★ 農林水産省から


平成10年度農業白書の概要 −畜産をめぐる状況を中心として−

農林水産大臣官房調査課 能登 俊仁


 「平成10年度農業の動向に関する年次報告」(農業白書)は、平成11年4月16
日閣議決定のうえ、国会に提出、公表された。

 本年度の農業白書は、今次通常国会(第145回国会)で食料・農業・農村基本
法案が審議されることとなっているなかで、食料・農業・農村をめぐる課題と農
政改革への取組みに対する国民の理解が一層深まるような内容とすることを基本
として作成している。

 具体的には、食料の安定供給の確保、農業の持続的な発展の追求、農村の振興
と農業の有する多面的機能の発揮等の課題について、数多くの事例を紹介しつつ、
現状分析、今後の施策のあり方の検討等を幅広く行っている。

 また、全体の構成は、

  第T章「平成9〜10年度の農業経済と我が国の主要農畜産物の需給動向」
  第U章「食料の安定供給確保」
  第V章「我が国農業の持続的な発展の追求」
  第W章「農村の振興と農業の有する多面的機能の発揮」

となっており、第U〜W章において、それぞれ食料・農業・農村に関する3本の
特集テーマを設定して検討するなど、例年と編集スタイルがかなり異なっている。

 以下、農業白書の概要について、畜産関係及び食料・農業・農村に関する検討
結果に基づき御紹介したい。


畜産物の需給動向等について(第T章)

畜産物需給

 近年の食肉需給を需要面からみると、牛肉は、平成8年度において狂牛病や腸
管出血性大腸菌O157による食中毒事故等の影響により大きく低落したが、9年度
はやや持ち直した。豚肉及び鶏肉はほぼ横ばいで推移してきたが、豚肉は9年度
は若干減少した(表1)。

表 1  畜産物の需給動向
no-t01.gif (68780 バイト)
 資料:農林水産省「食料需給表」
  注:肉類の需要量、生産量、輸入量は枝肉(骨付肉)換算値、鶏卵は殻付き
    卵換算値、牛乳・乳製品は生乳換算値である。

 生産面では、1戸当たりの飼養頭羽数が着実に伸長しているものの、飼養戸数
がかなりの程度減少しているため、飼養頭羽数は減少傾向にあり、生産量は総じ
て減少している。

 輸入についてみると、牛肉は、円高の進展及び消費の拡大等から増加傾向にあ
ったが、8年度は狂牛病等の影響から相当程度減少した。9年度は需要の回復傾向
を反映して7.8%増加し、7年度の水準まで回復している。豚肉及び鶏肉は、国内
生産量の減少を補いつつ増加傾向で推移してきたが、豚肉は、9年3月の台湾にお
ける口蹄疫の発生に伴い台湾産豚肉の輸入禁止措置がとられたこと等から大幅に
減少(前年度比21.7%減)している。

 鶏卵は、近年、需給両面ともほぼ横ばいで推移している。
 牛乳・乳製品については、需要は、消費者の健康志向等を背景にこれまで増加
傾向にあったが、9年度は対前年度横ばいであった。一方、生乳生産は、堅調な
需要を背景に、9年度の計画生産の目標数量は前年度を上回る水準に設定された
ものの、対前年度0.3%の減少と伸び悩んでいる。


畜産経営におけるコスト低減

 畜産経営の動向を規模拡大の状況からみると、従来、1戸当たり飼養頭数の増
頭分が飼養戸数の減少による減頭分を上回ることにより、飼養頭数の維持・拡大
が図られてきた(図1)。しかしながら、近年、乳用牛、肉用牛、豚の各畜種にお
いて、規模拡大の進展にかかわらず、大幅な飼養戸数の減少が飼養頭数の減少を
もたらすことにより、総じて生産量の減少がみられる。

◇図1:規模拡大の進展状況(肉用牛)◇

 このようななかで、酪農・肉用牛繁殖・養豚の生産費等を経営規模別にみると、
いずれの生産費も規模が大きくなるに従い逓減しており、例えば肉用牛繁殖の20
頭以上層は2〜4頭層の30.0%ものコスト低減が図られている(図2)。

◇図2:経営規模別生産費及び作業別労働時間(平成9年)◇
 ・経営規模別生産費
 ・経営規模別作業別労働時間

 生産費の内訳をみると、各規模層で生産費の大部分を労働費及び飼料費が占め
ているが、経営規模別にみた場合、総じて飼料費、建物費、農機具費等について
は差がみられないが、労働費については経営規模の拡大に従い逓減しており、経
営規模によるコストの格差は労働費の差によるところが大きいといえる。

