◎調査・報告


畜産物需要開発調査研究事業から はっ酵乳市場における構造特性と市場細分化の進展に関する研究

研究代表者 帯広畜産大学 教授 佐々木 市夫




はじめに

目的と分析の視点

 本研究の目的は、わが国のはっ酵乳市場の構造特性を踏まえた上で、近年、消
費量が大幅に増加しているはっ酵乳の種類別消費量、消費量の性別・地域別格差
などの市場細分化の実態を、消費者へのアンケート調査により、明らかにするこ
とにある。

 なお、以下で「はっ酵乳」と「ヨーグルト」は同じ意味で用いる。

 本研究では、総務庁『家計調査』では不明な次の@〜Cをアンケート調査によ
り明らかにする。

 @ヨーグルトを食べた(飲んだ)量の実態
 Aヨーグルト消費量の個人別実態
 Bヨーグルト消費量の種類別実態
 Cヨーグルト消費量の性別・地域別実態

 本研究でヨーグルトとは、食品衛生法(乳等省令)で定める「はっ酵乳」であ
り、「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母ではっ
酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」と定義される。成
分規格は無脂乳固形分8.0%以上で乳酸菌数(又は酵母数)が1,000万/ml以上と
されている。
 分析対象とするヨーグルトの種類は、次の4品目(日本乳業協議会[平成9年])
である。
 
ハードヨーグルト
 寒天やゼラチンでプリン状に固め、甘味をつけたヨーグルト

ソフトヨーグルト

 原材料に乳酸菌を入れてタンクではっ酵させてからかくはんして容器に詰め、
果汁や果物などを加えたヨーグルト

ドリンクヨーグルト

 はっ酵後固まったヨーグルトをかくはん、液状にしたヨーグルト

プレーンヨーグルト

 牛乳等を乳酸菌ではっ酵させただけのヨーグルト

 ヨーグルト消費の地域差を見るために、東日本の1都市として帯広市を、西日
本の1都市として堺市を分析対象とする。ヨーグルトを食べる頻度は、関東より
東で多く、西で少ないとの指摘がある(全国牛乳普及協会[平成 9 年])。

 帯広市と堺市を選んだのは、腸管出血性大腸菌O157による食中毒の予防とヨー
グルト消費の関連性を見るためである。

 平成8年のO157関連での入院者数は、東日本では帯広市が最も多く、西日本で
は堺市が最も多い(厚生省ホームページ「腸管出血性大腸菌O157による食中毒等
の発生状況(平成 8 年)」)。

アンケート調査の方法

 アンケート調査の実施方法は、留め置き調査法である。帯広市と堺市の個人名
電話帳から無作為に抽出した200世帯を訪問し、中学生以上の全世帯員にアンケー
トを配布した。

 アンケート実施期間は、帯広市が平成9 年12月、堺市が10年1月である。回答
者数は、帯広市340人、堺市250人であるが、サンプル数は設問によって異なる。

 1人当たり1週間の平均消費量は、種類ごとに、ふだんどのくらい食べて(飲
んで)いるかをアンケート選択肢から1つ選んでもらい、その選択肢の数値の幅
の中央値を 1 週間当たりに換算し、推計した。


アンケートの分析結果

@ヨーグルト消費量

◇図1:1週間の種類別消費量の比較◇

 図 1 は、帯広市と堺市のヨーグルト消費量についての集計結果である。

  1 人当たり 1 週間の平均消費量は、帯広市でハードヨーグルトが1.00カップ
( 1 カップ=100gと仮定)、ソフトヨーグルトが0.46カップ( 1 カップ=130g
と仮定)、ドリンクヨーグルトが0.81杯( 10杯=140ml;200mlのコップに 7 割
注がれると仮定)、プレーンヨーグルトが0.30個(徳用サイズ1個=500gと仮定)
であり、堺市でハードヨーグルトが0.71カップ、ソフトヨーグルトが0.62カップ、
ドリンクヨーグルトが1.02杯、プレーンヨーグルトが0.19個と推計された。

 男女別 1 人当たり 1 週間の平均消費量は、両市ともにどの種類のヨーグルト
でも、女性が男性より大きくなっている。

 男女別年齢階級別の分析結果は、階級内のサンプル数が少ないが、参考までに
図 2 〜図 5 に示す。

 ハードヨーグルト消費量は、男女とも10歳代以下の年齢階級で、帯広市が堺市
よりも大きい。ソフトヨーグルト消費量は、男女とも20〜30歳代の年齢階級で、
堺市が帯広市よりも大きい。ドリンクヨーグルト消費量は、堺市の全年齢階級で、
女性が男性よりも大きい。

