★ 農林水産省から


今後の養鶏振興の方向 −養鶏問題懇談会報告について−

畜産局食肉鶏卵課 宮田 透




はじめに

 わが国の養鶏は、食生活が高度化、多様化する中で、良質で安価なたんぱく質
食品である鶏卵・鶏肉を供給する産業として発展してきた。しかし、近年、需要
が横ばい基調に移行する一方、鶏卵・鶏肉の品質や安全性に対する関心が高まっ
ている。

 このような中、平成11年7月に施行された「食料・農業・農村基本法」に基づ
き、生産努力目標等を定めた「食料・農業・農村基本計画」(以下「基本計画」
という。)が12年3月に公表されたところである。この基本計画においては、食
料の安全性の確保と品質の改善、健全な食生活に関する指針の策定等、消費者の
視点を重視しつつ、食料消費に関する施策の充実を図ることとしている。また、
家畜排せつ物の有効利用など、環境と調和のとれた農業生産の確保、さらに、農
業労働力の高齢化が進む中での担い手の育成を図ること等が重要とされている。

 畜産局においては、この基本計画の策定作業と歩調を合わせつつ、11年9月か
ら約半年間にわたり、各分野の有識者や学識経験者の参画を得て「養鶏問題懇談
会」を開催し、12年3月、その検討結果を「養鶏問題懇談会報告書」として公表
したところである。本稿は、その内容について紹介する。


報告書の概要

消費者ニーズへの対応

1 鶏卵・鶏肉の安全性の確保

 鶏卵・鶏肉の安全性に対する関心が高まっている。特に、鶏卵については、近
年、サルモネラ食中毒の発生が増加しており、深刻な問題となっている。このた
め、殻付き卵については、食品衛生法施行規則の改正により、11年11月から賞味
期限表示等が義務付けられたところである。

 また、鶏肉については、輸入鶏肉について国産品と同様の安全性を確保してい
くため、厚生省では相手国政府に対してわが国と同等以上の衛生条件が確保され
る旨の証明を求めていく手続きが進められている。

 さらに、安全性を確保していくためには、鶏卵・鶏肉の生産から消費まで一貫
した衛生対策が大切である。

(1)生産段階

 生産者の衛生意識の向上を図るとともに、HACCP方式の考え方に準じた衛生
管理ガイドラインの作成など衛生対策を強化する必要がある。

 特に、サルモネラ汚染の防止のためには、その主原因菌であるSE(サルモネ
ラ・エンテリティディス)の定期的なモニタリングの励行と汚染鶏群の淘汰、鶏
舎、関連機器の適切な消毒など総合的なSE防止対策を実施する必要がある。

(2)流通段階

 GP(選別包装)センター、食鳥処理場といった処理段階や卸、小売等の流通段
階における衛生管理の徹底およびそのために必要となる施設の整備が必要である。

 また、併せて、厚生省等関連機関とも連携を図りつつ、流通段階における鶏卵
・鶏肉の正しい取り扱い方法のマニュアルを作成し、研修会や講習会等を通じて
関係者に対して普及を図る必要がある。

(3)消費段階

 一般消費者に対し、鶏卵・鶏肉に関する正しい取り扱い方法等の知識(例えば、
サルモネラ菌そのものは70℃で1分間以上加熱すると死滅すること)をさまざま
なメディアを利用して普及啓発を図ることが必要である。

 また、食中毒の多くは飲食店や学校給食等で発生していることから、厚生省や
文部省と連携を図りつつ、研修会や講習会等を通じて関係者に対する衛生管理指
導等を行う必要がある。

2 高品質な鶏卵・鶏肉の供給

 近年、消費者は、安全性のみならず、品質(例えば、鶏卵については卵殻が丈
夫なもの、また、鶏肉については地鶏等の高品質鶏肉や鮮度の高いもの)につい
ても高い関心を有するようになっている。このため、鶏卵については、育種改良
の推進や飼養管理の改善により卵殻の丈夫な鶏卵を供給することを、また、鶏肉
については、地鶏等の生産体制の整備や生産から消費に至る各段階における鮮度
維持に関する体制整備を推進する必要がある。

