グラフで見る牛乳・乳製品需給


最近の牛乳・乳製品需給の時系列分析 その2

企画室  田原 高文


 前回は、生乳生産量と飲用需要量(飲用牛乳等向け生乳処理量)をEPA法で処
理し、生乳生産と飲用需要の季節変動や季節調整値等の動きをみた。今回は、乳製
品向け生乳処理量と主要乳製品の生産の動きをグラフを見ながら振り返ってみよう。
前回、EPA法で得られた季節調整値や循環傾向値の動きと対前年同月比の動きの
相違についてかなり詳細に説明したので、両者の需給指標としての特性については
理解していただけたと思う。乳製品向け生乳処理量と主要乳製品の生産についても
両指標の関係については基本的には同じことがいえるので、今回は、前回と重複す
るような説明は極力避け、乳製品向け生乳処理量と主要乳製品の生産の季節調整値
や循環傾向値の動きを中心に解説していきたい。なお、今回の分析は、新たに90年
8月のデーターに加え、原則として85年1月からの5年8ヶ月データに基づいて行った。

4 乳製品向け生乳の発生

  わが国で生産された生乳(89年度813万トン)の仕向け先は、大きく、飲用牛乳
等向け(牛乳、加工乳、乳飲料、発酵乳及び乳酸菌飲料の生産に向けられるもの、
89年度496万トン、全生産量の61%)、乳製品向け(バター、脱脂粉乳、チーズ、
練乳等の乳製品生産に向けられるもの、89年度305万トン、全生産量の37%)、そ
の他向け(生産農家の自家飲用、子牛の哺乳用等、89年度12万トン、全生産量の2
%)に大別される。現行の用途別乳価体系の下では、飲用牛乳向け乳価が乳製品向
け乳価に比べ高く設定されており、生産者サイドはいわゆる有利販売の原則から飲
用牛乳向けへの出荷を優先する傾向にある。また、メーカーサイドも営業政策上飲
用牛乳の供給確保を優先している。この結果、生産された生乳は、まず、飲用牛乳
等向けに優先充当され、残りが乳製品向けに向けられている。(その他向けは、量
が少なく、生乳需給に与える影響はわずかである。)従って、乳製品向け生乳の動
きは、乳製品の総需要の動きを示すものではなく、むしろ、生乳需給の過剰や逼迫
の状況を端的に表しているものと言えよう。

  1日当たり乳製品向け処理量の動きを図11に示した。前回報告した生乳生産や飲
用等向け処理量ほど規則的ではないにしろ、一定の季節変動を示しながら全体の水
準を変動させている。

(図11)1日当たりの乳製品向け処理量の動向

(1)乳製品向け処理量の季節変動
  前述の通り、乳製品向け処理量は、基本的に、生乳生産量と飲用牛乳等向け処理
量によって決定されており、自律的な季節変動をもっているとは考えられないが、
前回見たように、生乳生産と飲用牛乳等向け処理量(飲用需要)にはきわめて規則
的な季節変動があり、結果として、乳製品向け処理量にも季節変動が見られる。
(図12)。

(図−12)1日当たり乳製品向け処理量の季節変動

  乳製品向け量は、春に大きな山(3〜5月、4、5月がピーク)を迎え、その後8月
に若干の回復を見せるものの9月まで落下を続け、秋に底(9〜11月)を形成してい
る。その後、冬場は、2月に大きな落ち込みを見せるものの次第に増大し、ふたた
び春のピークを迎えるというパターンをくり返している。乳製品向けの季節変動は
生乳生産と飲用需要の季節変動とどのように関連しているかを図13で見てみよう。

(図−13)生乳生産、飲用需要及び乳製品向け処理量の季節変動比較

  まず、3〜5月の乳製品向けの山は、この時期に生乳生産、飲用需要はいずれも増
大しているものの、生乳生産の伸びが飲用需要の伸びに先行していることによって
生じたものであることがわかる。その後、生乳生産が6月のピークの後、減少に転
じると共に、乳製品向けも、飲用需要の変動の影響を受けながら減少を続ける。例
えば、8月の乳製品向けの回復は、飲用需要の落ち込みが主な要因であり、また、9
月には飲用需要の回復と生乳生産の減少が相乗高価となって乳製品向けの大きな落
ち込みをもたらしている。10、11月は生乳生産の減少を上回る勢いで飲用需要が減
少するため、乳製品向けは若干回復し、12月以降は、生乳生産が回復に転じる一方
飲用需要は12、1月と大きく落ち込むため、乳製品向けは急速に回復する。2月は、
飲用需要の回復にともない、乳製品向けは落ち込むものの、その後は生乳生産の増
大と共に増大し春場のピークを迎える。

