★ 巻頭言


T 畜産振興審議会食肉部会を終えて

(財)日本食肉流通センター理事長 犬伏 孝治


 去る3月、例年通り畜産振興審議会が開かれ、同月24日の食肉部会において平成
5年度の指定食肉の安定価格と肉用子牛の保証基準価格および合理化目標価格につ
いての答申が出され、あわせて7項目にわたる建議も行われた。食肉部会における
これらの答申および建議の内容については、すでに報道され周知の通りであるが、
本審議会への諮問と答申は、毎年くりかえして実施されていることとはいえ、その
決定内容は、年ごとの状況の変化が反映されたものとなっており、本年もまた同様
であることはいうまでもない。そこで、本年の決定内容について、関連する諸事情
の変化との係わりあいを見つつ、特徴的な点を述べてみたい。なお、若干の所見を
いくつかの箇所で付け加えているが、これらは私かぎりの私見であることをご了承
願いたい。


豚肉の安定価格を5年連続同一価格で据え置いたこと

 豚肉の安定上位価格および安定基準価格は、平成元年に決められたものがそれ以
後毎年そのまま踏襲されてきており、本年度もまた据置きとなった。

 豚肉の需要は、ここ数年、家計消費は減少してきているが、加工需要が増加した
ことにより全体としてほぼ横ばいと見られている。これに対し、生産面では飼養戸
数は減少するものの飼養頭数は増加し規模拡大が進行してきていたのであるが、平
成2年からは飼養頭数も減少に転じ縮小再生産に向ったのではないかと懸念される。
国内生産量は、平成元年以降漸減傾向を辿っているのである。一方価格の面では、
枝肉卸売価格(東京・大阪の加工平均)は、ここ数年季節変動を伴いながらもおお
むね強含みで推移してきたのであるが、昨年秋から本年初めにかけて卸売価格は低
下し、1月には生産者団体による調整保管が実施された。最近の価格の低落は一時
的現象に止まるかどうかはなお事態の推移を見定める必要があるが、牛肉の自由化
による輸入牛肉との需要面での競合であるとか、輸入豚肉の増加とくにチルド形態
のものの増加の影響であるとかいわれている。

 以上のような諸事情を総合的に考慮すると、規模拡大による生産性の向上はある
ものの、豚肉の安定価格が据置きとなったのは、止むを得ないことと考えられる。
問題はわが国の養豚経営の将来についてである。食肉部会では、このことに言及す
る委員も多く、環境問題、後継者難等に対し十分な対策を講ずべきであるという意
見が多かった。関連対策として、養豚経営の体質強化を図るための特別対策の継続
実施、後継者への経営移譲円滑化のための資金援助、経営環境整備のための各種対
策等が行われることとなっており、その成果を期待したい。


牛肉の安定価格は4年連続引下げとなったこと

 牛肉の安定上位価格および安定基準価格は、平成2年以降毎年引き下げられてき
ているが、本年度も前者は2.9%、後者は3.2%の引き下げとなっている。

 牛肉の需要は、食生活の高度化、多様化等に伴い確実に増加してきている。しか
し、その増加率は低下してきており、最近では景気後退の影響等から伸び悩み感が
強まっているとされる。これに対し生産面については、枝肉生産量の推移を見ると、
平成2年度3年度ははともに堅調に増加し、4年度も伸び率は低下したものの増加
傾向は続いている。一方、輸入については、平成3年度は自由化初年度で、それま
での在庫の取崩しにより前年度をかなり下回ったが、平成4年度に入ってからは大
幅に増加している。国内の肉用牛の飼養状況については、近年一貫して飼養戸数は
減少してきているが、飼養頭数は、一戸当たりの飼養規模の拡大を伴いながら増加
傾向を持続している。価格面では、省令規格の去勢牛肉(B−2、B−3)は、自
由化後の平成3年以降低下傾向で推移している。品種別にみると、和牛去勢は、自
由化後も横ばいないしやや上昇傾向で推移してきたが、平成4年に入り景気後退等
の影響からA−4規格以下が低下傾向となり、一方、輸入牛肉と競合度の高い乳用
種は、すでに平成2年度から下降傾向が続いている。

 食肉の安定価格は、従来から需給実勢方式により過去一定期間の農家販売価格と
生産費の動向を主たる要素として算定されており、牛肉についての近年の国内価格
の傾向や肉牛生産の規模拡大による生産性の向上等を考慮すれば、今回の牛肉の安
定価格のこの程度の引下げは、止むを得ないものと考えられる。しかし、輸入牛肉
との競争関係の中でわが国の肉用牛生産の将来をどのように考えるかという観点か
ら、価格安定制度のあり方についての意見が何人かの委員から出されており、今後
幅広い角度からの検討が早晩求められてくるのではないかと思われる。


肉用子牛についての両価格を黒毛和種を除いて引下げたこと、
また褐毛和種を新たに区分したこと

 肉用子牛の保証基準価格および合理化目標価格は、褐毛和種の新区分を設定する
とともに、黒毛和種を除いてすべて両価格とも、とくに保証基準価格は制度発足後
初めて、引下げが行われた。

 牛肉自由化の方針が決定された以後の肉用子牛価格の動向は、牛肉卸売価格の傾
向を反映して品種間格差を伴いつつ低下傾向で推移している。品種別に見ると、黒
毛和種は、自由化後も高水準で推移してきたが、平成4年度に入りやや低下傾向が
見られる一方、同一グループに属する褐毛和種は、平成3年以降低下傾向を続けて
いる。その他の肉専用種に区分されている日本短角種は、自由化前の平成2年秋以
降大幅に低下し、乳用種についても、平成3年に入り低下している。このため、こ
れまで 「その他の肉専用種」 は、4半期単位で9期連続、乳用種は7期連続して、
生産者補給金の交付が行われている。

 保証基準価格の算定は、これまでと同様、自由化の影響が出ていない過去の一定
期間に実現した肉用子牛の市場における実勢価格を基本に、生産費の変化率を織り
込んで算定する需給実勢方式に基づき行われている。また合理化目標価格は、肥育
経営が品質格差を考慮に入れて輸入牛肉と対抗しうる価格で国産牛肉を生産するの
に必要とされる肉用子牛価格として算定されている。いずれも従前どおりの算定方
式であるが、保証基準価格については生産コストの変化により、合理化目標価格に
ついては輸入牛肉の価格の低下傾向を反映して、上記のようにそれぞれ引下げが行
われた。褐毛和種については、従来黒毛和種と同一区分とされていたが、この種の
牛肉価格の動きが黒毛和種のものと明らかに異なってきており、それを反映して新
しい区分となった。

 子牛価格制度による不足払いは、すでに相当多額にのぼっているが、自由化後の
わが国肉用牛経営を支えるものとして大きく機能してきており、広い意味での牛肉
価格安定制度において、もはや中心的役割を果すものと考えられる。本制度の健全
な運営が今後とも図られるよう、財源確保、負担関係等の面で十分考慮が払われる
ことを期待したい。


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