◇ 投 稿

フリーストール、 ミルキング
・パーラー方式の経済性

日本大学農獣医学部 島 津  正


はじめに
― 問 題 提 起 ―
 日本の酪農経営は、 国際化時代に入り、 乳価の低迷ばかりでなく、 牛肉の自由化
による乳子牛・乳廃牛価格の下落により、 年間の酪農経営所得を大幅に低減させて
いる。 
 
  そこで経営所得の維持・増大策としては、 経産牛頭数規模の大幅拡大という生乳
量の増大しか考えられない。 しかし、 最近の乳製品需給は、 バターの消費低迷によ
り在庫量が減少しない反面、 脱脂粉乳は不足しており、 それを輸入するといった事
情にある。 このため、 生産面では、 生乳の計画生産を継続しなければならないとい
う環境も変わっていない。 
 
  そうした事情を踏まえて、 農林水産省では平成7年度の予算措置として、 「酪農
経営体育成強化緊急対策事業」 と称し、 酪農経営中止者等から、 規模拡大者等に、 
生乳生産枠の売買移動をさせることを検討している。 
 
  そのことによって、 局部的には、 経産牛頭数規模の大幅拡大が図られる経営体が
出現する可能性がでてきた。 しかし、 酪農経営が多頭化した場合、 最も大きなネッ
クとなるのが、 労働制約である。 とくに毎日の搾乳労働は、 他の畜種では考えられ
ない過重労働となっている。 その結果、 自給粗飼料生産を縮小して、 輸入乾草に依
存する経営が増えている。 それと関連して、 糞尿処理問題が、 北海道のように、 相
対的に経営農用地面積に恵まれているところでも表面化している。 
 
  したがって、 この労働制約を克服することを目的として、 近年、 フリーストール、 
ミルキング・パーラー飼養方式に注目が集まっている。 
 
  フリーストール、 ミルキング・パーラー方式に関しては、 先進酪農国の事例を検
討しつつ従来から、 次のような問題点が指摘されている。 


(1)資金の調達とその回収方法

 フリーストール、 ミルキング・パーラー方式のためには、 莫大な投資が必要であ
  る。 この資金の調達方法と、 資金の回収及び資金繰りが順調に行われているかを
  検討する必要がある。 したがって建物施設投資が如何に合理的に行われているか、 
  否かが第一の課題である。 
    
(2)乳牛頭数規模拡大のプロセスと酪農収益性の向上

 ミルキング・パーラー方式を効率的に推進させるためには、 それに適応できる乳
  牛頭数規模の確保と、 その乳牛群の斉一性が必要である。 泌乳日量による牛群の
  区分と斉一性がないと、 ミルキング・パーラーにおける省力効果は、 あらわれに
  くい。 
 そして、 その前提のもとに、 年間平均産乳量の増大、 生乳生産コストの低減と、 
  所得の増大が図られることが、 経営の資金繰り、 投下した資金の回収のための必
  要条件であるといえよう。 
    
(3)ゆとりある経営の確立のための省力効果の検討

 フリーストール、 ミルキング・パーラー方式が、 無条件に省力化に結びつくとは
  限らない。 すなわち前述の牛群の斉一化と、 そのための泌乳日量別牛群の区分お
  よび、 牛舎環境の整備がなされることが、 必要であるといわれている。 
 また省力化には直接、 結び付かなくても、 搾乳作業が、 楽になることも検討する
  必要がある。 
    
(4)環境保全的な飼養方式の検討
 
  フリーストール牛舎の導入に際しては、 糞尿の処理も充分に留意する必要がある。 
  すなわち、 省力的な糞尿処理システムを構築する必要があるということである。 
  また、 フリーストール牛舎に隣接したパドック等、 牛舎敷地と広い農用地がある
  か否かによって、 牛舎環境は大きく変わってくることにも注目する必要がある。 
   
  そこでフリーストール、 ミルキング・パーラー方式の実態の一端を調べるべく、 
北海道を対象にして視察を実施した。 
   
  まず、 比較的優良事例とみられる4経営のフリーストール、 ミルキング・パーラ
ー方式を中心とした経営の概況を述べ、 最後に、 4経営という限定のもとで、 フリ
ーストール飼養方式の経済性について、 触れる。 
    
  なお、 卯原内酪農生産組合は、 日本農業賞を受賞し、 農林水産祭の畜産部門で天
皇杯を受賞されたので、 その際の資料の一部を活用させていただいたことを追記し
ておく。 

