★農林水産省から 

加工原料乳生産者補給金等暫定措置法施行令の一部改正等について

畜産局牛乳乳製品課 補給金制度係長 杉山喜実



1 はじめに


 指定生乳生産者団体制度 (以下 「指定団体制度」 という。)は、 昭和40年に制
定された加工原料乳生産者補給金等暫定措置法 (いわゆる不足払い法) により、 
各都道府県ごとに1つの生乳生産者団体を指定 (以下、 「指定団体」 という。) す
ることとされている。 

 本制度は、 指定団体に加工原料乳に対する生産者補給金の交付を行わせること
により、 生乳の一元集荷体制を確立し、 もって生乳取引の安定と集送乳の合理化
を図るとともに、 経済的な立場の強化と経済合理性をもった乳価形成 (用途別乳
価) 等を行わせることを主な目的としており、 制度創設後30余年において、 生
産・流通コストの低減、 経営規模の拡大、 品質向上等酪農経営の安定、 酪農乳業
の発展に大きく貢献してきた。 

 行政改革委員会の下に設けられた規制緩和小委員会は、 農林水産業分野におけ
る規制緩和に関する論点の一つとして、「生乳の生産・加工・流通に係る規制緩和」 
を取り上げ、 平成8年12月、「活力ある酪農業の発展のための競争条件の整備の
一環として、 指定団体制度について、 その見直しを含め、 同制度の機能・運用の
あり方について検討すべき」 との内容を含む報告書を取りまとめた。 

 これらを踏まえ、 「指定生乳生産者団体の在り方に関する検討会」 (以下 「検討
会」 という。) が、8年12月に農林水産省畜産局長の私的な検討会として設置さ
れ、 生産者・乳業者・学識経験者による合計11名の委員により指定団体制度に
ついて議論が展開された他、 同制度に批判的な意見を持つ生産者の方々や規制緩
和小委員会座長等にも参加していただき、 幅広く、 今日的な指定団体制度の在り
方について検討を行った。 


2 指定団体制度をめぐる事情


生乳の生産

 生乳の生産については、 農家戸数は制度創設時の10分の1の水準となる一方
で、 飼養頭数は約1.5倍に増加しており、大幅な経営規模拡大と酪農専業化が進
展している(図1)。 生乳生産量は制度創設時の343万トンに対し、 平成8年度
には約2.5倍の866万トンとなっている。 

◇図1:酪農経営の動向◇

 また、 生乳生産の地域特化が顕著であり、 上位5県が全国計に占めるシェアは
36%から55%に拡大しており、 北海道が制度創設時の約5倍の水準まで増加
する一方、 都府県については、 全体として約2倍の水準に増加する中で地域間の
格差が拡大する傾向にある (表1)。 

表1 生乳生産の動向

 資料:農林水産省「牛乳乳製品統計」

生乳の取引

 生乳の取引については、 指定団体制度創設以前においては、 都道府県内の多数
の生産者・乳業者との間で個々に行われていたため、 生乳輸送コストの増加を招
いていた。 指定団体制度創設により、 指定団体による一元集荷多元販売へ移行し、 
酪農家及び乳業者との特約関係の解消、 集送乳の合理化等が進展してきた (表2)。 

表2 生乳取引における制度創設以前と現在の状況


 指定団体は、 用途別生乳取引を行うとともに、 乳価プ−ル、 全量無条件委託を
原則としている(図2)。 一方、 近年、 意欲的な生産者の間には、 牛乳のブランド
化、 自己処理による付加価値化等により、 自らのリスク負担においてでも有利販
売に取り組み、 自由に経営を展開しているという動きもみられるところである。 

◇図2:生乳取引における指定団体の役割◇

生乳の流通

 生乳の流通については、 制度創設に伴う一元集荷体制の確立により集送乳路線
の整備が図られたものの、 生乳生産の地域特化、 生乳輸送技術の向上等により、 
県域を超えて広域流通する生乳が大きく増加している(表3、 図3)。 都府県にお
いて、 県外販売が3割以上のシェアを占める指定団体は20に上っている。 

 これら県外販売は、 地域ブロック内が主流であること等から、 生産者団体は地
域ブロック化に向けた取り組みを行ってきたところでもある。 

表3 都府県における受託販売数量の県内・県外販売の変化


◇図3 地域別にみた県内・県外販売の内訳◇

生乳の需給調整

 生乳の需給調整については、 生乳需給の緩和とこれを背景とした価格の低迷に
対処して、 酪農経営の安定を図るため、 昭和54年度から生産者団体が需要に見
合った生乳の計画生産を自主的に実施している(図4)。 生乳の計画生産は、 指定
団体が主体となり、 計画対象が生乳生産量の約95%をカバ−してきたこと等か
ら、 中長期的には需給の安定が図られてきたところである。 

