最近の外食産業の動向

        (財)外食産業総合調査研究センター 研究員 堀田 宗徳


28兆円の外食産業市場規模

   我が国の食肉消費全体の中に外食産業が占める割合は30%弱といわれていますが、 
  最近における外食産業の動向についてその概要を述べてみたいと思います。 

  平成3年4月からの景気後退に伴う個人消費の低迷、 法人交際費の縮減、 さらに
 異常気象等の影響を受け外食産業は低迷している。 
 
  外食産業市場規模 (外食総研推計) の対前年比は昭和60年からは元年まで毎年5
 %前後の増加で推移した。 2年、 3年になるといわゆる“バブルの好景気”で対前
 年比が9. 1%、 6. 0%それぞれ過去に比べて大幅に上昇したが、 4年には2. 0%増
 加と伸びが小さくなった。 そして、 平成5年の市場規模は、 28兆2千579億円で対
 前年比は0. 9%増加し、 外食総研が昭和50年から推計を始めて以来、 金額ベースで
 は、 最大であったが、 伸び率では最低であった。 (表1 参照) 
 
  
        
   <表1:外食産業市場規模の推移>
  市場規模(億円) 対前年増減率(%)
昭和60年 194,072 4.4
   61年 206,433 6.9
   62年 215,279 4.3
   63年 227,256 5.6
平成元年 236,626 4.1
       2年 258,692 9.3
       3年 274,324 6.0
       4年 279,924 2.0
       5年 282,579 0.9
* 外食総研推計
  
5年後半から減少率が縮小傾向にある客数
 
  外食企業の既存店1店舗当たりの売上高、 客単価、 客数の動向を私どもの 「外食
 産業月次売上動向調査」 でみると、 飲食店平均 (ファストフード、 ファミリーレス
 トラン、 ディナーレストラン、 そば・うどん店、 パブ・居酒屋の平均) 1店舗当た
 り売上高の対前年同月比は、 平成3年後半から増加率が小さくなり始め、 4年2月
 からは前年を連続して下回って推移している。 5年1年間をみても、 各月とも前年
 同月より下回っており、 特に2月と8月の8. 8%マイナスは、 同調査始まって以来
 最大の減少であった。 ただ、 5年後半からは減少率が縮小傾向にあり明るい兆しも
 みえはじめている。 
 
  客数は、 すでに昭和61年後半から対前年同月実績を下回っており、 2年年央から
 は連続して前年同月を下回っている。 いわゆる“バブルの好景気”時には客単価が、
 各飲食店のサイドメニュー (サラダ、 デザート等) の充実、 メニュー価格の値上げ
 や消費者の可処分所得の増大などにより上昇し、 客数の減少を上回ったため売上高
 は前年を上回って推移した。 しかし、 3年後半からの“バブルの崩壊”によって消
 費者の価格に対する目が厳しくなり、 客単価が低下し始め、 客数が依然減少してい
 るため売上高の増加率が縮小し始めた。 5年の客単価、 客数の推移をみても客単価
 はマイナス2%前後、 客数はマイナス4%前後で推移している。 ただ、 客数は売上
 高と同じで5年後半から減少率が縮小傾向にある。 (表2 参照) 
 
  
<表2:外食産業月次売上高動向調査
    営業給食平均対前年同月増減率(%)>
 
売上高
客単価
客数
平成5年1月 ▲6.3 ▲2.1 ▲4.3
2月 ▲8.8 ▲2.2 ▲6.7
3月 ▲5.7 ▲3.3 ▲2.5
4月 ▲4.7 ▲2.6 ▲2.2
5月 ▲6.2 ▲2.8 ▲3.5
6月 ▲6.3 ▲2.1 ▲4.3
7月 ▲8.0 ▲1.5 ▲6.5
8月 ▲8.8 ▲2.1 ▲6.9
9月 ▲5.9 ▲1.8 ▲4.2
10月 ▲2.8 ▲1.9 ▲1.0
11月 ▲7.2 ▲1.8 ▲5.5
12月 ▲5.2 ▲2.1 ▲3.2
平成6年1月 ▲3.5 ▲2.2 ▲1.6
*外食総研「外食産業月次売上動向調査」から作成
    