   
調査事例経営の実態
 〔T〕 酪農と畑作複合の全面協業経営の事例 
(網走市 農事組合法人 卯原内酪農生産組合) 
1 地域の概要

    当地域は、 1戸当たり平均作付け面積約22haに、 冷涼な気候に適した麦類、 馬
  鈴しょ、 甜菜などの作物が栽培されている。 
   当生産組合は、 網走市より北西約16qに位置し、 サンゴ草で有名な能取湖に面
 した高台に立地している。 

2 法人の変遷

   日本で最初に共同経営の農場を設立された上野満氏の理念に共鳴し昭和39年、 4
  戸の農家で発足した農事組合法人である。 

  昭和39年  共同経営の発足 (4戸) 
      40年  有限会社設立
    41年  有限会社解散、 農事組合法人の設立  代表 矢萩好信 (5戸、 10人) 
        牛舎完成    乳牛20頭導入
    43年  月給制の採用  乳牛50頭達成
    48年  乳牛100頭達成
    49年  退職給与規程の設定
    51年  粗収入5千万円突破  土地20. 0ha購入
    56年  白石夫妻構成員加入
    57年  森永酪農振興会経営発表コンクール  全国大会入賞
    60年  代表 笠原 博
    63年  フリーストール牛舎完成
  平成1年  長瀬夫妻構成員加入  代表 高岡 勉
    3年  佐藤氏構成員加入

3 経営の概況

  5戸、 9人の構成員と3名の研修生による大規模な酪農・畑作の協業経営であ
 る。 構成員の年令、 役職分担等は表1のとおりである。 構成員5世帯のうち2世
  帯は新規参入者であり、 とくに酪農担当の責任者は、 当組合への参入前は、 東京
  で工業関係の仕事をしていた人である。


表1 組合員の概要
氏名 年齢 出資金額 組合内役職 備考
高岡夫妻(夫)
      (妻)  
54歳
53
110万円
 65
代表 理事
矢荻夫妻(夫)
      (妻)
45
44
110
 65
理事・畑作
永瀬夫妻(夫)
      (妻)
43
42
110
 65
機械
白石夫妻(夫)
      (妻)
40
38
110
 65
酪農 新規参入(東京)
佐藤氏 27 110 新規参入(道内)
注:他に研修生3名常従。

   

 経営土地は表2のとおり、 普通畑127ha、 草地72. 9haであり、 そのうち法人有
地70ha、 構成員からの借地70ha、 その他からの借地60haとなっている。 借地料は、 
表のとおり、 構成員からの借地は、 一般の借地より大幅に安くなっている。 
 
  作付構成は表3のとおり、 ビート、 ジャガイモ、 麦類、 玉ねぎ、 とうもろこし
を、3〜4年の輪作体系で栽培している。 
 
  牧草は5年程度で更新し、 普通畑の輪作の関係で転換している。 
表2 経営土地
種類 面積 所有区分
普通畑 127.05ha 法人有      70ha
草地   72.95 借地(構成員)  70
小計 200.00 借地(その他)  60
山林    8.00
208.00
借地料 一般 10,000〜12,000円/10a
       草地      6,000円/10a
       組合員  A:7,000円(何でも可)
        B:6,000 (傾斜地含)
        C:5,000 (改良必要)
        D:4,000 (草地のみ)
表3 作付構成
種類 面積 割合
甜菜 20.50 16.1
馬鈴薯 20.60 16.2
小麦 29.90 23.5
大麦 15.30 12.1
玉ねぎ 5.75 4.5
とうもろこし 35.00 27.6
127.05 100.0
牧草 72.95 -
3〜4年輪作体系
甜菜→馬鈴薯→麦類(コーン)→甜菜
牧草(5年程度)とコーン→麦類の交互作
 
