★ 国内現地の新しい動き


現地にみる大家畜経営の実態例と特徴

事業団、国内現地出張者


  輸入牛肉の枠拡大、自由化決定後、1年半が経過した。決定当初はかなりの動揺
があった。しかし、幸いにも現在までのところ大きな混乱は生じていない。むしろ、
史上空前の子牛価格に象徴されるように、大家畜経営は総じて好況下にある。

  そこで、各地の先駆的な事例について一部研修もかねて事業団職員が現地に赴き、
農場、農家の経営実態とその特徴等について調査をさせて頂いた。今号は、その一
部を掲載し参考に供したい。

  なお、事業団職員の現地調査に当たって心よく受け入れて頂いた農家の方々はも
とより、県庁、市町村、農協等に大変お世話になったことを紙面を借りてお礼申し
上げます。

1  大規模繁殖牛経営
経営形態 急速な規模拡大を続ける繁殖牛専業経営(黒毛和種)
住所 鹿児島県川内市
農家名 K氏
家族・作業分担 主人(44才)作業全般
妻  (40才)  〃
経営規模 常時飼養頭数  53頭(S.63)
子牛出荷頭数  47頭(  〃  )
飼料状況 牧草地  20ha  (H.元)
経営状況 子牛販売価格  (S.63)
雄子牛     470千円/1頭
雌子牛     425千円/1頭
総販売高  21,035千円
経営の特徴
・ 急速な規模拡大を図っている(昭和59年にそれまでの5頭に加えて、総合施設
 資金の借入により、30頭に増頭、60−63年度にかけて、農協有家畜導入により58
 頭、元年から4カ年計画で最終年度は111頭経営を目指す)。

・ 機械化による省力経営で、約80頭の牛を2人で飼育している。

・ K氏は次の経営指標を立てて、合理化、低コスト生産を図っている。
  ・受胎率      100%
  ・生産原価     150,000円以下
  ・子牛平均価格   400,000円以上
  ・1頭当たり所得  250,000円以上

・ 肥育農家等と連携した情報網を作り、出荷後の状況や肥育農家からの要望を聞
 く勉強会を行っており、牛の品質向上に役立てている。

・ 企業家意識を持って経営に取り組むため自宅より離れた所に事務所を設けてい
 る。
                                   (林)
経営形態 放牧主体の肉用牛大規模繁殖経営(黒毛和種)
住所 沖縄県石垣市
農家名 T牧場
家族・作業分担 主人(51才)作業全般
妻  (38才)  〃       
父  (72才)自給飼料生産
飼養規模 繁殖牛        56頭
子牛          41頭
計            97頭
販売頭数 子牛     49頭
経営土地面積 20ha(うち、放牧地12ha)
その他に共同野草地8ha(持ち分)
特徴

ア  地域の特徴
  ・ 周年放牧による低コスト生産……沖縄県の石垣市を中心とする八重山郡島は、
  亜熱帯の気候に属しており、周年放牧による肉用牛の繁殖経営が行われている。
  当該地域には、島全体が放牧地として利用されているところもあり、共同利用
  地の牧野等を効率的に活用して低コスト生産を行っている。

イ  経営の特徴
  ・ 人工授精後、放牧による高受胎率……T牧場では、種付けを人工授精により
  行い、妊娠確認後に放牧する形態をとっている。当地域では、放牧中に発情し
  ているめす牛をさがし、これに種雄牛を交配させる牧牛方式をとっているのに
  対し、畜舎で発情を発見できることから、これに比較すると合理的な飼養管理
  ができるので、有効であり子牛生産率も94.5%と非常に高くなっている。

  ・ 高い粗飼料給与率……離島という特殊性から飼料の購入に当たっても輸送コ
  ストがかかり、購入飼料がコスト高になるのは免れず、飼料自給率を高めるこ
  とが重要な課題となっている。

    そのため粗飼料については、放牧地の輪換利用や余剰草の貯蔵等により、自
  給率を100%にする必要があり、飼料基盤の整備等が推進されている。沖縄県
  の基幹作物であるさとうきびの圧搾かすであるバカス等の有効利用により購入
  費用を抑えており、低コストによる子牛生産を行っている。

