★農林水産省から 

平成10年度下期の牛肉及び豚肉の需給・価格の見通し

農林水産大臣官房調査課     杉山 喜実


 10年度下期(10月〜3月)の見通しについては、平成10年度農業観測(6月5
日公表)を補完するため、畜産物需給動向検討会を開催し、「鶏肉及び鶏卵」を
10月6日、「牛肉、豚肉及び牛乳・乳製品」を10月28日に公表したところであり、
今回、これらのうち牛肉及び豚肉について、その内容を簡単にご紹介したい。

  なお、本文中の変動の幅を表す用語は次のとおりであり、特に断り書きのない
限り前年度(前年同期、前年同月等)に対するものである。

[変動の幅を表す用語]

 わずか‥‥‥‥‥‥‥‥‥± 2 %台以内
 や や‥‥‥‥‥‥‥‥‥± 3 〜 5 %台
 かなり‥‥‥‥‥‥‥‥‥± 6 〜15%台
  かなりの程度‥‥‥‥‥± 6 〜10%台
  かなり大きく‥‥‥‥‥±11〜15%台
 大 幅‥‥‥‥‥‥‥‥‥±16%以 上


1 牛肉

消 費

 高い伸びで増加してきた牛肉の1人1年当たり消費量は、8年度は、狂牛病問
題やO157による集団食中毒の影響等により減少(7.2%減の7.7kg)したが、 9 1
年度には回復し3.8%増の8.0kg、10年度( 4 〜 8 月)は3.1%増の3.5kgとなっ
ている(図 1 )。

 また、消費量の動向を家計消費と加工・外食等消費に分けてみると、9年度は、
家計消費が2.2%増の3.3kg、加工・外食等消費が4.9%増の4.7kgとなっており、
10年度( 4 〜 8 月)は、家計消費が1.8%減、加工・外食等消費が6.3%増とな
っている。家計消費については、昨年秋以降景気後退の影響から伸び率が鈍化な
いし前年を下回っている。一方、加工・外食等消費については、調理食品需要が
堅調であること等からおおむね前年同月を上回っている。

◇図1:牛肉の1人当たり消費量◇
(消費形態別の動向)
(月別の動向)

 なお、家計消費の動向を代表的な地域(関東、近畿)でみると、縮小傾向とな
っていた牛肉消費の地域間格差は、8年に拡大しており9年以降も7年に比べ格
差は拡大している(図 2 )。

◇図2:家計消費における牛肉消費の地域間格差◇

 10年度下期の牛肉の消費量の見通しは、前年同期並みないしわずかに増加する
と見込まれる。

 消費形態別には、家計消費は、景気低迷による家計需要の減退が継続するとみ
られることから、わずかに減少すると見込まれ、加工・外食等消費は、調理食品
等の需要が堅調とみられるものの、景気低迷の影響により伸び率は鈍化するとみ
られることから、わずかないしやや増加すると見込まれる。


供 給

ア 国内生産

 成牛の枝肉生産量は、7年度以降減少したが10年度( 4 〜 8 月)は増加して
おり、0.4%増の21万3,600トンとなっている(表 1 )。

 また、枝肉生産量の動向を肉用種と乳用種に分けてみると、肉用種は、肉用子
牛の価格動向を反映し変動しており、 71年度、 8 年度は減少したが、9年度は
2.2%増、10年度( 4 〜 8 月)は1.5%増となっている。一方、乳用種は、生乳
生産の動向等を反映し減少傾向で推移しており、 8 年度、 9 年度はかなりの程
度減少したが、10年度( 4 〜 8 月)は乳用肥育おす牛の1頭当たり枝肉重量が
2.2%増となったこと等もあり0.5%減にとどまっている。

表 1 牛肉の生産量

 資料:農林水産省「食肉流通統計」

 なお、最近では、酪農家において初産の難産防止や、乳用種初生牛と交雑種初
生牛の価格差により所得の確保等のために交雑種(乳用牛と和牛の交雑種)の生
産が増加しているものとみられる。このため、乳用種の飼養頭数や食肉卸売市場
の取引頭数に占める交雑種の割合が高まる傾向にある(図 3 )。

