確に把握している。

2.技術革新に積極的に挑戦し、広く情報の収集に努力している。

3.生産面だけでなく、流通面にも関心が深く、産品の販売に工夫をこらしている。

4.自家労働力だけでなく、雇用労働を巧みに活用している。あるいは地域の仲間
 と連帯し、共同作業を組んでいる。

5.農政や農業支援団体や組織の活動を冷静に観察して、独自の判断、評価を下し
 ている。

   ところで現実の農村でこの5条件をすべて備えている人はまずいない。このな
 かの一項目は欠けている人が多い。仮に五項目すべて備えている人だと、むしろ
 村の中では浮き上がった存在になるケースも目立っている。

   いずれにせよ彼らの多くは企業的農家層という表現でくくれる場合が多い。ご
 く少数だが、特に知識水準の極めて高い人は必ずしも“企業的”という表現だけ
 では失礼に当たると思うほどである。

 さてこの私流全国基準を北海道の畜産農家にあてはめればどうなるか。やや奇抜
な対照になるかとも思ったが、ある35才の酪農家と土地なき肥育牛生産者たちに
焦点をしぼってみた。いずれも北海道農業の代表としてではなく、北海道ではこん
な可能性もあるという意味で受け取ってほしい。

  札幌からJR釧路本線に乗って、富良野市の一歩手前、“星のふる里”で有名な
A市で降りる。事実、満点のきらめく星座が美しい山里である。丘陵のヒダのあた
りにめざすRさんの自宅と畜舎が道路をへだてて向かい合っていた。

  Rさんの話でのっけから驚かされたのは「飼料は足りているから牧草は年1回刈
りで十分です」という言葉だった。成牛80頭うち搾乳牛は60頭、ほかに育成牛
が50頭いるという。しかも飼料は年間ヘイレージの多給で濃厚飼料は心持ちだけ。
「私がくれてやるとケチだから購入した濃厚飼料は必ず残る」のだそうだ。だから
なるべく給飼は他の人の仕事にしていると笑う。よく聞けばなんと牧草畑は100
ヘクタールからある。ほかに市有地27ヘクタールを採草地として借りている。こ
れだけの面積があればなるほど牧草は1回刈りで足りる。家の前のバンカーサイロ
にヘイレージはぎっしり。あの見なれたでっかいサイロ塔が見当たらない。「借金
して作ったって仕様がねえ」とニベもない。つまり第1項目はきわめてドライに守
っていると感じた。果たせるかな、それから聞いた話は驚いたり呆れたりの連続。
35才の独身とは言いながらよくそこまで割り切ったものだ。

  両親は戦後の入植者、最初はじゃがいもなどの畑作農家だった。昭和40年兄さ
んが成人して2頭の乳牛を導入したのが牛飼いの始まり。もっともお兄さんは夢が
多くて、経営収支採算はなかなか合わない。そこで3番目の末っ子のRさんにバト
ンタッチして家を出た。残されたのは借金の山である。これが50年代の初め。8
0頭余りもいた搾乳牛は、折りからの牛乳の生産調整を背景に駄牛淘汰を始めた。
最近はいささか減らし過ぎたとの反省から育成牛を増やしている。

  1番草しか刈らないのも訳がある。2番草以降は立ち枯れて牧草畑の肥料になる。
この地力の培養がこのあとに来る乳質の改善に大きく役立っている。というより、
牛乳の味がよい。理由は技術者でない私にはさっぱり判らないが、札幌パークホテ
ルのシェフが道内各地の牛乳を飲み比べて、この10月札幌にお見えになった両陛
下に差し上げる朝食の牛乳はこれだときめたのである。どうやら第2項目もクリア
した。

