★特別報告


一息ついた乳製品需給

畜産物の需給等情報交換会議の概要報告


 平成3年度に入って、好調な飲用牛乳需要と伸び悩む生乳生産に伴い、乳製品向
け処理量が減少して主要乳製品の生産が落ちこみ、乳製品の需給のひっ迫が続いて
います。

 このため、事業団は、4月、7月、9月及び10月にバター及び脱脂粉乳の輸入手
当を行ったところです。これが効果を現わし、ひっ迫基調の中でも需給は落ち着き
を取り戻した感があります。

 こうした状況の中で、最近の牛乳・乳製品の需給をどうとらえ、どのように対応
していくのか等について、実際に牛乳・乳製品の製造、販売に当たっておられる皆
様から座談会形式で意見を伺ったので、その概要を報告します。

開催月日及び参加者

日 時:平成3年9月18日(水)
場 所:畜産振興事業団2階会議室
参加者:以下のとおり(敬称略、順不同)

大 森 俊 夫
 雪 印 乳 業 梶@ 乳食品営業部原料乳製品企画グループ課長
堺   卓 三
 明 治 乳 業 梶@ 業務商品販売部マーケティンググループ課長
桃 井   斌
 森 永 乳 業 梶@ 業務用食品部販売担当課長
藤 本 睦 雄
 全国農業協同組合連合会 酪農部乳製品課課長
今 野 慶 司
 全国酪農業協同組合連合会 乳業部乳食品課課長
渡 辺 孝 明
 よ つ 葉 乳 業 梶@ 東京支店乳製品課課長
大 島 國 宏
 北海道乳業販売梶@ 営業第一部部長


北海道の生乳生産は回復

 生乳生産量は、今年度に入って7月までは前年同月を割り込んで推移していたも
のの、8月は前年を上回りそうだ。しかし、これを地域別にみると、北海道では順
調に伸びているが、都府県は依然低迷しています。

 北海道については、生乳の潜在生産力はあり、年度計では計画生産(対前年度比
105.3%)前後の生産が見込まれる。特に、9月に入って釧路、中標津地区等
では10%以上の伸びを示しており、道南でも回復してきています。今後も、乳価
や将来の展望を示す等の刺激策で増えていくのではないかと考えています。

 逆に、都道府県の生乳生産は前年を割り込むのは確実で、中でも都市近郊酪農に
あっては、後継者、ふん尿処理問題等の構造的な問題があり、生産刺激策を打って
も急激な増加は望めない状況です。

 今の状況では、酪農家もこの先どうしたらよいのか迷いがあるのではないか。そ
の時々の施策がどのような方向に位置づけられているかよくつかめていないので、
いざ増産体制に入ったら需給状況が変わっていることがあるなど、安心して増やせ
ないという感じだ。

 最終的に3年度の生産量は、都府県の落ち込み分を北海道がカバーする形で、全
国で100%〜101%台になるものと予想されるというのが、大方の意見でした。


飲用牛乳の伸びは痛しかゆし

 飲用牛乳等向け処理量は、8月は生乳不足から牛乳の特売の制限をしたこともあ
り、統計上悪く出ると思う。しかし、去年が高かったのと今年の天候を考えると、
前年同月比95%と出てもマアマアではないか。

 飲用牛乳の需要には小売価格の影響もある。特売をすれば飲用需要は伸びるが、
市場が乱れるので好ましいことではない。

 現在の乳製品不足の状況では、我々乳製品の製造部門関係者にとって、飲用を無
理に伸ばすよりは、生乳を加工用にまわしてもらいたいというのが本音です。


8月末の輸入発表で一息つく

 乳製品の需給は、ここのところ、乳製品を使用する商品が増えており、実態とし
て不足感が強いことは皆が肌で感じている。ここ1〜2カ月は、ユーザーへの供給
カットも行われる等後向きの対応になっていて、ユーザーに対しては頭を下げてば
かりいる。

 8月末に発表された輸入枠、バター1万1千トン及び脱脂粉乳2万トンの手当で、
乳製品関係者は、今年度はなんとかなりそうた、一息ついたという意見が大勢を占
めたが、用途によっては、まだ不足感があるという見方もありました。


