Q&A 

Q:ガットって何ですか?

企画室 田原高文


A:最近、毎日のようにガットウルグアイラウンドにおける農業交渉の動きが新聞
紙上をにぎわせています。また、少し前には、牛肉や、農産物12品目の輸入制限
についてもガットとの関係が論議されました。このように、国際化の流れの中でガ
ットは身近な存在となっており、我が国の農業、畜産の将来はガットとの関係を無
視して語れなくなっています。そこで、このガットというものについて、少しでも
その全体像がわかるように説明してみましょう。

(1)ガットの正体

  ガットの本当の姿は、38条の条文からなる国際協定(一種の条約)です。正式
名称を「関税と貿易に関する一般協定(The General Agreement of Tarrif and Tr
ade)」と言い、英文の頭文字をとってガット(GATT)と通称しています。ガ
ットは、1947年に成立し、1948年1月1日から発効した協定で、当初は2
3ヶ国の加盟国でスタートしました。その後、次第に加盟する国が増え、現在正式
加盟国は96ヶ国に達しています。我が国は、1955年(昭和30年)に正式加
盟しました。現在、世界の主要国でガットに加盟していない国は、中国、ソ連くら
いですが、これら両国ともガットに加盟したいとの意向を表明しています。

  ガットの目的は、関税その他の貿易障壁を軽減し、無差別原則に基づく自由な通
商を実現することであり、この目的を実現するため38条の条文においてガット加
盟国(正式には締約国と言います。)が守らなければならない貿易上のルール、手
続き等を規定しています。38条の条文の内容を大きく分類すれば次のようになる
でしょう。

@  加盟国が守らなければならない貿易上のルール
A  紛争処理手続き
B  貿易障壁削減のための交渉の場の提供と交渉成果を確保するための措置

  これら3つのいわばガットの機能について手短に説明しましょう。

(2)ガットの機能

@  貿易ルール

  まず最初にガットが定めている主な貿易上のルールについてその内容と意義につ
いて説明しましょう。

ア  最恵国待遇原則(Most Favoured Nation Treatment,MFN原則)ガット第1条

  この原則は、ガットの最も重要な原則です。その内容は、あるガット加盟国が他
の国(ガット加盟国であれ非加盟国であれ)に対して貿易上有利な待遇を与えた場
合は、すべてのガット加盟国に対して、同じ待遇を無条件に適用しなければならな
いというものです。

  例えば、米国とECが相互にいくつかの品目の関税の引下げを約束した場合、そ
の約束した低関税は米国とEC間の貿易のみならず日本を含めすべてのガット加盟
国との間で差別することなく、無条件に適用しなければならないというものです。
従って、仮に日本がガットに加盟していなければ、これと同じ扱い(低関税の適用)
を受けるためには、各国に対し個別に貿易交渉を申込み、MFN原則を盛り込んだ
通商条約な結ぶか、個別品目について、相手国と交渉して見返りの代償を提供しつ
つ譲歩(低関税適用についての合意)を引き出さなければなりません。もちろん、
日本が苦労して相手国から得た低関税は、ガットのMFN原則に基づき全てのガッ
ト加盟国に自動的に適用されることになります。

  このMFN原則によって、貿易障壁引下げの成果が速やかに全加盟国に適用され
るとともに、ガット加盟国の公平な取扱いが確保されているのです。

イ  数量制限の禁止  ガット第11条

  輸出入の数量制限や禁止は、輸出入を行おうとする人がどんなに努力しても一定
水準以上の輸入や輸出が認められないことから、関税さえ払えばとれだけでも輸入
や輸出ができる関税制度に比べて、貿易障壁としての度合いは格段に高いとされて
います。また、貿易交渉においてせっかく相手国から関税の引下げを勝ち取っても、
相手国が代りに輸入数量を制限してしまえば何もなりません。このため、公平で自
由な貿易を目標とするガットは、関税や課徴金以外の輸出や輸入を制限する措置
(その典型的な措置が輸入数量制限です)を原則として禁止しています。

  もちろん原則には例外がありますし、数量制限は競争力の弱い産業を抱えた輸入
国にとっては極めて魅力のある措置です。このため、この原則と例外規定の解釈を
めぐってしばしば関係国の意見対立がみられます。我が国の農産物12品目の輸入
制限をめぐる日米間の対立もその一つです。(このような場合に問題解決を図る手
続きとして後で説明する紛争処理手続きが決められています。)

ウ  内国民待遇  ガット第3条

  関税の引下げや輸入制限の禁止など水ぎわ(輸入時)の措置をどれだけ規制して
も国内に入ってから輸入品に不利な規制を課せられては何の意味もなくなるので、
国内の課税や販売、輸送等の規則においては輸入品と国産品を平等に取り扱わなけ
ればならないというのが内国民待遇原則です。従って、輸入品にだけ高税率の税金
を課すとか国産品に比べ複雑な表示義務を課すと言ったことはガット上認められな
いことになります。

エ  その他

  以上のほかにもガットは様々な義務やルールを規定していますが、ここでは代表
的な項目だけを例示するにとどめて説明を省略させてもらいます。その他の義務や
ルールの例としては、ダンピング防止税、相殺関税を適用する場合の要件及び手続
きに関する規定、輸出補助金等の補助金に関する規定、国家貿易に関する規定等が
あります。

A  紛争処理手続き

  以上のように、ガットは一種の法律のような様々なルールや義務を規定しており、
各加盟国がこれを遵守しているかどうか、ガット条文をどう解釈するかをめぐって
加盟国間の見解が対立することはさけることができません。こうした事態に対処す
るためにガットはその条文において紛争処理手続きを定めています。