 乳牛の飼養状況は表4のとおり、 経産牛119頭、 未経産牛9頭、 育成牛115頭とな
っている。 経産牛1頭当たり年間平均産乳量は、 年々、 増加している。
表4 乳牛飼養頭数
種類 頭数
成牛 経産牛 119頭
未経産牛 9
育成牛 115
表5 酪農の実績水準
項目 実績
経産牛1頭当たり産乳量 9,726kg
(検定成績) 10,143kg
乳脂率 4.08%
無脂固形分率 8.72%
蛋白質率 3.15%
初産月齢 24.0月
平均分娩間隔 12.5月
 このような高泌乳量であるにも拘らず、 脂肪率は4.08%、 無脂乳固形分率も8.72
%と高乳質・高乳成分となっている (表5、表6)。 
表6 乳検成績の推移
年度 経産牛1頭当乳量(kg) 乳脂率(%) 無脂固形率(%)
酪農生産組合 乳検組合 酪農生産組合 乳検組合 酪農生産組合 乳検組合
H1 8,516 8,235 3.87 3.77 8.63 8.67
H2 8,838 8,558 3.81 3.73 8.65 8.67
H3 9,516 8,698 4.00 3.85 8.73 8.60
H4 10,143 9,259 4.08 3.78 8.72 8.69
  
  生乳1s当たりの生産コストは67円 (1s当たり乳価79円) となっている。 これ
は1世帯当たり、 約900万円の給料を支払ったものを労務費として計算した結果であ
る。 
 
  したがって標準的な時間給1,300円に、 実質的な酪農管理労働時間を掛けて換算し
直すと、 生乳1s当たりの生産コストは、 平成4年は50.4円、 5年は53.2円と立派
な成績である。 
 
  畑作の生産性も小麦、 ジャガイモ、 玉ねぎについては網走市の他の一般農家の10a
当たり平均収量と比較すると大幅に良好となっており、 畑作部門でも粗生産額9,477

万円の高収益となっている。 
 
  酪農部門の損益は平成4年度は、 粗収益1億400万円、 当期純利益2,285万円、 所
得3,404万円、 所得率32%となっている。
 
  当組合の固定資産総額が2億5百万円であり、 総資本額は2億9,295万円となって
いる。 

 したがって固定比率54. 5%、 自己資本比率38. 9%、 流動比率319. 5%となって
おり、 健全な財政状態と評価できよう。 
4 フリーストール、 ミルキング・パーラー方式による技術体系の確立

 フリーストール (オープンリッチ方式、 2ローW、 158床)、 ミルキング・パーラー
システムを、 昭和63年に、 約7, 500万円で導入した。 経産牛140頭、 総乳牛頭数250
頭の規模にしては、 節減した合理的な投資であり、 経産牛1頭当たりでは53万円であ
った。 したがって、 第一の課題である過剰投資にはなっていないといってよかろう。 
 
  第二の課題である省力化のためには、 搾乳牛群の斉一化が行われなければ、 その効
果はでないといわれている。 
 
  卯原内酪農生産組合では、 140頭の搾乳牛を1日の泌乳量によって、 3群に分類し
て、 それぞれの牛群の斉一化をはかって、 1回の搾乳サイクルの時間を、 わずか10分
と短縮している。 すなわち  @2産以上の乳牛で、 日乳量が30s以上の牛群と、 A30
s以下の牛群、 B初産で25s以上の牛群に分けて、 それぞれの牛群ごとに搾乳してい
るので、 140頭の搾乳を、 わずか90分ですませている。 
 
  第三の課題は環境保全の問題であるが、 卯原内生産組合では、 フリーストール飼養
の難点となっている糞尿処理問題を、 酪農と畑作の複合経営により、 輪作圃場に還元
するということが、 計画的に行えるので、 この環境問題を完全にクリアしている。 


<フリーストール牛舎の規模>
ストール面積 1,517u 1棟  分娩ほ育牛舎 1棟
パーラー他   322u(6頭復列)
ストール数   158      乾乳牛舎   1棟 
<機械保有状況>
 
(1) 広域利用

 自走フォレージハベスタ、 コンバイン、 玉葱一貫作業機

(2) 地域利用組合所有

 トラクタ 60ps 1台、 ビートハーベスタ 2台、 ビートタッパ 2台、 
 マニアスプレッダ 1台

(3) 酪農生産組合所有
 トラクタ100ps 1台  ユンボ  1台       ポテトハーベスタ 1台
      90ps  1台  タイヤショベル 1台    ビート移植機  1台
      80ps  3台  ミキサーフィーダ 1台   ポテトプランタ 1台
      60ps  2台  ベールカッタ 2台     真空は種機 1台
      50ps  1台  モアーコンディショナ 2台 施肥機 1台
      計   8台  ジャイロテッタ 2台    プラウ 26×2 1台
             ロールベーラ 2台     集草機  1台
 トヨタジョブサン 1台 リバーシブル 24×2 1台
5 所得の安定と定休日の確保

