◎地域便り


搾るだけの酪農からソフトクリームへの進出

企画情報部


 「どうです? においがほとんどしないでしょう。ハエもほとんどいません。」。
道を挟んだ反対側の住居から出てきた代表取締役の藤川弘幸さん(55)は、牛舎
の前に立つと自慢そうにこう話す。

 現在飼養する乳牛は55頭。昭和40年代の初め、まだ父の代だったが、ホルスタ
イン1頭を導入したのが藤川さん方での酪農の始まり。その後、最高で120頭まで
増やしたが、徐々に規模を縮小してきた。小さくなったといってもそれは頭数だ
けのことで、総合的な意味での経営規模は飛躍的な拡大を遂げている。単に乳を
搾るだけから加工、販売までをカバーする酪農へ転換したのだ。それを支えてき
たのは「健康な牛」である。

 藤川牧場では市場で牛を購入してくると、まずその体質改善にかかる。とかく
酸性になりやすい牛の体を弱アルカリ性に転じようというのだ。ポイントとなる
のは薬ではない。水によって体質を変えるのだそうだ。

 その結果、牛の消化器系、なかでも腸の働きが格段に向上する。要するに飼料
を完璧に消化するのだから、排せつ物もにおいがしなくなり、当然ハエもつかな
い。こうなると聞きたくなるのは牛に飲ませる水だが、それはおいて、ソフトク
リームの話を聞こう。

 健康な牛から搾った牛乳はもちろんおいしい。だが、飲んでもらうだけでは大
きな付加価値を望むことはできない。そこで手がけたのがソフトクリームの製造、
販売である。

 牧場から車で数分の所にある道の駅「しおのえ」に販売コーナーを出店した時
は、それなりの覚悟をしていたが、それは杞憂に終わった。現在では高松市内の
店舗分も合わせると、1日1千個を超す売上を維持している。

 塩江町は弘法大師の時代からの歴史を誇る温泉郷。瀬戸、鳴門両大橋の開通で
増加した関西方面からの旅行者をターゲットにしたのだが、これが見事に当たっ
た。だが、ソフトクリームはお土産で持ち帰ることはできない。そこで2年前か
らアイスクリームの製造、加工にも着手した。これは藤川牧場が単独で事業化し
たものではなく、2戸の酪農、耕種農家との任意組合形態で運営されている。名
称は「しおのえミルククラブ」。ミルクアイスはいうまでもなく、緑茶アイス、
イチゴアイス等も作られており、牛乳と混ぜる茶、果実も塩江町で生産された農
産物である。藤川牧場の年間搾乳量は45万キロリットル。生乳出荷とソフト、ア
イスクリーム加工、販売の収支への貢献割合は近年逆転し、45対55となった。

 健康な牛からの牛乳は藤川牧場にソフトクリーム、アイスクリーム事業への進
出をもたらしたが、いまそれは地域農業活性化のけん引車にもなろうとしている。
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【においのしない牛舎の前に立つ
藤川弘幸さん】

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