酪農家動向等調査の結果の概要(その1)

乳業部


はじめに

 本調査は、「昨今の我国の酪農を取り巻く環境が、ガット・ウルグアイ・ラウ
ンドの合意に伴う乳製品の関税化等の国際化、酪農経営の後継者難、経営環境の
変化等が急速に進展して行く中で、事業団が価格安定機能を十分に果たすために
は、長期的な視点に立った適正、的確な需給調整が強く求められている」との認
識に基づいて、多様なデータ等を総合した上で生乳生産等の予測を行うことを目
的として実施中である。今回、その一環として基礎的なデータを整備するため、
農協に対する管内酪農家の異動及び酪農家の経営に対する意向についてアンケー
ト方式による調査を実施したので、ここではその概要を報告することとする。

 調査は、農協については酪農家の分布に応じて357農協に対し、また、酪農家
については、農林水産省統計情報部の調査の基準(サンプル数)に準拠し、必要
サンプル数として800戸の回答を得るため、回答率を30%と見込み3,000戸に対し
て郵便による「アンケート表」記入方式により実施した。

 回答数は、農協からの回答は310件(回答率86.8%)、酪農家からの回答は、
計画より多い1,160件(回答率38.7%)に達し、酪農家のある程度の現状を掌握
するために統計的に有意なデータ処理を行えるサンプル数を入手することができ
た。

 多数の方々の御協力により調査が実施されたことに、この場を借りてお礼を申
し上げたい。

 なお、この調査は、生乳生産予測を行う上での基礎資料の一部として活用する
ことを目的とし、調査した項目等には経時的な変化をフォローする必要があるも
のもあり、今後も引き続き実施を計画(年2回、5月、11月調査)しており、ゆ
くゆくは定点観測調査的(特定酪農家を経時的に調査)に行うこととしている。


調査結果

T.酪農家異動状況調査(農協調査)

1.回答状況

 酪農家及び飼養頭数を基準とした調査対象の357農協(中央酪農会議の「酪農
全国基礎調査」(以下「基礎調査」という)による農協のうち、酪農家が構成員
となっていない農協を除外した1,589農協に対する割合は、22.5%)を選定し、3
10農協から回答があり回答率は86.6%とかなりの高率であった。

 調査対象農協に所属する酪農家戸数は、約2万8千戸であり、戸数カバー率は
55%程度となる(「基礎調査」による推定酪農家の総戸数は約5万1千戸である)。
(表.1)


2.酪農家の異動状況

(2) 酪農家戸数の異動

 @ 平成5年5月1日現在の酪農家戸数 28,326戸

 A 平成5年11月1日現在の酪農家戸数  27,727戸

 以上の結果、この6カ月間では599戸(2.1%)の減少となっている。

 異動の内容は、@新規参入は9戸、A離農は608戸であった。

 なお、地域別では、関東地区の新規参入4戸が注目されるものの、地域によっ
て差が有るといえる程には新規参入は多くない。

 また、離農については、5月1日を基準として見た場合、全体では2.1%(6
カ月間)と「畜産統計」等で表れている最近の離農の割合よりは若干低いものの
それほど大きな違いがなく、引き続き4〜5%程度(年度間)の離農が生じてい
るものと思われる。


 地域別では、北海道(106戸、1.1%)と都府県(502戸、2.6%)との間では、
差が大きく表れており都府県の離農率が高いといえる。

 中でも東北(112戸、3.0%)、近畿(36戸、2.8%)及び中国・四国(73戸、
2.7%)の離農率が高い。(表.1参照)

(2) 離農原因

 期間中の離農は、608戸であり、原因別では@「後継者がいない(後継者難)」
が251戸(41.3%)でトップ、以下A「病気、ケガ、事故(病気・ケガ)」が94
戸(15.5%)、B「経営継続に不安(先行き不安)」が76戸(12.5%)、C「労
働力が不足(労働力不足)」が71戸(11.7%)、D「その他」が68戸(11.2%)、
E「経営困難」が48戸(7.9%)の順であった。

 以上を整理すると、後継者難、病気・ケガ及び労働力不足のいわゆる物理的体
力的に経営を継続できない(68.4%)としたものが、経営継続不安及び経営困難
のいわゆる精神的財政的に経営を継続できない(20.4%)としたものを大幅に上
回っている。

 また、地域的に見ると、「後継者難」は、東北(56.3%)及び関東(44.7%)
でやや多く、中国・四国(28.8%)、近畿(30.6%)及び北海道(31.1%)でや
や少ない。

 「病気・ケガ」は、近畿(25.0%)及び中国・四国(23.3%)でやや多く、九
州・沖縄(6.9%)では少ない。

 「労働力不足」は、近畿(27.8%)及び関東(16.2%)で多く、中国・四国
(5.5%)、北陸・東海(6.7%)、東北(8.0%)及び北海道(9.4%)では少な
い。

 「先行き不安」は、北陸・東海(23.3%)、北海道(17.9%)及び東北(13.4
%)でやや多く、中国・四国(5.5%)及び近畿(5.6%)で少ない。

 「経営困難」は、九州・沖縄(19.4%)及び中国・四国(12.3%)でやや多く、
関東(2.8%)及び近畿(2.8%)で少ない。

 「その他」は、稲作・畑作等への経営転換(専業化)、他産業への転出が大半
であった。

 離農原因には労働力の確保のしやすさ、気候条件による作業環境の違い、さら
には地域を取り巻く経営環境の違い等による若干の地域的な特性が見られる。
(表.1、図.1参照)

