◎調査・報告


乳製品取引パイロット市場の開設について

乳製品取引市場運営機構 事務局長 藤井 清臣




市場設立の背景

 わが国の酪農は、農業基本法及び加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の下で
著しく発展し、優れた経営感覚を有する専業かつ規模の大きい酪農家が大宗を占
める農業構造が実現したが、一方で、担い手の育成・確保、畜産環境問題の深刻
化、輸入飼料への過度の依存等の問題が生じている。また、乳業も大きく発展を
遂げ、牛乳・乳製品の需要の拡大に貢献してきたが、乳業の再編・合理化は依然
として進展しておらず、乳製品の内外価格差も大きい。

 このような状況の中で、わが国酪農・乳業の健全で持続的な発展を期するため
には、国際化や市場原理といったものに配慮しながら、酪農経営の安定を図りつ
つ、国内生産の可能な限りの拡大を図るとともに、これを基本とする牛乳・乳製
品の安定的な供給を確保する必要がある。

 このため、農林水産省は、「農政改革大綱」を踏まえた「新たな酪農・乳業対
策大綱」の中で、乳製品および加工原料乳については、現行の価格政策の下、乳
製品価格、加工原料乳価格が、硬直的・固定的となっているため、川下のニーズ
等に応えた生産・供給が行われていない等の問題が生じていること、WTO次期交
渉においては、国内助成の削減等がより一層求められると想定される中で、次期
交渉に備えた対応が急務となっていること、が指摘がされた。このため、平成13
年度を目途として、計画生産等の的確な実施により、引き続き全体としての需給
の安定を図りつつ、安定指標価格、国産乳製品の売買操作、基準取引価格および
これに係る勧告を廃止し、実際の取引価格が市場実勢を反映して形成される制度
に移行することとなり、その一環として、乳製品取引については、新たな入札に
よる透明性の高い取引を行う場として乳製品取引パイロット市場(以下「パイロ
ット市場」という。)を創設することとされた。

 これを受けて、社団法人中央酪農会議は、11年10月、畜産局及び農畜産業振興
事業団(以下「事業団」という。)の指導の下で、パイロット市場の開設、情報
の提供等を的確に実施するための「乳製品取引市場運営機構」を新たに設置し、
この市場における取引情報を販売者、購買者等に適切に提供するための体制が整
備された。


乳製品取引の現状等

 乳製品の取引については、従来から、そのほとんどが乳業者と実需者の相対取
引により行われており、その価格情報は、畜産局が主要な乳業者および卸売業者
から報告を求めて「大口需要者向け販売価格」として公表している。しかし、こ
の取引価格の形成は、相対であるため、価格決定方法が必ずしも明確でなく、ま
た、需給事情を的確に反映しにくい性格を持っているとの指摘がある。 

 主要な乳製品である脱脂粉乳およびバターの入札による売渡しは、以前から事
業団によって輸入乳製品について行われてきた。UR合意によってすべての乳製品
が関税化されて以降は、7年度から開始された事業団によるカレントアクセス分
等の輸入乳製品について行われてきており、9年度から(社)中央酪農会議によ
る指定生乳生産者団体委託加工乳製品(いわゆる「とも補償」乳製品)について
も入札による売り渡しが行われるようになった。入札によって売り渡されている
乳製品が国内流通量に占める割合は、脱脂粉乳で15%、バターで3%に相当する
数量となっている(いずれも9年度における推計値)。しかしながら、これらの
入札取引はそれぞれ別々に行われており、入札条件、時期、情報提供等も異なっ
ていることから、これらの情報が市場実勢を反映した乳製品の取引価格形成に及
ぼす影響は限られたものであった。

 乳製品の取引に市場原理を導入するための有力な方策として、乳製品の入札取
引市場を育成し、そこで形成される価格を生産者、乳業者等に対して適切に伝達
すること等により、相対取引にも反映させることが考えられ、このため、当面、
上記の乳製品の入札取引を一体的に運用できるパイロット市場を開設し、当該市
場における取引数量の拡大の可能性を探るとともに、この市場取引情報を一般取
引においても有効に活用できるような形で公開することにより、乳製品取引に市
場実勢を反映させていくこととなった。


乳製品取引市場運営機構の概要

 パイロット市場の設置・運営に当たっては、生乳生産者、乳業者、流通業者、
実需者等からみて、公正中立かつ組織的な運営体制を整えることが重要であるこ
とから、乳製品取引市場運営機構(以下「機構」という。)は、(社)中央酪農
会議の1部門ではあるが、公益法人の定款に準じた基本規程を定め、11年10月7日
に独立した機関として設立された。