(1) 給料制導入
 昭和43年より給料制を導入し、 現在、 年俸で、 男は500〜600万円、 女は300〜
  350万円であり、 農用地の賃貸料を含めて、 夫婦世帯では900〜1, 100万円と
  なっている。 その給料を支払った後の利益は、 原則として、 法人経営に内部
  留保されている。
   
(2) 定休日の確保
 週1日の休みを原則とし、 特に女性は必ず週1日の休みを実施している。 冬
  期間は、 比較的仕事が少ないので、 全員、 週2日の休みを実施している。 


6 構成員の定年制と新規後継者の確保

(1) 定年制導入
 昭和49年より、 60才定年を実施した。 定年者には、 出資金を払い戻し、 構成
  員から外す。 退職金の支給額は、 農協に準ずる。 
 また定年後、 働きたい人は、 従業員として雇用し、 その技能に応じて給料が
  支給される。 現在1名、 月給20万円、 15ヵ月支払われ、 年俸300万円となっ
  ている。 
  
(2) 定年その他で、 脱退する場合の資産処理
 土地は時価水準で、 法人が借りるか、 もしくは時価で購入する。 
 借地料は、 地域一般では、 耕地が10a当たり1万円から1.2万円、 草地は6,000
  円である。 組合員からの借地料は、 土地条件により10a当たり4,000〜7,000円
  となっている。 
  
(3) 新規加入条件
 専従雇用者を5年間従事させた後に、 構成員のコンセンサスが得られたら、 
  男は110万円、 女は65万円を出資することによって、 新規に構成員として参加
  することができることになっている。 これまでに1世帯と、 27才の男性の3人
  が、 新たに加入しているように、 今後とも後継者対策は、 一応、 確立している
  といってよかろう。 


7 経営管理の充実と売上高負債率の低減

 記帳・記録によって経理内容を明確化すると共に昭和59年、 平成2年の2回に
わたって畜産会の経営診断を受診し、 全体の経営運営に役立てている。 
 
  借入金は、 当初1億9,217万円あったが、 6,772万円を償還し、 残高は1億2,445
万円となっている。 
 
  それに対して酪農部門の粗生産額は1億2,663万円であり、 農産部門の粗生産
額は9,477万円で、 売上高合計2億2,140万円となっている。 したがって売上高負
債率は54.8%まで低下しており、 経営全体としての健全性を保っている。 
 
〔U〕 中規模フリーストール・パーラー方式の酪農経営の事例
(網走市 佐竹牧場) 

1 経営の概況

 サイレージ用とうもろこし11ha(うち借地2ha)、 混播牧草13ha、 ルーサン6ha
、計19haの飼料基盤に、 経産牛49頭、 育成牛41頭、 計90頭の中規模酪農経営を、 妻
と2人の労働力で営んでいる。 
 
  経産牛1頭当たり年間平均産乳量8,300s、 脂肪率3.8%、 無脂乳固形分率8.7%、 
生乳生産コスト65円であり、 北海道としては中クラスの経営である(乳価75〜79円)。 


2 フリーストール・ミルキングパーラーへの投資

 平成2年に、 フリーストール牛舎 (327平方b、 ベッド数42床)850万円、 ミルキ
ング・パーラー (西ドイツ オートタンデム 3頭複列) 1, 150万円、 その他を、 
合計2, 230万円で建設した。 


3 ミルキング・パーラー方式による飼養管理

 このパーラーは3頭複列で小さく、 搾乳の終わった乳牛ごとに、 自由に出入りが
できる方式になっている。 

 搾乳の1サイクルは、 9分間前後であり、 経産牛49頭の搾乳時間は、 60〜70分と
なっている。 その他の作業 (群管理、 ミキシング給飼、 コンピューター給飼等) を
含めると、 経営主は、 1日4〜5時間の労働ですんでいる。 

 しかし年間の労働時間は、 経営主2, 500時間、 妻2, 000時間となっており、 フリ
ーストール、 パーラー方式にしたことによって、 搾乳管理作業は 「楽になった」 が、 
経営管理全体としては、 「あまり省力化にはなっていない」 と経営主は言っていた。 

 飼養管理は、 1群管理でミキシング給飼を2回、 配合飼料は、 コンピュータ給飼
である。 


4 適正な負債と健全経営

 借入金は、 畑5haの購入資金1,000万円 (10a当たり20万円) と、 パーラー、 区
画整理のための借入資金2,500万円、 合計3,500万円となっており、 比較的健全な経
営といえよう。 