◇図4:計画生産の仕組み◇

 また、 計画生産の下でも、 季節的な需給ギャップや予期せぬ需給変動等による
余乳の発生は不可避であり、 近年における生乳流通の広域化、 産地指定取引の増
加などによって、 大都市近郊のいわゆる市乳地域においても恒常的な余乳が発生
する傾向にある (図5)。 

◇図5:都府県における生乳生産量及び飲用牛乳等向け処理量◇ 

指定団体間の格差

 販売委託農家戸数や生乳取扱数量など指定団体の組織基盤については、 酪農家
戸数の減少、 生乳生産の地域特化等により、 団体間で格差が拡大傾向にある。 ま
た、 生産者の受取乳代水準については、 指定団体ごとの飲用乳価水準、 加工仕向
比率、 集送乳経費、 手数料等諸経費等の格差により、 地域間、 指定団体間でかな
りの格差がみられる (表4、 図6)。 

表4 受託販売生乳数量の格差

 資料:農畜産振興事業団調べ

◇図6:乳代支払いと控除経費の実態◇


農協組織の変化

 指定団体制度は、 農協組織の共販事業を活用することにより成り立っている。 

 指定団体を農協系統別にみると、 総合農協系が19団体、 専門農協系が28団
体 (県酪連19、 県販連2、 県酪農協7) となっている。 総合農協系では合併構
想の早期実現と、 事業二段・組織二段への移行に向けて取り組んでおり、 農協数
は最近10年間にほぼ半減する等、 組織のスリム化が急速に進展している (表6、 
図7)。 専門農協系においては、1県1酪農協を目標としており、 それを既に実現
した県やそれに向けた取組を続けている地域もあるが、 全般的には、 農協間の規
模・資産等の格差、 農協段階での特約取引の存在等により進展していない地域も
みられる (表5、 図7)。 

表5 酪農家戸数及び農協数の推移

 資料:農林水産省「農業協同組合数等現在統計」、「畜産統計」
  注:( )内は61年度を100とする指数である。
図7:指定団体組織と農協再編の動き


3 今後の指定団体制度の方向 (検討会報告)


(1) 指定団体の区域等に関する基本的考え方

 近年における酪農・乳業の生産事情の変化を背景とした生乳流通の広域化に伴
い、 都道府県単位の指定団体制度の下では、 指定団体間の競争という新しい事態
も生じ、 集送乳の合理化や合理的な乳価形成という機能が充分に発揮し難い状況
もみられ、 また、 指定団体が現実に果たしている機能にも格差が拡大している。 

 こうした状況を踏まえ、 指定団体の区域に関する基本的な考え方として、 より
広域的な、 生乳流通の実態に即した方向を目指すべきという点で検討会での、 大
方の意見は一致したところである。 

 一方で、 小さな指定団体を認めるべきとの考え方や、 指定団体の競争条件を整
備する観点から適正な生乳取扱い数量等を設定すべきとの意見も表明されたが、 
このような考え方は現在行われている 「食料・農業・農村基本問題調査会」 にお
いて議論すべき課題として整理されたところである

 このため、 当面は現行制度の考え方を基本として、 都府県においては広域化を
促進することとし、 生産者の創意工夫や自主性を生かすための条件整備や指定団
体機能の在り方の見直し、 運営の弾力化等を図ることにより対処することが妥当
であるとされたところである。 

(2) 生乳流通の広域化等への対応

 指定団体の広域化については、 乳価水準の格差・農協組織問題の存在等につい
て難しい利害の調整が必要となり、 調整に相当の時間を要することが考えられる
が、 基本的には、 生産者・生産者団体の自己組織力の問題であるとの認識が必要
とされている。 

 この際、 指定団体間の乳価水準格差の要因の一つともなっている加工仕向比率
について、 その相違を平準化するよう加工数量認定方法について見直し、 制度面
からも機能・組織統合に向けた条件整備を進めるべきとされたところである。 

(3) 自由な活動条件の整備

 現行制度においては、 全量無条件委託や乳価プ−ルの原則について徹底してお
り、 このため、 自由な経済活動を展開したいという生産者は指定団体から離脱し、 
「アウトサイダ−」 にならざるを得ない仕組みとなっている。 

