◎今月の話題


変化する生活者への対応を −未来に生き残る食品であるために−

株式会社 エーピーオーネットワーク 代表取締役 安達泰博






未来の食生活シーン

 子供の頃に読んだSF未来小説にこんなシーンが出てきた。 家族が夕食のために ダイニングルームに集まってくる。 テレビ画面でメニューを見ながら、 一人ずつ が別々のメニューを選ぶ。 「ママはハンバーグとサラダ」、 「僕はトンカツ」、「俺は 焼き魚と漬物」 といった具合。  そして、 機械のボタンを押すと、 何と驚くことに、 錠剤がポロポロと出てきて お皿の上に転がるのだ。 「いただきます」 と言って、 フォークとナイフでそれを 食べる。 子供心に、 未来世界は凄い、 でもつまらないし、 少し恐い気がした。  しかし、 それが現実にここ数年、 この究極の食事スタイルに近づくように、 自 分では料理をしない風潮が顕著となり、 大きな生活者のスタイルとなってきてい る。

外食、 内食、 そして中食へ

 さて、 近年のグルメブームを振り返ってみよう。 昭和50年代半ばから世の中は ファッションに続きグルメブームとなった。 そのリーダーは、 豊富な財力・体力・ 時間をもった主婦層。 レストランのランチは主婦グループで一杯となった。 マス コミの情報を自分で確かめ味わうことよりも、 行くことに価値がある、 食の 「情 報消費」 の時代であった。  続いて、 昭和60年代に入ると、 外食によってこれまでにない味を知った人たち は、 自分で実際に作ってみることに興味を持った。 この 「内食」 は食材に対する プロ並みのこだわりとなり、 ますますグルメブームは加速していった。 これは、 食の 「体験消費」 の時代と言える。  しかし、 バブル経済崩壊以後、 消費者は食について新たな方向をもっと安易に 探すようになった。 外食ではなく内食でもなく、 出来合いの惣菜を買って家で食 べる 「中食」 である。  このトレンドの中心は主婦層であり、 その 「中食」 傾向をしっかり見習い受け 継いでいるのがまさに20〜25歳の団塊ジュニアである。

団塊ジュニアの特性

 今後の食品マーケティングを大きく変える、 この団塊ジュニアの特性をまとめ ると次のようになる。  1) 食品を買う場所はコンビニエンスストアで十分と考えている。  2) お洒落なイタリアンレストランを楽しむが、 コンビニの冷凍弁当でも満足    できる。  3) 基本的な嗜好は 「柔らかく、 乳っぽくて子供っぽい味」  4) おふくろの味などの食に関する郷愁はない。  5) 料理で部屋を汚したくない  6) 料理に関する知識・技能は極めて貧しいが、 外食に関する情報は驚くほど    豊富で敏感である。  あと3年で21世紀に入るが、 その社会のリーダーはこの団塊ジュニアである。 この年代に結婚しないシングル層、 ひとり暮らしの老人層などが加わり、 大きな かたまりとなって 「ノン・クッキング・クラスター」 を形成する。

食品に対する生活者の認識

 食品をビジネスとしている人たちの意識も、 食品に関する技術、 それを提供す る食品流通の仕組みも、 ノン・クッキング・クラスターに対応して大きく変貌を 遂げなくてはならない。 まさに、21世紀の食のマーケティング・テーマは、すぐに 食べられる状態での提供である。  このクラスターが支配する社会では、 当然のように食品に対する捉え方も、 従 来の生産者・食品加工業者・卸小売業者などがもつものとは大きく変わってくる。 例えば、 魚屋自身は鮮魚や切り身は素材であり、 粕漬けや干物は加工品・惣菜で あると認識している。 しかし新世代にとっては、 既に焼かれ、 煮てあり、 すぐ食 べられるものが食品である。 粕漬けや干物は素材でしかなく、 興味がない存在で ある。 まして、 鮮魚は図鑑の世界の生物であって、 食品とは縁遠いものと捉えて いる。 若い女性の 「魚は切り身で泳いでいる」 という話はあながち笑い話ではな いのだ。

未来に生き残る食品

 現在の中食はテイクアウト食品であるため、 家庭で再加熱や仕上げが前提とな っている。 品質上の問題や製造効率の点からも冷蔵状態で売られているものが多 い。 しかし、 これからの顧客は温かい状態で食べるものは温かい状態で買いたい、 そして、 すぐに食べられる状態で買いたい、 つまり 「Ready-to-Eat」 が基本とな る。  当然、 販売の現場でも 「できたて、 やきたて、 つくりたて」 が売れる商品の基 本となる。 湯気が立ち、 焼き色が光り、 鮮烈なシズル感が客の食欲をとらえる。 また、 単に商品を並べて置くだけではなく、 加工し作っている風景も売り場の一 部として顧客にプレゼンテーションしていくことが重要である。  このように販売の現場は常にダイナミック (動的) に変化している。 そして、 この変化に対応できた企業・商品のみが未来に生き残ることが出来る。 生産者も 流通業者・加工業者も、 生活者の変化、 販売の現場を出発点として一体となり、 日々常に自己革新することを怠ってはいけない。 安達 泰博 (あだち やすひろ)  大手百貨店で店舗開発、 食品販売等を担当後、 食品マーケティングのコンサル タントとして今年2月にエーピーオーネットワーク社を設立して独立

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