★ 事業団から


ある乳オス肥育経営の挑戦−国産品に求められるもの−

総務部 安井 護


初めての牛肉の産直

 「こんなに評判が良いとは思わなかった。期待以上です」
 今年8月、宮城県内に43店舗を展開するみやぎ生協では、乳オスの産直販売を
スタートさせた。生鮮部畜産担当の丹野潤一さんは、初めて手がけた牛肉の産直
が上手くいっていることに満足気である。

 みやぎ生協では、産直について、生産物を産地から直接持ってきて、安く販売
することだけでなく、「顔と暮らしの見える産直」を合言葉に、消費者と生産者
がお互いに顔を知り、交流して行く関係を重視している。

 豚肉と鶏肉は、既に県内農家との産直体制が整っており、産直が大きなウェイ
トを占めている。牛肉についても、産地、農場を指定し、生産物を通して組合員
と生産者が交流できる産直が、組合員から求められていた。そして、始まったの
が、乳オスの「函館大沼牛」の産直である。

 このレポートでは、函館大沼牛という銘柄牛の生産から販売までの一連の流れ
(ビーフ・チェーン)を追いながら、国産品に求められているものは何かを考え
てみたい。
乳オスのポジション

 日本の牛肉市場の中で、乳オスはどのような位置を占めているのだろうか。各
種の牛肉がマーケットで占めるポジションをイメージしてみた。価格を縦軸に、
品質を横軸にとると、乳オスはちょうど全体の中間の大衆牛肉と位置づけられる。
牛肉の輸入自由化以降、この大衆牛肉のマーケットは、急激に拡大してきたもの
の、安価な輸入牛肉の出回り量増加は、乳オス価格の押し下げ要因として働いて
きた。

 一方で、F1の量的拡大がある。大衆牛肉のマーケットの中で、輸入牛肉との
差別化を進めるためには、より高品質の牛肉が必要となってきた。その「上位大
衆牛肉」とでもいうべきマーケットに狙いを定めるF1は、このところ品質が安
定し、マーケットの評価を得るとともに、量的にも拡大してきている。

 このように、乳オスは、上はF1に頭を押さえられ、下は輸入牛肉に押し上げ
られているのが現状である。



3,200頭の乳オス肥育

輸入自由化を乗り越えて

 函館の北約30キロメートル、北海道七飯町。駒ヶ岳のふもとで3,200頭の乳オス
を肥育する小澤嘉徳さん(55歳)が、肥育経営を始めたのは今から24年前の昭和
49年である。その50年前に父親から酪農経営を譲り受けたが、「将来、食生活が
変化し、牛肉が伸びる」と考えての経営転換だ。60年に法人化。このときの肥育
頭数は460頭である。



 大きな転機は、63年の牛肉の輸入自由化決定である。この時期、小澤さんはさ
らなる規模拡大を計画していた。周囲では、自由化後の乳オス肥育について悲観
論が強く、融資もままならなかった。しかし、小澤さんは米国へ研修に行き、「日
本人の口に合うものさえ作れば、輸入牛肉に十分対抗できる」と実感し、牛舎の
増築を進める。

 このとき融資を断られたことが、その後の経営に大きな影響を与えた。「今に
見ていろ、絶対に成功してやる」との強い決意である。

 それが実現するには長い時間はかからなかった。4年後には前回の借金を返済
し、自宅近くに土地を購入し、新しい牛舎を建ててしまったのである。枝肉は下
がった。しかし、素牛も下がったので、その素牛を低コストで肥育すれば、「ち
ゃんともうかった」のである。(この間の経緯については、レポート「原価を安
くすれば、必ずもうかる−北海道小澤牧場の挑戦」平成 8 年 9 月号を参照)

 その後も、離農者の牛舎を買い取ったり、賃借したりして、順次、経営を拡大。
現在の肥育頭数は3,200頭、今年中には3,450頭に、将来的には4,000頭の計画であ
る。


どのように売るか

 小澤さんの成功の鍵を前回のレポートでは「三つの秘密」として紹介した。一
つはいい素牛。育成経営と連携し、粗飼料多給で胃袋のしっかりした素牛を作っ
てもらっている。二つ目は購入飼料費の削減で、規模のメリットを最大限に生か
している。三つ目は豊富な自給飼料基盤。110ヘクタールの草地では牧草とデント
コーンを作り、主にサイレージにして給与している。粗飼料の8割は自家生産で
まかなっている。