 
厳しい経営環境下でのさまざまな努力
     
   
  次に、 最近までに発表されている上場・店頭公開企業 (日本マクドナルドは上場・
店頭公開はしていない) の決算をみると、 すかいらーく、 ロイヤル、 京樽、 日本ケン
タッキーフライドチキン、 サッポロライオン、 B−Rサーティワンアイスクリームが
減収になっており、 減収になっていないジョナスや藍屋などの企業でも既存店ベース
の売り上げ伸び率は、 前年を下回っている。 経常利益では現在まで決算が発表されて
いる企業11社中7社が減益になっており、 しかも京樽を除いて二桁の減収であった。 
(表3、 表4 参照) 
   
   
 <表3:上場・店頭公開等外食企業決算状況> 
                 単位:百万円、( )は対前年同期比%
企業名 売上高 経常利益
すかいらーく 133,221(▲3.2) 9,399(▲16.7)
ロイヤル 85,184(▲3.2) 2,551(▲31.6)
京樽 72,971(▲8.5) 1,582(▲5.3)
日本ケンタッキーフライドチキン 68,978(▲2.3) 3,614(▲27.8)
サッポロライオン 28,428(▲3.3) 1,049(▲43.2)
ジョナス 26,788(  5.0) 1,035(  17.7)
藍屋 22,773(  9.2) 1,680(▲11.4)
ジョイフル 10,587( 10.0) 1,437(  9.9)
アサヒビールシステム 7,961( 7.5) 88(▲37.3)
B-Rサーティンワンアイスクリーム 7,360(▲12.9) 983(▲11.9)
日本マクドナルド 212,594(  0.0) 10,514(  1.7)
  *外食日報(平成6年3月10日付け)より作成
       日本ケンタッキーフライドチキンの売上高はFC含まず
       日本マクドナルドは店頭・上場はしていない。
   
   
   
<表4:平成5年度決算における既存店ベース売上伸び率等> 
企業名 既存店ベース

売上伸び率(%)

うち

客数伸び率(%)

すかいらーく ▲10.2 ▲7.7
ロイヤルホスト ▲7.2 ▲5.2
ジョナサン ▲2.5 ▲0.8
藍屋 ▲12.5 ▲5.8
日本ケンタッキーフライドチキン ▲8.1 ▲7.4
日本マクドナルド ▲10.6 ▲6.4
*外食日報(平成6年3月10日付け)より作成
       
   
 このような中で、 外食企業の中には、 昨年でも回転寿司の 「すしボーイ」、 イタリ
ア料理店の 「ジャンニーノジャパン」、 老舗のステーキ店 「スエヒロ朝日」 や最近で
は全日空系のスカイファミリーが展開している 「アニーズ」、 ラッセルズ (旧東食ウ
インピー) が展開の 「ウインピー」 などが倒産、 撤退、 閉鎖をしているほか、 多く
の企業で不採算の既存店を閉鎖している。 
 
 このように、 外食産業は、 今までに経験したことのない状態に直面している。 
 
 しかし、 このような厳しい経営環境下にあっても、 外食企業の中には、  「デニー
ズジャパン」 のようにイトーヨーカ堂グループとの共同食材仕入、 「すかいらーく」
による食材仕入会社 「エスジーエム」 の設立、 また 「日本マクドナルド」 のスーパー
等への出店、 日本ケンタッキーフライドチキンの宅配店 「ピザハット」 と 「菱膳」 と
の複合店のテスト出店などで、 各外食企業は思い切ったコスト削減策を実施している。 
 
 メニュー面では個人消費の低迷により既存店の客数は、 減少傾向にあるがそれに歯
止めをかけたり、 客数を増加させる手段として、  「スエヒロレストランシステム」 の
ステーキ、 ハンバーグなど牛肉料理、  「すかいらーく」 のハンバーグステーキ等のよ
うに多くの企業で期間限定でメニュー価格の引き下げを行ったり、 日本マクドナルド、
 B-Rサーティワンアイスクリームのように割引クーポン券を発行するなど企業努力を
行っている。 