 女性のプレーンヨーグルト消費量は、両市とも、10歳未満代の年齢階級が最小
である。堺市のプレーンヨーグルト消費量は、10歳代未満を除いた全年齢階級で、
男性が女性よりも小さい。

Aヨーグルト消費の理由

 表 1 と表 2 は、ヨーグルト消費の理由(複数回答)についての集計結果であ
る。

 上位3位までの理由は、両市とも男女計全体では同じで、帯広市が「おいしい」
(41.8%)、「便通に良い」(34.5%)、「骨に良い」(20.7%)、堺市が「お
いしい」(36.4%)、「便通に良い」(36.4%)、「骨に良い」(23.4%)とな
っている。

◇図2:帯広市男性の年齢階級別消費量◇

◇図3:帯広市女性の年齢階級別消費量◇

◇図4:堺市男性の年齢階級別消費量◇

◇図5:堺市女性の年齢階級別消費量◇

表1 帯広市におけるヨーグルト消費の理由(%):複数回答


表2 堺市におけるヨーグルト消費の理由(%):複数回答


 男女別の上位3位までの理由には、両市とも「おいしい」、「便通に良い」が
入っている。しかし、残りの1つは、男女間で異なっており、両市とも男性が「い
つも家にある」、女性が「骨に良い」となっている。
 男女別の比較結果から、女性は、男性よりも多くの項目で回答割合が高く、「便
通に良い」、「骨に良い」、「肌の調子に良い」などのヨーグルトが有する美容・
健康機能を男性より強く認識してヨーグルトを消費する傾向が強い点が示唆され
る。また、男性は、ヨーグルトを「食べない」という回答割合が女性よりも高く、
「いつも家にある」、「人からすすめられた」等の受動的姿勢でヨーグルトを消
費する傾向が強い点が示唆される。
 ヨーグルト消費の理由として、「O157による食中毒の予防」との回答割合は、
両市とも全体で 1 割未満と少なかった(帯広市6.5%、堺市1.9%)。

Bヨーグルト消費の機会

◇図6:ヨーグルト消費の機会(%、複数回答)◇

 図6は、帯広市及び堺市のヨーグルト消費の機会(複数回答)についての集計
結果である。

 上位3位までの消費機会は、両市とも男女計全体では同じであり、帯広市が「お
やつや夜食などの間食」(53.5%)、「朝食」(22.9%)、「昼食」(11.6%)、堺
市が「おやつや夜食などの間食」(47.7%)、「朝食」(37.9%)、「昼食」(17.3
%)の順となっている。

C過去 1 〜 2 年間の消費量変動

◇図7:過去 1 〜 2 年間の消費量変動(帯広市)◇

◇図8:過去 1 〜 2 年間の消費量変動(堺市)◇

 図 7 、 8 は、過去 1 〜 2 年間の消費量変動(過去 1 〜 2 年間で消費量が
「増えた」のか「同じ」なのか「減った」のか)を、ヨーグルトの種類別に回答
してもらった結果である。

 堺市女性のハードヨーグルトを除いて、両市(全体、男性、女性)とも全種類
のヨーグルトで、過去 1 〜 2 年間に消費量は「増えた」との回答が「減った」
を上回っている。

 両市とも全種類のヨーグルトで、「増えた」との回答割合は、女性が男性より
も高い。

 両市で、過去 1 〜 2 年間に消費量が「増えた」との回答が最も高かったのは、
帯広市がプレーンヨーグルト(21.4%)、堺市がドリンクヨーグルト(27.1%)
である。男女別にみると、帯広市は男性がドリンクヨーグルト(17.7%)、女性
がソフトヨーグルト(26.6%)、堺市は男女ともドリンクヨーグルト(男性が19
.2%、女性が34.2%)で、「増えた」の回答割合が最も高くなっている。

D今後 1 〜 2 年間の消費量変動

◇図9:今後 1 〜 2 年間の消費量変動(帯広市)◇

◇図10:今後 1 〜 2 年間の消費量変動(堺市)◇

 図9、10は、今後1〜 2 年間の消費量変動(今後1〜 2 年間に消費量が「増
える」のか「同じ」なのか「減る」のか)の見通しを、ヨーグルトの種類別に回
答してもらった結果である。

 両市(全体、男性、女性)とも全種類のヨーグルトで、今後 1 〜 2 年間に消
費量は「増える」だろうとの回答が「減る」だろうとの回答を上回っている。
両市とも全種類のヨーグルトで、「増える」との回答は、女性が男性を上回って
いる。