 この粗飼料が、小澤牧場で肥育される乳オスの大きな特徴である。肥育段階で
も、良質の粗飼料をたっぷりと与えている。粗飼料を切らさぬことが小澤牧場の
牛作りのポイントである。お邪魔しているとき、飼槽にサイレージが切れている
のを見つけると、小澤さんはすぐにフォークを持って作業を開始した。後で「草
は大事なので、切らさぬように」と、社員に指示する。ちなみに社員は小澤さん
以外に 4 人だけ。一人で1,000頭の牛を見る体制にしなければ、とてももうかる
経営はできないという。

 

【肥育中でも、ふんだんに粗飼料が給与される】
 「三つの秘密」にもう一つ付け加えれば、優れた経営者感覚を挙げることがで
きる。それは、現在の経営の全般的な管理、プラス先を見る目である。先を見ず
して、経営は成り立たない。酪農から肉牛への転換は、将来の日本人の食生活の
変化を見通したことがきっかけであった。輸入自由化も、生産物の差別化で乗り
切れると考えた。

 そして、今、大衆牛肉のマーケットが大きく拡大した中で、どう対応するのか。
それは、生産するだけでなく、生産されたものを誰に、どのように売るのか。そ
して、出てきた答えが、銘柄牛である。
乳オス肥育のポイント

 (社)北海道酪農畜産協会の小野地一樹氏は、今後の乳オス肥育経営における
経営展開のポイントとして次の4点を挙げている。(「肉牛ジャーナル」平成10
年 9 月号)

@肉質重視から増体重視へ

 サシの入りにくい乳用種の特長を生かし、採算の合う出荷月齢を。肉質はF1
に任せる。

A定時定量・定品質の出荷体制

 スポット取引はダンピング材料。低価格と安全性も重要。

B徹底した生産原価の削減

 徹底した費用削減と出荷回転率の向上による1頭当たり生産原価の低減。

C企業的経営感覚

 億単位の取引を扱う経営管理能力と中長期の経営計画の策定と実行。
銘柄牛の販売へ

 3年前に小澤牧場で育てた牛を「はこだて大沼牛」として商標登録し、去年か
ら銘柄牛としての販売が本格化してきた。首都圏でもいくつかのスーパーが扱っ
ている。

 なぜ、銘柄牛に取り組むのか。それは、消費者に自分が作った牛肉を自分の名
前を付けて届けたいという強い思いからである。小澤が作った牛肉を小澤の名前
で、消費者に届けたいのである。

 思いだけでは、消費者には何も伝わらない。そのためには、生産方法を確立し、
それを明確にし、その情報を的確に消費者に伝える努力が必要である。「どこで、
誰が、どのように作ったものか」をはっきり示さなければならない。「はこだて
大沼牛」の強みは、「たとえ見た目が輸入牛肉と変わらなくても、食べて見れば
必ず違いが分かる」と小澤さんが自慢する味、プラス牛肉の生産過程がはっきり
していることである。

 道内 4 カ所の育成経営で、粗飼料を多給して育てられた素牛は、7カ月齢280
キログラムで小澤牧場に導入される。肥育期間は最近1カ月延ばして15カ月間。
生体重800キログラム、枝肉重量450〜480キログラムで出荷される。肥育は二つの
ステージに分け、最初の5カ月間が育成的肥育、次の10カ月間が仕上げだが、い
ずれのステージでも粗飼料を多給している。

 ほ育育成から、肥育、出荷まで、1頭1頭、同じ耳標で管理されている。だか
ら、万が一に不具合が生じても、問題追跡が可能になっている。このような体制
を組むことは、効率的であることはもちろん、責任の所在がはっきりし、結果と
して消費者に安心感を与えることにもつながるのではないだろうか。


生産物に責任を持つ

 2年前から地元の「JAななえ」の組合長も勤めている。常勤で、昼は農協の経
営者である。朝一番で点在する牛舎をすべて見て回り、7時からのミーティング
で社員に指示を出すと農協に出かける。かなり忙しい社長がなぜ、農協の仕事も
引き受けたのか。小澤さんは、「牧場はある程度基礎ができた。地域の発展、次
の世代のために、今、やっていくことがあるから」という。