 図1 地 区 別 離 農 原 因

 以上、酪農家の移動状況を簡単に取りまとめたが、調査は始まったばかりであ
り、このような調査を続けることによって、地域特性等が明確になり、事項の
「酪農家経営意向調査」の結果を加味した上で、何らかの対策を必要とする場合
には、全国一律的な対策と併せ、地域的な対策を行う場合の、基礎にも利用でき
るものと思われる。

U.酪農家経営意向調査

1.回答状況

 調査は、対象農家3,000戸に対し郵送によるアンケート調査を行い、回答が有
ったのは1,160戸の酪農家からであった。

 回答率は38.7%であり、この種の調査としては高率の回答となった。地域的に
は、それほど大きな差はなく、最高は近畿の50.0%であり、最低は九州・沖縄の
34.6%であった(都道府県別では、最高は奈良県の80.0%、最低は富山県の12.5
%)。

 なお、規模別の分布は、計画(基礎データ)に比べて、回答のあった層は若干
大規模層に偏っている(分布の基礎を単に飼養頭数のシェアーとしたため、結果
は、当然大規模層に偏る)。 

 酪農家全体に対するカバー率は、2.3%(「基礎調査」による推定酪農家戸数
約5万1千戸をベース)であった。

2.アンケート集計結果

 アンケートの集計結果は、調査項目数が少ないとはいえ相当なボリュームであ
り、限られた紙面の中ではそれを全てお伝えすることはできないが、興味ある事
項について、今後2〜3回に分けて「畜産の情報」に発表して行くこととする。

(1) 経営者の年齢

 回答のあった経営者の最年少は22歳であり、最高齢は84歳であった。年齢階層
別に区分すると、40代、50代で61.8%と、回答をしてきた酪農家の年齢層は、ま
だまだ壮年期層が中心をなしている。

 なお、60歳以上の高年齢層は、15.5%と、40歳未満の層の22.4%よりは少ない
(図.2参照)。

図2 経営者の年齢階層別

 回答者の平均年齢は、48.3歳(全国)であり、地区別では、北海道46.2歳、都
府県50.1歳(東北47.3歳、関東50.9歳、北陸・東海51.7歳、近畿50.3歳、中国・
四国50.1歳、九州・沖縄50.1歳)であり、北日本(北海道、東北)の経営者は若
干若い層が中心となっている。

 この調査結果は、「基礎調査」の結果とほぼ同じ結果となっており、サンプリ
ング調査ではあるが、他の調査項目についてもほぼ全体を代表する結果がでてい
るものと思われる。

 なお、この年齢構成は、農業の酪農以外の経営部門(「農林業センサス・1990
年」によれば、60歳以上の高齢者層は「稲作」では57.9%、比較的若いと言われ
ている「施設園芸」では32.9%)と比較しても若く、例えば、豪州等諸外国との
データと比較しても若いといえる。

 このことは、「基礎調査(平成3年度)」の酪農開始時期と経営者の年齢別の
構成を参照してみると、経営主の酪農開始時期は、全国平均ベースで昭和20年代
は27.9%、昭和30年代は43.7%であり、実に酪農家の71.6%はこの時代から酪農
を開始しており30〜40年しか経過していないことによるものと思われる。

 離農の最大原因は「後継者がいない」ことであり、他産業と比較して労働条件
等が劣ることから求心力を失い経営継承なされなくなりつつあることは、この種
の他の調査結果等で明白になっていることではあるが、今回の調査では、今後の
酪農経営に対する意向を中心に調査を行っており、今までの調査のように年齢階
層を30代、40代、50代と10年単位ではなく、3年単位まで細分化することで、労
働力がどのように変化して行くのかということと、年齢別の経営に対する意向の
変化を見て行くこととしたい。

 3年単位の年齢別階層はグラフ(図.3)の通りとなり、57歳以上60歳未満の
ところと39歳以上42歳未満のところに2つのピークが表れている。
 
図3.経営者の年齢分布

(全 国) 

 これは、北海道の年齢階層が39歳以上42歳未満のところをピークくとして正規
分布状に年齢構成されていることと、都府県は北海道より年齢構成が高いことと、
45歳以上48歳未満と54歳以上57歳未満のピークが重なり合って2重ピークを構成
しているものと思われるが、都府県(農政局単位に区分しても、どの地区もほぼ
2重ピークになっている)においてほぼ10年の間隔をおいて、なぜ2重ピークが
発生したのかをさらに分析する必要があるものの、手元には判断できるような資
料はない。

 何らかの原因が介在し、経営者の年齢構成に2重構成が発生しているとすれば、
10年間も隔たっており世代によって経営に対する意向も異なってくるものと思わ
れ、さらに詳細な分析が必要であろう。

 次号では、この細分化した年齢階層別の経営意向を分析する予定である。

 なお、次に年齢構成で目に付くのは、35歳以下の年齢層が極端に少なくなって
いることである。

 これは、後継者がいないということを如実に物語っているものであり、後継者
対策を今の内にしっかりしておかないと、10〜20年後には産業として完全な労働
力不足に見舞われることになる。

 産業としての理想の年齢構成は、60〜65歳より若い25〜30歳までの層の年齢構
成はあまり凸凹せずに、矩形になっていることではないだろうか。


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