  そのうちRさんは「牛乳を自分で売ってはなぜいけないだろうか」と考えるよう
になった。

  即ち第3項目への挑戦である。わが国の農畜産物数ある中で、生産農家が消費者
に対して自分勝手に売れないものが二つある。米と牛乳だ。肉類も自分勝手に家畜
を殺せない、という意味では、売れないのと同じことだが、肉類は売る気になれば
できる。少なくとも市場セリにかければ売値つまり手取り価格が直ちに判る。納得
もできる。しかし、米と牛乳は生産者が直売できない。少なくとも建前はそうだ。
お米は大潟村騒動を見るまでもなく出来秋には縁故米が田舎から都会へラッシュし
ているから建前と本音は最近かなり乖離したとも言える。しかしこと牛乳に関して
はそもそも酪農家もそんな大それたことは考えつきもしない。愛知県の知多酪農協
の“みどり牛乳”や鳥取の大山乳業など明らかに、酪農家集団が牛乳工場を持って
売り出しているところはある。また三宅島でたった一軒の酪農家が自家製造してい
る例もないことはない。最近になって上毛酪農協など“手づくり牛乳”を売出し始
めている。しかし全国を見ると、まだレアケースである。だから小豆島の酪農郷な
のに、いったん高松に送って、また海を渡って小豆島にビン詰めが逆戻りして売ら
れている。ふる里フルムーン族たちは「小豆島の牛乳」を感激して飲んでいるが飛
んでもない。小豆島産だかどうだか判らないのである。酪農振興法で指定集荷団体
が決まっており、一元集荷多元販売システムこそ生産者のためのシステムと法律が
規定している。

  2年前空知支庁の畜産課に顔を出して切り出したRさんは、たちまちこっぴどく
叱り飛ばされた。「何を言い出すやら。お前が自分で作って自分で売る。それは自
分には都合のいいことだろう。いま仲間が皆で牛乳の生産調整をやっているのだ。
要するに消費者はこれだけしか牛乳は飲まない。お前が勝手に牛乳を売った分だけ、
仲間の牛乳の売行きが減る。こんな簡単な理屈がお前には判らんのか。」

  戦前ならこわいお巡りさんがサーベルをひねり乍らお説教を垂れるところだ。そ
れほどのことではないかも知れないが、係官はケンもホロロで、ほうほうの態で若
造Rさんは帰らされた。ここで諦めたら第3項は落第である。

  Rさんはまだ20才台の若造には違いないが、若さゆえの特権もある。あちらこ
ちらに頭を下げて聞いて回ると、なかには親切に教えてくれる人もいる。小型のミ
ルクプラントの中古品も見つかった。保健所で厳しい検査の受け方も徐々に判って
きた。しかし昭和29年酪農振興法が制定されて以来、酪農施設は知事の認可事項
であり、生乳の販売は酪農の権利を守ためにこそ、指定集荷団体による一元集荷多
元販売システムなのである。そのためわが国の牛乳生産の3割、約250万トンは
ホクレンが一手扱いというマンモス独占体制となった。もちろんこの場合の独占は
独禁法の適用除外を受けている。私は本当は若干の競争集荷団体があったほうが良
いと考えているものの、過去の経過を考えると、いちいちもっともである。

  それにしてもRさんは無謀な挑戦をしたものである。あっちに行って叱られ、こ
っちで相手にされず、とにかく牛乳処理施設一式をキチンと揃えても畜産行政に関
係がないはずの保健所が検査もしてくれないのである。

  しかし若さは強い。Rさんは道庁の畜産課のドアをオズオズと紹介者もなしにた
たいた。

  「これだけ農産物の世界にも差別商品化が求められる時、牛乳だけは白一色なん
て」という一念である。道庁の畜産課はさすがに反応が違った。「面白い。何とか
考える方法はないか。」役人には知恵者がいる。

  酪振法制定当時はまだ零細な乳搾り屋が町内に牛乳配達までしていた。明治以来、
歌人伊藤左千夫の世界である。

  「日量牛乳処理量360リットル以下の乳業プラントはこの限りにあらず…」と
いう古い通達があるのが発見された。当時の経過措置だ。それを現代に読みかえる
なら、道知事が施設を認可できると解釈した。さすが行政マン。血も涙もある。

