★ 巻頭言


裏情報収集の重要性

((財)日本食肉消費総合センター嘱託)増田俊二


 ガット・ウルグァイ・ラウンドが大詰めにきて、農林水産省の対応や、今後の農
政のかじとりが難しくなっていると思われます。とくに、ウルグァイ・ラウンドの
ように、農業の国際化が進むと、いままでは国内だけの農業だったのに、世界のい
ろんな事情をもった国が入ってきて、国際規模で農業を論じますから、農業をわか
りにくくしています。それだけに、農民や国民の理解をえるのが大変です。ひとつ
ボタンをかけ違えると、えらいことになりかねません。


都市型情報の盲点

 いうまでもなく、農政や農業は、地域社会と深いかかわり合いをもっています。
それなのに情報の発信量は、東京を中心とする都市サイドのものが、圧倒的に多い
状況です。だから発信する役所が、地域社会のことを本当に知らないと、地につか
ない理論や考え方の土台に立って、政策が作られていきます。農水省は全国に七つ
の地方農政局をもっていますが、地域の情報は、県庁の情報が主体になります。独
自にやるほど人もいないし、整備もされていません。県庁は市町村から情報をとり
ます。しかし県庁の情報や報告は、どうしても格好よくいきたがります。いいとこ
ろだけの報告が多く、まずいところはフタをして表にださない。化粧をしたり、オ
ブラートに包むことさえあります。表の情報なのに、とらないから埋没しているケ
ースだってあります。しかし、霞が関では、こういう裏に潜んでいることはわかり
ません。その点、表の情報より、見えない裏の情報の方が、むしろ重要かも知れま
せん。「ちょっとおかしいぞ」とチェックされる場合もありますが、百%はカバーで
きないでしょう。


畜産にもある落し穴

 この弊害は、価格政策より、構造政策で農地の流動化とか経営規模拡大の場合に、
よくでてきます。本省は集まった情報から、例えば、大規模化の政策をメニュー化
して、あとは地方ごとに選択してやって下さいと示します。しかし、裏情報はメニ
ュー化されていないから、農村サイドでは「なんだこれは」と反発するところがでま
す。霞が関は、「こんなはずではなかった」ということになります。

 畜産でも、意外と大規模の企業経営の情報が入らない。県庁は、低利融資の資金
を借りている、中小の畜産農家の情報は、行政上のつながりがあるから集められま
す。だが豚や鶏の大規模企業や、肉牛でも、乳おすの大企業経営になると、銀行相
手で県庁は付き合いがない。生産面では農協さえ相手にしないし、流通面では、ス
ーパー直販で農協は、素通りします。例えば、県庁の情報で生産が減っているとい
うので、なにか手当てを考えていると、情報のない大企業の方が増産して、全体と
して生産増になるといったチグハグなことが起こってしまいます。


不信を少くするために

 ですから役所は、いつも同じ手法で、情報収集していては、まずいわけです。サ
イコロと同じで、「丁」といえば「半」があるわけで、必ずこの裏の情報を集めるルー
トを作って置く必要があります。

 行政には、裏の情報も十分把握したうえで、表を強行することは、当然あります。
知っていたうえでやるのと、知らないでやって、あとで「こんなはずではなかった」
と、悔やむのとではわけが違います。これからの農政には、こういった万全さが必
要だと思われます。裏情報を正しく分析、手当てすることで、前回の参議院選の時
のような「農政不信」は、多少なりとも緩和されるのではないでしょうか。

 畜産振興事業団が最近、内外の畜産情報発信基地として、目ざましく活躍してい
ます。しかし、情報の収集と発信の仕事は、本当に難しいものです。ご健闘を期待
します。


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