鳥取県/山崎 和夫
雄大な自然が広がる県境に立つ蒜山三山の麓、東伯郡関金町の一番奥に位置す る笹ヶ平。標高670メートル、夏場も冷涼で、冬は牛舎がすっぽりと雪に埋まる。 この開拓地で、和牛の繁殖経営に励む元気なお母さん岡田よしみさんがいる。 岡田さんの父は、昭和30年、香川県三豊郡の仲間13戸と入植。開拓団として営 農に精を出し、里芋、陸稲、しいたけ等を作り、火山灰土壌の改良のため、3、 4 頭の和牛を飼養していた。 しかし、耕地も少なく、不便な立地のため、徐々に離農が進み、今では岡田さ ん一家だけとなった。 岡田さんは町へ働きに出るご主人、中学生の息子さん、母の4人家族。娘さん 2人は町営住宅でOL暮らしだ。 父の跡を継いだ岡田さんは、昭和60年頃から、4頭の繁殖牛飼育を規模拡大し 始めた。公社営畜産基地建設事業で牛舎 22 棟、堆肥舎1棟を建設、今では和牛 繁殖牛34頭、子牛25頭を飼育する、県下で十指に入る繁殖経営を行っている。 住居に隣接する1haの放牧地では、牛が陽光をさんさんと浴び、のんびりと草 をはんでいる。 岡田さんは、「良い子牛がたくさん生まれないともうけになりません。健康に 育てて分娩率の向上を図っています。飼料の給与には特に気を使っています」と 語る。 6 〜10月の間は、 6 haある採草地から毎日、軽トラック2台分の青草を 刈り取り、経産牛 1 日 1 頭当たり、青草15.0kg、乾草3.5kg、ふすま1.5kg、配 合飼料2.0kgの割合で給与している。また11月〜5月の間は、乾草3.0kg、稲わら 3.0kg、ふすま1.5〜2.0kg、配合飼料2.0kgの給与を行う。 事故防止のため、除角を励行し、牛同士のけんかも防いでいる。 和牛には適期の種付けが大切な作業になることから、平成 7 年 2 月には、県 畜産試験場で 1 ヵ月間の研修を終了し、人工授精師の免許を取得した。 トラクター2台を所有し、マニアスプレッダー(たい肥を圃場に散布する機械) をはじめ作業用機械も使いこなす頼もしい元気なお母さんだ。 牛は自家産の保留を主体にし、年に1頭を目安に優良牛の導入を図っている。 岡田さんは日帰りの研修や視察にも欠かさず出席し、技術、情報は詳細に勉強し ている。特に系統交配については高度の識見の持主である。販売する和子牛につ いては、父に鳥取・気高系(高森)、島根・第7糸桜系(糸北鶴)、母の父に島 根・第7糸桜系(糸北鶴)や鳥取・気高系(気高富士)を用いており、増体を重 視している。販売価格はめす・おす平均で35〜36.3万円程度である。 離農跡地を利用し、低コスト高品質生産に挑む牛飼いの女性に幸あれとエール を送るものである。