  ところで一元集荷多元販売は崩せない。そこでRさんは自分の搾った牛乳を帳簿
上ホクレンに売ってまた買い戻すことになった。1キロ78円で売って、なんと1
12円で買い戻すのである。「脂肪率3.5%、固形分はいくら、1cc当たり大
腸菌数は500以下とかなんとか、生産者には恐ろしい基準があるのに売り戻す時
は脂肪率だけなんですね。」Rさんは新発見をここでもした。こんな手続きを取る
ことがはっきりすると、現金なもので保健所が検査合格にしてくれた。「保健所は
牛乳の売り方なんて関係ないのに…」とRさんは世の中の仕組みの複雑さ、持ちつ
持たれつの世界を垣間見た訳である。

  それにしても第3項をクリアするのはこれからである。札幌のホテル、デパート
を歩き回ってのセールスだ。どんなに立派なレストランでも裏から行く納入業者は
木っ端より軽く扱われる。そもそもまともに顔も見てもらえなかったという。

 そして今、札幌の大手デパートから有力ホテル、千歳空港売店など道内有数の店
に900ccビン詰め530円という超高値牛乳が並んで、最近は買手の方からや
ってくる。しかし彼の販売戦略は厳しい。1業1社あるいは2社。先方の店舗立地
を考慮して、同一地域では1か所しか出荷しない。自分の住む市内でも国民宿舎1
か所だけである。そのかわり200cc小ビンも出すと、そのワンパック6本入り
カートンが大人気という。「本当はカートン入りの方がうんと高いのに若い女性に
やたら人気がある。」

  そしてとうとう天皇陛下ご夫婦の朝食にまで登場した。「朝の搾乳から保健所の
課長さんが立ち会って、ヘトヘトに疲れたよ。別に高い値段で買ってもらった訳で
もない。デパートへ納めた中の一本ですよ。」

  毎日の生産全量から見ればまだ自分の出荷分は僅かだ、あとはホクレン出荷であ
る。ホクレンとのおつきあいは当然考えて非常識なことはやりませんとも言う。

  さてこんな経営のRさんだからもちろん雇用労働力が必要だ。なんと姉さん夫婦
を雇っている。それも「何時独立されても良いように、次に雇う労働力を考えて世
間並みの給料を払う。また市内から男女2人も常雇い。もう研修生なんかアテにで
きません。しかし私が汗水流して働いたら考えるヒマも頭もなくなってしまう。」
第4項目も合格。

  さて最後の農政や農業支援団体、組織を冷静に観察する点がむずかしい。Rさん
の気質からすれば、当然ホクレンに対するようにつかず離れずクールに対応すると
なると第5項目もクリアしてしまう。私の判断基準なら少なくとも第5項目はクリ
ア出来ない筈である。果たせるかなRさんいわく「地域の仲間づくりなんて、私と
話題の合うのが一人もいない。十勝に行くと立派な人がいるのに…」と口惜しそう。

  第5項目を行政や農業団体だけでなく地域の仲間も含めると、第5項目は落第、
つまり彼は美事に私の基準に合格していた。それだけにこれからも苦労するだろう。
35才にもなって独身というのは問題である。

  さて話は変わって、十勝支庁の士幌町農協。故大田貫一さんが築いた士幌農協は
もう天下に名が売れている。いろいろな農業を農協が主体となって組んでいる農協
コンビナートだ。西は鳥取県の東伯農協と並ぶ東の、いや北の雄である。

  私はかねてから士幌農協の肥育牛センターに注目していた。施設はいっさい農協
所有、子牛も農協所有、飼料など回転資産は貸し売りするが、牛の販売はもちろん
農協。しかも農地は持たない、というので広く全国から牛飼いのロマンを求める青
年たちを集めて入植させた。農地を耕す訳ではないから入植という表現も不適当だ。
さりとて立派な経営者であるから士幌農協に雇われた訳ではない。

  10年近く前、現地視察した時、「こんな農業があるのか、果たしてこれは農業
か、いや士幌農協の牛小作と言うべきだ。一種の分益小作であることは違いない。」
なんとも理解に苦しんだ。それだけに畜産危機やら子牛高騰やらの荒波をどうして
乗り切ったか。興味津々だった。