 ・ 子牛月齢11カ月、体重300kg超で出荷しているが、生産費は、販売子牛1頭当
  たり13万5千円と低コストが図られている。
                               (斎藤、藤野)

2  繁殖肥育一貫経営
経営形態 アンガス種を中心とした大規模な自家繁殖及び集約的肥育経営
住所 北海道帯広市
農家名 K牧場
飼養規模
(3021頭)
アンガス系母牛      701頭
種雄牛            10頭
育成子牛           98頭
アンガス系肥育牛    1312頭
ホルスタイン系肥育牛  900頭
従業員 15名  うち管理部門 4名
    現場部門    11名
経営土地面積 230ha(含む、牛舎、山林)
飼料畑は、主にデントコーン栽培
特徴

ア  地域の特徴
  K牧場は、帯広市の南端、西に日高山脈、東に十勝平野の接点に位置し、広大な
自然の中で、大規模かつ集約的な肉用牛経営を行っていた。

イ  経営の特徴
(ア)企業内一貫による生産体系
  K牧場は、株式会社T社より、昭和48年資本金2,500万円で設立され、T社グル
ープの一員として国内及び海外での素牛作りから、精肉販売まで一貫した生産体系
で、牛肉事業を行っている。

  近代的な機械設備とコンピューターシステムにより、飼養管理が行われており、
より高い生産性の向上を追求している。

  飼料に関しては、配合飼料をT社グループから年間8,000トン程度の供給を受け
ており、また、デントコーンは、年間6,000トン程度自家生産され、ほぼ自給して
おり、乾草を一部購入している程度であった。

  K牧場で肥育された肉牛は、十勝畜産公社で、と畜、委託加工された後、仕向先
に合わせて、抜骨、整形が行われるが、その工程中においてもT社より派遣された
担当者により、衛生、品質のチェックが行われている。

  加工場から仕向先には、専用冷蔵庫により配送しており、首都圏では、日本食肉
流通センターを拠点に個別配送を行っている。

  卸売及び小売の段階においてもT社グループを通じて量販店等へ販売される他、
T社の販売部門を通じ、直接消費者へ販売しており、小売段階での肉質評価が直ち
に生産部門へフィードバックされる体制をとっている。

  また、K牧場でアンガス種をベースに肥育された肉牛を「十勝黒牛」とブランド
ネームをつけて販売する戦略を行っている。

  このように、巨大資本を背景に素牛生産から飼料の手当、販売部門まで企業内で
生産、流通、販売の一貫体制が整備されており、畜産物の価格変動による外的要因
に大きく影響されることなく、安定的に生産できる体系になっている。

(イ)肥育方法
  素牛は、昭和53年以降導入したアンガス種をベースに但馬系の和牛又はフランス
原産のシャローレ種との交配による自家生産の他、家畜商又は家畜市場から購入し
てきたホルスタイン系の素牛、また、現在では、豪州S社との提携により、マリー
グレー等の導入により手当している。

  肥育の仕上げに関しては、アンガス系22カ月齢630kg、ホルスタイン系18カ月齢
650kgを基準としている。

ウ  牛肉自由化への対応
  牛肉の自由化後は、かなり厳しい状況になると予想されるが、輸入牛肉より質的
格差をつけることにより、また、生産、流通及び消費段階までの一貫した生産体系
を一層整備することにより、十分牛肉の自由化に対抗できると予想していた。

                               (河合、石橋)
経営形態 放牧主体の繁殖肥育一貫経営(褐毛和種)
住所 熊本県阿蘇郡産山村
農家名 I氏(K牧野組合)
家族・作業分担 主人(54才)飼育管理
妻  (56才)   〃
息子(25才)   〃
飼養規模      組合所有  個人所有
成牛   290頭          28頭
育成牛  20頭            2頭
肥育牛  58頭
子牛     200頭
経営土地面積
(組合所有)
改良草地    118ha
野草地            103ha
山林         46ha
その他       5ha
うち畜産利用  221
特徴