5 将来計画

 経産牛 (搾乳牛) は60頭規模を考えており、 1日当たり2万円の可処分所得、 年
間所得700万円から1, 000万円を目標にしている。 
 
〔V〕 新規就農・パーラー方式による酪農経営の事例
 (清水町  井沢牧場) 

1 経営の変遷

(1)昭和45年、 大学卒業後、 妻と二人で、 新規就農者として徳島県より、 現在地
      に入植し、 開放型の飼養管理方式で酪農経営を開始した。 
     経営面積24ha、 経産牛20頭、 総飼養頭数40頭、 総合施設資金540万円の融資
   を受けた。 
      
(2)昭和45年から53年までは畜舎無し、 ミルキング・パーラーのみで、 サイロも
      地上堆積のスタックとして行ってきた。 
      
(3)昭和53年より総合施設資金3,300万円を借受け、 フリーストール牛舎 (80頭
     収納) を2,000万円で、 タワーサイロ (400t×2基) を1,000万円、 自動給飼シ
     ステムを500万円で導入した。 53年までに近隣の離農地を購入し、 現在の50ha
     の経営農用地面積となった。 
     
(4)昭和60年にコンピューター管理によるマグネット給飼システムを導入する。 

(5)昭和63年以降の乳牛飼養頭数等の推移をみると表7の如く、 経営土地面積が
     53haと変化がないために、 無理のない堅実な頭数に規模拡大し、 現在、 65頭
     となっている。 
    したがって経産牛1頭当たり年間産乳量も、 5年間継続して、 9,000〜9,600
     sと高水準を維持している。 また脂肪率は3. 6%であるが、 無脂乳固形分率
     は8.96%と、 極めて高く、 細菌数も0.5万と乳成分も良好である。 
表7 飼養頭数等の推移
区分 昭和63年 平成元年 平成2年 平成3年 平成4年
飼養頭数 120頭 125頭 125頭 130頭 130頭
経産牛頭数 55頭 54頭 60頭 62頭 65頭
出荷乳量 495t 511t 585t 582t 625t
経産牛1頭当り年間搾乳量 9,009kg 9,497kg 9,690kg 9,478kg 9,689kg
経営土地面積 53ha 53ha 53ha 53ha 53ha

2 経営の概況
(1) 経営土地
耕地面積 5,300a(800a)
5,300a
山林・野草地 100a
施設・用地 400a
5,800a
注:( )内は借入地で内数
(2) フリーストール牛舎
導入年度 昭和53年
鉄骨・木造の区別 鉄骨、ブロック
規模 505u(6.5間×24間)
牛舎形式 2列、ストール床:火山灰
導入費用 20,000千円
(3) ミルキングパーラー
導入年度 昭和45年
型式 タンデム 片側3×2 6ユニット
導入費用 15,000千円
(4) 糞尿処理
処理方式 堆積
敷料の材料 オガクズ
牛舎からの搬出方法 トラクター(バケット)
搬出場所 堆肥盤
 
 
〔W〕 個人の大規模フリーストール、 ミルキング・パーラー方式の経営の事例
 (士幌町  鈴木牧場) 

1 経営の変遷

 昭和38〜39年、 アメリカのイリノイ州での酪農実習を終えて、 帰国後、 昭和40年、 
父から経営移譲されたが、 その当時は、 搾乳牛5頭、 育成牛5頭と畑作物の零細な
複合経営であり、 借入金の残高も500万円あった。 
 
  したがって、 このままでは所得の増大も、 借入金の返済も困難と考え、 酪農専業
への経営移行を開始し、 乳牛頭数の増頭を図ってきた。 そして昭和45年には畑作物
を中止して、 酪農専業経営となった。 
 
  昭和46年、 さらに規模拡大をはかるために、 総合施設資金を借入れて、 牛舎、 付
帯施設を整備して、 フリーストール方式への移行の準備に入った。 

2 経営の概況

(1) 家族の状況
氏名 続柄 年令 事項
鈴木 氏 本人

長男
次男


実習生
51
46
25
23
81
78

 

町議会議員・酪農振興会長

後継者
帯広畜産大学(大学院)
士幌農協名誉組合員
                 (平成5年現在)
(2) 経営規模
 経営耕地48.3haのうち飼料用デントコーン29.0ha (含む委託作付6ha) 採草地19.3
ha (うち借地9.5ha) となっている。 
 その他に建物施設敷地3.5haがある。 
 乳牛頭数は成牛130頭 (うち搾乳牛110頭)、 育成牛120頭、 総乳牛飼養頭数は250頭と
いう大規模な酪農専業経営である。 