 作業部門別の労働時間により労働費の内訳をみると、経営規模が大きくなるに
従って特定の作業部門にかたよることなく、すべての部門において労働時間が短
縮されていることがわかる。

 このようなことから、今後、我が国畜産が優良畜産物の安定供給を行ううえで、
スケールメリットを活かした生産コストの低減が重要な課題の一つとなっている。


自給飼料の生産拡大の必要性

 飼料作物の生産動向を作付面積からみると、近年は微減傾向で推移しており、
9年は96万5,600ha(前年比0.9%減)となった(表2)。また、収穫量は、おおむ
ね天候に恵まれたことから、前年比1.1%増の3,954万2千トンとなった。

表2 飼料需給等の推移
1.飼料作物の作付面積及び収穫量
no-t02a.gif (35275 バイト)
2.飼料需給表(TDNベース)
no-t02b.gif (69726 バイト)
 資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「作物統計」、「飼料需給表」、
    農林水産省調べ

 注1:転作田は年度の値である。

  2:55年度の輸入はすべて濃厚飼料とみなしている。

  3:TDN(可消化養分総量)とは、家畜が消化できる養分の総量を数値化し
    たもので、算出方法は、次式のとおり。
	TDN=(粗たん白質×その消化率)+(粗脂肪×その消化率×2.25)+
       (可溶性無窒素物×その消化率)

 飼料の需要量(TDNベース)をみると、近年は飼養頭羽数の動向を反映しわず
かに減少傾向で推移しているが、9年度は、豚の飼料需要量が飼養頭数増を反映
して増加したことなどから、全体では0.2%増の2,664万1千トンとほぼ前年度同水
準であった。供給量(TDNベース)をみると、9年度は、国内供給は前年度に引き
続き減少(前年度比0.6%減)して1,035万8千トンとなったが、輸入量は1,628万3
千トンとわずかに増加(同0.7%増)に転じている。飼料自給率については、近年、
ほとんど変化がみられず、純国内産飼料の供給ベースでは25%で推移している。
 また、代表的な自給飼料について地域別の平均生産コスト(費用価)をTDN換
算で比較すると、乾牧草、とうもろこしサイレージ、牧草サイレージのすべてに
おいて、全国、北海道、都府県における費用価は購入乾牧草、購入ヘイキューブ
の全国の平均価格を下回っており、特に1戸当たりの作付面積が大きい北海道に
おいては、より安価な水準を達成している(図3)。

◇図3:自給飼料生産コストと購入粗飼料価格の比較(平成9年、試算)◇

 飼料生産のための労働力が不足している農家や土地条件の制約が大きい地域で
は、ある程度購入飼料に依存せざるを得ない場合もあるものの、今後も畜産経営
の体質強化を図るうえで、草地の造成・整備を通じた飼料基盤の強化等を推進し、
飼料自給率の向上を図ることが重要となっている。粗飼料の国内生産は、飼料自
給率の向上のみならず、畜産物の生産コスト低減、家畜ふん尿の草地への適切な
還元による環境保全・地力の維持増強、転作田、未利用・低利用地等土地資源の
有効活用や粗飼料給与率の向上による事故率の低下等家畜生理上の意義をも有し
ている。


新たな酪農・乳業対策の実施

 我が国の酪農は、現行農業基本法の下で著しく発展し、優れた経営感覚を有す
る専業かつ規模の大きい酪農家が大宗を占める農業構造を実現するとともに、乳
業も大きく発展を遂げ、我が国の基幹的な食品産業に成長してきた。その反面、
担い手の育成・確保、畜産環境問題の深刻化、輸入飼料への過度の依存、乳業の
再編・合理化の遅れ等のほか、価格が硬直的であること等に伴う問題が顕在化し
ている。このようななかで、今後とも我が国酪農・乳業の健全で持続的な発展を
図るためには、国際化の進展に対応し、酪農経営の安定を図りつつ、市場原理の
導入を進め、国内生産の可能な限りの拡大を基本とする牛乳・乳製品の安定的な
供給を確保する必要がある。

 このため、「農政改革大綱」に即して酪農・乳業に係る各般の施策を見直し、
総合的な施策体系を構築するため、「新たな酪農・乳業対策大綱」が平成11年3
月に決定された。