  こんな変テコリンな条件のもとで肥育牛経営に乗り出す人たちだ。第1項、第2
項なんて当然マスターしているはずである。それだけ優秀でなければ士幌農協のお
眼鏡にかなうはずがない。

  組合員勘定、いわゆるクミカンが農協融資に伴う弊害のひとつとして、特に畜産
農業の場合指摘される。私は必ずしもそうは思わない。もし優秀な経営者だったら
“組勘”はむしろ農協にいっさいの事務作業をやらせる訳だから下手に事務員を雇
うより便利である。別表を見てもらおう。私の会ったCさんは「自分が記帳するよ
り正確だし、便利だよ。」とケロッとして答えた。第1項目はクリア。

  第2項目の技術革新こそ肥育牛の世界は日進月歩だ。増体効率こそ生命がけの研
究課題である。次に会ったJさん。「昨年9月からホクレン飼料にグリース状油脂
分が加わって、増体効果が良くなりました。TDN72〜74だったのが76から
80まで上がりましたからね。」

  実をいうと彼はホクレンの配合飼料は始終内容成分が変わり、価格も高いのに腹
を立てて、一部自家配合をやっていた。畜舎も牛も農協所有、販売も勝手にできな
いのだから、自分が多少なりとも工夫できるのは飼料と薬である。あとは牛体の管
理技術。「抗生物質“モネンシン”の投与も増体によかったですね。しかし私とし
てはなるだけ農薬は使いたくない。もちろん成長ホルモンはたとえ天然ものでも使
いません。」Jさんはかなり頑固だ。クリスチャン夫婦としての信仰にもよるよう
だ。したがって、まだ自家配合も続けている。もちろん購入は農協を通じてだから
1キロ当たり1円の手数料は農協に支払っている。「1キロ40円もしていた当時
は1キロ1円の手数料でもせいぜい2〜3%だから差し支えなかったが、最近のよ
うに飼料が30円以下に値下がりすると、しまった、定率手数料にしとけばよかっ
たと思ったり…」と苦笑い。Jさんは飼養規模も農協がいくらすすめても、500
頭である。過剰投資はしたくない。夫婦で牛を見ていく限度があるともいう。

  士幌農協から見ればCさんは優等生。Jさんは必ずしも農協に忠実とは認められ
ないだろう。畜舎も古びたままである。

  しかし私の目からみればいずれも優れた経営者である。同時に第3項目はいずれ
も落第だ。なんとなれば牛肉の流通に彼らが工夫を施す余地はない。それは農協の
聖域である。だが少なくともJさんは飼料購入の面で農協の不興を買いそうになっ
ても我を通しているという点で第3項もクリアと認めてよかろう。面白いのはどち
らも自分の生産した肥育牛1頭の手取り単価を知らないことだ。別表の手取り単価
は私が勝手に大雑把な計算をしたものにすぎない。一昨年来、子牛価格が高くて肥
育牛生産農家はピンチだったが、幸い飼料価格が安く、しかも牛肉価格は高値安定
が続いている。今年に入って、より高値である。肥育センター農家11戸は1戸の
異常安(理由は判らない)を除いて、さすがに美事な価格水準を守り切っている。
しかも彼らは“組勘”のおかげで生活費まで丸めて計算する。もともと彼らは1群
のセリで幾らの売り上げだったかが最上の関心事である。和牛農家とはまったく違
う大型生産者がすでに育っている。

  ただし批判もある。十勝で乳雌牛を月齢16カ月、体重650kgを目途に出荷
している生産者がいる。彼からみれば18カ月齢まで飼育するセンター生産者は飼
料のやり過ぎだという。たしかにA3クラスの格付けはもらえるかもしれない。1
頭当たり今の相場なら4〜5万円は高値だろう。しかし資金回転を考えたら16カ
月、いや本当は15カ月未満で出荷したいくらいだと彼はセンター農家のやり方を
批判する。米国では17カ月齢で出荷するのが常識なのだが、肉質評価方法でわが
国と米国の常識に大差がある以上、たとえ乳雌肥育といえども止むを得ない点はあ
る。