ア  地域の特徴
  ・ 現地周年放牧による低コスト生産……熊本県の阿蘇の外輪にあたり、広大な
  原野の豊富な草資源を利用した周年放牧による肉用牛(褐毛和種)の繁殖肥育
  の一貫経営を行っている

イ  経営の特徴
  ・ 組合内一貫経営による肥育事業の実施……K牧野組合では組合内の各々の農
  家から子牛を年間約2頭ずつ組合で買い上げ粗飼料多給型の肥育を行い、愛知
  県犬山市(人口約7万)の精肉販売店へ直接販売している。おおむね18カ月〜
  22カ月600kg前後(生体重)、精肉1kg当たり1700円で取引している。精肉店は、
  この肉を消費者に個別宅配しているため必要量に応じた飼養管理ができ、また、
  各牛ごとの成績も把握できる利点をもっている。

  ・ 放牧主体の繁殖……子牛の生産についても、組合所有の草地を利用し、周年
  放牧を行い、発情を発見するために一人の牧番を置き人工授精を行っている。
  放牧が主体であり低コストでの子牛生産が可能であるが、人工授精による受胎
  率が低く、今後受胎率を高めることが課題となっている。

ウ  牛肉自由化に対する考え方……サシの入った牛肉から赤肉への転換、現地周年
 放牧、組合内一貫経営、直接販売方式等で生産コストの低減を図り、子牛価格の
 下落、輸入牛肉の増加に備えている。
                                  (幸田)

3.肥育経営
経営形態 自家配を中心とした黒毛和種肥育経営
住所 宮城県小林市
農家名 F氏
家族・作業分担 主人(50才)作業全般
妻 (50才)   〃   
飼養規模 肥育牛  197頭
成雌牛    5頭
計     202頭
経営土地面積
(組合所有)
4.4ha
うち飼料畑3.5ha
特徴

ア  地域の特徴
  宮崎県は、全国でも有数の畜産県であるが、その中でも小林地区は、市−農協−
農家が一体となって勉強会を開いたりするなど地域全体で畜産経営に取り組んでい
る。

イ  経営の特徴
  同農家は、和牛肥育専門の大規模経営(労働力2人、肥育牛197頭)である。飼養
方法は、5頭一組のロット飼を実施している。

  飼料は、各ロットごとに、前期用飼料(体重500kgぐらいまでのもの用)、後期
用飼料と分けて給与しており、前期用には、大豆圧ぺん、ふすま、マイロ、とうも
ろこし圧ぺん、ビール粕等を、後期用に、大豆ミール(圧ぺんと違い粉末化してあ
る。)、ふすま、マイロ、とうもろこし圧ぺん等を、毎日自家配合していた。これ
ら飼料原料については、直接飼料メーカーからトン単位で購入していた。それによ
り、農協の単品飼料(ビール粕等)より1〜2割安く、更に前述のとおり自家配合を
行っているため、飼料全体では、2〜3割は、コストダウンできているとのことであ
った。

  肥育期間は、18〜20カ月肥育でA−4、A−3クラスのものを目標に肥育していた。
特に農家は、増体量が非常に良く、同月齢肥育の他農家の牛と比較して、50〜60kg
も上回っており、粗飼料と濃厚飼料のバランスや自家配合の仕方が非常に優れてい
る。

ウ  牛肉の自由化に対する考え方、意見、方針
  同農家は、輸入牛肉と和牛のA−4、A−5クラスのものとは、自由化になっても
競合しないと考えており、逆に国産和牛については、更に、高値が続くであろうと
いっていた。しかし、A−5クラスのものを作るよりは、A−3、A−4クラスの1,8
00円/kgのものを作った方が市場にも流通しやすく、また、価格の低落があっても、
増体量でカバーする方向で対処できると考えているようであった。これからは、肥
育一本から少しずつ一貫経営の方へ移行したいと思っているようであった。
                                  (道免)
経営形態 黒毛和種の一産取り肥育経営
住所 鹿児島県姶良群
農家名 M肥育センター
従業員 6名
飼養規模
(480頭)
成雌牛    180頭(うち妊娠牛80頭)
肥育牛      97頭
去勢牛    150頭
子牛         50頭
その他        3頭
経営施設面積 畜舎         19a
牧草地   7.5ha
特徴