 具体的には、学識経験者、生産者および乳業者の代表で構成する運営委員会
(16人)と専門委員会(16人)を設け、機構の主要な目的である@パイロット市
場の開設と運営、A入札取引情報の提供、Bパイロット市場の目的、取引状況等
の普及等を行うこととなり、数次の検討を経て、「乳製品の入札取引に係る業務
規程」および「取引情報等の提供に関する業務規程」を策定し、これに基づき逐
次業務を開始したところである。

 また、入札取引に関しては、入札の適正な運営の確保を図るため、取引に関わ
りのない第三者で構成する取引監視委員会(4人)を設置して、入札の実施、開
札、買受人の決定、落札通知、入札情報の管理等が適切に実施されるようチェッ
クを行うこととしており、パイロット市場の透明性、公平性を確保することとし
ている。
◇図:乳製品取引パイロット市場の概要図◇

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入札取引の仕組み

 パイロット市場における、入札取引の仕組みの概要は次のとおりである。

@i パイロット市場において、入札取引に参加することのできる者は、

 ア 売り手は、事業団および乳製品を自ら所有し保管する者

 イ 買い手は、食品衛生法第21条第1項の規定に基づく営業許可を受けた者で、
 その許可に係る営業が、菓子製造業(パン製造業を含む。)、アイスクリーム
 類製造業、乳処理業、乳製品製造業、清涼飲料水製造業、乳酸菌飲料製造業、
 食肉製品製造業、魚肉ねり製品製造業、マーガリン又はショートニング製造業
 および缶詰又は瓶詰食品製造業であるもの並びにそれらを構成員とする協同組
 合等、乳製品の販売業者であり、いずれも、予め機構に登録申込みをし、登録
 証の交付を受けることとなっ ている。(事業団を除く。) 

 ii 入札取引に参加する場合には、この登録証を携帯しなければならない。

A パイロット市場における入札取引の対象とする乳製品は、原則として、乳等
 省令の規格に合致する脱脂粉乳およびバターとする。

B 入札取引の実施は、原則として隔月とし、機構は、運営委員会で実施日等を
 定めて登録者に通知するとともに公表する。

 なお、需給事情および広域生乳需給調整事業により委託製造された乳製品につ
いては、必要と認める場合には、上記の隔月の間の月においても実施することが
ある。

 この場合、変更の都度、登録者に通知するとともに公表する。

Ci 入札に係る売り手の申込みは、入札取引実施日の8日前までに、乳製品の
 種類、売渡数量、売渡の対象となる荷口(売渡ロット)、代金決済条件を機構
 に提示する。

 売渡ロット:

 売り手、種類、数量、製造者、製造年月日および品質保持期限、試験成績証明
書の写し、保管場所、(製造国、輸入業者名)

(注)保管場所は、機構が別途指定した京浜および阪神の倉庫とする。

 代金決済条件:
	
 現金取引とし、現品引渡しまでの期限は入札取引の日から21日以内で売り手が
定める。

 ii 売り手は、売渡ロットごとに、売渡予定価格(最低価格または希望価格)
 及び希望落札数量を申し出ることができる。

D 入札数量等の通知は、Cのiの申込みを整理して入札取引の7日前までに買
 い手に通知する。

Ei 入札は、所定の様式の入札書により、取引場に出席して行う。

 ii 入札の最低限度数量は、原則として、脱脂粉乳は5トン、バターは2.5トンと
 する。

 iii 入札保証金は、応札金額の100分の5以上を入札取引の日の前日までに機構
 に納付する。(事業団が売り手の場合は、事業団へ)

F 入札価格は、保管場所における在姿渡しのトン当たりの価格(消費税および
 地方消費税を含まない価格)とする。

G Cの ii による売渡ロットごとに売渡予定価格等に基づき落札を決定して、当
 該落札に係る売り手および買い手に落札価格および落札数量を通知する。

H 前項の通知を受けた売り手および買い手は、速やかに当該通知に係る乳製品
 について、売買契約を締結するものとする。なお、機構は、売り手および買い
 手の間の契約事項には関与しない。

