★巻頭言


国際競争下での和牛肉生産

全国和牛登録協会専務理事  並河 澄


はじめに
 日米、日豪間の協定によって、平成2年4月から牛肉調整品の輸入制限が撤廃され、
続いて、平成3年4月からは牛肉の輸入枠が撤廃されることが決まり、牛肉をめぐる
国際競争が表面化しつつある。牛肉市場の開放は一方通行的なものではなく、双方
性を持つものであるので、世界最高の品質と自負する和牛肉を競争国に輸出するこ
とによって、外国から日本市場に流入してくる輸入肉と相打ちの形にしてはどうか
という勇ましい議論や行動も見られる昨今である。しかし、これは多分に日本人の
独善的間隔によるもので、競争相手国の牛肉消費パターンや日本市場攻略の戦術な
どを冷静に読めば、相打ちに持ちこめる状況でないことは明らかである。精々競争
相手国内にある日本食レストランでの需要に若干その他の需要を上乗せした程度の
量より見込めず、一般家庭での消費、定着はまず望めないと考えられるからである。
従って、すでに現在進行しつつある国際競争は、輸入牛肉の増加に対して国産牛肉
がどう対抗するかという本土決戦ならびに防衛型の展開をするはずである。つまり、
狙いはいずれも日本の消費者の胃袋ということである。また、どこかに逃げ場が見
つけられるような甘い情勢ではない。この認識が標題に上げた「国際競争下での和
牛肉生産」という問題を考える出発点である。以下これに関連したいくつかの局面
について考察してみる。

1.和牛肉の目標品質水準
  和牛肉の品質問題に触れる前に、国産牛肉の中で占める和牛肉の量および割合を
見ておこう。表1は昭和62年度(1987年)に屠殺された和牛の頭数を示した表であり、
表2は生産された枝肉量を示した表である。この年には全国で1,502,966等の牛が屠
殺され、567,936トンの枝肉が生産されたから、頭数では31%、枝肉量では30%を
占めていたことになる。年によって若干の変動はあるが、国産牛肉量の約30%を和
牛が生産し、残りの約70%は乳用牛から生産されているという状況は一定して続い
ている。つまり、わが国牛肉生産の主役は、かつて和牛から乳用牛に変わっている。
少資源国であるわが国では、EC諸国と同じように乳用牛が乳肉兼用で飼われ、肉
専用の和牛は脇役的にならざるを得ない必然性があったのかも知れない。しかし、
国際競争という局面下ではこの均衡が変化する可能性も出てきているのではないか
と考えられる。

表1.和牛屠殺頭数の推移
(単位:頭)
年度 成雌牛 去勢牛 雄牛 子牛
1977 232,565 213,966 27,674 1,761 475,966
1978 244,354 232,289 23,625 1,776 498,044
1979 196,314 212,635 22,722 1,368 433,039
1980 159,757 202,773 14,683 1,454 378,667
1981 151,864 216,059 15,278 1,462 384,663
1982 168,865 223,733 13,378 1,773 407,749
1983 216,395 246,532 12,616 2,464 478,007
1984 277,859 270,472 11,736 2,376 562,443
1985 287,294 270,567 9,206 1,720 568,787
1986 254,747 257,579 6,600 1,641 520,567
1987 220,335 240,675 4,782 1,136 465,792
表2.和牛による枝肉生産量
(単位:トン)
年 度 成雌牛 去勢牛 雄 牛 子 牛
1977 73,689 77,563 4,309 164 155,725
1978 77,281 85,388 3,210 171 166,050
1979 63,709 78,810 2,362 120 145,001
1980 53,522 77,114 1,805 129 132,581
1981 50,661 83,319 1,594 123 135,697
1982 54,875 85,667 1,531 156 142,229
1983 69,954 93,938 1,656 203 165,751
1984 90,615 103,889 1,595 222 196,321
1985 94,975 105,180 1,210 138 201,503
1986 85,919 102,152 1,012 153 189,236
1987 76,044 97,168 1,014 107 174,333
表3.肉質等級中の脂肪交雑基準に関する新・旧規格の比較
B.M.S. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
脂肪交雑基準 0 0+ 1- 1 1+ 2- 2 2+ 3- 3 4 5
等級
区分
新規格 1 2 3 4 5
旧規格 極上 特選
 次に、和牛肉の品質、ここではそれを肉質に限定して考えるが、そのための予備
知識として、肉質を表現する基準について説明を加えておこう。昭和63年(1988年)
4月から牛枝肉の格付に新しい規格が適用されることになった。この規格は、肉質
等級と歩留等級に分けて評価するようになっており、肉質等級は全国で冷屠体の第
6−第7肋骨間で切開した断面で断定されるようになった。全国同一部位、同一条件
での判定が行えるようになったという点が旧規格と異なっている。そして、肉質判
定の項目は旧規格と同様に、脂肪交雑、肉の色沢、肉の締り・きめ、脂肪の色沢と
質の4項目で構成されているが、それらのうち、脂肪交雑、肉色、脂肪色に関して
は物理的特性値に基づいて作製されたプラスチック製の原基が導入され、複雑な肉
質評価になるべく客観性を持たせるようにしている点が大きな改正点である。表3
は肉質の中でも最も決定的要素として重視されている脂肪交雑基準が新・旧両規格
でどのように対応しているかを示したものである。表中のB.M.S.No.(Beef Marbling 
Standard No.)は前述のプラスチック原基のそれぞれにつけられた番号で1が脂
肪交雑の全くないもの、12が従来から用いられてきた「5」の最高の脂肪交雑程
度を表している。以上の規格に関する説明は、和牛肉の目標品質水準について考察
する材料として出す表4の内容を読むために必要な予備知識である。

