◎今月の話題


ユーザーの需要に応える積極的対応を

東洋大学経済学部 教授 服部 信司







ドール・フーズの日本参入

 アメリカ・カリフォルニア州に本拠をおく世界最大の生鮮野菜・果物の生産− 供給会社であるドール・フーズ・カンパニーが、 日本の農家との間での契約制に よって、 日本における生鮮野菜の供給事業に、 来年1月から乗り出すと報じられ ている。  当面、 農家1,000戸を組織し、 レタスを中心に、 ニンジン、 タマネギ、 キュウ リ、 メロンの生産を、 農協をも活用して行うというのである。  将来は、 集荷、 物流も自前の体制で行い、 低価格化を目指すという。 農家との 関係は、 ドールの買いとりとするか、 委託販売とするかは、 ケース・バイ・ケー スにする。 すでに北海道、 東北、 九州の一部農家との間で、 契約が進んでいると いうのである。

われわれの固定観念

 野菜の生産・流通といえば、 これまで新聞・テレビなどで報じられてきたのは、 海外の安い労賃と土地を利用して生産し、 現地で最終パックまでして日本に輸入 される、 いわゆる開発輸入が大部分であった。  野菜の自給率が、 92年の90%から95年の85%へと5ポイントも低下したのは、 こうした開発輸入の拡大の結果である。  そして、 われわれや農業生産者、 関係者も日本の高い賃金や土地価格を海外と 比べ、 また運輸冷凍技術の発展を聞いて、 開発輸入が拡大し、 国内生産が減少し ていくのは、 抗し難い流れのように受けとっていたといっていい。 私も、 その一 人であった。  だが、 ドール・フーズ・カンパニーの参入は、 国内における野菜生産が、 その 組織の仕方如何によっては、 開発輸入を上回るメリットを持っていることを示し ている。  ドール・フーズの本格参入という今回の動きは、 われわれや農業生産者・関係 者の意識が、 「ユーザーの視点・立場・その需要を自らのものとして、 それに応 える余地があれば、 その可能性をさぐり出す」 という形に必ずしもなりえてはい ないことをさし示しているのではないだろうか。 われわれの意識転換が問われて いるのである。

ユーザー・ニーズに応える必要性

 現在、 わが国の農産物・食料品は、 輸入農産物・輸入食品とのきびしい競合の もとにおかれている。  その典型は、 牛肉を中心とする食肉であり、 スーパーでどちらの商品を買うか は、 消費者の選択に委ねられている。  わが国の農業生産の水準の維持は、 最終的には、 消費者や消費者に直結してい る外食産業等のユーザーのニーズに応えるものを提供して、 初めて可能になる。 ユーザー・ニーズに応えることが、 自給率維持の基礎にかかわっているのである。 ユーザー志向の発想が問われていると思われる。

今年の白書:ユーザー・ニーズへの対応を強調

 今年の農業白書は、 「国民生活の変化と農業・農村の対応方向」 を特集とし、そ こでは、 ユーザーの側から食料・農業を把えるという視点を特色のひとつとして いる。 その結論の3点のひとつとして、 「消費者ニーズに柔軟に対応できる食料 供給構造を構築すること」 が、 あげられており、 そのためには、 「消費者、 食品 産業の需要動向に的確に対応した生産、 販売を、 食品産業との連携を一層強める なかで進めていく必要があり」、 「農業経営としては、 生産から販売までを視野に 入れた経営者としての資質が重要」 としている。

ユーザーの見方、 考え方、 要望を幅広く聞く場を

 かつて、 長期需給見通しについての会議において、 外食産業の経営者から経営 動向や農業についての意見を聞かせてもらう場があった。 大分前のことで、 具体 的内容は記憶にないが、 有意義であったという印象が残っている。  まず、 食品産業や大手小売店が、 現在、 どのような観点と方向で事業を行って いるのか、 そのなかで、 どのような方向を農業・農協に望み期待しているのか。 こうした点をユーザーの経営者に率直に語ってもらい、 われわれ農業サイドは、 まずはそれをじっくりと聞いて受け止める─こうした場が、 必要ではないだろう か。  大方の一考を促したい。


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