使いづらい輸入乳製品

 乳製品不足を分析してみると、最近、新商品に使用される原料乳製品が偏ってき
ているので、乳脂肪と無脂乳固形分とのバランスが崩れているのではないかと思わ
れます。消費者の本物志向で生クリームの需要が増えており、乳脂肪が不足する傾
向にある。通常は、脱脂粉乳の方が余りやすいといわれているが、今年度は乳飲料
・缶飲料等の需要が伸びており、脱脂粉乳も不足しているという状況です。

 それにもう一つの問題は、輸入物のバター、脱脂粉乳は使える用途と使えない用
途があり、ユーザーにとっては使いづらい面がある(普通の規格では満足しないユ
ーザーがある)ということでした。

 脱脂粉乳については、輸入物はコールド用の缶コーヒーやカルピスウォーター等
の乳飲料には使えるが、製パン、乳酸菌飲料、はっ酵乳には使えないことがある。
例えば、輸入物でパンを造るとはっ酵不足で四角くならないとかの問題がある。こ
れは、たん白質内のチッ素含有量が違うことや、脱脂粉乳や製造する時の過熱条件
の違いによりイースト菌、乳酸菌などのはっ酵適性がマチマチだからではないか。
そのため、各社ともユーザー向けに、製パンなら製パン向けの温度条件で特殊脱脂
粉乳を造っているのが実情です。

 また、ユーザーにとっては、生産工程がオートメーション化されているのに、製
造国、製造メーカー、製造年月日がバラついていると、その都度生産条件を変える
必要があり、輸入物の使いづらさにつながっているようです。ユーザーは、同じ国
の同じ規格のものがくるのなら、それなりに合わせて使うといっています。

 輸入バターの場合も、製菓・製パンの一部には使えるが、クロワッサン等のパイ
には適していないので、製菓業界向けにはパイ適性を持った特殊バターを生産して
いる。また、年末に向けて需要が多くなる有塩家庭用、ホテル・レストラン向けに
も使えないようです。

 このように、国内需要の多様化や本物志向が進み、その用途向けに特別に生産し
ている国産原料乳製品の不足分を、そのまま輸入乳製品に置き換えることができな
いということが問題だという意見が多かった。


牛肉自由化は酪農に影響

 牛肉の輸入自由化は、乳業界にはあまりの影響を与えないと考えていたが、自由
化でヌレ子(乳用雄子牛)や乳廃牛の価格の低落を招き、酪農家の意識に大きく影
響している。乳廃牛を売りにくいので、搾乳牛の更新ができないという事態もあり、
これらのことが生産量の停滞に直接現れているとも考えられる。

 個々の酪農家にとっては、飲用乳価が3円上がっても、ヌレ子、乳廃牛の価格低
下で総収入はマイナスになるかもしれず、現在問題になっている離農を、乳価問題
だけでくいとめられるかは疑問で、後継者問題や副収入となる牛枝肉卸売価格の動
向に左右されるのではないか。

 また、ヌレ子や乳廃牛の価格の低落により、F1を飼う農家が増えているが、和
牛の精液を使用すると後継牛をどう確保するかという問題もあり、構造的に地殻変
動を起こす可能性があります。


来年度も乳製品需給はひっ迫か

 8月末に発表されたバター1万1千トン及び脱脂粉乳2万トンの輸入手当を、年
度末在庫水準でみると、バター1.6カ月分、脱脂粉乳1.9〜2.0カ月分であ
り、適性在庫水準には不足と思われ、生乳生産の大幅な伸びが見込めない状況にあ
って、来年度の乳製品の需給もかなりひっ迫するのではないかとの意見もありまし
た。
                                 以  上
注: 本座談会は9月18日に実施したので、8月の生産量等の数値は見込
  みで話し合われています。その後、9月30日に8月分の牛乳乳製品統
  計が公表され、それによると、生乳生産量は全国で101.3%(前年同月
  比)、うち北海道は106.1%でした。

   また、飲用牛乳等向け処理量98.1%、乳製品向け処理量は107.2
  %となっています。



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