 JAななえは、コメの減反を野菜、花きで補おうとしている。農薬に頼らない土
づくりを目指しており、小澤牧場のたい肥も、畑に還元されている。

 野菜の生産で、こんな話を聞いた。色々な指導をしても、生産者によって品質
にばらつきが出てくる。それでは、JAななえの生産物の品質が維持できない。そ
こで、生産物の段ボール箱に従来の生産者番号に加えて、生産者名を入れるよう
にした。かなりの抵抗があったらしい。しかし、「自分の生産物に自信を持って
欲しい。生産者は作るプロ、農協は売るプロ。だから、自信を持って売らせて欲
しい」と説得した。結果、品質はアップし、販売価格も安定したという。「農協
経営も、会社経営と同じ」と小澤さん。

【牧場、そして農協の経営者、小澤嘉徳さん】


素牛は肥育の注文に応じて

いい素牛を作るには

 素牛の大切さを力説する小澤さん。小澤牧場に優良な素牛(ホルスタイン種去
勢牛)を供給する育成経営の一つ、秋川牧場は、日本最北端の稚内市から南へ約
80キロメートル、酪農地帯の歌登町にある。町内には酪農経営64戸、経産牛2,68
0頭、ほ育・育成経営は 4 戸ある。

 「いい粗飼料をたくさん与え、丈夫な胃袋を作ることが大事」と、秋川祥雄さ
ん(50歳)は、素牛の育て方のポイントを力説する。

【良質の粗飼料が、いい素牛の秘けつ】
 乳オスのほ育・育成は、お父さんが20年前に養豚経営から切り替えたものであ
る。13年前には、町内の別の場所で酪農を経営していた秋川さんが、酪農を止め
て、合流する。

 秋川牧場の飼養頭数は常時500頭。出荷は、6カ月齢、300キログラムで、年間
1,000頭の出荷となる。そのうち、約800頭が小澤牧場に引き取られていく。

 ヌレ子の選定と買い入れは、地元のJA歌登に委託している。以前は、自ら選畜
していたが、良くないヌレ子でも、知り合いだと断りにくい。手数料を払っても
JAに頼んだ方がやりやすいそうだ。風邪をひいていたり、下痢や足の具合の悪い
ヌレ子は、後で十分に育たないので買わない。酪農家が「もうちょっとヌレ子に
手をかけてくれれば、良くなるのだが」と秋川さん。分娩後、1週間で出荷し、
値段も 1 万円を割る現状では、それは無理のようだ。

 30ヘクタールの草地では、チモシーを3 回刈りし、ほとんどをロールベールラ
ップサイレージにして利用している。経営の主眼は、良質の粗飼料を多給するこ
とにつきる。

 40× 3 列、合計120の手作りのカーフハッチには、敷料兼飼料として2番草を
短く切って敷いておく。すると、1月後にハッチから出す頃には、結構、草を食
べるようになる。厳しい冬でも、ハッチの入口に雪よけの板を張り付けるだけで
ある。「牛を見るのが仕事」という秋川さんは、朝夕の給じ時に牛を注意深く見
て回る。事故率はずっと 1 %未満である。

 粗飼料多給の育成だと、 6 カ月齢でも、生体重300キログラムを超えることは
なく、280キログラム程度である。出荷時に他の牧場の牛と比べると「かなりやせ
て見える」そうだ。

 

【手作りのカーフハッチ】
情報のフィードバック

 秋川さんが、このような牛の飼い方をするのは、小澤さんの「注文」だからで
ある。肥育段階で十分に牛の能力を発揮させるためには、内臓を強くし、骨組み
のがっしりした素牛が欲しい。また、健康な牛でなければならない。そのために
は、濃厚飼料を抑え、良質の粗飼料を十分に与えることが必要である。見た目だ
けが良い素牛はいらないのである。

 秋川さんと小澤さんの素牛の取引はJAを経由して行われるが、選畜は、毎月、
小澤さんが自ら、トラックを運転して、函館からやってくる。「選畜は一番大事
な仕事。これだけは他人には任せられない」。言われてみれば、当たり前だが、
大事な「原料」、それも 1 頭、 1 頭全て異なる素牛の仕入れを、自分で見もし
ないで決めるということは、経営に責任を持っていないことになるのかもしれな
い。