◇図3:交雑種の生産動向◇
(飼養頭数、出荷割合)
(初生牛価格)

 10年度下期の成牛と畜頭数の見通しは、肉用種は、子牛の生産動向(出荷時月
齢の約30か月前、8年4月〜9月)等からみて、わずかに減少すると見込まれる。
乳用種は、子牛の生産動向(出荷時月齢の約22か月前、8年12月〜9年5月)や
生乳の生産動向等からみて、わずかないしやや減少すると見込まれる。この結果、
全体の成牛と畜頭数は、わずかに減少すると見込まれる。

 また、成牛の枝肉生産量は、こうした成牛と畜頭数の動向から、わずかに減少
すると見込まれる。

イ 輸 入

 高い伸びで増加してきた牛肉の輸入量は、8年度は、狂牛病問題やO157による
集団食中毒の影響等により減少(7.2%減の61万1,200トン)したが、9年度は増
加し7.8%増の65万9,000トン、10年度(14 〜 8 月)は6.4%増の32万1,400トン
となっている(表 2 )。

 また、輸入量の動向を冷蔵品と冷凍品別に分けてみると、冷蔵品は、家計需要
等の動向を反映しており、9年度は5.2%増、10年度( 4 〜 8 月)は0.8%減と
なっている。一方、冷凍品は調理食品需要等の動向を反映しており、9年度は10
.7%増、10年度( 4 〜 8 月)は12.8%増となっている。

表 2 牛肉の輸入量

 資料:大蔵省「日本貿易統計」
  注:1)冷蔵品割合=冷蔵品/(冷蔵品+冷凍品)×100
    2)輸入量の合計には、冷凍肉、冷蔵肉に加え、煮沸肉、ほほ肉、
      頭肉が含まれる。

 10年度下期の牛肉の輸入量の見通しは、消費量が前年度並みないしわずかに増
加するとみられるなか、国内生産量がわずかに減少するとみられることから、わ
ずかに増加すると見込まれる。このうち、冷蔵品はわずかに減少すると見込まれ、
冷凍品はやや増加すると見込まれる。


価 格

 省令規格の枝肉卸売価格(去勢牛B−13 、B− 2 規格の東京、大阪市場の加重
平均)は、 7 年度後半から上昇に転じており、 8 年度以降は安定上位価格を上
回って推移している。10年度( 4 〜 8 月)は、家計需要が減退していることか
ら前年同期を下回って推移しており、6.3%安の1,120円/kgとなっている。

 また、規格別の枝肉卸売価格(東京市場)を去勢和牛と乳用肥育去勢牛に分けて
みると、去勢和牛は、8年度は中位規格(肉質等級「3」、「2」などの規格)を
中心に上昇しており、 9 年度以降はA−15、A− 4 、A− 3 規格は前年同期並み
ないし前年を上回って推移しているが、A− 2 規格は家計需要の減退等から前年
同期並みないし前年同月を下回って推移している。一方、乳用肥育去勢牛は、81
年度は狂牛病問題等を背景とする国産指向の高まりもあってかなり上回ったが、
19年秋以降は家計需要の減退等もあって伸び率が鈍化ないし前年同月を下回って
推移している。

 10年度下期の牛枝肉の卸売価格(省令規格)の見通しは、景気低迷により家計
消費がわずかに減少すると見込まれる一方、国内生産量及び冷蔵品輸入もわずか
に減少すると見込まれること等から、ほぼ前年同期並みになると見込まれる。


2 豚肉

消 費

 1人 1 年当たりの豚肉消費量は、ほぼ横ばいで推移してきたが、8年度は1.3
%増の11.6kg、9年度は、牛肉消費の回復等から、2.7%減の11.3kg、10年度(4
〜 8 月)は1.4%増となっている(図 4 )。