 一方、特殊卵および特殊鶏肉(地鶏肉以外のもの)の中には、基準等が不明確
なものや消費者の誤解を招きやすいものがあることから、その実態を調査すると
ともに、統一的な基準策定の必要性について検討を行う必要がある。


3 消費者への情報提供

 消費者は商品選択を適切に行うため、安全性や品質に関する正確な情報を求め
ている。こうした状況に対応し、適正な表示を徹底することが消費者の信頼を得
る上で不可欠である。

 このため、小売業者等に対しては、研修会等を通じて適正表示に必要となる技
術面での指導や関連情報の提供を行っていくとともに、消費者や加工メーカー、
外食業者、量販店等の実需者に対しても、鶏卵・鶏肉の栄養や適切な取り扱い方
法、さらには食中毒に関する正しい知識について普及、啓発を図る必要がある。


養鶏の生産・流通に関する事項

1 経営・担い手の育成・確保等

(1)規模拡大による経営展開

 近年、採卵鶏経営、ブロイラー経営のいずれにおいても、飼養規模の拡大が進
展してきており、今後、わが国における鶏卵・鶏肉生産の大きな部分はこれら大
規模経営が担っていくものと考えられる。

 また、規模拡大の進展やオールイン・オールアウトの普遍化に伴い、採卵鶏素
びなの出荷や成鶏処理等に係るロットが大型化するとともに、短期的な変動が大
きくなっていることから、施設等の稼働率が低下する状況がみられるため、関係
業者間の連携を強化する等、施設、人員等の効率化を図るための方策についての
検討が必要である。

(2)ブランド化、直接販売等による経営展開

 特殊卵や地鶏等ブランド化された鶏卵・鶏肉の生産については、中小規模経営
が大きな部分を担っている。これは、素びなの大量供給等の確保が難しいこと、
放し飼いなど飼育形態に特色があること等、大規模経営になじみにくい面がある
ことによるものと考えられる。このような経営体の創意工夫による経営展開を支
援していくためには、畜産物の高付加価値化、経営の法人化等に対する専門家に
よる生産技術指導、マネジメント指導等が重要である。

 また、地域的取り組みにより定時、定量の安定的供給体制や飼養管理方法の統
一化などの品質安定化体制を確立し、消費者等との信頼関係を構築していく必要
がある。

(3)担い手の確保と育成

 今後、高齢化が急速に進むものと予測されるなか、鶏卵・鶏肉の国内生産体制
を安定的に維持していくためには、養鶏を担うべき人材の育成、確保を図ること
が重要である。このため、外部専門家の積極的な活用等による生産技術、経営管
理技術等に関する幅広い支援指導体制を確立し、経営感覚に優れた経営者を育成
していくことが必要である。

(4)情報提供体制の強化および消費者等との交流促進

 担い手となる経営体に対しては、経営の自己分析、改善において重要な判断材
料となる行政、生産、経営管理、衛生、市況等の各種情報が適時かつ効率的に提
供される体制の整備が必要である。

 また、今後、経営を安定的に維持していくためには、経営に対する地域の理解、
畜産物に対する消費者等の信頼を得ていくことが重要である。このため、地域一
体となった交流イベントの開催、ホームページによる生産情報の提供等による生
産者と地域住民、消費者等との積極的な交流を図っていくことが重要である。

2 需給の安定

 鶏卵・鶏肉が適正な価格で取り引きされるためには、その需要と供給とのバラ
ンスを確保することが重要な課題である。

 特に、鶏卵については、需要が停滞的に推移し、自給率が極めて高いこともあ
って、わずかな生産の変動が鶏卵価格の大きな変動につながり、養鶏経営の安定
を損ね、ひいては供給が不安定となる恐れがあることから、今後とも、引き続き
計画的生産を継続していくことが必要である。

 また、鶏肉については、近年、消費が横ばい傾向で推移しており、また、「基
本計画」においては、鶏卵と同様、脂質摂取過多の改善等の観点から長期的には
需要量が減少すると見通されているなか、鶏の生育条件の変化による増体量の増
減や輸入量の動向が需給に大きく影響する点を重視し、今まで以上に綿密な需給
調整への取り組みが必要である。