 秋川さんが自信を持って育てた素牛だが、毎回数頭は、小澤さんが持っていか
ないのもある。いい素牛の条件は、健康で、背がまっすぐで、肋に張りがあるこ
とだ。なぜ、不出来の牛ができたのか、どうすればよいのか、二人で話し合い、
問題を解決していく。牛舎は、20年以上前の旧豚舎も利用している。最近建てた
二つの牛舎には、小澤さんのアイデアが随所に生かされている。天井には、敷料
を乾燥させるための扇風機が設置されているが、その位置、強さもいろいろと試
してみた結果である。

 北海道でもF1の生産が増えている。秋川さんは「小澤さんがF1に変えれば、
自分も変える」という。秋川さんは、小澤さんを通して、マーケットの情報をつ
かみ、それを自分の経営に反映させている。マーケットがF1を強く求め、小澤
さんが進路を変えれば、秋川さんもそれに従うようだ。「農業には創意工夫が何
よりも大事」という秋川さんは、これからもマーケットの動きに的確に対応して
いくだろう。

【「農業は創意工夫」と秋川さん(中央)】


顔と暮らしの見える産直

産直を求める声

 小澤牧場の出荷牛(10年度計画2,000頭)の内、約半分が銘柄牛として販売され
ている。銘柄牛として出荷される中で、最も多いのが宮城県のみやぎ生協で「コ
ープ産直函館大沼牛」の名称で販売されている。

 みやぎ生協は、「顔と暮らしが見える産直」を目指している。消費者と生産者
が交流しやすいように、県内の農業、特に家族経営を支援したいので、県内産直
が中心となっている。豚肉と鶏肉は、既に県内の農家と産直体制を組んでいる。

 牛肉の産直は、今回が初めてである。産直を始めるまでの牛肉の種類別販売シ
ェアは、県内産和牛:乳オス:輸入牛肉=3:3:4であった。乳オスは、「十
勝産牛」という名称で販売していたが、産地、農場の指定はできず、十勝地方で
生産された牛肉という意味であった。仕入先が複数であることもあり、品質が一
定しないという大衆牛肉としては大きな問題があった。

 一方で、組合員からは牛肉についても、「どこで、誰が、どのように作ったも
のか」、はっきり分かるものが強く求められている。宮城県内だと、まず和牛が
候補に挙がるが、和牛は価格が高めだし、また、一定頭数を集めようとすると農
場指定も難しい。県内産で乳オスは、頭数が集まらない。「F1は、品質の安定
性にまだ不安が残り、また、商品政策上どう位置づけるのか、和牛との区別が難
しい」と畜産担当の丹野さんはいう。

 色々と候補を探していくうちに、10年近く野菜の産直をやってきたJAななえの
組合長小澤さんにたどり着いた。産直に踏み切った理由として、丹野さんは次の
点を挙げている。

・農場が一カ所で、どこの誰がどのように作っているかが、はっきり分かること
・生産方法がしっかりしており、信頼できること
・農場指定してもみやぎ生協の規模であれば、供給不安が無いこと
・県内ではないが、野菜の産直で実績があり、生消交流にも大きな支障が無いこと
・たい肥を耕地還元し、できた野菜を産直で購入していること

 

【パンフレットで生産情報を提供】
味が良い、「意外」な評価

 函館大沼牛導入後の種類別の販売シェアは、和牛:乳オス(函館大沼牛のみ)
:輸入牛肉=15:57:28と、乳オスの比率が非常に高くなっている。50%が目標
だが、導入期なのでやや割合が高くなっているようだ。生協全体で1カ月に40頭
程度扱っている。(訪問した同生協黒松店(仙台市北部)の精肉売場では、牛肉
の販売スペースのうち、半分が函館大沼牛で占められていた。)

 函館大沼牛の実際の評価は、どうだろうか。丹野さんによれば、ミートセンタ
ーで部分肉のスライス、パック作業をしている人の評価は、品質が安定し、肉色
がよく、スライスした後も鮮度が保たれると、高いそうだ。