(2)最近の動向
  85年1月以降の乳製品向け量の動きを季節調整値と傾向循環値を使って簡単に追
ってみよう(図14)。

(図14)1日当たり乳製品向け処理量の動向(季節調整値及び循環傾向値)

  85年夏まで8千トン水準(年間290万トン相当)で推移していた1日当たり乳製品
向け量(季節調整値)は、同年秋から水準を切り上げ、86年3月には8.6千トンに迫
る(年間310万トン相当)に至った。しかし、86年に入って、乳製品の過剰背景に
減産計画が実施されたこと等により、乳製品向け処理量は減少に転じ、年度末(87
年3月)には、6.9千トン(年間250万トン相当)にまで減少した。87年度中は、お
おむね7.2千トン前後で推移した後、88、89年度を通して順調に増大し、90年4月に
は、8.7千万トン(年間317万トン相当)と、過去最高水準を記録した。しかし、乳
製品向け処理量は、90年5月以降、86年度の減少を上回る勢いで急減しており、8月
には、7.5千トン(年間275万トン相当)と4月に比べて約15%の減少となっている。

  それでは、このような乳製品向け量の変動の要因を生乳生産と飲用需要との関連
で検討してみよう。図15は、生乳生産、飲用需要、乳製品向けそれぞれの循環傾向
値(図5、図9及び図14)を対比可能なようにスケールを揃え、取りまとめたもので
ある。

  3本のグラフを比べると、85年後半の乳製品向け増加は、専ら生乳生産の増加に
よるものであり、その後、生乳生産が減少に転じると共に乳製品向けも減少し、86
年末からは、飲用需要が上向きになったことが乳製品向け処理量の減少に更に拍車
を掛け、86年3月に底を迎えている。その後、生乳生産は増加に転じたものの、飲
用需要も拡大したため、乳製品向け87年を通して横ばい推移し、88年に入って生産
の伸びが飲用需要の伸びを上回ったことから、乳製品向けもようやく上昇に転じた。
89年に入って、飲用需要は停滞し、生産の増大分は乳製品向けに振り向けられたた
め、乳製品向けは前年を上回る勢いで増大した。しかし、90年に入ってからは、生
産の減少と飲用需要の増大が相乗効果となって乳製品向け処理量は急減している。

(図15)生乳生産、飲用需要、乳製品向け処理量の動向対比(循環傾向値)

5 乳製品生産

  次に、それぞれの用途に仕向けられた生乳を原料として生産される飲用牛乳や主
な乳製品の生産動向について見てみよう。

(1)乳製品生産
  まず、乳製品向けの生乳を原料として生産される主要乳製品の生産動向について
みてみよう。ここでは、バター、脱脂粉乳、加糖練乳、全粉乳およびクリームを取
り上げる。この他、国産生乳を原料として生産される主要乳製品には、チーズがあ
るが、「牛乳乳製品統計」上では、輸入ナチュラルチーズを原料としたプロセスチ
ーズを含めたチーズ全体の生産量を把握することはできるが、国産生乳を原料とし
たチーズ(ナチュラルチーズ)の月別生産量を把握することは困難なので検討対象
から除外せざるを得なかった。

  「4.製品向け生乳の発生」の項で見たように、生乳需給の過不足は基本的には
乳製品向け処理量の増減によって調節されている。それでは、乳製品向け処理量の
増減は、どの乳製品の生産量を調節することによって吸収されているのであろうか
?生乳需給の変動は、長期的に見ればバターと脱脂粉乳の生産によって調節されて
いると言われている。この事実をグラフの上で確認してみよう。図16から図20まで
は、1日当たり乳製品向け処理量(季節調整値)と各乳製品の1日当たり生産量(季
節調整値)の相関を見たものである。バター、脱脂粉乳とその他の乳製品の間には
明らかに大きな違いがあることが見てとれる。バターの相関係数は0.83、脱脂粉乳
は0.96と極めて高く、乳製品向け処理量が増加(減少)するにつれ、両製品の生産
量が増大(減少)している。一方、その他の乳製品の相関係数は0.3以下であり、
少なくとも、中長期のタームで見た場合、乳製品向け処理量との間には相関はない
といってよい。(しかしながら、短期的に見た場合、例えば乳製品向け処理量の季
節変動に対応して、その他の乳製品の生産が増減することは十分に想定できること
であり、この点については、各乳製品の季節変動を見る際にあわせて検討してみる。)

