★事業団から 

どぎゃんする 21世紀の畜産経営戦略 −畜産振興国際シンポジウム−

企画情報部 安 井   護



 平成9年11月19日、 熊本市で 「どぎゃんする 21世紀の畜産経営戦略」 
と題された畜産振興国際シンポジウムが開催された (主催: (社) 国際農業者交
流協会、 熊本県国際農友会) 。 

 このシンポジウムの目的は、  「世界の動きに着目した企業的な経営者感覚と国
際競争力を備えた畜産農業経営者を育成する」 ため、  「世界の飼料穀物の需給動
向と今後の見通し、 日本向け畜産物の販売戦略について、 研究討議を行い、 21
世紀の畜産経営を展望する」 こと等である。 

 当日は、 全国から約580名が参加し、 関係者の挨拶の後、 米国から招かれた
二人の基調講演が行われ、 次いで、 会場との議論(フロアディスカッション)、 最
後に (社) 国際農業者交流協会 塩飽二郎理事長 (当事業団理事長) の総括講演
が行われた。 ここでは、 基調講演とフロアディスカッションの概要を紹介する。 

 (注) 社団法人 国際農業者交流協会

 昭和63年、  (社) 国際農友会 (昭和27年設立) と (社) 農業研修生派米協
会 (昭和41年発足) が統合して設立された農林水産省と外務省の共管の団体。 
主な業務として1) 農業青年の海外派遣、 2) 開発途上国等海外諸国の農業研修
生の受入れ等を行っている。 


世界の穀物需給の現状と今後の見通し

ウィリアム・マイヤース博士 米国アイオワ州立大学経済学部教授


● 短期見通しのズレの要因

 アイオワ州立大学のFAPRI (食料農業政策調査研究所) では、 毎年1月に
短期、 中長期の世界の農業市場を分析し、 見通しを出している。 

 97年1月に公表した短期見通しは、 その後、 実際の統計とズレが生じた。 通
常、 短期見通しのズレは、 異常気象に起因する。 しかし、 今回は、 主に米国の新
農業政策による影響が大きかった。 つまり、 作付け制限の撤廃により、 価格が低
かったトウモロコシの作付け面積の拡大が見通しを下回ったのに対し、 逆に価格
の良かった大豆の生産が見通しを大幅に上回ったことである。 


●  中長期見通しに影響を与える要因

 中長期に見て、 穀物市場に影響を与える要因として、 気象条件以外では、 1) 
所得の伸び、 2) 人口の伸び、 3) 生産技術、 4) 政策の変更、 がある。 将来を
見通す上で天候は常に不安定な要素であるが、 各国の農業政策がどのようになる
のかが、 注目される。 その主なものは次のとおり。 

1) 穀物の作付け制限を原則撤廃した米国96年農業法の影響
2) 中国とロシアのWTO加盟交渉の行方
3) 99年に開始予定の次期農業交渉の内容
4) EUの共通農業政策 (CAP) 再構築を目指すアジェンダ2000の方向


● 価格変動リスクへの対処

 世界中の農業市場を自由化することは、 同時にこれらの国々の国内市場を不安
定にすることでもある。 これまで、 世界市場から隔離されていた国々では、 世界
的な価格変動が国内の需給にインパクトを与えるだろう。 

 現在、 大幅、 かつ、 継続的な価格上昇や飼料穀物の不足を引き起こすような深
刻な需給不均衡を示す明らかな証拠はないが、 比較的低い在庫レベルが続いてお
り、 過去2年間のような価格変動はあるだろう。 いずれにせよ、 飼料穀物のユー
ザーは価格変動のリスクに対処する方法を身につける必要がある。 


日本向け畜産物の販売戦略

フィリップ・セング 米国食肉輸出連合会 (USMEF) 会長


● 変化する消費者のウォンツとニーズ

 米国に限らずどこの国でも、 消費者のウォンツ (欲求) とニーズ (必要性) は
変化し、 複雑になってきた。 消費者は、 単においしくて、 栄養のある食事以上の
ものを求めている。 消費者の満足感は、 味と値段だけでは得られず、 安全で健康
によいものが、 適切に作られたというだけでなく、 さらに環境にもよいというこ
とまで求めている。 

 現在、 米国で農業を身近に感じて育った人は少なく、 大多数の米国人の家畜に
ついての知識は乏しい。 しかし、 自分たちが食べる食品がどのように生産され、 
加工され、 販売されているかについては、 興味を持っている。 BSEやO−15
7の問題は、 消費者の食品の安全性に関する関心を高めた。 食品の生産者として、 
我々は、 消費者の意見に耳を傾け、 安全で栄養のある食品を生産することは勿論、 
安全性の確保のために我々が行っていることを積極的に伝えていかなければなら
ない。 