 本大綱は、主要な改革の方向として、@乳製品・加工原料乳に関する価格制度
について、13年度を目途として、市場実勢を反映した形で価格が形成される制度
に移行するとともに、生産者補給金制度を廃止し、加工原料乳の生産者に対する
新たな経営安定措置に移行するほか、A後継者不在の健全な酪農経営について新
規就農希望者への円滑な継承を図る「日本型畜産経営継承システム」の確立、経
営支援組織の統合・ネットワーク化による地域経営支援システムの構築等の経営
体・担い手対策、B指定生乳生産者団体の広域化、透明性の高い生乳取引の推進
等の生乳の流通対策、C地域の実態に即したきめ細かな乳業の再編・合理化対策
を推進することとしている。

 また、改革を進めるための条件整備として、家畜排せつ物の管理の適正化及び
利用の促進に関する法律案の今次通常国会への提出を始めとする畜産環境対策の
推進、飼料自給率の向上を図るための自給飼料の増産対策、家畜改良の推進及び
飼養管理技術の高度化、牛乳・乳製品の流通・消費対策等を内容に掲げている。

 この「新たな酪農・乳業対策大綱」は、生産者・乳業者等の創意工夫と自主性
を活かして、ゆとりある生産性の高い酪農経営と効率的な乳業を確立することを
目指しており、今後は、実務的・実践的な検討を要する事項に関し関係者からな
る検討体制を整備して、総合的かつ的確な検討を行い、着実に改革を進めること
としている。


食料・農業・農村に関する検討結果について(第U〜W章)

 本年度の農業白書においては、食料・農業・農村の動向について様々な観点か
ら検討を行っている。検討に当たっては、前述したように、平成10年12月に公表
された農政改革大綱及び今次通常国会で審議される予定の食料・農業・農村基本
法案で示されている新たな政策体系に対する国民の理解が一層深まることを念頭
に置いて作業を行っている。本報告における食料・農業・農村に関する検討結果
は以下のとおりである。

食料に関するもの

1 国内農業生産を基本とした食料の安定供給と食料安全保障

 世界の食料需給は、異常気象等による農業生産の変動の可能性の高まり等によ
り、短期的には不安定性を増すとともに、中長期的には需要の大幅な増加等によ
りひっ迫する可能性があると考えられる。このため、我が国としては、食料の安
定供給の確保と食料安全保障の確立に向けて、国内農業生産を基本に位置付け、
可能な限りその維持・拡大を図るとともに、安定的な輸入の確保と主要食料の適
正かつ効率的な備蓄の実施に努めることが必要である。さらに、不測の事態が生
じても国民に対する最低限の食料供給が確保されるよう、危機管理体制の構築が
必要である。また、国内農業生産の維持・拡大を図るうえで、優良農地の確保と
その有効活用、経営感覚に優れた効率的・安定的な担い手の育成とともに、技術
の開発・普及に努めることが重要である。

2 食料自給率の目標設定

 自給品目である米の消費が大きく減少する一方で、輸入飼料や油糧種子に依存
せざるを得ない畜産物、油脂類の消費が増加するなど、食生活が大きく変化した
ことや、国土条件の制約から、我が国の食料自給率は41%と、主要先進国のなか
でも異例の低水準となっている(図4)。このため、食料自給率の向上に向けた
農業生産面(生産努力目標の策定とそれを目指した生産)と消費面(食料消費や
農産物の供給状況等食料自給率に関する情報の積極的な提供、食べ残しや廃棄の
削減、主食である米を中心に多様な副食品のバランス良い摂取等望ましい食生活
の実現のための啓発活動等幅広い運動の展開等)双方の取組みを前提に、関係者
の努力喚起及び政策推進の指針として、食料自給率の目標を策定することが必要
である。

◇図4:供給熱量の構成の変化と品目別供給熱量自給率◇

3 食生活の見直しに向けた運動の展開

 我が国の食料消費は、昭和40年代半ばには栄養的にもバランスのとれた「日本
型食生活」が形成されたが、近年、食生活の乱れや脂質の過剰摂取等栄養バラン
スの崩れが問題となっている。このため、食生活の啓発運動の展開、食教育の充
実や子ども達の農林漁業・農山漁村体験学習の促進等食生活の見直し・改善に向
けた国民的運動を展開する必要がある。

4 食品の安全性・品質の確保と表示・ 規格制度の改善・強化

 消費者の食品の安全性と品質の確保に対する関心の高まりを背景に(図5)、
生産から消費に至る各段階における安全性と品質確保対策の充実が求められてい
る。このため、農産物の生産段階における生産資材の使用基準の見直し、食品の
製造段階におけるHACCP手法の導入促進、生産・流通段階におけるガイドライン
の策定等の対策が必要である。

