★自由化レポート


自由化後の対応を模索する豪州牛肉

オーストラリア食肉畜産公社代表とのインタビュー


 今月号は自由化特集の一環として、オーストラリア食肉畜産公社(AMLC)代
表とのインタビューを行う機会を得た。牛肉自由化に対するオーストラリア食肉畜
産公社の考え方や意見について、北アジア地区代表であるラルフ・L・フッド氏に
聞いてみた。
 
 その中で同氏は、豪州牛肉が現状において劣勢ではあるものの、今後、日本市場
での販売に対し自信をのぞかせていることが印象的でした。

 以下はその要約です。

 聞き手は、津曲食肉生産流通部長及び渡部企画課長。

写真
北アジア地区代表
ラルフ・L・フッド氏
〈略歴〉1948年ニューサウスウェールズ生まれ、ヨーロッパ地区、
    中東地区及びアメリカ地区代表の後現在に至る。


オーストラリア食肉畜産公社とは

 私たちオーストラリア食肉畜産公社(AUSTRALIAN MEAT&LIVESTOCK CORPORATION
:AMLC)はオーストラリアの食肉および畜産業界の経営活動の振興、協調を目的と
して、1977年に設立された法律に基づくマーケティング推進のための組織であ
り、その活動原資の大部分は関連業界からの課徴金によってまかなわれています。

 日本市場に関しては、当公社東京事務所を通じて独自のマーケティング活動が行
われています。


豪州産牛肉売込み目標は若い主婦層

 2年前から現在に至るまで量販店、百貨店、生活協同組合などに、一店でも多く
の店で豪州産牛肉に「オージービーフ」の表示をしながら安定的に販売してもらう
ことを活動の柱としています。

 特に自由化以降に力を入れていることは、目標としている25才〜45才の若い
主婦層が、TVコマーシャルの宣伝等により、肉屋へ行った時に「オージービーフ」
をよりスムーズに買い求める行動パターンをとるようにしていくことです。さらに、
一、二度購入経験のある主婦層が定期的に使うユーザーになるような効果をねらっ
ています。


自由化後に向かい「オージーマーク」を統一

 安定的に販売し始めた店舗が店頭販売する段階で、各企業の特色を打ち出すため
のオリジナルブランドによる差別化が起こり始めた。このため、オーストラリア食
肉畜産公社は、統一的な宣伝活動が効果的になるよう全てのブランドに「オージー
マーク」を入れることで、ブランドの如何にかかわらず豪州産の牛肉であるという
ことが明確にわかるような措置を講じました。

 また、そうすることにより、豪州産牛肉全体に共通したイメージを消費者に与え
るように努めており、現在順調に豪州産牛肉は主婦層に浸透しつつあると思います。

写真
「オージーマーク」を説明するフッド氏


販売量のカギを握る小売価格

 予想よりも牛肉の消費量が自由化以後増えていない、というのが当公社の感想で
す。自由化後量販店等が求めたのは、価格です。自由化による一般消費者の期待に
沿うため、量販店で3〜4月にかけて自由化記念セールの名目で安売りをしたため
に、記念セールの最中はよく売れたかもしれない。しかし、値段が元に戻った5月
は、輸入牛肉の売上量は落ちたと見ています(季節的な要因が若干あるかもしれな
いが)。

 安売りをした時には、かなりの量の輸入牛肉が売れたというのであれば、もう一
度小売価格というものの見直しが必要であると思っています。


多めに輸入されたチルドに対する見解

 チルドビーフについては、業界の市場に対する過大評価(OVER ESTIMATE)が、
今の状況を生み出しているのではないかと思います。自由化以前の制度が長く続い
ただけに、自由化に対応するシステムがまだ出来上がっていないことが、このよう
な事態を招いている一因と思います。


過渡期にある日本市場

 自由化、自由化という中でどのような牛肉が日本市場に受入れられるのか、とい
うことについての新しいシステムを作り上げるためには、もう少し時間をかけて調
整する必要があるのではないか。その調整が済んだならば、よりスムーズに輸入牛
肉が日本市場に受入れられていくのではないか。


肉質の幅が広がった自由化後の「オージービーフ」

 自由化ということは、日本の市場が輸入牛肉に関して新しい時代を迎えるのだと
いうとらえ方で、オーストラリアは準備を進めてきたが、その中で、特に豪州が行
ったことは、日本側の協力もあってのことだがグレインフェッドの生産能力を相当
増やすことができたということです。

 従来から豪州はグラスフェッドが中心であったが、短期及び長期のグレインフェ
ッドを加えることにより豪州産牛肉の肉質の幅が広がりました。

 豪州自身も牛肉の自由化後は“日本市場にいかにきめ細かく対応するか”という
ことを目標に品質の良い色々な種類の牛肉を、例えば低級の加工用牛肉から高級テ
ーブルミートまでの色々な種類の需要に対応して行こうという空気に変わってきて
います。


輸入量の半分のシェアーを確保したい豪州

 日本全体の輸入量を予想するのは非常に難しく、とりあえず下記のとおり予想は
したものの、基本的にはシェアーでもって輸入量というものをとらえています。

 今 年(1991年):18〜19万トンを予想(今の状況から判断して昨年の
            20万トンを割る)
 来 年(1992年):20万トンを何とか実現したい
 再来年(1993年):22〜23万トンにしたい