3 改良増殖の推進

(1)改良増殖の現状

 消費者ニーズに対応した高品質な鶏卵・鶏肉を適正な価格で安定的に供給する
ためには、生産段階における飼養管理技術の改善に加え、優良で特徴ある系統の
造成とそれを活用した優良実用鶏の作出を推進することが大切である。このため、
産卵能力、産肉能力等の鶏の経済的能力の向上を図ること等が重要である。

(2)改良増殖体制の整備と新技術の開発、活用

 鶏の改良増殖については、国、都道府県、民間が密接な連携の下にそれぞれが
役割を分担(国は系統造成、都道府県は組み合わせ検定による優良実用鶏の作出、
民間は実用鶏の増殖とコマーシャル鶏の供給)しつつ、計画的、効率的に推進す
る必要がある。

 また、効率的な改良を推進するためには、DNA解析技術など改良関連新技術の
開発、利用を図ることも必要である。

(3)国産鶏の普及促進

 わが国の気候風土の中で、国産鶏の持つ能力を最大限発揮させるためには、生
産者に対して、改良鶏の飼養管理マニュアルの策定、経営、技術指導の徹底等を
行うとともに、国産鶏ひなの安定的供給体制の整備が必要である。

4 衛生対策の推進

(1)疾病の発生防止体制の整備

 飼養規模の大型化に伴い、疾病の発生を未然に防止する家畜衛生対策を推進す
ることがより重要となってる。このため、生産農家における衛生管理の徹底、診
療獣医師等からの的確な疾病発生情報の収集体制の整備など、伝染病の発生予防
体制の充実、強化が必要である。

(2)安全性の確保対策

 鶏卵・鶏肉の安全性を確保するためには、生産、流通、消費の各段階における
衛生管理体制の整備のほか、動物用医薬品および飼料添加物については、その製
造、流通段階における品質管理の推進、製造業者に対する的確な指導監督、生産
農家による適正使用の推進に努める必要がある。

(3)衛生コストの低減

 鶏の疾病が複雑化する中で多種類のワクチン接種が必要となっていることから、
生産段階における衛生管理の徹底を図るためには、ワクチン等の衛生コストの低
減が不可欠である。このため、多機能、省力型ワクチン等低コスト資材の開発等
を推進する必要がある。

5 環境対策の推進

(1)家畜排せつ物処理施設の計画的整備の促進

 11年7月に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」が成
立したところであり、鶏ふんについてもその有効利用を図るため、都道府県が策
定する施設整備目標等を内容とする計画に基づき、関係者が一体となり、補助事
業、リース事業等の積極的な活用を図りつつ、たい肥化施設等の計画的な整備を
促進する必要がある。

(2)鶏ふんの処理技術開発の推進等

 鶏ふんの適正な管理および利用を図るためには、低コストで効率的な悪臭防止
技術の開発が必要である。また、排せつ物の発生量の多い地域等における円滑な
処理を図るため、窒素、リンの排せつ量の低減化、エネルギー利用等多様な処理、
利用技術の開発、普及を図る必要がある。

(3)たい肥の流通促進

 養鶏経営体は、自己の経営内で発生した鶏ふんを還元できる広さの自己農地を
保有していない場合が多いことから、耕種農家等との連携を図りつつ、たい肥の
有効利用を促進するため、たい肥センター等におけるたい肥の成分分析や散布サ
ービスの実施等その機能の強化を図るとともに、「たい肥センター協議会(仮称)」
を設立し、たい肥センターの組織化、連携強化を図ることが必要である。

6 飼料対策の推進

(1)低コストによる安定供給

 飼料費は、養鶏の生産費の5〜6割を占め、最大のコスト要因となっていること
から、養鶏経営の安定のためには、飼料費の低減を図るとともに、養鶏用飼料を
安定的に供給していくことが極めて重要である。

 このため、利用サイドについては、発育ステージや能力に合った飼料の給与等
による配合飼料使用量の節減、共同購入等による購買単位の拡大等が必要である。
また、供給サイドについては、企業間の製造受委託の推進、バラ流通の推進等流
通の一層の合理化が必要である。