◇図5:消費者の関心度合いについて◇

 また、消費者の適切な商品選択に資するとともに、国際規格との整合化等が要
請されていることから、食品表示制度の拡充、JAS規格の見直し、第三者による
有機食品の検査認証制度の導入を図る必要がある。さらに、遺伝子組換え食品の
表示のあり方について検討し、表示ルールの確立とその適切な実施を図る必要が
ある。

5 食品産業の体質強化と食品流通の効率化

 食品産業は、農業とともに食料の安定供給にとって大きな役割を果たしている。
このため、国産農産物の需要拡大や食品産業への販路開拓等を図るための両者の
連携強化、中小企業が多い食品産業の技術力の向上等による経営体質の強化が重
要である。また、事業活動に伴う環境負荷の軽減を図るため、食品残さ等のリサ
イクルの促進等の環境問題への積極的な対応が必要である。

 卸売市場をめぐる最近の情勢の変化に対応し、卸売市場の活性化を図るため、
市場関係者の経営体質の強化のほか、市場・品目ごとの実態に即した取引方法の
設定等卸売市場の改善・強化が必要である。また、食品流通業では、情報化技術
等の導入による生産から消費に至る最適な流通システムの構築等による効率化と
活性化が重要である。

6 内外価格差の要因と縮小への努力

 食料品価格を形成するすべての段階に影響を及ぼしている地価、人件費等につ
いては、我が国経済構造全体に基づく要因であり、国内で生産活動を行う以上や
むを得ない面がある。近年、食料品の内外価格差は縮小傾向で推移しているもの
の、より一層の縮小のためには農業とともに関連産業全体においてコスト低減に
向けた努力が必要である。


農業に関するもの

1 優良農地の確保・有効利用と農業生産基盤の整備

 耕作放棄地の増加等による農地の減少は、深刻な問題である。このため、優良
農地の確保に関する国の基本方針の明確化とともに、地元市町村における具体的
な有効利用計画の策定等により、計画的な土地利用に努めることが必要である。

 また、効率的・安定的な農業経営を育成するため、農地の利用集積に向けた市
町村の主体的取組みの推進や農地流動化のための関連制度の見直し等により、引
き続き農地流動化を推進し、担い手に農地を利用集積する必要がある。

 農地・水等の農業生産基盤については、土地改良長期計画に基づき、地域の立
地条件に即し、環境保全に配慮しつつ整備・確保するとともに、多面的機能を有
し、農業生産性向上の基礎となる土地改良施設の適切な整備・更新や公的管理の
充実を図る必要がある。

2 意欲ある担い手の確保・育成と新規就農等の促進

 農業従事者の減少と高齢化の進行は、農業生産の維持・拡大と農業の有する多
面的機能の発揮にとって重大な問題である。このため、専業的な農業者をはじめ
とする経営感覚に優れた効率的・安定的担い手に施策を集中するとともに、その
体系化を図る必要がある。また、地域農業の維持・継続のため、地域の実情に即
した多様な担い手(集落営農の活用、市町村・農協等公的主体による農業生産活
動への参画促進等)の育成等が必要である。

 一方、新規就農者数は近年増加しているものの、我が国の農業を安定的に維持
していくには不十分であり、多様な就農ルートを通じた意欲ある人材の確保・育
成、農業教育の支援等が必要である。

 また、高齢者が生きがいをもって活動できるよう、高齢者の役割を明確にしつ
つ支援するとともに、高齢者を地域ぐるみで支える福祉体制の充実が必要である。

3 農業経営の法人化と法人経営の活性化

 農業経営者としての意識改革や経営の体質強化を図っていくうえで、法人化は
有効な手段であり、法人としての利点を活かしつつ、地域農業の担い手として活
動・発展していくことが期待される(図6)。

 また、経営の多角化、人材の確保等を通じた農業生産法人の活性化を図るため、
事業・構成員・業務執行役員要件の見直しが必要である。

 さらに、担い手の経営形態の選択肢を拡大させる観点から、農業生産法人の一
形態としての株式会社に限り、土地利用型農業への導入を認めることとしたが、
投機的な農地取得等指摘されている懸念を払拭するため、農業者、農業団体等関
係者が納得できる形で、所要の措置を講じることが必要である。

◇図6:畜産部門における農家以外の農業事業体による農業生産シェア(平成7年)◇

4 市場原理の重視と農業経営の安定化
 担い手の創意工夫の発揮と経営感覚の醸成により、生産性の高い農業経営の展
開と需要に即した国内農業生産を促進するため、市場原理を重視した価格形成に
より、農産物の需給事情等が価格に適切に反映されるよう価格政策を見直してい
くことが必要である。この場合、価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼ
す影響を緩和するため、経営安定措置もあわせて講じる必要がある。