  さて第4項目はCさんが5人の常雇い、Jさんが臨時雇いの差はあるにせよ、は
っきりした企業的経営である。第5項目はいずれも農協と運命共同体なのだから、
私の評価方法ならクリアしたことになる。つまり、Cさんは第3項だけが欠落する
から合格。Jさんも第5項に問題があるが、やはり農協に従っていると判定できる
から合格。さて、そうなると第5項目は果たしてそんなに単純に受け入れてよいだ
ろうか。

  そんなはずがない。そう単純に受け取るべきではなかろう。もともと士幌町出身
のCさんは、むしろ農協の懐中深く飛び込んで「生きるも死ぬも農協と私は一緒。」
というしたたかな計算があるはずである。北海道でこれだけ一農家に資金を貸し込
む度胸のある農協は少ない。Jさんはもともと農地を求めて北海道に渡ってきた。
しかし他農協では「肥育牛農家にそんな巨額の貸し越しはできない。他の組合員農
家とのバランスがある。」と断られて士幌入りしたのだ。士幌農協ならばこその決
断なのである。そして合計飼養規模1万2,460頭という数字は士幌農協にとっ
ても旨味の多い収入源となっているはずだ。士幌農協館内で生産される乳用雌子牛
ではとても足らない。十勝館内から子牛をかき集めるのに、農協職員は大変なので
ある。

  酪農家のRさん、肥育センターのCさん、Jさん、いずれも4項目クリアで私の
目で立派に合格点を差し上げられる企業的農家であり、日本農業の担い手であり、
かつ“団魂の世代”でもある。この人たちの後に果たしてだれが続くのか、こそ実
は深刻な課題だ。

  同時に酪農家にとって出口のない状況のひとつに自分で消費者に牛乳が売れない
という現実も認めなければならない。すでに酪振法に抵触しないという理由だけで、
各地の酪農青年たちはアイスクリーム製造に乗り出している。

  また肥育牛生産に関しては、同じ十勝館内でもさまざまなタイプが生まれていて、
ひと口には整理することも困難なほどである。牛肉の輸入自由化を明後年に控えて、
わが国はこと肥育牛に関する限り、「これなら輸入肉に負けない」という生産飼養
類型をまだ編み出していない。先進的企業農家を戦闘にしてさまざまな“生体実験”
が続いていると言えよう。

  もしそうとするなら、彼らの創意工夫を思い切り伸ばしてやる方向へ政策努力を
集中すべきだろう。

※ 編集者注:生乳はなまものでくさりやすいことやメーカーとの乳価交渉をめぐ
る長い歴史もあって協同で販売しているのが大部分である。しかし生乳は個人が直
接、乳業者に販売することは自由である。このため北海道の市乳地帯ではホクレン
の一元集荷に加入していない農協や生産者もいる。但し、これらは飲用向けが主体
であることから、加工原料乳の不足払いの対象とはなっていない。

      (別表) 士幌町農協の肉牛肥育団地の概要
   入植 現在の規模 入植時の規模 年  間 年  間 1頭当たり販売
氏名 頭  数 頭  数 出荷頭数 売上高(千円) (手取り)価格
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
O
45
45
46
47
47
48
48
49
50
52
53
53
59
59
61
1,651
530
1,603
1,160
566
605
736
694
567
500
473
534
810
855
1,980
200
100
200
200
120
280
160
280
300
300
350
350
500
500
1,000
790
398
918
601
442
325
412
336
715
239
315
428
410
468
664
355,152
189,222
431,870
278,997
201,400
149,855
188,005
152,266
184,783
104,301
149,811
192,208
194,372
214,898
302,877
449,560
457,800
470,450
464,220
455,660
461,090
456,320
454,300
258,440
436,410
449,080
449,080
474,080
459,180
456,140
  

12,466 4,840 7,461 3,290,017 440,960

 


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