島根県/青木 精吉
私の家から200mほどのところで50頭経営の酪農家が廃業したのは、牛肉の輸入 自由化の1年ほど後であった。今は全くの廃屋となっている。ほかにも手入れの 行届かない建物を見ると肥育牛舎であったり、豚舎であったりした建物がよく目 につく。週に1〜2日は畜産関係の情報収集に当たっているが、さびしい限りであ る。 そんな折、島根県畜産会の依頼で八束郡鹿島町のN農家を調査事業で訪問した。 今回の調査は一昨年に次いで 2回目となるが、一昨年とは打って変わった経営状 況であった。今回の実績を前回と対比してみると、経産牛1頭当たり産乳量で130 %、純収益では500%と、驚嘆に値する成果を上げていた。 経営者夫婦(夫35歳)は今が働き盛りであるが、この経営改善の要因には、働 き手の中に経営者の母がいることが大きい。早朝から殆ど一日中、自分の仕事と して乳牛の飼養管理と牛舎の管理に専念している。母は満66歳、酪農経営は夫の 時代から34年になる。一度は、息子夫婦に経営を任せて、「引退」をしたものの、 息子夫婦の困難を見て、再度牛の管理を買ってでた。 経営規模は搾乳牛22頭(成牛換算26頭)程度の経営(他に自家米程度の水田等) で決して恵まれたものではないが、孫を入れて6人家族、経営収支から見ると悠 々とした生活内容である。これはひとえに34年の経営歴と女性としてのきめの細 やかさ、豊かな愛情、徹底した管理によるもので経営者はまさにこの母であると 私は思う。 年老いた者は大した仕事にもならないからととかく仕事を取り上げたり、引退 宣言をする人もいるが、この経営はこの母が主役で立派な成果を上げている。仕 事をしている本人も「邪魔になって、大した頼りにならないが」と言ってこつこ つと仕事に精を出している。 これから高齢者が年々増加する中で農村、農家にとっては高齢者も長い経験と 優れた技術をもっている立派な労働者である。こうした高齢者のやさしい対応が 家畜の能力を引き出している事例が沢山あると思う。大事に見守り、育てて行く 方向もこれからの高齢化社会にはぜひ必要なことだと思っている。
【手入れの行き届いた牛舎で、今日も、きめ細かい飼養管理に励んでいます。】 |