  紛争処理についてのガットの基本的な考え方は、紛争は当時国の話合いによって
解決すべきだというものです。このため、一方の当時国から話合いの申し出を受け
た場合は、もう一方の当時国はこれを受けなければなりません(第22条、第23
条1項)。しかしながら、このような当時国同士の話合いによってはどうしても問
題が解決できない場合には、3名もしくは5名の専門家からなるパネルを設置し、
紛争条件についてガット規定に合致しているかどうかの裁定を行わせ、当時国が取
るべき措置についての勧告を出させることが規定されています(第23条2項)。
この裁定、勧告はパネルの報告書がガット理事会で採択されることによって、ガッ
ト上の効力をもち、当時国はその勧告を実施する義務を負うわけです。

  我が国の農産物12品目問題を例に取って紛争処理の流れを見てみましょう。

  まず最初のガット上の2国間協議は、1983年(昭和58年)7月、米国から
の協議申入れを受けて行われました。その後、ガット上の協議や非公式協議を行い、
翌1984年4月に合意に達し、2年間の休戦が成立しました。1986年(昭和
61年)4月の休戦明け前後から再度2国間協議を行いましたが、合意するところ
とはならず、同年7月、米国がパネル設置要請の意向を表明するに及び、12品目
問題は、2国間の場からガットの場へと舞台を移したのです。10月には、ガット
理事会において、パネルの設置が決定され、その後パネルメンバーの選定に日時を
要したものの、翌年5月からはパネルの審査が開始されました。パネルはその年の
秋には、雑豆、落花生を除く10品目の輸入制限はガット違反であるとの裁定を下
すとともに、日本に対してガットに合致した措置に移行するようにとの勧告を盛り
込んだ報告書を提出し、これが、ガット理事会にかけられたわけです。1987年
(昭和62年)12月のガット総会では、日本は、雑豆、落花生、乳製品、でん粉
を除く品目については採択に応じる用意があるとしたものの、各国はそのような部
分採択には応じられないとしたため、パネル報告書の採択は、次回理事会まで見送
られることになりました。翌年2月の理事会においては、我が国は、国際社会の一
員としてガットの紛争処理手続きを尊重するとの立場から、乳製品、でん粉のパネ
ルの解釈には疑義があること、また両品目の数量制限の撤廃は極めて困難であるこ
とを表明した上で、パネル報告の一括採択に応じました。これによって、雑豆、落
花生を除く10品目のガット上のクロ裁定が確定したわけです。これを受けて、日
本と米国は、パネル報告の実行について2国間協議を行い、自由化決定品目につい
ては、1〜2年の猶予期間を確保するとともに、必要な品目については関税の引上
げを行うことに合意しました。それ以外の品目についても、一部品目の自由化等の
アクセス改善を行うことで、当面の輸入制限措置の継続を確保しましたが、合意期
間以降の取扱いについては、本年度中に再協議することになっています。

B  貿易障壁削減のための交渉の場の提供と交渉成果を確保するための措置

  ガットは、以上の貿易ルールとそれを遵守させるための紛争処理手続きのほかに、
貿易障壁削減のための多国間交渉(Multilateral Trade  Negotiations,MTN交渉)
を主催する旨を定めています(第28条の2)。これまで7回にわたりこのような
多国間交渉を主催し、現在8回目の交渉を行っている最中です。最近の例では、1
973年に、世界の貿易担当閣僚が東京に集まり、その開始を宣言した東京ラウン
ド(第7回貿易交渉)があります。毎日、新聞紙上をにぎわせているウルグアイラ
ウンド(略してUR交渉とも言います。)とはガットが主催している一連の多国間
交渉の一つで、第8回の交渉に当たるものです。この交渉は、1986年にウルグ
アイのプンタデルエステというところで世界の閣僚がその開始を宣言したところか
ら名付けられたもので、1990年末までの交渉終結を目標に現在精力的に交渉が
行われています。(ウルグアイラウンド交渉の経緯と現状についての説明は、別の
機会に譲ることとさせてもらいます。)

  これまでの多国間貿易交渉の経緯と参加国は次のとおりです。

第1回関税交渉
   1947年  23ヶ国
第2回関税交渉
   1949年  32ヶ国
第3回関税交渉
   1950−51年  34ヶ国
第4回関税交渉
   1956年  22ヶ国
ディロンラウンド(第5回関税交渉)
   1961−62年  23ヶ国
ケネディラウンド(第6回貿易交渉)
   1964−67年  46ヶ国
東京ラウンド(第7回貿易交渉)
   1973−79年  100ヶ国
ウルグアイラウンド(第8回貿易交渉)
   1986−(90)年

  こうした貿易交渉の結果、合意された関税の引下げなどの成果が、交渉後自由に
撤回したり引き上げたりされたのでは、せっかくの交渉成果がだいなしになってし
まいます。そこで、ガットは、各国が交渉の結果行った約束を国別に一覧表(これ
を譲許表と呼んでいます。)にして、その内容を修正する場合には、改めて関係国
と交渉することを義務付け、かってに変えることができないようになっているので
す。

  以上簡単にガットの概要を説明しましたが、ガットの内容や考え方がおわかりい
ただけましたでしょうか。

  戦後40年以上のながきにわたり、国際貿易の自由化に大きな役割を果たしてき
たガットもその内には矛盾を抱えていたり、新しい商品の出現や貿易の流れに対応
できなくなっている面も否定できません。このため、ウルグアイラウンドにおいて
は、カットのあり方自体が交渉の対象となっていると言っても過言ではないでしょ
う。

  なお、専門的にとは言わないまでも、もっと詳しくガットについて知りたいとい
う人のためには、

「ガットと農業」全国農業協同組合中央会
「畜産物貿易読本」中央畜産会
「どうなる世界の農業貿易」大阪出版
などが参考になると思います。


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