3 フリーストール、 ミルキング・パーラーの造成

 昭和57年にKスパーン、 フリーストール牛舎および付帯施設を新築し、 63年に育成フ
リーストール牛舎を新築して、 約4, 500万円を投資した。 
 平成元年にライトアングロルミルキングパーラーを約2,300万円で導入して、 フリー
ストール、 ミルキング・パーラーの飼養管理方式となった。 
4  優良基礎牛の導入による個体能力の向上

 昭和38年より54年にかけて、 6回にわたり、 18頭の基礎乳牛をアメリカより現地購
買によって導入し、 また北海道内からも優良牛を導入した。 
 その結果、 表8のように昭和55年以降、 個体乳量は漸次、 増大しているが、 本格的
に改良効果が、 あらわれ始めたのは約10年後の平成2年からである。 
 また、 乳牛の個体能力の向上と共に、 個体販売の有利性を保持するようになった。 
 以上、 頭数規模の拡大過程にあり、 なおかつ、 飼養方式を、 途中で、 フリーストー
ル、 ミルキングパーラーにきりかえたにも拘らず、 平均乳量の増大と、 乳飼比の低下
をはかってきた成果は、 高く評価できよう。 
表8 乳量の推移
年次 単位乳量 出荷乳量 乳飼率 乳牛総頭数
S55 5,800 259.0 26.0

88頭

 56 6,400 286.3 32.0 95  
 57 7,083 340.0 30.6 100    
 58 6,616 320.0 30.0 107    
 59 6,715 388.0 36.0 120    
 60 6,685 398.6 30.0 117    
 61 6,570 397.3 25.2 122    
 62 6,528 437.4 23.0 120    
 63 7,503 502.7 22.0 127    
H 1 7,512 601.6 22.0 154    
  2 8,005 656.3 21.0 184    
  3 8,100 885.0 20.5 205    
  4 8,300 1,037.9 24.3 250    

5  投資の合理的配慮

 経営の合理化・省力化をはかるために、 フリーストール・ミルキングパーラーへの
移行をはかる経営が、 あらわれているが、 そのことのために、 莫大な投資と借入金を
しては、 その後の経営運営に大きな負担をもたらす。 
 
  鈴木牧場では、 フリーストール等、 固定資産への投資を5,000〜8,000万円におさえ
る反面、 直接収益を生み出す乳牛への投資を積極的に行ってきた。 
 
  そのことによって、 減価償却費、 元利償還金の財源を生み出し、 負債等による負担
を軽減している。 
 
総 括 的 検 討
 調査4事例を対象にして、 フリーストール、 ミルキング・パーラー方式の課題に対
して、 どの様な対応をしているかを検討する。 
 
  調査4事例の経営概要およびフリーストール、 ミルキングパーラーの内容を一覧に
すると表9のとおりである。 
 
  卯原内酪農生産組合と鈴木牧場は、 経産牛100頭以上の大規模酪農であるが、 他の
2事例は小型のミルキングパーラーを、 少ない投資で実施している経営である。 
1 適正投資額の把握

 フリーストール、 ミルキング・パーラー方式の実施に当たっての最も大きな課題は、 
投資額と負債額の大きさが、 経営に与える影響の問題である。 とくに既存の負債残高
の大きな経営にとっては、 大きな負担となっている。 
 
  今回の調査対象の4事例は、 いずれも5〜10年前からフリーストール、 ミルキング・
パーラー方式を導入しており、 現状では投資の負担を感じているものはないといって
よかろう。 
 
  2事例の大規模酪農経営では、 フリーストール関係への投資総額が8,000〜9,000万
円と大きかったが、 経産牛頭数規模が大きいことと、 減価償却によって、 現状では経
産牛1頭当たりのフリーストール関係への投資額は53万円となっている。 
 
  また中規模経営では、 ミルキングパーラーの資材を購入して、 業者と共に手造りで、 
相対的に低コストで建造しているので、 投資総額が少なく、 経産牛1頭当たりの投資
額は、 45〜50万円となっている。 
  
  以上のように、 フリーストール、 ミルキング・パーラーへの投資額も含めて、経産牛
1頭当たりの総ての固定資産 (但し土地と乳牛を除く。) への投資額が過剰になってい
ないかどうかということを含めた 「投資限界」 の問題と、 経産牛1頭当たりの負債残
高等 「負債限界」 の問題が、 特に重要である。 
 
