◎地域便り


親子で歩んだ酪農1億円産業への道

企画情報部


 あれからちょうど5年たとうとしている。

 農業生産法人としての有限会社トール・ファームが設立され、またフリースト
ールによる乳牛の飼育に転換したのが平成7年7月だった。代表取締役田川吉男さ
ん(29)にとっては生涯忘れられない年となるだろう。

 今でこそ農業生産法人設立の手引等が普及しており、先輩法人経営者の経験に
学びながらの設立にはさほど労を要さないが、20代半ば、そして就農数年の田川
さんにとってそれは難事業だった。

 広島県でも備北地域、鳥取、島根、岡山各県がすぐ隣の東城町では設立のノウ
ハウはなかった。そこで三次市等の法人経営者の下へ何度も通い、指導を受けた。

 父朋納さん(58)は現役。手伝ってくれてもよさそうなものだが、吉男さんを
代表に据えようと決めていたし、何よりも「吉男さんの考え方を新しい経営体制
の中で反映させよう」と思っていたので、口は出さなかった。

 そんな田川さん父子には共通の夢があった。1つの酪農経営体として「1億円
の売り上げを実現する」ことだ。しかし、たとえ親がホップしても子がステップ
につなげる前に、厳しい相続税が立ちはだかり、もう1度ホップからやりなおさ
なければならないのが個別経営の宿命となっている。そこで農業生産法人への経
営体制転換に踏み切ったのであった。

 さて、フリーストールだが、広島県内には失敗例こそあったが、ほとんどの酪
農家にとってはちゅうちょする飼育方法でしかなかった。だが通常のつなぎ牛舎
では人員当たりの管理頭数に限界があって、飼養規模の大幅拡大は望めそうもな
い。しかし、「1億円酪農」を目指すには規模拡大しなければならない。

 壁に突き当たった感の父子に助言してくれたのは吉男さんが通った県立農業大
学校時代の恩師であった。「もうかる酪農を展開しようとするならばフリースト
ールを」と勧めてくれた。同じ頃、北海道を旅行した朋納さんもその実際を見て
「これだ」と確信した。

 現在の規模は成牛170頭、育成牛20頭。搾乳量は1日当たり4,000キログラムに
達している。広島県酪連加入の酪農家中、常にベスト3に入る実績を挙げている。
そして昨年度の売り上げは1億5,000万円、とうに「1億円産業」を実現している。

 農業生産法人という装置を活用して、ステップした吉男さんが描くのは350頭
までの飼養頭数の拡大である。フリーストールを手中に収めた現在、それは難し
いことではなさそうだ。しかし朋納さんはアドバイスする。その規模で生産がフ
ル稼働した時の乳価をどのレベルに設定するか?また、借入規模についても1頭
当たり換算して、たとえば60万円とするなど上限を設けるべきとも。

 トール・ファームがさらに大きくジャンプアップする日はそう遠くはなさそう
だ。
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【フリー・ストール牛舎】

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