★ 現地レポート


酪農の魅力を探しに出かけよう

 

助成部  南正覚 康人


  残暑の続く8月の24日から26日の3日間、 酪農や酪農ヘルパーに関心があり、 
農村に住むことに興味を抱いている若者を対象に、 酪農の魅力を発見するための
 「酪農体験交流会」 が宮城県蔵王町の財団法人蔵王酪農センターで開催された。 

 この交流会は、 酪農ヘルパー組織の中心である社団法人酪農ヘルパー全国協会
が今回、 はじめて行ったものである。 最近の若者の農村回帰の動きの中で、 酪農
に関心はあるがどのようにアプローチしたらいいのか迷っている若者に実地体験
してもらい、 酪農家や酪農ヘルパーとの交流でその道を少しでも開くことができ
たらという考えから企画された。 
蔵王酪農センターでチーズ料理「ラクロネット」
                            をほおばる。

最初は恐る恐る牛に近づいたが、何とかできた
                            手絞り
「早く大きくなってね」
 

牛が好きだから
 参加したのは19歳から28歳までの20人で、 そのうち女性が17人と参加者のほと
んどを占めた。 関東在住者が中心であるが、 愛知県、 広島県からの参加もあった。
参加の動機は、 「酪農、 酪農ヘルパーに興味があるから」、 「酪農関係の仕事に就
きたい」 がほとんどであるが、 その根底には 「牛が好きだから」 ということがあ
るようだ。 中には、 初日の夕方の搾乳と給餌の作業体験で、 はじめて牛に触れた
という人もいた。
 
 作業体験は二つのグループに分かれ、 一つのグループは、 センターのつなぎ牛
舎で石垣牧場長の 「牛は、 リラックスできる環境や状態でその牛の最高の乳量を
出す」 という説明を受けて、 全員が手搾りやバケットミルカーによる搾乳、 給餌
、 牛舎の清掃を行った。 手搾りは、 乳頭からうまく乳が出なかったり、 乳は出る
ものの持っているバケツにうまく入らずにはみ出したりで、 中々うまくはいかな
いものの、 皆、 楽しそうにやっていた。 自分たちが搾った牛乳を、 乳首のついた
バケツで、 生まれて間もない子牛に与えると、 子牛がかわいいこともあり、 みん
な満足げであった。 
 
 もう一つのグループは、 いきなりミルキングパーラーでの搾乳を体験した。 参
加の動機からみても、 これらの作業体験だけでは不十分らしく、 「もっと本格的
な作業ができたら」 という声もあった。 また、 ミルキングパーラーをみて、 日本
の酪農も機械化が進んでいることに驚き、 牛がつながれていないことに感心する
参加者もいた。

牛乳が固まった
 2日目の朝にグループを交代して作業体験をしたあと、 センターのチーズ工場
の菅井さんの指導のもとに、 チーズとバターの簡単な手作りを体験した。 牛乳を
加熱し、 酢を加えてしばらくすると自然と固まる様子に皆感動していた。 乳製品
作りが身近なものとして感じられ、 中には家庭で挑戦してみると意気込んでいる
人もいた。 
牛乳が固まった



地元酪農家の青年たちとロールベール
                            をころがして交流



2日目の夜の懇談会では、酪農家の青年とも
                            打ち解けて、「これで私も酪農ができる」

牛への愛情に比べると仕事のきつさは小さい
 乳製品手作り体験のあと、 地元の酪農家の若手の集まり 「ヤング蔵王」 のメン
バーや、 酪農ヘルパー達と昼食をとりながら交流した。 酪農家の仕事や生活の様
子を聞いて、 一日中、 一年中忙しいわけではないので、 何とかなるかもしれない
と考えたり、 また、 女性の酪農ヘルパーの体験談は、 ヘルパー希望の女性の参加
者が多かったことから、 大変参考になったようである。
 
 午後、 2戸の酪農家を視察した。 経営のタイプは違いそれぞれに特徴があり、 
参加者はそれぞれに魅力を感じたようだ。 
 
 最初に訪問した押野牧場は、 7年前に脱サラしたご主人が酪農を始めた。 その
始めた動機が 「牛が好きだから」 ということで、 交流会の参加者の参加動機と同
じである。 牛が好きなことに比べると仕事のきついことは大したことでなく、 酪
農で一番大切なことは、 牛への愛情であるとの話に参加者は感銘を受けていた。 
そうすると、 牛の飼養方法を工夫したりして、 生産性が向上し、 酪農がとても楽
しい仕事になるというのである。 押野さんは、 昨年牛舎を新築したばかりだが、 
2000年までにはその借金を返済したいと意欲に燃えていた。 

 次の岡部牧場は、 最近、 見直されてきた放牧主体の経営で、 搾乳時以外、 牛は
放牧されている。 訪れたときには、 牛は広い放牧地に放されており、 牛の集まっ
ているところまで歩いて行くと、 のんびり草を食んでおり、 みんなで写真を撮っ
たりして、 そこを離れがたい様子だった。 あとで書いてもらったアンケートには
、 「日本の酪農は、 乳牛を動物としてではなく、 道具として扱っているように思
えるので、 このような牧場が増えてほしい」 という意見が寄せられた。 
体験交流会で酪農ヘルパーを決意
 先の地元の酪農ヘルパーとの交流が発展して、 当初の予定にはなかったが、 参
加者のうちヘルパー希望の数人が、 2日目の夕方と最終日の朝の2回、 実際の酪
農ヘルパーの作業を体験した。 元コンピュータ関係の仕事をしていて、 現在、 無
職の小山内さんは、 酪農ヘルパーになることを決意したようだ。 将来、 酪農をや
りたいという動機で参加したが、 酪農を始めるには、 良いところ、 悪いところを
みた方がよく、 そのためには酪農ヘルパーになるのが一番であるという先輩ヘル
パーからのアドバイスや、 酪農ヘルパーを含めて、 酪農を支えている組織がしっ
かりしているということが決め手になったらしい。
 
 このように、 参加者の中からヘルパーに一人でもなってくれたらという期待が
現実になったことで、 主催者は自信を深めたようである。 後継者不足が叫ばれて
いるが、 若者に今回のようなチャンスを与えることで、 酪農に強い関心を持って
もらい、 うまく行けば酪農ヘルパーの人材が見つかったり、 酪農に従事してもら
えるのであれば、 関係者が協力してもっとこのような機会を作って行くべきだと
考える。  

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