表4.新規格による1988年度の去勢牛枝肉格付結果

歩留等級

肉質等級

全体 7.2
(65,572.5)
7.8
( 71,642 )
6.0
(55,417.5)
2.8
(25,922 )
0.2
(1,439 )
24.0
(219,993 )
1.5
( 13,448 )
4.9
( 45,252 )
23.6
(215,856 )
25.6
(234,359 )
0.9
( 8,105.5)
56.4
( 517,020.5)
0.0
( 285 )
0.4
(3,652 )
4.1
( 37,890 )
6.8
( 62,642 )
8.2
(74,799 )
19.6
( 179,268 )
8.7
(79,305.5)
13.2
(120,546 )
33.7
( 309,163.5)
35.2
(322,923 )
9.2
( 84,343.5)
100.0
( 916,281.5)
和牛去勢 24.4
( 45,751.5)
25.2
( 47,312 )
17.3
( 32,406 )
7.0
( 13,136.5)
0.3
( 616 )
74.3
( 139,222 )
4.0
( 7,497 )
8.4
( 15,773 )
9.3
( 17,382 )
3.1
( 5,732 )
0.2
( 305 )
24.9
( 46,689 )
0.0
( 61 )
0.1
(231 )
0.2
( 297.5)
0.1
( 176 )
0.4
( 812.5)
0.8
( 1578 )
28.4
( 53,309.5)
33.8
( 63,316 )
26.7
( 50,085.5)
10.2
( 19,044.5)
0.9
( 1,733.5)
100.0
( 187,489 )
乳用牛去勢 0.0
( 27 )
0.1
( 277 )
0.4
( 1,302 )
0.5
( 1,562 )
0.0
( 49 )
0.9
( 3217 )
0.1
( 422 )
3.0
( 10,517 )
36.1
( 125,118.5)
40.0
( 138,537 )
0.7
( 2,263 )
80.0
( 276,857.5)
0.0
( 33 )
0.5
( 1,649 )
7.3
( 25,321.5)
9.5
( 32,713 )
1.8
( 6,375.5)
19.1
( 66,092 )
0.1
( 482 )
3.6
( 12,443 )
43.8
( 151,742 )
49.9
( 172,812 )
2.5
( 8687.5)
100.0
( 346,166.5)
外国種去勢 0.0
( 8 )
0.1
( 47 )
0.5
( 217 )
1.1
( 498 )
0.1
( 34 )
1.8
( 804 )
0.1
( 46 )
1.3
( 578 )
37.0
( 16,976.5)
48.6
( 22,318.5)
0.6
( 288 )
87.6
( 40,207 )
0.0
( 4 )
0.1
( 30 )
1.8
( 836 )
8.4
( 3,832 )
0.4
( 171 )
10.6
( 4,873 )
0.1
( 58 )
1.4
( 655 )
39.3
( 18,029.5)
58.1
( 26,648.5)
1.1
( 93 )
100.0
( 45,884 )
雑種去勢 0.1
( 3 )
0.8
( 18 )
1.3
( 31 )
2.0
( 46.5)
0.0
( 1 )
4.2
( 99.5)
1.3
( 31 )
9.6
( 227 )
31.6
( 745 )
34.5
( 813 )
0.3
( 8 )
77.4
( 1,824 )
0.1
( 3 )
0.7
( 17 )
7.5
( 176 )
9.1
( 215 )
0.9
( 21 )
18.4
( 432 )
1.6
( 37 )
11.1
( 262 )
40.4
( 952 )
45.6
( 1,074.5)
1.3
( 30 )
100.0
( 2,355.5)
注:表中の全体欄には雌、去勢、雄のすべてを含む。				