ア  センターの特徴
  当センターでは、黒毛和種の一産取り肥育を実施しており、地域内の一貫生産体
制の推進という目的をもって、町内産の子牛の導入に努めるとともに、子牛価格の
低落時における町内産子牛の買い支えの役割を果たし、肥育成績を生産農家へフィ
ードバックすることにより、町内の肉用牛の改良に役立てている。

イ  種雄牛と人工授精について
  発情によるディスプレイを発見すると、人工授精又は種雄牛による自然交配を行
う。しかし、種雄牛が一頭であるため、人工授精の割合が高く、優良精液の安定入
手と、空胎期間を作らないための、発情を見逃さない管理体制が重要である。

ウ  飼料について
  酒造会社で処分に困っていた焼酎カスのイモデンプンを無料で譲り受け、発酵さ
せてデンプン質飼料として与えている等、コスト引き下げ努力を行っている。

エ  牛の事故について
  一産取り肥育の場合、発育途上の雌牛に、増体率の良い牛の種雄牛を交配するた
め、30kgを越える子牛を出産し、母牛、子牛に出産による事故がかなりある。

  また、肥育牛の宿命ともいえる、濃厚飼料の多量投与と運動不足からくる腎臓結
石や肺炎といった疾病等によって、年間10頭前後の牛が死亡しており、この事故率
を下げることが重要な課題となっている。

オ  牛肉の自由化に対する考え方
  当地には、日本の最高ブランド「松坂牛」を有する三重県からも、肥育の委託牛
がこの地域に来ており、地域の人々は芸術的なサシの入る和牛の最高峰「黒毛和種」
を育てているという自信と誇りを持っている。

  当地の人々は、輸入自由化による輸入牛肉は怖くないと言う。他方、海外の牧場
の買収等、日本の商社による最近の動きに対しては、不安と懸念をもっているのも
事実である。

                                  (村上)

4  肥育経営
経営形態 家族経営による大規模乳雄肥育経営
住所 北海道
農家名 I氏
飼養規模 おおむね  400頭
経営土地面積 61ha
うち農地46ha
山林原野15ha
肥育実績 導入素牛平均重量           291.8kg
出荷肥育牛平均重量       712.5kg
出荷肥育牛平均枝肉重量  401.0kg
1頭平均飼養日数          335日
1頭1日当たり増体量1.21kg/日
特徴
ア  地域の特徴
  豊頃町は、帯広市の南東部に位置し、ほぼ町の中心を十勝川が流れており、肥沃
な土地柄である。

  同地区は、馬鈴薯、てん菜、豆類を中心とした畑作が主体である。

  また、畜産に関しては、酪農家134戸、肉用牛農家11戸が経営を行っており、典
型的な純農村地帯である。

イ  経営の特徴
  両氏は、道内でも優秀な肥育農家であり、農協職員の同氏に対するコメントは
「肥育経営のなかで、先行投資がなく、企業的感覚で経営を行っている。家畜を大
切に扱うし、何といっても牛を鶏のように飼っている。」ということであった。

同氏の肥育方法の特徴は、
(ア)乳用肥育素牛は、北見方面より毎月30頭規模で農協が一括集荷しており、導
  入目安体重は250〜300kg(7〜8カ月齢)である。

(イ)肥育完了牛は、毎月ホクレン帯広支所へ出荷販売体制をとっており、出荷体
  重は700〜750kg(18〜19カ月齢)である。枝肉格付けは「B−3」と「B−2」
  が半々程度である。

(ウ)デントコーンと乾草は全量自家生産し(サイレージ用トウモロコシ24ha、牧
  草地22ha)、デントコーンサイレージと肥育用配合飼料を混合(2:3)したも
  のを素牛導入時から、肥育完了時まで安定的に給与し、飼料効率を高めている。