 一方で、 意欲的な生産者の間には、 牛乳のブランド化、 自己処理による付加価
値化等により、 自らのリスク負担においてでも有利販売に取り組み、 自由な経営
を展開したいという動きがみられる。 今後、 活力ある我が国酪農を維持発展させ
ていくためには、 このような生産者の創意工夫や自主性を積極的に活かしていく
ことが必要であり、 そのためにも指定団体制度における全量無条件委託や乳価プ
−ル等の運用面での弾力化を図るべきとされたところである。 


4 加工原料乳生産者補給金等暫定措置法施行令の一部改正について


(1) 現行の加工原料乳数量認定方法と改正の趣旨

 加工原料乳の数量認定については、 加工原料乳生産者補給金等暫定措置法施行
令 (以下、 「施行令」 という。) 第5条において、 数量認定に関する手続き、 手段
等の一切が定められているところであり、 都道府県知事が乳業工場からの報告に
基づき行うこととされている。 

 乳業者からの報告は、 毎月、 乳業工場ごとに、 その乳業工場に搬入された生乳
の数量とその搬入者名 (指定団体名、 指定団体以外の生産者及び他の乳業工場)、 
その乳業工場から他の乳業工場へ生乳を転送している場合には、 搬出先ごとの搬
出数量並びにその乳業工場で処理・加工した生乳の数量等を徴収し、 指定団体ご
とに加工原料乳数量を算出することとされている。 この場合、 例えば自県内の乳
業工場へ県域を超えて販売している指定団体の数量を算出したときには、 当該他
県の知事へ通知することとされており、 広域流通する生乳に係る加工原料乳につ
いては、 このように他県知事から通知されてくるため、 自ら算出した数量 (県内
販売) と合計することで、 その月に自県の指定団体が行った生乳受託販売に係る
加工原料乳の数量を算出することとされている。 

 このように、 都道府県知事が行う加工原料乳の算出は、「乳業工場ごと」 による
算出とされている。 この認定単位が 「乳業工場ごと」 とされているのは、 そもそ
も制度発足当時における以下のような実態を踏まえて採用されたものである。 

1)酪農家は乳業者の指導・援助を受け、 乳業工場を中心としてその周辺に育成さ
 れてきたことから、 生産者と乳業工場との取引は一般に固定的であったこと。 

2)生乳の平均的な輸送距離は20km程度であり、 生乳の流通圏域は都道府県単
 位が基本であったこと。 

3)加工原料乳の数量認定は 「乳業工場ごと」 に行い、 生産者間の格差は指定団体
 のプ−ル機能により平準化することが合理的であると考えられたこと。 

 制度発足後の生乳流通を巡る状況の変化については、 2において既に触れたと
おり、 生乳生産の地域特化と生乳輸送技術の発達等により広域流通が増加してい
るほか、 乳業サイドにおいても、 合理化による工場の機能的役割分担制の導入等
工場の持つ機能が特化する傾向にある。 

 このような状況変化の中で、 制度発足時の生乳の流通・取引の実態を反映した
加工数量認定方法が実態に合致しなくなってきたという側面が指摘されるところ
となった。 即ち、 「乳業工場ごと」 の数量認定が指定団体間の販売競争を助長し、 
それに伴う輸送コストの増加や生乳需給とかい離した加工発生の要因ともなって
いること等から、 生乳流通の実態に即した加工数量認定方法について見直しを行
うこととしたものである。 

(2) 施行令の改正内容等

 今回の施行令の改正は、 10年1月21日付け官報に掲載されたところであり、 
併せて、 一定区域についても告示している。 

 施行令の改正内容は、 第5条の2 (同一乳業者の2以上の乳業工場に係る加工
原料乳の数量の算出方法等の特例) が新たに追加されており、 農林水産大臣が定
める地域内に同一の乳業者が2以上の乳業工場を有している場合には、 これらの
乳業工場を 「1の乳業工場」 とみなして算出することとされている。 この 「1の
乳業工場」 は、 第5条第2項において、「乳業工場のそれぞれを計算の単位」 とし
て、 加工原料乳の数量算出を行う旨規定されているところである。 このため、 特
例の対象となる 「2以上の乳業工場」 については、 それらを 「1つの計算単位」 
として加工原料乳の数量が算出されることとなるため、 どこの乳業工場に生乳を
出荷しても加工原料乳の割合は一定であるということになる。 

