◎巻頭言


畜産振興審議会を終えて 畜産振興審議会食肉部会の審議を終えて

(財) 畜産環境整備リース協会理事長
畜産振興審議会食肉部会長
犬伏 孝治







概  観



 去る3月、 例年通り指定食肉の安定価格等を定めるに当たって、 畜産振興審議

会の総会および各部会が開かれた。 食肉部会は、 同月26日に開かれ、 平成8年度

の指定食肉の安定価格と肉用子牛の保証基準価格および合理化目標価格について、 

政府の諮問を受け審議が行われた。 



 食肉部会における審議の流れは、 例年とおおむね同様であった。 すなわち、 畜

産局当局から、 まず食肉等をめぐる一般情勢と需給および価格の動向についての

説明があり、 ついで試算値とその算定内容の詳細な説明がなされたのち、 質疑応

答等を経て委員全員から順次意見の開陳があり、 最後に答申案と建議案のとりま

とめに入り、 諮問に対する答申と8項目にわたる建議を行うというものであった。 



 このような審議の形は、 例年とあまり変わることなく行われたのであるが、 本

年の審議には、 いくつか注目すべきことがあったように思う。 その一つは、 本年

1月に 「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」 が公表され、 また

同年2月には 「養豚問題検討会報告書」 がとりまとめられたことなど、 肉用牛生

産および養豚について中長期的視点に立った展開方向と今後取り組むべき課題が

示されたことから、 これらと関連して意見を述べる委員が多く、 その着実な実行

を求める意見が多く出された。 また、 ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意が

実施されてほぼ1年が経過し、 この間関税の緊急措置の発動があるなどWTO体制

下への移行がいよいよ現実のものとなってきたことなどから、 国産畜産物の国際

競争力の保持や国際環境の変化への対応等に強い関心を示しつつ意見が述べられ

た。 



 これらの意見は、 どちらかといえば、 価格算定そのものと直接関連するものと

はいえないが、 わが国畜産をめぐる基本的な問題に関するものであり、 行政価格

決定に当たっての政府の姿勢や方針として質しておきたい事柄であったと考えら

れる。 他方、 当面する諸問題に関する質疑や意見も多く出された。 最も多かった

と思われるのは、 配合飼料価格の動向とそれへの対応であろう。 昨年秋以降の価

格上昇と農家負担の軽減のための補てん措置の実施状況、 さらに4月以降の見通

し等に強い関心が示された。 このほか、 肉用牛生産におけるコストの縮減と品質

の向上、 肉用子牛生産の維持拡大と補給金制度の安定的な運営、 養豚については、 

これをとりまく厳しい状況下関係者が一体となって取り組むべき課題への対応、 

さらに畜産経営全般に影響する生産資材コスト削減に資する飼料、 畜舎等に係る

諸規制の一層の緩和、 家畜改良増殖体制の整備および環境保全対策の推進、 食肉

流通の合理化・高度化の一層の推進等多方面にわたる意見の開陳もあった。 また、 

食肉部会開催の直前に報道された英国における狂牛病のことにも多くの委員から

発言があり、 食肉の安全性や原産地の表示の問題がとりあげられた。 



 以上の審議の経過を概括すると、 試算値で示された考え方で安定価格等を定め

ることについては、 委員全員が賛成ないしやむを得ないとする意見であり、 後述

のように豚肉の安定基準価格について7年ぶりの引下げが示されたこともあって、 

総体として順当に答申がまとめられたと思われる。 また、 関連して述べられた意

見は、 おおむね建議の中に盛り込まれている。 その後、 指定食肉の安定価格等は、 

3月29日に試算値どおりの額で決定されて告示されており、 建議に掲げられた諸

事項については、 価格関連対策としてとりまとめられ、 逐次実施されることとさ

れている。 



牛肉の安定価格について



 平成8年度の牛肉の安定基準価格および安定上位価格は、 上述のとおり試算値

のとおり決定されたが、 平成2年度以降両価格とも毎年度引き下げられてきてお

り、 本年度も前者が20円、 後者が30円の引下げとなった。 



 安定価格は、 法律に規定されているとおり、 生産条件および需給事情その他の

経済事情を考慮し両生産を確保することを旨として定めることとされている。 具

体的な算定は、 従来と同様いわゆる需給実勢方式により行われている。 その算定

結果が上述の引下げとなったのであるが、 牛肉についての近年における国内価格

の動向や肉牛生産の規模拡大による生産性の向上等を考慮すれば、 この程度の引

下げはやむを得ないものと考えられたといえよう。 



豚肉の安定価格について



 豚肉の安定基準価格および安定上位価格は上述のとおり試算値のとおり決定さ

れた。 平成元年度以降5年度までは両価格とも据え置かれてきたが、 6年度およ

び7年度は、 前者が引き続き据え置きとされたのに対し、 後者は引下げとなって

いた。 本年度は、 前者が400円から390円へと7年ぶりの引下げとなり、 後者は

525円から515円へと引き続き引下げとなった。 



 豚肉の安定価格も、 牛肉と同様、 法律に規定されているとおり、 生産条件およ

び需給事情その他経済事情を考慮し両生産を確保することを旨として定めること

とされている。 その具体的な算定も、 従来と同様いわゆる需給実勢方式により行

われている。 その算定結果が上述のとおりの引下げとなったのであるが、 近年に

おける規模拡大や生産費の動向等を考慮すれば、 この程度の引下げは、 やむを得

ないものと考えられたといえよう。 なお、 各都道府県に設けられている地域肉豚

生産安定基金の発効基準は、 これまで安定基準価格と連動して設定されていたが、 

本年度は据え置かれる。 



肉用子牛の保証基準価格および合理化目標価格について



 黒毛和種および褐毛和種については、 両種についての両価格が分離された平成

5年以降、 両種とも据え置かれてきており、 本年度も引き続き据え置きとなった

が、 その他の肉専用種および乳用種については、 両価格とも前年度に引き続いて

引下げとなった。 



 保証基準価格の算定は、 これまで同様、 牛肉の輸入自由化の影響の出ていない

過去の一定年間 (昭和58年2月から平成2年1月までの7年間) における肉用子

牛の市場における実勢価格を基本として、 これに生産費の変化を織り込んで算定

するいわゆる需給実勢方式に基づき行われている。 また、 合理化目標価格は、 肥

育経営において輸入牛肉と対抗しうる価格で国産牛肉を生産するのに必要とされ

る肉用子牛価格として算定されている。 いずれも従前どおりの算定方式であるが、 

保証基準価格については、 黒毛和種および褐毛和種では生産コストがほぼ横ばい

で推移していること、 その他の肉専用種および乳用種では、 繁殖めす牛および初

生牛の価格が低下していること、 合理化目標価格については、 関税率の低下 (下

げ要素)、 輸入牛肉との品質格差の拡大 (上げ要素) 等の変化があること等を勘

案して、 上述のような算定結果となったものと考えられる。 



 子牛の不足払と呼ばれる本制度については、 すでに生産者補給金の支給額は相

当多額 (平成7年度第3四半期までの交付額の合計1, 970億円) にのぼっており、 

肉用牛経営を支えるものとして大きな役割を果たしてきている。 このような観点

から本制度の安定的な運営が図られるよう、 支払財源の確保や都道府県基金協会

の借入金の償還円滑化のための措え置きが要請されており、 建議の中にもこの趣

旨が織り込まれている。 

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