  表4は、昭和63年(1988年)4月から1年間にわたって、全国で格付された牛枝肉
の格付結果の集計表であり、916,281頭の全体の等級分布を示すと同時に和牛、乳
用牛、外国種、雑種に区分された去勢牛枝肉の等級分布を抽出して示してある。比
較のために去勢牛を選んでいるのは、計画的な肥育による牛枝肉と考えられ、より
正しい比較が可能と思われるからである。

  さて、内容を見ると、和牛去勢牛は、肉質等級5および4に約62%が入り、肉質等
級3に約27%、肉質等級2に約10%が入っている。これに対し、外国種去勢牛はそれ
ぞれ、1.5%、39%、58%という対応分布を示している。肉質等級3及び2を合計
すれば約97%となり、この2つの等級に集中している。国産牛肉のもう1つの担い手
である乳用牛去勢牛は、肉質等級4に約4%が入っている点を除けば、外国種去勢牛
と非常に類似した等級分布を示し、肉質等級3および2に約94%と集中している。雑
種去勢牛はホルスタイン種雌に和牛雄を交雑した、いわゆるF1が主なものと見ら
れるが、ここでは少しちがった等級分布が見られる。

  以上の等級分布の比較から肉質等級5および4は、和牛の独占等級であり、肉質等
級3および2が国際競争下での激戦区となると予想される。表4の外国種去勢牛は合
計頭数がわずか46,000頭で、市場開放によって輸出されてくる競争国からの牛肉
の肉質水準を想定するのには不十分かも知れないが、この区分にはわが国で生産さ
れたアンガス、ヘレフォードなどのもと牛や、輸入されたマリーグレーのもと牛を
用いて生産された枝肉が含まれている。そして、それらは、競争国の標準的な肥育
方法よりずっと長い、また大きな枝肉重量を狙った日本式肥育方法によっていると
思われるので、輸出されてくる牛肉の最高肉質水準に近い結果を出していると考え
られる。

表5.競争国での牛肉生産に用いられる主な肉用種
原産国別 英国種
ヨーロッパ大陸種
アメリカ種
オーストラリア種
アバディーン・アンガス、ヘレフォード、ショートホーン
シャロレー、シンメンタール(リムザン)(キアニナ)
サンタガートルーディス、ビーフマスター、ブランガス、ブラーマン
マリーグレー
特性別 肉質種
肉量種
アバディーン・アンガス、マリーグレー(ジャージー)
シャロレー、リムザン、シンメンタール
耐暑・耐ダニ種 サンタガートルーディス、ビーフマスター、ブランガス、ブラーマン
  参考までに、強力な競争国と目される米国、および豪州、さらにそれに加わる可
能性のあるカナダの肉用種の主なものをまとめると表5のようになる。それらの品
種の中で肉質とくに脂肪交雑形質において世界的な定評をもっているのはアンガス
種であり、これとショートホーン種を交雑して作出されたマリーグレー種が大体匹
敵する評価を受けており、これら2品種が日本市場向け牛肉生産に多用されるであ
ろうが、その他に隠し球的な未知の品種はない。アンガス種は米国の肉質等級にお
いては最高等級のプライムや第2の等級のチョイスに多く入っていると見られるが、
米国におけるこれらの高級肉は、わが国では大体肉質等級3か2の付近に入る。従っ
て市場が開放されても肉質等級5および4は和牛の独占等級であることには変わりが
ないという強気の読みができる。しかも、最近の動向の端々に現れているようにわ
が国の消費者の和牛肉嗜好の傾向は顕著であり、「量は少なくてもおいしい牛肉が
食べたい」という願望に適合している。安い価格の牛肉が供給されれば、日本人の
消費量は伸びるであろうという輸出国側の推測は一面の心理ではあろうが、日本人
の食物感覚を適確に読み切っていないのであろう。ただし、基本的には和牛肉党で
あっても、その値段が高すぎるのでもっと安い値段で供給できないかという厳しい
注文がつけられており、和牛肉の生産に関係する者は、できる限りの低コスト生産
によって高品質の和牛肉を生産するよう努力しなければならない。さもなければわ
が国の消費者を輸入肉党に追いやる結果になってしまうからである。このように考
えてくると、和牛肉の目標品質水準はA−4等級に置くのが妥当であろう。