  この課題をマスターしていない経営者は、 如何に飼養管理技術の面に優れていても、 
経営の存続を難しくするであろう。 
 
  その対策としては、 まず複式簿記によって、 財産目録と貸借対照表を作成し、 財産
状態の内容を経営分析して、 経営の安定的継続性の道をつかまなくてはならない。 

2 収益性向上の追求

 投下した資金の回収のためには、 乳牛頭数規模の拡大は、 もちろんであるが、 それ
と同時に、 飼養管理技術の向上等、 酪農の収益性が高くなければならない。 
 
  一般的には、 フリーストール、 ミルキング・パーラー方式に転換した経営において
は、 急速に頭数規模を拡大している場合が多く、 その結果、 経産牛1頭当たりの年間
平均産乳量が低下し、 生乳1s当たりのコストアップとなっている経営をみかける。 
 
  それに対して、 調査4事例の経営は、 経産牛頭数規模が大きいにも拘らず、 平均乳
量がいずれも8,300〜10,000sと高乳量をあげており、 乳質についても脂肪率が3.6〜
4.0%、 無脂乳固形分率も8.7〜8.9%とすばらしい高品質牛乳生産を行っている。 
 
  その結果、 生乳1s当たりの生産コストは53〜65円となっており、 年間経営所得は、 
1世帯当たり、 いずれも1, 000万円以上となっている。 
 
  したがって投下資金とくに借入金の償還も順調に行われており、 経産牛1頭当たり
の借入金残高は、 少ない経営では35万円、 一方、 89万円と大きく残っている卯原内酪
農生産組合では、 個人の負債は全く無く、 経営の売上高負債率も54.8%と、正常な状
態に近づきつつある。 
  
  ガット・ウルグアイラウンドの合意により、 低価格の乳製品の輸入増加が予想され
る事情下においては、 内外価格差の縮小のために、 生乳の生産コストの低減は厳しく
追及されることになる。 特に北海道では生乳1s当たり60円以下、 理想的には50円以
下を目標とすべきである。 
 
  その対策としては、 放牧様式の見直しが、 大切な事項である。 特に折角、 フリース
トール様式を採用している経営体においては、 放牧によって、 飼料費と労働費の低減
が期待される。 
 
  いずれにしても、 省力化という 「労働面のゆとり」 の追求の以前に、 高所得を獲得
するという 「経済面のゆとり」 が実現しなければ、 機械・施設の拡充整備、 ヘルパー、 
コントラクターの活用もできないし、 環境保全対策も実施できないということになる。 

3 搾乳牛の日乳量の斉一化と管理労働時間の省力化

 ミルキング・パーラー方式への転換の最大の目的は、 搾乳管理作業における過重労
働の軽減であり、 搾乳労働時間の短縮であるといわれている。 
 しかし、 6頭複列と10頭複列型の大型ミルキング・パーラーで、 オール・イン、 オ
ール・アウト方式の場合には、 搾乳牛の1日当たりの乳量の斉一化をはからなければ、 
搾乳作業時間の短縮には結びつかない。 
 
  卯原内酪農生産組合では、 前述したように搾乳牛を3群に分類して、 それぞれの乳
牛群の日乳量の斉一性を図っている。 
 
  したがって6頭複列での搾乳1サイクルの時間は約10分であり、 140頭の搾乳牛を
約90分の間に完了させている。 
 
  士幌町の鈴木牧場の場合は、 搾乳牛の斉一性については、 乳牛を2群に区分して
10頭複列での搾乳1サイクルの時間は13〜15分と、 やや長くなっている。 
 
  一方、 中規模酪農の3頭複列型の場合には、 搾乳の完了した牛は、 1頭ごとに出
入ができるようになっているので、 搾乳1サイクルの平均時間は9〜10分というこ
とであった。 
 
  いずれにしても飼養乳牛群の斉一化を図ることが、 作業の効率化と省力化につな
がるものと思われる。 
 
  なお作業時間は、 さておき、 牛舎内でのパイプライン方式の搾乳労働と比較して、 
ミルキング・パーラー内では、 腰をまげることが少ないので、 「作業が非常に楽に
なった」 ということは、 共通に言われていた。 
  
