◎今月の話題


変化する家庭の食事情

     (財)外食産業総合調査研究センター 主任研究員 

                                                                     山腰 光樹

 




食生活は“簡単・省手間”型へ 

 バブル崩壊後、 「家庭回帰現象」が進行しているといわれている。 確かにテレビ
視聴率は1992年以降上昇しており、 コクーニング (家ごもり) が市場攻略の
視点であるという声がある。 

 しかし、 食生活についてみると、 一家揃って食卓を囲むという風景は、 むしろ
減少傾向をたどっている。 これは女性の社会進出、 核家族化の中で、家庭内個(孤) 
人の増加、 子供の塾通い、 帰宅の遅い父親、 単身世帯の増加に加えて 「忙しい家
族の増加」 によって家族関係が変容してきたために起きている現象と思われる。 

 最近の食生活調査結果 (外食総研、 8年調査) をみると、 個食タイプ商品の食
卓出現率は近年急速に高まり、 1人でも簡単に調理できる食品へシフトしている。 
この傾向は主食系商品 (弁当・カレーライス・麺類等) においても強く見られ、 
副食においては簡単に調理できる商品が台頭し、 中食 (市販の弁当・惣菜等) の
利用を含めると食卓に上る半数以上が 『簡単・省手間料理』 商品で占められて
いる。 その理由は 「献立を考えたり、 調理するのが面倒だから」 46%、「調理後
の後片付けが面倒」 33%、 「帰宅が遅く、 調理する時間がない」 33%、 「家族
が少数で料理が大変だから」 13%、 「家族の好みがバラバラだから」 11%(農
林水産省、 9年調査) といった時間と労力の節約に起因している。 家族のために
手間をかけ、 手料理に腕を振るう姿から、 簡単に料理でき少人数でもフレキシブ
ルに対応でき、 しかも一工夫の余地を残した商品ニーズが高くなっている。 今や、 
家族全員が食卓を囲む姿は週1〜2回程度 (休日の夕飯が大半) で、 その食卓メ
ニューはテーブルクッキング (「囲み食」) の鍋物、 焼肉、 手巻き寿司等である。 

 今後、 食市場の攻略を考えるためには、 消費者が食卓に求める5つの意識 (手
間がかからず、 経済的で、 健康を考え、 安全で、 おいしい料理) をベースに、 か
つての家族の求心軸としての 「食卓」 を復活させることを念頭に置いた食材開発、 
ひいてはメニュー提案が必要である。 



中食変容3つの兆し

 家庭の食の中で、 中食が占める比重は、 着実に大きくなってきたが、 最近、 そ
の中食に変化が見られる。 

1)パーソナルユースからホームユースへ

 調理技術の低下による外部依存の高まりは、 従来のヤングを中心とした自分用 
(パーソナルユース) のテークアウトにとどまらず主婦層へ浸透しており、家族用 
(ホームユース)のテークホームへと合理的に一般家庭の食生活へ取り入れられる
時代を迎えている。 

 中食市場の75%を占めていたパーソナルユース市場に対してホームユース市
場の伸長は、 今後の中食市場拡大のキーポイントとなろう。 

2)ランチからディナーへ

 中食利用は昼食での利用が60%である。 つまり、 職場や学校など家庭外での
弁当代わりに利用されるランチが中心であった。 夕食では30%の利用でしかな
い。 今後はホームユースを対象とするディナーとしての夕食対応中食が求められ
よう。 

3)弁当から惣菜へ

 上述したホームユース化、 夕食対応は惣菜の充実化へとつながる。 弁当に代表
される主食的調理食品が中食市場を牽引してきたが、 成熟化の兆しが予感され、 
食の多様化の進展の中で主食、 副食、 汁物 (飲み物) がボーダレス化しつつある。 
特に、 主食の副食化による惣菜品の開発が要請されるところである。 



フードストアからミールストアへ 

 アメリカで、 ここ数年の間に 「今夜、 何を食べようか」 と悩む人々へ、 その解
決法を提案する 「ミールソリューション」 (食事の解決法) という、スーパーの販
売戦略が台頭してきた。 わが国では、 アメリカのようにスーパー店内でプロのコ
ックが目の前で調理したものを家へ買って帰り食する家庭料理代行 (ホームミー
ルリプレースメントHMR) まではいかないが、 一部の革新的スーパーマーケッ
トにおいて試行錯誤の段階ながら、 メニューの提案、 調理済み食品の強化、 テー
クアウト型商品の強化、 イートイン部門の強化をベースにこの新しい販売戦略が
展開されつつある。 従来の食材供給者から食事サービスの提供者に、 換言すると
フード (食品) ストアからミール (食事) ストアへの変身である。 

 アメリカのミールソリューションを促している要因はアップグレード、 フレッ
シュネス、 コンビニエンス、 ヘルシー、 シズル感、 バリュー価格といわれている
が、 要するにスーパーマーケットでは食事の材料や個々の食品を販売するだけで
なく、 食事そのもの (セットとパーツ) や手早く食事になるもの (2次加工商品) 
に力を入れ始めたということである。 具体的には、 すぐに食べられるready
−to−eatと温め直すだけのready−to−heatそしてパッケージ
に入った完全調理済みのready−to−cookの食品を中心に進んでいる。 

 わが国においても、 早晩この流れが加速していくことは明らかで、 生鮮品を生
鮮品としてではなく、 いかに加工し、 調理して提供していくかが問われる時代を
迎えたといえる。 


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