(図16)1日当たり乳製品向け生乳処理量とバター生産量の相関(季節調整値)

(図17)1日当たり乳製品向け生乳処理量と脱脂粉乳生産量の相関(季節調整値)

(図18)1日当たり乳製品向け生乳処理量と加糖煉乳生産量の相関(季節調整値)

(図19)1日当たり乳製品向け生乳処理量と全粉乳生産量の相関(季節調整値)

(図20)1日当たり乳製品向け生乳処理量とクリーム生産量の相関(季節調整値)

@  バター生産
  図21は、1日当たりバター生産量の季節変動と乳製品向け生乳処理量のそれとを
対比したものである。両者は、基本的には同じ動きを示しており、バターは、中長
期の生乳需給調整機能(図16)ばかりでなく、短期的な季節変動に対する調整機能
も果たしているといえよう。更に細かく見てみると、3月から6月にかけては、バタ
ーが乳製品仕向を上回っており、バターの生産よりシフトしているのに対し、9月
から12月にかけては、バターのほうが乳製品仕向を下回ってお、バター以外の乳製
品に生産がシフトしていることが伺える(図21)

  次にバターの最近の生産動向を見てみよう。1日当たりバターの生産量(季節調
整値)は、86年2月に最高水準(260トン、年間96千トン相当)に達した後、乳製品
向け生乳の減少とともに、減少し、87年始めには180〜190トン水準(年間66〜69千
トン相当)にまで落ち込んだ。その後87、88年の2か年にわかり、横ばいで推移し
た後、89年に入り上昇に転じたものの、89年12月を境に再び急激に減少し、89年8
月には、180トンと87、88年の水準まで落ち込んでいる(図22)。

  その間の1日当たり乳製品向け生乳処理量とバター生産量(季節調整値)の相関
を見たものが図16であるが、これを見てなんとなく2本の線が認められることにお
気付きであろうか。両者の相関を、季節調整値ではなく、循環傾向値で見た場合よ
り明確にこの傾向が現れる(図23)。85年1月から87年3月までは、乳製品仕向の増
(減)に対応してバターの生産も一定比率で増(減)しており、この結果グラフ上
の点は、直線上に分布しているのに対し、87年4月から88年10月にかけては特異な
動きを示し、乳製品向け処理量が増えてもバターの生産量はほとんど変化していな
い。その後、88年10月ごろから再びバターの生産量は乳製品向け処理量の増加分と
一定の比率を持って増大し、グラフ上ではほぼ直線上に分布しているが、その直線
は、85年から87年春先にかけての直線に比べ、傾き(乳製品向け処理量の増加分に
対するバター収量)はほぼ同じであるがグラフ上では上方にシフトしている。

(図21)1日当たりバターの生産量の季節変動

(図22)1日当たりバターの生産量の動向(季節調整値及び循環傾向値)

(図23)1日当たり乳製品向け生乳処理量とバターの生産量の相関(循環傾向値)

A  脱脂粉乳生産
  脱脂粉乳の季節変動もバターと同様乳製品向け処理量と同じパターンを示してお
り、脱脂粉乳は中長期的な調整ばかりでなく、短期的な生乳の季節変動を調整する
上でも重要な役割を果しているものとみられる。バターに比べてもその変動は、乳
製品向け処理量の変動とより密接に連動しており、わずかに、5月、6月に若干乳製
品向けを上回り、1月に下回っているほかは、両者の動きはほぼ一致している(図2
4)。

(図24)1日当たり脱脂粉乳生産量の季節変動

  1日当たりの脱脂粉乳の生産量(季節調整値)は、86年1月に540トンのピーク
(年間20万トン相当)を記録した後、減少に転じ、87年3月には390トン(年間14万
トン相当)まで落下した。その後、87年中はほぼ横ばいで推移した後、88年に入っ
て徐々に増加に転じ、88年は増加のペースを更に速め、1989年12月から90年3月に
かけては530トン(年間19トン相当)の水準に達した。その後、乳製品向け処理量
が減少するに伴い脱脂粉乳の生産量も急減し、90年8月には430トン(年間16万トン
相当)となった(図25)。なお、バターと同様、循環傾向値で乳製品向け処理量と
相関を見ても、バターのような回帰直線のシフトは見られない(図26)。

(図25)1日当たり脱脂粉乳生産量の動向(季節調整値及び循環傾向値)

(図26)1日当たり乳製品向け生乳処理量と脱脂粉乳生産量の相関(循環傾向値)


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