(エ)飼養管理に関しては、
 (a)4日に一度、集中的に全牛舎の敷料交換を行い、その都度噴霧消毒をする。

 (b)1日2回の飼料給与前に飼槽を掃除して、飼料摂取を良くするとともに各固
  体の状況を把握する。
 (c)2カ月に1回全頭計量し、増体状況を把握、分析する。

 (d)一牛群の一括出荷とし、引き抜き出荷、混合出荷は避け、400kg前後までの計
  量をもとに、12頭編成に組分けをする。

  このように、一定の飼養方法を確立し、その方式の中で肥育牛が回転している。

  牛舎に関しては、金をかけずに、自ら、建て増ししたり、補修工事等を行い創意
工夫がなされている。また、機械、器具類も最大限活用できるよう大切に扱われて
いる。

  また、農協を通じて、定時定量の肥育素牛の導入(素牛の価格変動により導入頭
数を変更することはない。)、肥育牛の出荷、また、配合飼料の購入を行っている
ことから、農協側からの信頼も厚い。

  現在、乳用去勢肥育の他、黒毛和種及び外国産導入牛の肥育も実験的に行ってい
るが思っていた以上に黒毛和種の増体量が良好であることから、本格的に黒毛和種
の肥育を行うかどうか検討してみたいということであった。

ウ  牛肉自由化への対応
  牛肉の自由化により、牛枝肉相場がどの程度の水準で推移するのか。
  国産牛肉と輸入牛肉がどの程度競合するのか、また、これらにより子牛価格がど
の程度影響を受けるのかがあまりにも不透明であることから、当分の間は、現状の
まま、自由化後の状況を見守ろうという感じであった。
                               (河合、石橋)

5  乳肉複合経営
経営形態 F1を取り入れた大規模乳肉複合経営
住所 北海道川上郡清水町
農家名 S氏
従業者数
(作業分担)
主人(45才)  経営全般
妻               肥育部門
実習生      4名
うち1名肥育、2名搾乳
飼養規模 搾乳部門
  経産牛  120頭、育成牛  40頭
肥育部門
  育成牛  260頭、子牛  30頭
飼料面積 採草地、飼料畑  30ha
放牧地    50ha
特徴
ア  地域の特徴
  ・ ホルスタインを中心とした酪農経営が多く、町の農業総生産に占める割合は
  約60%と高い。

  ・ 一戸当たりの飼養頭数は約35頭である。

  ・ 近年、企業牧場の進出により、肉牛生産が増加している。

  ・ 農協が中心となって地域の畜産振興の目玉として、乳肉複合経営の推進を図
  っている。

イ  経営の特徴
  ・ 搾乳部門は年間出荷量は725tで地域内ではトップクラスである。

  ・ 肥育部門は、現在、肥育期間開始途中であり無収入であるが、乳代だけに頼
  っていく牧場経営の不安定さがかなりあるとして、現在の酪農基盤を利用し、
  将来性のある経営を求めて乳肉複合経営を開始された。

