高知県/小松 誠祐
高知県は、県下の83.6%を山林が占めており、多くの棚田がある。この棚田を 活用した放牧に取り組んでいる一農家を紹介する。 安芸郡奈半利町は、高知市から東へ約60kmに位置し、南は太平洋に面し、海岸 部では漁業、山間部では、農林業が中心の地域である。棚田を活用した牧場は標 高210m、太平洋に臨む南向き斜面に位置し、温暖な自然環境にある。この牧場を 経営しているのは、安部秀夫さん(62)で、70aの棚田に芝草地を造成し、5頭 の土佐褐毛和種を放牧している。安部さんは、土佐褐毛和種の繁殖のほかに、米 やみかんを作る複合経営を行っているが、以前から、繁殖牛の放牧場を造成する ことを考えていた。しかし、新たに、造成するには、多くの費用がかかるため、 この70aの連続する棚田に着目した。活用しようとしたきっかけは、畦の野芝の 茎(ランナー)が棚田の中に伸びてきていることを見て、芝草地化を思い立った のである。この棚田は15枚からなり、10枚は芝にせず、イタリアンライグラス等 の牧草を栽培し冬用の飼料として利用しているが、他はすべて芝草地としている。 山林等を芝草地として造成するためには、芝のポットを埋めたり、地形的に除草 作業も難しいなど、かなりの手間がかかるが、棚田は肥土部分が多いため、芝の 定着および成長が非常によく除草作業も容易であり、 3 年で完成した。 放牧牛の飼料給与は、夏場には、 1 日1頭当たりふすま、米ぬか各1kgを、分 娩後の母牛にはこれらの他に大豆かすを少量追加する程度である。繁殖成績につ いても非常に優れており、育成牛を除いた 4 頭すべてが 1 年1産を達成してい る。芝草地化した棚田は、必要があれば、再び水田に戻すことも可能であり、耕 作放棄地等の活用方法としても、有効であると考えられる。 太平洋が眼下に広がり、緑の芝草地に褐色の土佐褐毛和種が太陽をさんさんと 浴び、のんびりと草をはむ風景は、非常に美しく、農村の景観造りに大いに貢献 している。
【棚田を活用した芝草地での放牧】 |