 今後 1 〜 2 年間に消費量が「増える」の回答割合が最も高いのは、帯広市が
ドリンクヨーグルト(25.6%)、堺市がソフトヨーグルト(24.9%)である。男
女別に見ると、帯広市は男性がドリンクヨーグルト(24.3%)、女性がプレーン
ヨーグルト(28.4%)、堺市は男がドリンクヨーグルト(21.2%)、女性がソフ
トヨーグルト(31.5%)で、「増える」の回答割合が最も高くなっている。

Eヨーグルトへの要望点

 表 3 、 4 は、帯広市及び堺市のヨーグルトへの要望点(複数回答)について
の集計結果である。

表 3  帯広市におけるヨーグルトへの要望点(%):複数回答


表 4  堺市におけるヨーグルトへの要望点(%):複数回答


 上位4位までの要望点は、両市とも男女計全体では順位は異なるが同じ項目で
あり、帯広市が「値段をもっと安く」(31.6%)、「カルシウムをもっと強化」
(29.8%)、「おなかに良い菌をもっと強化」(24.7%)、「もっとおいしく」
(20.7%)の順、堺市が「値段をもっと安く」(30.4%)、「おなかに良い菌を
もっと強化」(24.8%)、「もっとおいしく」(24.3%)、「カルシウムをもっ
と強化」(22.4%)の順となっている。

 このように、ヨーグルト消費の要望点としては、価格引き下げの要望が最も強
い。また、ヨーグルトの健康機能として「おなかに良い菌をもっと強化」と「カ
ルシウム強化」の要望も強い。

 女性は、男性よりも多くの項目で回答割合が高く、「カロリーをもっと減らす」、
「カルシウムをもっと強化」などのヨーグルトが有する美容・健康機能の改善を
望む傾向が、男性よりも強い点が示唆される。また、男性は、「もっとおいしく」
等の味覚の改善を望む傾向が、女性よりも強い点が示唆される。


消費拡大のために

 ヨーグルトの消費拡大について、以上の分析結果から示唆される点を述べたい。
 第1に、ヨーグルトの消費拡大には、小売価格引き下げのために、ヨーグルト
の製造や流通面で、更なるコスト削減が必要とされる。ヨーグルトは、2〜3個
を単位とするマルチパック販売や果肉入り新製品の販売など、コスト増加要因も
多いが、本分析結果によれば、男女とも「値段をもっと安く」がヨーグルトへの
要望点として最も強かった。

 第2に、ヨーグルトの消費拡大には、特に女性消費者を「飽き」させない新商
品の導入や既存製品のリニューアルが今後とも必要とされる。本分析結果によれ
ば、過去 1 〜 2 年間に消費量が「増えた」との回答が最も高いヨーグルトの種
類と今後 1 〜 2 年間に消費量が「増える」だろうとの回答が最も高いヨーグル
トの種類は、男性は両市とも同じだが、女性は両市ともすべて異なっていた。

 第3に、新商品の導入や既存製品のリニューアルに対して、消費者が何を望ん
でいるかという点である。

 わが国においても、食品機能については、体に良いものを「もっと多く」、体
に悪いものを「もっと少なく」という意識が定着してきていると考えられるが、
本分析結果によれば、ヨーグルトの健康機能として、「おなかに良い菌をもっと
強化」と「カルシウム強化」への要望が強い。「カルシウム」は牛乳など他の乳
製品からでも摂取できるが、ヨーグルトの「菌」は整腸作用だけでなくヨーグル
ト自体の味覚をも左右するヨーグルト最大の特徴点の一つである。よって、ヨー
グルト消費拡大には、今後も有用な「菌」についての研究開発が一層必要とされ
る。

 ヨーグルト消費の男女差にも注意を払う必要がある。本分析結果によれば、男
性では、「おいしい」という味覚に関連する要望が強く、女性では、「カルシウ
ムをもっと強化」、「カロリーをもっと減らす」というヨーグルトの美容・健康
機能に関連する要望が強かった。

 ヨーグルト消費の地域差や年齢差にも注意を払う必要がある。本分析結果によ
れば、帯広市でハードヨーグルトやプレーンヨーグルトの消費が多く、堺市でソ
フトヨーグルトやドリンクヨーグルトの消費が多かった。また、中高年でヨーグ
ルトを全く食べない人が多い点も確認されている。

参考文献

省略(報告書全文参照)

 本報告書は、農畜産業振興事業団が平成9年度に委託実施した畜産物需要開発
調査研究事業の成果を、編集部で要約したものです(グラフ作成は、編集部)。

 報告書全文をご覧になりたい方は、企画情報部情報第一課あてFAXにてお申
し込みください。

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