◎地域便り


寒冷地での大規模和牛繁殖経営

農畜産業振興事業団/横打 友恵


粗放的経営のすすめ

  「何も忙しくないよ。 見せられるような牛舎などない」 冬は−30度にもなる
という北海道十勝管内足寄町。 −20度以下になれば増体に影響するといわれて
いるこの地で、 黒毛和種の繁殖経営を放牧主体で行っている磯守さん。 自らの経
営を 「粗放的」、 「他力本願的」、 「内地の人がびっくりするような」 と評する。 

 かつては酪農をやっていたが、 パイプライン、 バルククーラー施設への新規設
備投資が必要になったのを機に規模拡大を図って酪農を続けるか否かの選択を迫
られた。 その際、 思い切って酪農を止め、 和牛に切り替えた。 現在、 夫婦2人の
労働力で195頭 (繁殖母牛は100頭前後) を飼養している。 

 低コストを実現するため、 乳牛の古い施設を利用し、 5月上旬から10月いっ
ぱいまでを放牧期間としている。 朝、 夕の2回、 牛の健康状態をチェックするた
め見回るほかは、 30haの牧草地と、山林に放牧。 「受精さえ終われば手はかけ
ない」 のだそうだ。 

 11月から4月の冬期は乾草とロールサイレージのみで濃厚飼料は与えていな
い。 採草地が40haあるため、 粗飼料の自給率は100%、 冬でも乾草には困
らない。 さらに、 冬でも子牛のついていない親牛は牛舎に入れず、 放牧したまま
だという。 

 石がごろごろある傾斜地、 多くの労力とコストがかかるとみて草地更新はして
いない。 「土地だけはいっぱいあるから」 だそうだ。 徹底した省力化である。

まき牛から人工授精へ

 ここ数年、 共進会にも出品しており、 昨年は十勝総合畜産共進会の経産の部で
見事優等賞1席に入賞した。 

 放牧された牛は体が小さいなどの理由で、 市場では買い叩かれやすい。 そのた
め、 優良なめす牛を保留し、 血統、 発育の優れた牛群に更新しようとしている。 
最近では、 足寄の牛は足腰が強い、 しっかりした牛との高い評価を得ている。 

 また、 市場のニーズに合わせるため、 島根県からも母牛を導入している。 市場
では島根系×兵庫系のパターンの牛が高値で取り引きされるためである。 

 現在、 人工授精による種付けが全体の85%を占めているが、 まき牛による自
然交配も行っている。 ここでも省力化が図られているわけだが、 まき牛による生
産では市場価値が低い。 ゆくゆくはこれをやめて血統を選び人工授精一本による
優秀な子牛生産を実現させるつもりである。 また、 2〜3年のうちには夫婦2人 
(49才と44才)で飼える範囲で母牛120〜130頭に増頭し、 年間100頭
を販売できるようになりたいという。 生産コストが1頭当たり20万円で、 子牛
の販売価格が30万円なら増頭も十分可能とみている。 

目標は 「町内一貫体制」 

 既に足寄町は道内で有数の和牛繁殖地帯であるが、 足寄町和牛生産改良組合は
昭和58年の設立以来、 生産基地としての基盤を確立するため、 改良の促進と飼
養技術の向上に重点を置いた活動を行っている。 磯さんはその副組合長を務める。 

 組合の今の一番の課題は、 子牛を市場で販売するとそこで終わりで、 販売した
子牛がどのような枝肉成績を残したかという情報が得られないことだ。 肥育地帯
とネットワークを結ぶことができれば情報のフィードバックも可能になる。 育種
価もわかり、 いい牛が残っていくというような循環になる。 そのために自家生産
の牛群をそろえること、 母方の育種価を重要視することを目標にしている。 さら
に将来は、 町内で肥育、 出荷する 「町内一貫生産」 体制を目標とし、 地域ぐるみ
で市場にあった牛作りを目指している。 

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