● 食品の安全性の確保

 現在、 米国の食肉業界が直面している最重要課題は、 病原菌に対する食品安全
性の確保である。 我々は、 生きた家畜と腐敗しやすい製品を扱っており、 製品が
細菌に汚染される可能性を常に考えていなければならない。 

 HACCPをベースにした食品の安全保証の目標は、  「農場から口に届くまで」 
すべての段階に影響を与えるが、 要は食品の安全を危険にさらす要素をいかに減
らすかである。 

 米国の食肉業界は食品の安全性を改善するために何百万ドルもの投資を行った。 
安全な食品こそが最大の目標である。 


● 重要な食品の追跡可能性

 食品の安全性、 健康という問題は、 世界的な課題である。 金融であれ、 政治で
あれ、 食品安全性であれ、 ニュースに国境はない。 一国の食品安全性の問題が、 
世界中の国々に影響するのである。 だから、 世界中の食肉業界が、 協力してこの
課題に取り組まなくてはならない。 

 世界食肉事務局 (International Meat Secretar
iat) の会長として、 私は、 食肉業界が政府と協力して食品安全システムを改
良するだけでなく、 食品安全に関する協調規約 (a food safety 
harmonization code) を制定し、 実行しなければならないと
思う。 食品を生産するすべてのセクター、 すべての国々が協力して統一した対策
を確立することが必要である。 

 それには、 食肉製品がどこで販売され、 どこで処理され、 どこで生産されたか
追跡できること (追跡可能性:Traceability) が重要となる。 この
トレーサビリティが確立されて初めて、 我々は家畜の生産、 加工、 販売に係る危
険を認識し、 世界中の消費者に対し、 食品の安全性を脅かすリスクを減らし、 そ
してなくすことが可能となる。 


フロアディスカッション


会場からマイヤー教授への質問

 中国の穀物輸入が、 2030年に向けて大きく増加すると見込まれている。 食
生活の変化、 食肉消費量の増大を考えると、 世界の穀物需給に大きな影響を与え
ると考えられるが、 教授が余り心配ないと考える根拠は何か。 

マイヤー教授

 まず、 中国の食肉需要がどれほど増大するのか、 はっきりしない。 WTOに加
盟すれば、 食肉輸入も考慮しなければならない。 レスター・ブラウン (米国の農
業経済学者) は、 5〜6千万トンの不足と予測しているが、 価格上昇を考慮すれ
ば、 不足は、 せいぜい3千万トンであろう。 

 同時に世界の穀物需給を考える上では、 他の生産国の状況も見る必要がある。 
例えば、 旧ソ連中央アジアの国々の収量は非常に低く、 これが向上すれば、 大き
な生産力を持つ。 例えば、 大麦の収量について、 ロシアは1.5t/haに対し
て、 EUは4t/haである。 

会場からセング会長への質問

 米国で和牛肉を生産し、 日本に輸出するというのは本当か。 

セング会長

 日本は特殊なマーケット、 富士山のように、 最高級の和牛肉から安い肉まで幅
が広い。 米国は、 巨大な国内市場向けに、 大衆的な牛肉を、 コストを切り詰め、 
効率的に生産している。 狙っているのは日本の大衆牛肉の市場で、 米企業が和牛
のような高級品を生産、 輸出する考えは持たないのではないか。 対象とするマー
ケットが違う。 


コーディネーター総括


 コーディネーターの富森健助氏 (熊本県農政部経営普及課) が、 次のようにフ
ロア・ディスカッションを総括した。 

・国際市場の中での競争は避けられず、 我々は国際市場を意識する必要がある。 

・日本の畜産を守るため、 食料の安全保障の上からも、 我々には生産する義務が
  あり、 日本型畜産を発展させる必要がある。 

 シンポジウムの後、 開かれたレセプションでは、 参加者が講演者と活発に意見
交換をする姿が見られた。 日本の畜産は飼料の相当量を外国に依存しており、 飼
料穀物の需給動向は、 直接各経営に影響を及ぼす。 その意味で、  「目先の相場が
どうなるかだけでなく、 長い期間で見たときに、 どのような要因によって穀物の
需給が動いていくのかを知ることができ、 非常に有益であった」 という声が聞か
れた。 

 また、 国際化の進展とともに輸入品との競争が激しくなっているが、  「農産物
の輸出大国である米国が、 どのような戦略で対日輸出を進めようとしているのか、 
自分の経営方針を考える上で参考になる」、 「米国が食品の安全性、 衛生管理に非
常に熱心に取り組んでおり、 刺激になった」 との意見もあり、 シンポジウムは所
期の目的を達成し、 成功裏に幕を閉じたようだ。


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