 また、 これらの乳業工場の中から農林水産大臣が乳業工場を指定することとさ
れており、 この指定された 「指定乳業工場」 が所在する都道府県の知事が加工原
料乳の数量算出・通知を行うこととされている。 この場合、 指定乳業工場以外の
乳業工場 (「一般乳業工場」)が所在する都道府県の知事は、 「指定乳業工場」 が所
在する都道府県の知事に対して数量算出のために必要な情報を通知することとさ
れている。 

(3) 区域の設定及び指定乳業工場の指定について

 区域の設定については、 1月21日付け官報により告示されたとおり、 基本的
な考え方としては、 地域ブロック化に向けて生産者団体が自主的に検討を進めて
いる地域区分 (東北、 関東、 北陸、 東海、 近畿、 中国、 四国、 九州) を基本とし、 
生乳の生産・流通等の実態を考慮した上で、 表6のとおり設定されたところであ
る。 

 また、 「指定乳業工場」 については、2月3日付け事務次官通達により関係者に
通知しているところである (表7)。 

表6 地域区分


表7 指定乳業工場及び一般乳業工場一覧
1 東北地域
2 関東地域
3 北陸地域
4 中部地域
5 近畿地域
6 中国地域
7 四国地域
8 九州地域

(4) その他措置する事項

 今回の施行令改正に併せて措置する事項として、 特定乳製品の製造の委託を受
ける生乳 (製造受託生乳) の要件緩和について、 加工原料乳数量認定事務実施要
領において措置する予定である。 

 製造受託生乳とは、 明らかに特定乳製品向けの生乳であると認められる場合、 
つまり、 受委託の関係・数量等が明確である場合には、 加工原料乳数量を算出す
る際にあん分計算の対象外として取り扱うこととされている生乳のことである。 

 バタ−、 脱脂粉乳等の特定乳製品については、 分離過程を経ることを要するわ
けであるが、 これらの製造受託については、 分離にまわされる生乳全部を特定乳
製品に加工する委託に係る生乳のみを製造受託生乳として取り扱ってきたところ
である。 これはそもそも、 先ず生乳が搬入される段階での委託形態に着目し全量
規定をおいており、 次に実際に配乳された後に得た生乳換算数量を合致させるこ
とで認定事務の簡素化を図っているものであるが、 私見によれば、 制度発足当時
には、 バタ−と脱脂粉乳はセットで委託する形態が殆どであったため、 敢えて複
雑な手法を導入しなかったと考えられる。 

 しかしながら、 このような全量規定をおくことで、 季節ごとに異なる乳製品需
要に対して乳業者サイドとしては弾力的な対応が困難なだけではなく、 不必要な
乳製品の製造につながることも懸念されるため、 今回、 施行令に基づく改正と併
せて措置している。 


5 今後の生乳流通・取引について


 今回の施行令改正等に伴う効果については、 平成7年度のシミュレ−ションに
よれば、 加工率の変動が1%を超える指定団体は、 5〜10団体ではないかとみ
られる。 ただこの数値は、 現在の生乳流通が全く変化しなかったとする前提条件
下での数値でしかなく、 今後の生乳流通がどのように変化していくのか未知数が
多いところでもある。 しかし、 端的に考えれば、 地域ブロック内の同一乳業者の
乳業工場であればどこに搬入しても加工比率は一定であることから、 より近い乳
業工場へ搬入すればよいわけであり、 無駄な送乳コストの削減になるものと考え
られる。 

 乳業サイドにとっても、 厳しく合理化努力が迫られているなかで、 地域ブロッ
ク内に基幹工場制をとり、 管理部門を基幹工場に集中し、 他の工場は現業部門と
して位置付けするなどのコスト低下に取り組んでいる事例もあることから、 今回
の施行令改正を契機としてそのような取り組みが一層進展することも期待される。 

 また、 生乳取引については、 現在 「乳業工場ごと」 の契約単位となっているも
のが大半であるが、 今回の改正に伴って契約単位が 「乳業者ごと」 或いは 「複数
の乳業工場ごと」 に変更されることとなる。 これは、 不足払い法に基づく用途別
取引を行う中にあって、 加工原料乳数量は都道府県知事が行う加工数量認定に基
づき算出される数量とすることとされているためであって、 認定単位が 「複数の
乳業工場ごと」 となることから、 自ずと契約単位が変更されることとなっている。

一口メモ

 資料:(社)全国牛乳普及協会



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