  ・ 枕木などの廃材を利用し、通常施設の3割程度での施設作りによるコストダ
  ウンが図られている。

  ・ すべてのホルスタインに黒毛の精液を種付けし、F1生産(肥育部門は現在
  すべてF1)がなされている。

  ・ 子牛価格の変動に左右されず、常に一定の水準を保つために子牛からの一貫
  生産が実施されている。

  ・ 粗収益は約8,000万円、費用合計は約6,800万円である。
ウ  牛肉自由化への対応
  ・ F1導入による。低コスト、高品質な肉牛生産の実施
  ・ 独自のブランドによる牛肉の販売
  ・ 流通ルートの確保(百貨店等)高級輸入牛肉レベルの生産コストで、黒毛和
  牛に近い品質を作りたいとのことであった。
                                  (横田)
経営形態 F1を取り入れた乳肉複合経営
住所 熊本県菊池市
農家名 H牧場
家族作業分担 主人(47才)  作業全般
妻  (47才)     〃   
飼養規模(100頭) 搾乳部門
  経産牛  50頭、育成牛  30頭
肥育部門
  乳廃肥育  8頭、F1乳雄  12頭
経営土地面積
(6.7ha)
水田2ha
普通畑4.7ha(うち借地1ha)
経営の特徴
  ・ 優良基礎雌牛を中心に自家育成による優良牛の確保が図られている。
  ・ 牛群検定による能力の向上と斉一化が図られている。
  ・ 牧場主仲間による自主的勉強会を定期的に開催し、飼養管理技術等の研さん
  を積むことにより高品質な生乳が生産されている(氏は、この勉強会のリーダー)。
  ・ 全圃場が永年牧草(リードカナリーグラス)栽培されており省力化が図られ
  ている。

  ・ 肉専用種との交雑種生産による肉資源の活用が図られている。
  ・ 平成2年度より後継者(長男)が経営参加の予定となっており、意欲的な経営
  が実施されている。
                                   (鈴木)

6  畑作と肉牛の複合経営
経営形態 黒毛和種繁殖肥育一貫経営と畑作との複合経営
住所 北海道河東郡音更町
農家名 N牧場
家族作業分担 主人(46才)  作業全般
妻  (46才)     〃    
父  (71才)     〃  
長女(21才)     〃  
飼養規模(110頭) 繁殖牛   28頭
哺育牛   19頭
育成牛   25頭
肥育牛   38頭
経営土地面積
(33.5ha)
他に共同利用地として放牧地約100ha
飼料畑                9ha
 うち牧草            5ha
    デントコーン    4ha
普通畑
 うち小豆            5ha
    ビート         9.5ha
    小麦              10ha
特徴

ア  地域の特徴
  本農家が存在する十勝地方は、一大畑作及び酪農地帯として発達し、その地域の
肉牛生産は、そこから副次的に生産される乳用雄子牛と豊富な麦稈、豆穀類等の粗
飼料又は敷料への利用を生かして発達したものである。よって肉牛も乳用種が中心
となっている。

  肉専用種の飼養は黒毛和種が中心で、特に本農家が存在する地域(町)に多く、
他には、褐毛和種の肥育を町を挙げて行っているところもある。

  また、地域畜産を取り巻く好条件から、数千頭規模の企業経営による肉牛生産が
増加している。

イ  経営の特徴
  ・ 本農家は、黒毛和種の繁殖肥育の一貫生産と畑作を行っているが、その生産
  体系及び生産性は、地元の農協連等でも高く評価しており、中核農家の1つで
  ある。
 
 ・ 労働力は、年間を通じ4名であるが、これだけの肉牛及び畑作経営の規模か
  ら考えれば極めて効率的な大規模経営といえる。これだけの大規模経営なので
  大型機械の導入が行われているが、その機械類はほとんどが中古品であり、無
  駄なことには金をかけないという思想がうかがわれる。

  ・ 飼料及び敷料は、自家で牧草及びデントコーンの粗飼料を生産し、また、自
  家及び近辺の畑作専用農家が生産した小豆、小麦の副産物である豆穀、麦稈を
  粗飼料及び敷料として利用し、生産コストを抑制している。

  ・ また、自家で生産したサイレージの保管もバンカーサイロの利用、その際に
  デンプン粕で密閉することにより重石としても利用する等安価で効率のよいも
  のの工夫も怠りない。

  ・ 飼養牛の副産物である堆肥については、すべて畑に還元し、化学肥料は畑作
  専業農家の約3分の2に押え、反収もビートの例で1反当たり500kg〜1トンの増
  収となっているなど複合経営の利点をうまく利用している。

  ・ 畜舎等も低コスト製造を心がけており、払い下げ官舎を利用した畜舎、自力
  施行によるカラマツ間伐材利用の畜舎、マクラ木を利用したバンカーサイロ等
  がある。

 ・ 以上、当該経営は、畑作と肉牛生産の複合の利点を生かしながら、徹底した
  合理化を図っている優良なモデル経営である。
                                  (向井)


元のページに戻る