 また、消費量の動向を家計消費、加工・外食等消費に分けてみると、9年度は、
家計消費が小売価格の上昇等もあり1.2%減の4.7kg、加工・外食等消費が3.7%減
の6.6kgとなった。10年度( 4 〜8 月)は、景気後退により牛肉の家計需要が弱
まる一方、相対的に価格の安い豚肉の家計消費は2.3%増となり、加工・外食等消
費は0.9%増となっている。

◇図4:豚肉の 1 人当たり消費量◇
(消費形態別の動向)
(月別の動向)

 なお、家計消費の動向を代表的な地域(関東、近畿)でみると、縮小傾向とな
ってきた地域間格差は、8年以降は縮小傾向に歯止めがかかり横ばい傾向となっ
ている(図 5 )。

◇図5:家計消費における豚肉消費の地域間格差◇

 10年度下期の豚肉の消費量の見通しは、前年同期並みないしわずかに増加する
と見込まれる。

 消費形態別には、家計消費量は、景気低迷による牛肉の家計需要の減退等の影
響から、前年同期並みないしわずかに増加すると見込まれ、加工・外食等消費は、
加工品需要が回復していること等から、前年同期並みになると見込まれる。


供 給

ア 国内生産量

 豚枝肉の生産量は、近年、減少傾向で推移してきたものの、9年度は、7年度
以降の堅調な卸売価格等を背景に子取り用めす豚頭数の減少率が縮小したことに
加え、PEDの集団発生がみられなかったこと等もあり、2.0%増の128万8,000トン
となった。10年度( 4 〜 8 月)は、主産地での子取り用めす豚頭数の減少に歯
止めがかかったことを背景に、0.4%増の50万8,900トンとなっている(図 6 )。

◇図6:豚肉の主要生産地域別子取り用めす豚頭数◇

イ 輸 入

 豚肉の輸入量は、国内生産量の減少等を反映して増加傾向で推移してきたが、
19年度は、期首在庫量が高水準であったこと、口蹄疫の発生に伴い台湾産豚肉の
輸入が禁止されたこと等から、冷蔵品が23.4%減、冷凍品が21.5%減となり、全
体では22.0%減の51万7,500トンとなった。10年度(4〜 8 月)は、需要動向等
を反映した輸入が行われており、冷蔵品が16.5%増の6万3,600トン、冷凍品が28
.9%減の16万5,000トンとなっている(表 3 )。

表 3 豚肉の輸入量

 資料:大蔵省「日本貿易統計」
  注:冷蔵品割合=冷蔵品/(冷蔵品+冷凍品)×100

 10年度下期の豚肉の輸入量の見通しは、消費量が前年同期並みないしわずかに
増加、国内生産量が前年同期並みになると見込まれるなかで、10年度上期と同様
に比較的需要に見合った輸入が継続すると見込まれ、9年度下期の期首在庫量が
高水準にあり輸入量が減少した前年同期に比べて大幅に増加すると見込まれる。
このうち、冷蔵品はわずかに増加すると見込まれ、冷凍品は大幅に増加すると見
込まれる。


価 格

 豚枝肉の卸売価格(省令規格(極上、上規格の東京、大阪市場の加重平均))
は、 71年度以降、国内生産量の減少等からおおむね堅調に推移してきた。 9 年
度は、台湾産の輸入禁止に伴う冷蔵品輸入が大幅な減少となったものの、消費量
がわずかに減少したこと、国内生産量の増加等から、0.8%安の485円/kgとなっ
た。10年度( 4 〜 8 月)は、 8 年度、 9 年度に比べ比較的安定した季節変動
を伴って推移しており、前年同期に比べ9.5%安の507円/kgとなっている(図7)。

◇図7:豚枝肉の卸売価格(省令規格)◇

 10年度下期の豚枝肉の卸売価格(省令規格)の見通しは、消費量が前年同期並
みないしわずかに増加、国内生産量が前年同期並みになると見込まれるなかで、
需要に見合った輸入が継続すると見込まれること等から、前年同期並みになると
見込まれる。



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