2.和牛改良の重点項目
  「和牛の肉質で勝負しなければならない」ということは真実であるが、それは
「最高等級5に値するものにしなければならない」という意味ではない。もちろん、
この等級がレストラン、ステーキハウスなどの特需に対する特殊生産として根強い
人気をもっていることは確かである。また、その需要も徐々に伸びていくであろう。
しかし、国際競争に勝つためには、もっと幅広い需要層をもつと考えられるA−4
クラスの肉をいかにして低コストで生産するかに勝負はかかっていると考える。従
って、改良の最重点項目は肉質等級5になるような素質をもつ牛の選抜よりも、肉
質等級2のものを生産するような牛を淘汰し、さらに肉質等級3になるようなものを
多く出現させる種牛を足切りすることによって、肉質等級4以上の割合を70%以上
にし、さらに段押しでその割合を増大させていくことであろう。肉質等級4になる
ための脂肪交雑最低要求水準は「1+」であるので、この水準までのレベルアップ
は決して至難の技ではない。そのゆとりを増体能力や正肉歩留の優秀さの維持に向
けるべきであろう。

  いずれにしても産肉能力と総称される中で肉の絶対量と関連する形質は発育能力
と密接な関係があるので比較的に把握しやすい。しかし、一方の肉質形質は、これ
まで生体における間接指標として用いてきた「資質」によっては十分な改良速度が
期待できない。この分野で何らかのニューテクノロジーの展開が望まれる。当面、
通常技術の地道な積み上げによって改良を推進するとすれば、種雄牛および母牛の
育種価を推定し、低能力なものを生産する牛を足切りできるように、生産現場から
信頼できる枝肉成績を組織的に収集する体制を早急に作り上げていくことが肝要で
あろう。ステーション方式の産肉能力検定間接法が優秀な種雄牛の選抜手段である
のに対して、これを補完すると同時に、有効な足切り手段として機能する現場後代
検定の組織化が必要である。現在、その準備体制は着々進められている。

  さらに、和牛の全生涯を通して生産効率向上のための重点項目を検討してみると、
家畜としての基本的な能力、すなわち繁殖能力、哺育能力等の改良もまた重要であ
る。授精卵移植技術は、この繁殖能力を人為的に改善できる点で、その実用化が期
待される。しかし、その効用は生涯生産を向上させうるかどうかという視点からも
検討してみなければならないであろう。これまでの通常技術によってもまだまだ改
善の余地があるはずである。哺育能力は「別飼い」の技術発達などの影響を受けて
とかく見落とされがちであったが、低コストで大きな離乳時体重を期待するために
は極めて重要な能力である。とくに放牧形式を取り入れた子牛生産ではその意味は
より重要なものになる。一般に「放牧適性」といわれる能力の中には、この哺育能
力が含まれていると考えられる。

3.飼養管理技術の改善
  飼養管理面での見直しを要する点は子牛生産、肥育の両過程に存在し、また、そ
のバトンタッチの方法の適否にも問題があると思われる。ここではそのいくつかの
要点を挙げるにとどめたい。