 今年は日本の牛肉輸入量の54%を豪州産で満たしたいという計画を持っており、
今後は日本の総輸入量の少なくとも半分は豪州が輸出したいと考えています。


米国産よりまさるバラエティーの多さ

 豪州は牛肉生産においてさすがに和牛の品質にまでは踏み込めないが、豪州が作
る「オージービーフ」はバラエティーに富み、和牛の品質の下位にある部分、つま
り、乳おすのテーブル用から加工用の原料牛肉に至るまで、様々な種類の肉質に対
応できることをメリットとしているのに対し、米国産牛肉が日本市場で満たせる分
野は、日本の乳おすに相当するグレインフェッドビーフ(主にチョイス級)にしか
対応できず、非情に品質の幅が狭いということです。将来、色々な需要が出てきた
時でもどのようにでも対応でき、豪州産牛肉が50%のシェアーを保てると思う理
由はここにあります。米国にない様々な需要に対応できる部分を持っているという
ことが、一つの大きな特色をなしています。


米国にないもの、それは強い輸出志向

 豪州は牛肉の約60%を海外に輸出していることからわかるように、輸出志向が
強く、反対に言えば、60%を海外に出さないと豪州の牛肉産業は成り立たないと
いうことです。

 そういう国にとって海外の客がどれくらい大事であるかということは言をまたな
い、海外の需要にいかようにでも迅速的確に対応していく姿勢(FLEXIBILITY)は、
輸出が数パーセントの米国とは比べものにならないくらい強いものです。

 今、豪州が考えなければならないことは、今年あるいは来年をどういう牛肉の需
要があるかということではない。1993〜2000年の間に日本の牛肉の需要が
どう変わって行くかということまで考えて、肥育する牛をそろえていかなければな
らないということです。そのようなところまで、現在豪州は迅速に対応していく姿
勢を作っていこうとしており、今後ともその辺を見ていただきたい。


乳おすを生かすも殺すも消費者しだい

 牛肉が自由化になり関税率が漸減することを考えると、今のままの乳おすの価格
では輸入牛肉との競争は難しいであろう。ただ、単純に今の乳おすが消えてしまう
と言う意見には賛成をしかねます。

 あくまでも国産牛の味というものが一般の日本の消費者に合うかどうか、乳おす
からの牛肉が消費者の求める牛肉であるかどうかによって決まってくるものと考え
ます。

 もし、今の乳おすが日本の消費者が求めるものであれば、おそらく規模拡大、合
理化等により効率を上げていけば、自由化された市場の中でも存続して行けるので
はないか。大切なことは、乳おすを生産する者の収入がいかに確保されるかという
ことであり、それがこの産業を生き残らせるポイントでもある。そのためにも一度
生産面での再編成をする必要があるのではないか。また、そうすることによって、
もしこの商品が日本の消費者に求められるものに適切に対応したものであれば、今
後とも生き残っていくであろう。


今後とも棲み分ける米国産、豪州産そして日本の乳おす

 乳おす牛肉が競合するのは米国及び豪州のグレインフェッド牛肉であるが、米国
及び豪州が今何をしようとしているかというと、自国の牛肉の特徴はこうであると
宣伝していることです。

 つまり将来、値段的には同じであったとしても、価格においては競合するものの、
特徴の面で差別化ができるのではないかということであり、お互いが差別化をする
ことによって、共存共栄を図っていくという考え方です。

 現在、和牛は全く別世界のものであるが、この別世界にある和牛であっても将来、
日本の消費者の要求に合わなくなりだせばそれまでです。

 一番大切なポイントは、日本の消費者のその時々の要求に的確に合ったものかど
うかということであり、豪州はそれを探究しています。


時代にマッチしない豪州での和牛生産

 牛肉の自由化に狙いを定めて日本の企業が投資した豪州での高級牛肉生産は、投
資した人たちが予想したとおり利益を上げられたかというと、はなはだ疑問です。

 当方の希望的観測ではあるが、日本の一人当たり現在6キログラムの牛肉消費量
が、将来12キログラムになった時、増えた6キログラムの牛肉は和牛以外の牛肉
で満たすことになろう。というのは、将来的な牛肉生産の流れは、健康問題及び経
済的な理由から低脂肪である短期肥育の牛肉消費の方向へ動いていくのではないか
と思うからです。

 単に外国での生産コストが安いからといって、海外で和牛を生産するとの発想は、
時代の要求にあったものとは考えにくく、今後ともあまり実現しないのではないか
と思っています。


今後の豪州牛肉生産の風向きは!

 (日本のユーザーが特定の品目を要望するため)米国の単品取引に対し、豪州の
セット取引は、取引形態からみれば劣勢にまわっているものの、豪州は豪州なりに
今後の牛肉ビジネスに関し以下のことを考えています。

@ ロイン系の部位だけでなく、その他の部位をどう使っていくかという啓蒙普及
 活動を、日本の業界に対して強化していく。

A さらに時代の流れから長期的に見れば、日本が現在輸入している重量級の枝肉
 からの牛肉から、今豪州人が食べているような軽量級の若齢牛からの牛肉へ需要
 がシフトするようになれば、米国がやっていることと同じように、日本にとって
 必要の無い部位を豪州国内で消費することができることになり、コストの削減に
 もつながる。

                                  以 上


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