  以上のように大規模経営においては、 それぞれの乳牛の1日の搾乳量を測定して、 
乳牛を2〜3群に分類して搾乳作業を実施している。 
 
  しかし今後は、 さらに飼養乳牛全体の能力・資質の斉一化をはかると共に、 計画
的種付、 計画分娩によって、 それぞれの時期ごとに、 1日の搾乳量の斉一化をはか
るべきである。 
 
  その際、 夏季分娩は、 乳牛個体に無理がかかるので、 和牛精子によるF1 子牛、 
あるいはETによる和子牛生産を、 一部、 採用することも考慮してよいのではなかろ
うか。 


4 環境保全的飼養方式への対応
 大規模酪農の共通の大きな課題は糞尿処理問題である。 とくにフリーストール方
式の場合には糞尿の固液分離が困難な施設が多く、 一般の大規模酪農より以上に糞
尿処理問題に困っている経営が少なくない。 
 
  その対策としては、 @牧場内に堆肥施設を拡充し、 完熟堆肥を圃場に還元すると
か、 他の農家に譲渡する等のことを実施している経営もあるが、 そのために莫大な
投資を必要とする。 したがって、 A地域内の大型堆肥センターを活用できるところ
では、 それなりの解決を図っている。 
 
  しかし、 地域内に畜産農家と耕種農家が、 バランスよく併存していなければ、堆
肥の全面圃場還元は困難である。 
 
  さらに畜産と耕種の併存があっても、 作物の播種・作付と収穫時期によって、 
作物の生育期間中は、 堆肥が全く利用されないため、 大型の堆肥施設がなければ、 
対応しきれない。 
 
  卯原内酪農生産組合では、 酪農と畑作との複合経営となっており、 畑作物として
は、 麦類、 ジャガイモ、 ビート、 玉ねぎ、 ピーマン、 その他と飼料作物を、 輪作
体系のもとに栽培している。 さらに各作物の早生、 晩生等、 品種を分けて、 播種、 
収穫期を、 ずらしているので、 糞尿を多く貯留することなく、 計画的に輪作圃場に
還元されており、 環境問題をそれなりにクリアしているといってよかろう。 卯原内
酪農産組合の環境保全対策を参考にして、 基本的問題を整理し、 意見を加えると次
のようになる。 

(1) 農用地面積の拡大と面的集積

 北海道や都府県の旧開拓地においても、 牛舎周辺における農用地の不足と面的集
積が遅れている。 
 堆厩肥の需要は、 作物の作付前に集中し、 不需要期の方が、 年間を通しては長い
ことになる。 
 したがって、 酪農経営者は、 粗飼料生産や放牧のためだけではなく、 堆厩肥の乾
燥施設や貯留場所としての農地を確保しなければならない。 すなわち環境保全のた
めに積極的に借地をして、 農用地を確保し、 後に交換分合によって、 可能な限り面
的集積をはかるべきであろう。 

(2) 動物とのふれあい広場の造成

 混住地域や観光地域に近いところに立地する酪農経営は、 必ずパドックを設置す
ること。 そして、 過放牧による 「ぬかるみ」 状態にならない程度の面積と排水施設
をほどこすべきである。 
 
  子牛・育成牛は、 常時、 そのパドックに放しておき、 できうれば、 そのほかに、 
ひつじ・やぎ・うさぎ等を、 小頭数でよいから、 放し飼いする。 そのことによって、
地域社会の小さな 「動物とのふれあい広場」 が造成される。 
 
  幼児は、 本能的に動物が好きであり、 毎日のように、 その牛舎に遊びにくる。 そ
の保護者である母親か祖母も牛舎に来るようになる。 そして幼児を媒介して、 酪農
家とそれ以外の人達とのコミュニケーションが図れるようになり、 そのことによっ
て、 少なくとも悪臭公害は、 部分的には解消される。 
 
  幼児は、 汚い所には来ないので、 酪農家は、 子供に嫌われないようにするために、 
牛舎・パドックの清掃に心がけ、 牛舎周辺の環境整備と美化をする習慣がついてく
る。 
 
  以上のことは、 すでに 「動物とのふれあい広場」 を実践している農家の実証を紹
介したものである。 フリーストール様式を採用した経営は、 野外パドックを設置し
て、 環境保全を推進することを期待する次第である。 

 したがって、 省力化のためだけに、 安易にフリーストール方式を導入するのでは
なく、 フリーストール、 ミルキング・パーラー方式を効率的に推進し、 その経済性
を高めていくためには、 問題提起した五つの課題を、 個々の経営に応じてクリアし
ていかなければならない。
 

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