  さらに、 期間限定ではなく 「日本マクドナルド」 のように“エブリデイロープライ
ス”と銘打ったメニュー価格の引き下げも行われるようになった。 

  ただ、 すべての外食企業がメニューの値下げを行っているわけではなく、 例えば、
 「ロイヤル」 がステーキを30g増量し価格を据え置いたり、  「モスフードサービス」 
が照り焼きチキンバーガーのチキンパティを15g増量し価格を据え置くなどのほか、
「ロッテリア」 が新メニューとしてボリューム感をだした“バーガーL”を導入した
り「ファーストキッチン」 がパティを従来より33%アップした“エスニックバーガー”
導入するなどのようにメニュー価格の値下げではなく、 質・量に重点を置き客数増加
を図る企業もあった。 

   
  
低価格店の出店      

   
 一方、 メニュー価格の引き下げだけでなく、 ローコストオペレーションの構築がで
きた企業の中には、 「すかいらーく」 の 「ガスト」 のようにスパゲッティナポリタン
380円、 ハンバーグステーキ380円、 ソフトドリンクのおかわり自由など平均客単価
800円の低価格店を出店する傾向もでてきている。 他にも、 すかいらーくグループの 
「バーミアン」、 「夢庵」、 「フォルクス」 、 最近では、  「スエヒロレストランシステム」
の 「SUEHIRO リガロ」、 「ステーキ宮」 の 「リベロ」 など低価格店が出現しており、 
他の外食企業も実験的に低価格店を出店する方針を打ち出しているところもある。 
 
 出店政策では、 地価の下落、 賃借料の鎮静化、 人手不足の緩和により6年度の出店
計画は、 「すかいーくグループ」 で100店、 「デニーズジャパン」 で50店など大幅な出
店を計画している企業がある一方、 「ロイヤル」 のように既存店の見直しを行うなど
のため出店をあまり行わない企業もある。 
 
 このように、 外食産業が今までに経験したことのない状況の中でも、 食材や出店等
のコストの削減、 消費者のニーズを把握し値頃感を訴求したメニュー価格の引き下げ、 
消費者の価格志向に対応した低価格店の出店、 地価の下落、 賃借料の鎮静化、 雇用環
境の緩和による出店政策などを行い集客力の強化、 経営の効率化など各企業経営努力
を実施している。 
    
      
 経営方針や戦略はまだ模索中  
 
  
  以上の他にも、 西武鉄道グループが米国のファーストフードの 「バーガーキング」
を日本に進出させたり、 丼物の店舗の出店の増加などがある。 また、 5年には、 中華
料理店の 「王将フードサービス」、 ファミリーレストランの 「ココスジャパン」、 持ち
帰り弁当の 「プレナス」、 ラーメン店の 「ハチバン」、 コーヒー店展開の 「ドトールコ
ーヒー」、 持ち帰り寿司の 「東京小僧寿し」 が店頭公開をし、 ファミリーレストラン 
「ジョイフル」 が福岡証券取引所に上場、 「藍屋」 が店頭公開から東京証券取引所第2
部に昇格するなど活発に活動している企業もある。 
 
 しかし、 外食産業全体をみると、 市場規模の伸び率が低下していることや各外食企
業の売上高が伸び悩んでいること、 減少率が縮小傾向にあるものの既存店の売上高、 
客数の伸び率が前年実績を下回っていることなどが現状であり、 以前のように外食産
業が右上がりでどんどん伸びていくことは、 難しい環境にあると言わねばならないで
あろう。 
 
 各外食企業は、 消費者のニーズを把握しそれぞれ独自の経営戦略を打ち出しており、 
その効果が待たれるところであるが、 多くの飲食店では、 今後の経営方針や戦略はま
だ模索状態であるように思われる。 

 

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