◎今月の話題


生協活動の原点−作る喜び、食べる喜び−

生活協同組合コープこうべ 常任理事 柳生 宏昭






 最近、ある組合員の集会で「私たちが求めているのは、商品ではなくて、食べ
物よ。」という発言を聞いて、私ははっと目を見開かされた思いがした。日頃、
我々生協職員は組合員の皆さんに喜んで利用していただける鮮度、品質、量目、
単価を実現した商品を提供しようと努力している。しかし、どうも組合員の皆さ
んは、外観的な価値ではなく、消費者として、「食べる側の価値観」で商品を見
ているようであり、私たち職員の考えていることとの間にズレが生じてきている
のではないかと疑問を感じることが多くなってきた。


農産物を商品としてみた場合と食べ物としてみた場合の違いは何か

 中央市場での格付け、値決めが生産者の努力、価値を決定するという方式の中
で、農産物はいつしか、「消費者が食べるもの」から「見た目に美しい買われる
商品」へと変化していった。生産者と消費者は分断され、片や作る人、片や食べ
る人。作る人は農産物をカネにするために血眼になり、食べる人は、健康に良く
て、安全・安心でおいしいものを求めた。もちろん価格もできるだけ安価である
ことを消費者は重要視した。その結果、両者は利害の対立する対象者として存在
してきた。生産者にとって、消費者の存在よりも、市場の担当者の要望事項の方
が商品価値を高め、実質収入を高める上で重要だった。

 しかし、最近、中央市場の担当者の要望事項を最大限に満たしても高値で売れ
なくなってきた。消費者の志向が中央市場の制度の中で十分に反映できた時代は
それで良かったが、今や何かが違ってきている。消費者が欲しいのは、「見てく
れ」から「中身の本物=安全・安心でおいしいもの」に変化してきた。

 その流れはどんどん加速してきているのではないか。


フードプランの取り組みとは

 コープこうべでは「フードプラン」という取り組みを進めている。これはスウ
ェーデンのストックホルム生協の「オルタナティブ フードプログラム」、日本
語訳では「もうひとつの食べ物づくり」=「人と自然にやさしい食べ物づくり」
を参考に、昭和63年から開始した取り組みである。現在、野菜、果物、卵、米、
鶏肉、和牛、養殖ブリ、養殖ダイなど、76産地、134品目、販売金額は45億円とな
っている。組合員自身による普及活動を中心に、生協独自の「安心づくり」の代
表的な取り組みとして認知されてきている。

 この取り組みの特長は、生産者、消費者(組合員)、学識経験者及び生協職員
がチームを作って、ガイドライン(基準)を策定し、それに基づいて試作検証し
ながら商品開発・展開を進めていることだ。例えば農産物では、減農薬栽培、無
農薬栽培並びに有機栽培の基準で農水省のガイドラインに準拠し、かつ、一部で
はそのレベルを超える内容で実施している。

 最近開発デビューした「フードプラン鹿児島黒毛和牛」は3年の歳月をかけた。
1年目は消費者10数名、学識経験者(兵庫県畜産試験場の先生)、生協職員で基
礎学習から始め、消費者の不安が解消し安心できるレベルで暫定ガイドラインを
策定し、2年目は鹿児島県経済連の和牛担当者も入って現地での調査や試験肥育
も含めて研究し、生産者としても「最大限努力したレベル」でガイドラインを完
成した。その後、 3年目に生協の機関組合員の会議と常任理事会で確認後、本年
10月9日にデビューした。牛の健康に配慮し、飼料や肥育方法、薬剤に規制を設
け、排泄物は有機たい肥化し農業の自然循環機能にも配慮した。肉質は不必要な
脂肪を付けないであっさりしたおいしさを追求した。デビュー時の組合員(消費
者)からの人気は上々。


消費者の「気付き」は生産者の「喜び」へ、そして互いの「喜び」へ

 フードプランの取り組みでは生産者と消費者(組合員)が交流することを条件
としているが、実にこのことの重要性に気付かされることが多い。今年の3月、
生協組合員10数名で九州産地を訪問し産地研修したときの話だが、減農薬で栽培
された大きなタマネギが産地で捨てられている。なぜか。タマネギの生理現象で
「抽苔」(とうだち)したためだった。これを見た組合員が「生産者の皆さんは
これどうしているの。」「真ん中のところが固くなっているので、その部分だけ
捨ててあとは食べています。でも食べきれないので、山の谷間に捨てています。」
「それなら、私たちが一般の組合員さんにそのことを説明して買ってもらうよう
にするわ。私たち自身お店に立って試食普及活動をするわ。」ということになり、
今まで、産地で捨てられていたものが商品として世に出ることになった。この商
品の一部はコープこうべで供給され、値段が安かったこともあって、取り扱った
13店舗では20kg箱10ケースが好評のうちに完売できた。

 消費者は産地の実情を知らないまま、生産者は消費の実態を知らないまま、互
いに勝手なことを言い合っていたが、交流を通じて、お互いを理解することが実
に大切なんだということに気付いた。また、生産者は消費者からの励ましの手紙
をもらった時に、消費者は生産者の真剣な努力を知った時に、互いに感謝・希望・
勇気を感じ、新たなエネルギーがわいてくる。食べ物の産地、安全性、品質そし
て生産方法の特徴などに関する的確できめ細かな情報の交換が、生協活動の重要
なウェイトを占めることを再認識している。

 日本農業の将来に希望が見えるようにするための一歩が、生産者と消費者の交
流を通じた「本物の食べ物作り」の運動だろう。そして生協活動の原点もここに
ある。コープこうべはこの運動を力強く推進していきたいと考えている。

やぎゅう ひろあき  昭和40年滋賀県立短期大学卒業。同年、灘神戸生活協同組合(現生活協同組合 コープこうべ)入所。運営企画部長、生鮮食品部長、地区本部長を経て、平成7 年より現職。

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