  第1は別飼いの行き過ぎによる肥満子牛の生産が多いことであり、これは早急に
是正を要する。前述した哺育能力の改良がこれに関係しているが、別飼いは生後3
カ月ころから始められ、初期発育の促進は必要であるが、その度が過ぎて高エネル
ギーの飼料給与によって肥育の領域まで踏みこんでしまっている場合が多い。子牛
の市場性を高めるという大儀はある程度理解できるとしても、このような子牛は肥
育のもと牛となる去勢牛においてさえ不適当であるばかりでなく、育成して繁殖に
共用する雌子牛では、基本的な繁殖能力および哺育能力を阻害してしまうおそれが
ある。もちろんその無駄は低コスト生産の阻害要因でもある。わかり切ったことに
属するが、肥育もと牛としての望ましい発育はどの程度なのか、また、繁殖用の育
成牛として適当な栄養水準がどこにあるのかを再検討しなければならない。

  第2は、子牛生産農家から肥育農家への子牛のバトンタッチ時の月齢、体重等に
関して現状が最も合理的な状態かどうかという問題である。子牛市場に出荷される
月齢が10カ月に近いという実態は明らかに異常と思われる。例えば、繁殖・肥育の
一貫経営の中での切り換え時は必ずしも市場における現状と一致しない。

  第3は、肥育段階における長時間の肥育と目標体重の増大である。「和牛は質で
勝負」という旗のかげで、低コスト化ならぬ高コスト化が進行したのでは国際競争
下での苦戦は必至である。長期間の肥育の不利をはねのけて付加価値の高められる
素質をもった牛がいることは事実である。しかし、高い価格で買ったもと牛はすべ
てこの素質をもっていると錯覚し、深追いをすることによって生じる損失が肥育経
営を危くすることが懸念されるところである。

  これらの諸点については、すでにいろいろな角度から吟味が始められているので
詳細は省略したい。

4.和牛集団中の優秀遺伝子の保留とその活用
  これまで述べてきた内容は、すべて和牛のもつ優秀な遺伝子はすべてわが国での
生産に利用されるという前提をおいての話であった。しかし、国際競争下では当然
のことながら、競争国が和牛の遺伝子を持ち出して、それを用いて作った牛肉を逆
上陸させてくることを考えておかなければならない。競争国に限らず、わが国にお
いても民間企業が自社の利益のために和牛の遺伝子を海外に持ち出す可能性もある。

  本来、種畜および精液、卵のような形での遺伝子の国際取引は完全に自由化され
ており、それを規制するものとしては、伝染病等の流入を防止するための衛生検査
の協定があるだけである。この検査協定を成立させたわが国はすでに乳用種の精液
を輸入し乳牛の改良に役立てている。その逆の輸出も受け入れ国との間に衛生協定
が成立すれば行われるようになるであろう。この動きは未決着であるが、和牛を改
良し育ててきたのは和牛飼養者であり、各地に存在する改良組織である。従って、
今後さらに和牛の改良に必要な素材は国内に保留して活用していこうという考えは、
国際法上も何ら支障のないことであろう。少なくとも、経済行為の1つである種牛
生産およびその販売に当たっては生産者が第1の優先権をもつのが当然である。

  和牛改良の特殊性は国内の産地間競争という形で展開してきたが、国際化時代を
迎えたいま、産地間の競争を国際化時代を迎えたいま、産地間の競争を国際間の競
争に置きかえる発想の転換が必要であり、優秀遺伝子の広域活用、産地間の協力体
制を実現させていかなければならない。それは改良の速度向上にも関係する問題で
あり、大きな底辺集団から強い選抜圧で優れた種牛を選ぶことが改良の速度を加速
することは自明の理である。そこで、国際競争への対応策として、地域内一貫生産
と改良組織の姉妹組合結成の2つの構想を重ねて進む案を提起し、その実現に向か
って努力しているところである。ここでいう姉妹組合構想は、いくつかの産地の系
統を組み合わせて、コマーシャル生産的な方向を目指すのではなく、共通した改良
方向および特徴をもつ改良組織間でおたがいに助け合い系統群ともいえるものを各
地域間で形成しようというものであり、いずれ近い将来にその成果が世に問えるこ
とを期待している。

 最後に、この国際競争下において和牛にかかわる者が共通の意識としてもってい
る感覚は、わが国固有の家畜である和牛を守ってきたおがげで、日本市場における
戦さなら十分にやれるという自信であろう。


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