I 入札取引ごとに入札取引の適正を確保するため、取引監視委員2人以上が必ず
 立ち会うこととする。


情報の提供

 入札取引結果の公表は、入札取引の終了後、速やかに、上場種類ごとの国産品
と輸入品の入札に付した数量、応札者数、応札数量、応札倍率、落札者数、落札
数量、落札率、およびトン当たりの落札最高・最低価格、加重平均価格を入札取
引場に掲示するとともに、インターネットにホームページ(http://www.kujira.
com/dpeao/)を開設し、公表する。なお、必要に応じペーパーにより通知するこ
ととしている。

 また、年度終了後に速やかに当該年度全体の取引結果を取りまとめて、公表す
ることとしている。

 上記の入札取引結果の公表のほか、一般情報の提供として、パイロット市場の
普及定着を図るため、機構を設立した趣旨、目的およびメリット、取引状況等並
びに周辺情報等について、乳業者、乳製品の実需者、生乳生産者団体および酪農
家等に対するパンフレットの発行、ホームページへの掲出を行い、今後、情報誌
も発行することとしている。


第1回の入札取引の概要

 11年10月に畜産局が機構設立を公表したのを受けて、機構は、関係団体を通じ
て機構のパンフレットおよび入札取引に係る業務規程等を配布するとともに、関
係者の参集を得て数回の説明会を開催し、パイロット市場創設の趣旨、目的、入
札取引の仕組み等について説明し、参加を呼びかけた。

 その結果、短期間にもかかわらず10月末までに、売り手17者、買い手40者の登
録申請を受付、登録を完了した。(12月1日現在登録者数:売り手20者、買い手
44者)

 第1回の入札取引は、事業計画に従い、11月16日に岩崎充利運営委員長(財団
法人畜産環境整備機構理事長)の「機構設立の趣旨、目的および方針等」の挨拶
により取引場を開設、取引を開始した。

 今回は、(社)中央酪農会議が取り扱う委託加工乳製品の上場がなかったため、
事業団の輸入脱脂粉乳(2,277トン)のみであり、入札結果は次のとおりであっ
た。

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 注:輸入特A、輸入Aは規格

 今回の結果は、パイロット市場としての初めての試みであり、輸入物のみであ
ったこと等から以上の結果となったが、次回以降は、(社)中央酪農会議の国産
乳製品の上場が予定されていることから、さらに多数の応札があるものと見込ん
でいる。

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 なお、現時点における入札取引事業計画は、次のとおりである。


パイロット市場における価格形成

 近年における指定乳製品の月別取引価格をみると、相対での取引で行われてい
る大口需要者向け価格は、年間を通じてほとんど同水準で推移しているのに対し、
事業団および(社)中央酪農会議が実施している入札による取引価格は、取引時
点での需給を反映した価格変動がみられる。

 パイロット市場への上場が予定されている事業団および(社)中央酪農会議の
乳製品のみで適正な市場取引価格の形成がなし得るのかといった指摘もあるが、
事業団が売り渡す脱脂粉乳については、カレントアクセス分を一定数量・定期的
に継続して市場上場することにより、市場開催の実績を対外的にアピールするこ
とが可能であり、輸入乳製品需要者の計画的な原料乳製品調達の途も開けること
となる。また、(社)中央酪農会議が売り渡す脱脂粉乳およびバターについては、
原料となる生乳は、飲用としては、余乳であっても乳製品としては品質的には何
ら遜色のないものであり、国内流通量からみると数量的には小さいものの国産乳
製品が上場され、透明性が確保された公正な形で市場取引されているという事実
は、相対取引上の参考となり得るものであり、間接的ながら相対取引への影響が
期待できるものと考えられる。

 さらに、このパイロット市場においては、売買当事者の幅広い参加を得て市場
が定着するのに伴い、品質・規格の違いに基づく評価が実現されるものと期待さ
れている。

 このように、パイロット市場からの取引情報の発信により、市場実勢や需給を
反映した価格の形成が促進され、これが大口取引を含めた相対取引にも反映され
ることが期待されている。


おわりに

 パイロット市場の効果としては、@価格情報の提供による相対取引への反映、
A生産者の委託加工乳製品の安定的販路の確保、B中小実需者の安定的仕入れル
ートの確保、Cスポット需要にも対応する取引の場の提供が可能となると考えて
いるが、このパイロット市場が、真に信頼性の高い価格形成の場となるためには、
売り手として幅広い乳業者の参加を得、また、買い手としての実需者の多数の参
加を得て、取引数量の拡大を図ることが重要であり、このため、機構としては、
関係業界から市場として信任を得るべく、公正な取引の確保に努力して参りたい
と考えており、関係者の協力を心から期待しているところである。

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