巻頭言


21世紀の食鳥業界の発展に向けて

社団法人 日本食鳥協会   会 長   

井 島 榮 治


チキンは伸長産業
 チキンの世界は、 比較的新しい産業であるがすでに食肉需要量の33%を占め、 我
が国の重要な蛋白供給源としての地位を確保している。 さらにチキンは高蛋白、 低
脂肪という特性をもつすぐれた食肉であり、 世界的にも生産と消費が年次を追うご
とに増加傾向を示している。 
 
 今から31年ほど前の話になるが、 ECとアメリカとのいわゆる 「チキン戦争」 の
余波を受けて、 アメリカは新しい市場として我が国に輸出を開始した。 その結果チ
キンの輸入量が昭和38年には前年の3百トンから一挙に3千5百トンとはね上った。
 
  それから30年を経て昨年の輸入量は39万トンとなった。 現在でもこの輸入量の多
寡とその内容は大きな問題であり、 日本のチキン業界に少なからぬ影響を与えてい
る。 
生産と処理加工
  鶏の飼養戸数は年々減少しているが、 飼養規模は拡大傾向にあり、 平成6年2月現
在で約4千1百戸、 1戸当たり約3万羽である。 出荷羽数は減少傾向だが、 生体重
量は年々大型化している。 これは我が国が、 正肉スタイルの消費が多いことを物語
っている。 産地は岩手、 宮崎、 鹿児島に集中し、 この地域で全国の約半数を生産し
ている。 
 
  生産農場では生産者の老化が進んでおり、 起業時から20〜30年以上経過して60才
台の人が多くなっていることから、 後継者難のため何らかの対策を講じないと5〜
10年後にはさらに飼養戸数が減少していくのではないか。 また処理加工場でも従業
員の高齢化が著しく、 作業能率の低下等が心配されており、 今は平成不況で雇用事
情が好転しているが、 将来的な労働人口不足を考えると外国人労働者の雇用の是非
も含めて検討しなければならないだろう。 
 
流 通 と 消 費
  平成5年度の年間1人当たりの家計消費量が鶏肉3. 6kg、 牛肉3. 4kg、 豚肉4. 7
kgとなっている。 チキンの消費構造は家計消費割合は減少傾向であるが、 外食業務
用向けは増加し約6割を占めるようになった。 これは大きな特徴である。 また食肉
の中で注目すべきは牛肉であり、 平成元年以降一貫して伸びている。 牛肉の輸入増
大によって牛肉価格が次第に下落し、 それが豚肉価格に波及し、 続いてチキン価格
の下落に大きな影響を与えた。 今後も食肉間相互のシェア争いと価格競争が激化し
ていくものと思われる。 
 
  ここでの問題は、 ディスカウントストアの安売攻勢に対抗して量販店等の生鮮食
品の価格破壊のすさまじい進行である。 最近の3年間は需給失調に苦しみ、 自主的
な減産に取り組んだ結果ようやく相場回復の兆しがみえてきた今年であったが、 次
に押し寄せたのが販売価格の引き下げ要求であった。 この対応に苦慮しているのが
現状である。 価格革命は世の趨勢であるとしても急激な進行は企業収益を悪化させ
賃金を低下させるとともに雇用不安を増大させる。 日本経済にとって決してプラス
面ばかりではない。 特に生鮮食品には 「鮮度保持と安全性」 が強く要求されるので
、 この消費者ニーズを満たすためにはそれなりのコストと価値を認めた価格でなけ
ればならない。
今後取り組むべき課題
  ウルグアイ・ラウンドの事実上の決着によって食肉の世界も本格的な国際競争の
時代に入り、 自由化の大波にさらされることになった。 チキンは早くから自由化品
目であって、 関税率も年次毎に低下してきている。 にもかかわらずチキンの自給率
は70%弱であり、 他の食肉に比べ優れた実績を残している。 これは品目特性にもよ
るが、 不断のコストダウンと品質向上を志向した先達の努力の結果に他ならない。 
しかし、 最も日本に近い国である中国からのチルドの試験輸送が続けられ、 しかも
その量が次第に増えていく現実に対して、 我がチキン業界は新たなる対応を迫られ
ている。 
これから進むべき方向
 @ これからの食肉の国際化時代に耐えて生き残るためには、 先ず第一に 「生産と
 処理加工」 および 「流通と消費」 の各段階における徹底したコストダウンが必要
 ということは万人の認めるところである。 これからの時代は機能しないもの、 価
 値が認められないものは消滅していく。 原点に何回も立ち戻って新しい変わった
 発想に基づいた工夫が必要である。 
  この具体例として自動車産業をとりあげてみると、 この業界では市場に受け入
 れられる価格から逆にコストを算出し、 それに設計、 生産、 販売のやり方を組み
 直すという価格決定システムの逆転の発想が進行しているという。 このことは我
 がチキン業界においても決して例外ではないだろう。 

A 以上の延長線上にあるものとして、 画期的な商流、 物流の短縮化が望まれる。 
 例えば、 産地コンシューマーパック流通システムの急速な発展、 普及である。 産
 地工場と食卓を直接結ぶものとして期待が大きいし、 品質と鮮度保持の切札的な
 形態となる可能性がある。 現在、 地域的に業態別に徐々に増えている。 

B 価格で勝負を挑んでくる輸入品に対して、 あるいはもう一味ランクが上のチキ
 ンをという消費者の声に応じて、 高品質の 「銘柄どり」 の育成に力を入れたい。 
 これも売れない部位はレギュラー品なみの価格になるというリスク負担の問題を
 抱えているし、 また、 ○○地どりというネーミングの氾濫の整理を行い 「銘柄ど
 り」 の定義のコンセンサスをつくることが必要だという声が強い。 

C 最後に高齢化社会の進展と健康志向の高まりに対応して、 21世紀の食肉として
 のチキンのPRを国のバックアップの下にさらに業界あげて取り組む必要がある。 
 この数年間、 この問題に対して農林水産省、 畜産振興事業団のご配慮に深甚なる
 謝意を表するものである。 

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