 組合員の組織で、食肉の販売政策を検討する食肉委員会では、産直取扱開始前、
2 回の試食会を行った。そこでの評価も、肉に甘みがある、もものステーキでも
柔らかいと、高かったそうである。丹野さんは、「正直に言って、しょせんホル
スと思っていたので、品質が安定していればいい。味が良いという評価が高いと
は思いませんでした」と驚く。生協の職員でも、食べてみて、悪く言う人がいな
いそうである。同じ農場、同じ飼い方で、品質が安定するだけでなく、小澤さん
は、飼料のデントコーンの刈り入れ時期にまで細かく気を配っており、そういっ
た飼育管理のきめ細かさの一つ一つがいい味につながっているのかも知れない。
東京に戻り、駒ヶ岳のふもとで育てられる牛の写真を見ながら「健康な牛がおい
しいんだ」、小澤さんの言葉を思い出した。

 

【駒ヶ岳のふもとに広がる小澤牧場の肥育牛舎】
物の流れと情報の流れ

 素牛生産の秋川牧場、肥育の小澤牧場、販売のみやぎ生協と3者が、函館大沼
牛でつながった。このつながりは、物の流れだけではない。

 消費者は何を求めているのか、消費市場はどう変化しているのか、そういった
情報が、みやぎ生協から小澤牧場へ、小澤牧場から秋川牧場へと物の流れとは逆
に伝わっていく。その情報に的確に対応し、消費者が求める生産物を提供してい
くことが重要である。

 日々激しく変化する金融市場ほどではないにせよ、畜産物の消費市場も変化し
ている。その変化は、制度・政策の変更による場合もあれば、消費者の志向の変
化、経済情勢の変化による場合もある。消費市場からの情報のフィードバックが
的確に行われなければ、産直が持つ意味は薄れてしまう。

 今は、まだ始まったばかりで、お互いに良い緊張関係にある。この緊張関係の
持続を忘れてはならない。「産直はその関係を取り結ぶとき、双方に多大なエネ
ルギーを要求するが、その関係を持続するためにも不断にエネルギーを必要とす
る取引形態である」(「畜産物における産直商品の開発と需要拡大に関する研究」
東京農工大学助教授 野見山 敏雄)

小澤牧場を中心とするビーフチェーン



「銘柄」の意味は

 小澤牧場は、「はこだて大沼牛」という銘柄を掲げて、牛肉マーケットに直接
乗り込んでいった。

 輸入品の出回り拡大とともに、牛肉に限らず、豚肉、鶏肉でも、多くの銘柄が
新たに作られてきた。中には、銘柄はできたが、生産量がごくわずかなもの、品
質が一定でないもの、隣が新しい銘柄を作ったからとりあえず作ったものなども
あるかもしれない。

 新しい銘柄がマーケットで受け入れられ、広く認められるには多くの努力と歳
月が必要である。しかし、初めから全国区を目指す必要は全くない。ましてや、
銘柄の宣伝だけに一生懸命になる必要もない。銘柄とは何かを考えてみよう。そ
れは、「どこで、誰が、どのように育てたものか」についての情報である。高級
品というイメージを伝えるものではないし、ましてや、高く売るためのものでは
ない。的確な情報提供が、銘柄成立のための第一歩であろう。

 銘柄牛「はこだて大沼牛」は、北海道七飯町の小澤牧場が、道内4カ所の農場
から購入した素牛を粗飼料多給で肥育したものである。その飼養方法も明確にし、
消費者に伝えている。だからこそ、消費者は安心して購入してくれる。もちろん、
それだけに供給側の責任も重くなる。

 輸入品が身近になった現在、国産品に求められるのは、消費者に、「どこで、
誰が、どのように育てたものか」という情報を正確に提供することであろう。提
供する生産物がその情報通りということは当然である。そして、その生産物のフ
ァンを作っていくことである。

 このようなことは、小澤牧場にしかできないことだろうか。そんなことはない。
規模が小さければ小さいなりのやり方があろう。自分の生産物のファンを作るた
めにも、生産サイドの情報を的確に消費サイドに伝えていくことが何よりも重要
である。そうすれば、消費サイドの情報もきちんと跳ね返ってくる。

 生産物と情報のキャッチボール、楽しそうではないか。

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