★ 事業団便り


愛媛県の肉用牛肥育の現場を訪ねて


 10月の12日と13日の2日間、岡山大学の横溝功助教授の調査に同行し、愛媛県の肉用牛肥育の現場を訪問する機会を得ました。横溝先生からは、後日本誌にて御報告いただく予定となっておりますので、ここでは、県の経済連、大洲農協、城川町農協でのお話と、城川町農協管内で肥育経営を行っている関平畜産の概要紹介と経営者の方のお話などをかいつまんで報告させていただきます。
自由化に対する取り組み

 愛媛県においても、牛肉の輸入自由化の影響による厳しい畜産情勢に対処するた
め、県経済連を中心とした取り組みとして、系統銘柄牛「伊予牛絹の味」の定着・
確立、「肉用牛センター」を拠点とするバイテク技術の応用による生産と堆肥処理
体制の確立、各農家の経営管理体制強化のための個別農家用パソコンソフト開発・
普及など様々な努力がなされています。

 このうちパソコンソフト開発・普及は興味あるユニークな取り組みであると思え
ました。現在では、パソコンも農家段階までかなり普及してきていると思われます
が、せっかく導入しても良いソフトがないため十分活用されず、宝の持ち腐れにな
っているということも多いのではないでしょうか。残念ながらソフトの具体的な仕
組みなど詳しいお話をお聞きする余裕がありませんでしたが、「養豚用」、「肉用
牛用」の2種類のソフトが開発されているとのことです。ソフトとその使用方法が
普及すれば農家経営にとって多いに有益と思えました。

城川町の畜産

 経済連、大洲農協、城川町農協でお話をお聞きした後、城川町農協管内で乳雄を
中心に哺育から肥育までの一貫経営を行っている関平畜産の山本覚さん(57才)の
畜舎を訪問してお話をお聞きしました。関平畜産のある城川町は、四国山地の西端
部に位置し、高知県と接する山間地にあり、黒瀬川の河岸段丘上に集落が開け、昔
は養蚕の盛んな地域であったそうですが、現在では城川町農協の販売事業の中で畜
産関係が7割以上を占める程畜産のウエイトが高い地域となっています。畜種別に
は、肉牛関係が全体の7割近くを占め、養豚が2割、酪農が1割という構成になっ
ています。城川町も他の中山間地と同様、過疎化・高齢化の問題をかかえ、農業後
継者問題も大きな課題となっているとのことです。

関平畜産の概要

 関平畜産は有限会社組織となっており代表者の山本覚さんの他常時勤務者2人、
臨時雇用1人、それに哺育担当のパート雇い1人の構成となっています。常時飼養
頭数は670頭、哺育からの一貫経営となっています。現在は、乳雄とF1をほぼ半数
づつ飼養しています。初生牛の導入は主に岡山県から行っているとのことです。餌
は、輸入乾草と自家配合の濃厚飼料を使っているとのことで、4〜5年前までは地
域の耕種農家と稲ワラと堆肥の交換を行っていたが、輸入乾草の方が総合的にみて
効率的との考えで転換したそうです。濃厚飼料については、配合についていろいろ
試みた末、自らの考えによる自家配合でやっているとのことです。管理面では畜舎
の各スパンに直下型換気扇を設置し、床替え期間の長期化と堆肥の減量化を図って
います。また、廃車を改良して給餌車に使うなど低コスト化の工夫がなされていま
す。糞尿処理は、敷地内で一次発酵処理まで行い、建設関係の会社に販売し、道路
補修用資材として利用されているとのことです。経営としての経済合理性の追求の
観点からすれば当然のことかもしれませんが、粗飼料にしろ糞尿処理にしろ地域に
おける農業サイクルの中で活用されていない点は少し残念な気がしました。

関平畜産の運営と今後の見通し

 運営の面では、パソコンを使って経営数値管理をするとともに、出荷した肉牛の
成績のフィードバックを農協から受け、それらを基に月に1度は皆で検討会を開い
て現状の把握と将来の展望を話し合って運営を進めているとのことです。子牛の補
給金制度などの側面援助があれば、まだまだやれるとの自信を示していただけまし
た。これからは、生産面だけでなく牛肉の販売ルート開発についても考えて行きた
いとのことで、通常の出荷や生協を通じての産直販売の他に、直販店の構想も検討
中とのことでした。また、今後の生産については、今のように価格が下がるとこれ
までどおり乳用種主体でやって行ってよいのか、あるいは和牛をやるべきか迷うと
ころがあるとのお話でした。

終わりに

 品質の向上とコストの低減は、生産者として国際化の波に対抗する正攻法の対策
であり、現在は、特にそれが求められる状況にあると思います。しかし、山間の静
かな地を訪れ生産の現場を拝見し、お話をお聞きすると、経済的視点以外からの農
業の持つ様々な価値評価についても論じられてしかるべきであるとの思いを強くし
ました。

(企画情報部 堀口 明)


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