5 農村女性の地位向上と役割の明確化    

 農村女性は、農業生産ばかりでなく(図7)、農家生活や農村社会においても
重要な役割を果たしているが、それに見合った評価がなされていない。このため、
地域の方針決定過程等への女性の参画目標の設定等により女性の農業経営・地域
社会への参画を促進するとともに、女性の農業関連起業活動への支援等女性の能
力を発揮できる条件整備を進める必要がある。また、配偶者問題への対応を考慮
し、都市住民の農山漁村に対するイメージを改善するため、農林漁業に関する情
報の発信・提供、農山漁村の青年と都市の女性の交流等を促進する必要がある。

◇図7:年齢階層別にみた家族農業就業者1人当たりの年間農業労働時間(平成9年)◇

6 農業の自然循環機能の維持増進

 国内の資源を有効に活用し、農業の持続的な発展を図るためには、農業の自然
循環機能が維持増進されることが重要であり(図8)、こうした取組みは、国民
が求める安全で良質な農産物の提供や環境問題にもこたえるものとなる。このた
め、農業の持続的な発展に資する生産方式の定着・普及、家畜ふん尿の適切な管
理・利用の推進、有機性資源の循環利用システムの構築等が必要である(図9)。
また、農業分野においても、温室効果ガスの排出抑制など、地球規模での環境問
題への対応の強化が必要である。さらに、ダイオキシン類、内分泌かく乱物質問
題への対応の強化も重要である。
◇図8:農業の自然循環機能◇

no-g08.gif (25224 バイト)

資料:農林水産省作成
◇図9:地方自治体を中心としたリサイクル・システムの事例◇
山形県長井市「台所と農業をつなぐながい計画」(レインボープラン)

no-g09.gif (20770 バイト)

資料:農林水産省調べ
農村に関するもの

1 農業の有する多面的機能の十分な発揮と中山間地域等への直接支払いの導入

 農村で農業生産活動が行われることにより生ずる食料の安定供給機能に加え、
国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、文化の伝承等の多面的機能は、国
民の生活と生命・財産を守るという重要な役割を果たしている。特に、下流域の
住民のためにこのようないわば防波堤としての多面的機能を発揮している中山間
地域等の活性化を図るためには、立地条件を活かした特色ある農林業等の振興施
策等を講ずるとともに(図10)、農業生産活動や農地の保全・管理等を支援する
直接支払いについて、その実現に向けた具体的検討を進める必要がある。

 また、これら多面的機能が国民に正しく理解され、適正に評価されるよう、情
報提供や啓発活動を展開することも必要である。

◇図10:作目別農業粗生産額比率(平成9年)◇

2 生産・生活基盤が一体となった農村地域の総合的・計画的な整備

 農村は農業生産の場であると同時に生活の場でもあり、美しく住み良い農村を
創造するとともに、農業の有する多面的機能を十分に発揮していくため、農業振
興地域制度の見直しによる計画的な土地利用とともに、農業生産基盤及び生活基
盤が一体となった総合的な農村整備の推進が必要である。

3 農村と都市との交流の一層の推進

 ゆとりと安らぎを重視する国民意識の変化に対応し、農村と都市との相互理解
を深めるため、グリーン・ツーリズム等の定着に向けてハード・ソフト両面から
条件整備に努めることが必要である。また、都市住民等のニーズにこたえ、農地
の多面的利用を推進する観点から、市民農園の広範な整備・普及を図ることが必
要である。さらに、子ども達の農業に対する理解の促進、職業観育成等の観点か
ら、農業に関する学習の機会を充実することが必要である。

 都市及びその周辺地域で営まれる農業は、生鮮野菜等の供給のほか、レクリエ
ーションの場、防災空間の提供等の様々な役割を果たしており、都市住民のニー
ズに対応した発展が図られるよう、適切な振興策が必要である。


その他

WTOへの対応

 我が国が国際社会の一員として伍していくため、国際規律等との整合性に十分
留意しつつ、農政の展開を図っていくことが必要である。また、「農政改革大綱」
に即して具体化される施策が、国際規律のもとで正当に位置付けられるよう努力
していくことも必要である。

 このような観点も踏まえ、2000年初の次期WTO農業交渉の開始に向けて、農業
の有する多面的機能や食料安全保障の重要性、輸入国と輸出国との権利・義務の
バランスの確保等を中心とした国民合意の対応方針を早期に確立し、そのうえで
我が国の考え方が的確に反映された合意内容が得られるよう、積極的に主張して
いくことが必要である。

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