(2)飼料の安全性の確保

 飼料の製造、保管、出荷等の流通の各過程におけるサルモネラ対策をはじめと
した衛生水準の向上対策の推進を図るとともに、飼料の安全性確保のための検査
指導体制の一層の充実が必要である。

(3)未・低利用資源の飼料活用

 食品製造副産物、食品残さ等は貴重な有機質資源であることから、安全性の確
保、品質の安定化等に留意しつつ、未・低利用資源の飼料活用を推進することが
必要である。

7 国産鶏卵・鶏肉の需要拡大

(1)国産鶏卵・鶏肉の利点の普及、啓発

 鶏卵・鶏肉については、栄養面や安全性の確保に対する消費者の知識が不足し
ている面があることから、鶏肉・鶏卵に関する知識の普及、啓発が大切である。
鶏卵については、栄養面での優れた特性や食中毒予防のための正しい取り扱い方
法等を、さまざまなメディアを利用して、消費者や加工メーカー、外食業者、量
販店等の実需者に対してはもちろん、医師や保健所職員、学校給食関係者等に対
しても普及、啓発を図ることが必要である。

 鶏肉については、良質のたん白質の供給源であること等に加えて、低脂肪なホ
ワイトミートとしての特色を前面に出すことや、特にむね肉はもも肉以上に脂肪
含有量が少ないこと等消費者の健康志向に訴える手法での普及、啓発を図ること
が効果的であると考えられる。また、鶏肉は、鶏卵と同様に「鮮度」が重要な生
鮮食品であり、0〜4℃保管でと殺処理後8時間以上72時間以内に調理されること
が風味(フレーバー)や味の点で最良であることが知られている。このことから、
消費者に対しては、新鮮な国産鶏肉を使用した最良の味等を引き出す調理方法の
宣伝も重要である。

(2)ニーズに対応した新商品の開発等

 今後、高齢化、中食化、外食化等が一層進展するのに伴い、鶏卵・鶏肉ともに
業務、加工用の需要が増大すると見込まれる。このため、国産の鶏卵・鶏肉の需
要拡大を図るためには、業務、加工サイドのニーズに対応した新規需要の開発が
必要である。

 特に、むね肉や成鶏肉などの低需要肉に関しては、業務、加工用等に積極的に
活用していくため、これらを利用した新商品の開発とその普及(料理講習会、イ
ベントへの出品等)に対する支援が必要である。

8 流通の合理化等

(1)流通の合理化

 鶏卵・鶏肉を適正な価格で安定的に供給していくためには、生産段階のみなら
ず流通段階における合理化も推進する必要がある。特に、輸入品との競争が激化
している鶏肉については、食鳥処理場での鶏肉処理の効率化を図るため、産地ご
との再編、統合を進めるとともに、その基幹的施設のみならず、自動解体機、高
度加工施設等の整備に対する支援が必要である。

(2)未利用資源(卵殻、羽毛等)の活用

 鶏卵・鶏肉に関しては、業務用分野における割卵処理時の卵殻、GPセンターで
破卵等として除かれた食用不適格卵、食鳥処理の残さ(羽毛等)が相当数量発生
している。鶏卵・鶏肉の流通の円滑化を図るためにも、また、循環型農業の確立
という観点からも、これら資源の新規需要、用途の開発とその普及に対する支援
が必要である。


おわりに

 わが国の養鶏には、鶏卵・鶏肉を安全性、高品質、新鮮さといった消費者のニ
ーズに応えつつ、適正な価格で安定的に供給していくことが強く求められており、
そのためにはどのような対応が必要かという観点に立って本報告書を取りまとめ
た。

 全国段階、地域段階の双方において、また、生産から流通、消費に至る各段階
において、関係者、関係団体が共通認識の下に一体となって、かかる期待に応え
るための取り組みを主体的に展開し、行政もそうした取り組みに対して所要の支
援を行うことにより、わが国の養鶏は21世紀においてさらなる発展を持続するこ
とが可能になると考える。なお、最後になりましたが、懇談会の運営から報告書
のとりまとめに至るまで、いろいろとご尽力いただきました社団法人中央畜産会
に深く感謝の意を表します。

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