★ 農林水産省から


WTOシアトル閣僚会議の結果について

企画情報部情報第一課


 平成11年12月、米国シアトルにてWTOシアトル閣僚会議が開催された。今般、
その結果について、農林水産省から公表されたので、本誌上でご紹介する。また、
WTO交渉における対応の我が国の基本的立場を理解するために参考資料も併せて
ご紹介する。


WTOシアトル閣僚会議の結果

1 日時等

 平成11年11月30日(火)〜12月3日(金) 於:米国・シアトル


2 全体概要

(1)全体会合の下に、@農業、A市場アクセス、B実施・ルール、C新分野、D
 WTOの機能という5つの閣僚級分科会を設置。各分野毎に真剣な議論が行われた。

(2)しかしながら、

 @農業、ダンピング防止措置、貿易との関連での労働問題の扱い等の分野で、
加盟国の立場が大きく異なっていたこと。解決すべき問題はあまりにも困難で、
時間はあまりにも限られていたこと

 A135の加盟国を抱え、会議の運営において、議論の効率性と透明性を両立さ
せることが極めて難しい状況であったこと

 B新しいラウンドを立ち上げること自体に対するコンセンサスが完全ではなか
ったこと

 等により、会議最終日の3日になっても閣僚宣言の調整がつかなかった。

(3)現地時間12月3日午後10時(日本時間4日午後3時)過ぎに開催された全体会
 合において、議長であるバシェフスキー通商代表が「このプロセスは中断する。
 中身に進展はあったのでこれを凍結し、ジュネーブに引き継ぐ」旨発言を行っ
 た。

 この結果、今回のシアトル閣僚会議では、新しいラウンドを立ち上げるための
閣僚宣言の採択は行われなかった。


3 農林水産分野

(1)農業分野

ア.農業分野については、

 第一に、農産物を鉱工業品と同一のルールの下に置くか否か
 第二に、次期交渉における農業協定第20条の位置付け
 第三に、農業の多面的機能の取扱い

 という、大きく3つの論点があった。

イ.このうち、我が国が主張してきた

 @「農産物を鉱工業品と同一のルールの下におく」という一部の国の考え方は、
 農業の特性を無視するものであること

 A次期農業交渉は、農業協定第20条に基づくものであることについては、各国
 の理解を得ることができた。

ウ.また、我が国が強く主張してきた農業の多面的機能についても、我が国の考
 え方に理解を示す国は増えてきている。

 特に、今回、農業の多面的機能の具体的内容である食料安全保障、環境保護、
農村地域の活性化等については、各国の理解を得ることができた。

(2)林野・水産分野

 林野・水産分野については、貿易問題を考える上で、地球環境の保全や持続的
な資源管理の観点を踏まえることの重要性を主張してきたが、少なからぬ国の支
持が得られた。交渉全体を「環境保護」、「資源管理」、「輸出入国間の権利義
務のバランス」の観点を考慮し進めることが必要という考え方について、一定の
理解が得られた。


「多様性と共存」の時代に資する21世紀の貿易ルールの 構築を目指して −WTO交渉に向けての日本の提案−(抜粋)

農 業

「日本提案」の5つのポイント
1 農業の多面的機能の重要性
2 食料安全保障の重要性
3 輸出国と輸入国の公平性
4 途上国への特別な配慮
5 GMO(遺伝子組換え体)等新たな課題への対応
1 農業の多面的機能の重要性
〈主張のポイント〉

 農業は、自然環境と調和した生産活動を通じて、国土や自然環境の保全、良好
な景観の形成等人間の生活に欠くことのできない多様な役割、すなわち「多面的
機能」を果たしています。

 この「多面的機能」は、それぞれの国において持続的に農業を営むことにより
発揮されるものであり、貿易で確保することはできません。
☆農業の多面的機能は国際的にも認められています。

●OECD農業大臣会合コミュニケ(1998年3月)

 「農業活動は、食料や繊維の供給という基本的機能を超えて、景観を形成し、
国土保全や再生できる自然資源の持続可能な管理、生物多様性の保全といった環
境便益を提供し、そして、多くの農村地域における社会経済的存続に貢献するこ
ともできる。」

●我が国が考える「農業の多面的機能」の性格
@生産活動と一体となって発揮されるものであること。
A通常営まれている農業生産活動により発揮されるものであること。
B当該国の国民がその価値について共有の認識を持っていること。
●農業の多面的機能のイメージ
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2 食料安全保障の重要性
〈主張のポイント〉

 平和を維持することと食料を安定的に確保することは、どの国にとっても、国
民に対する国の基本的な責務です。

 したがって、世界のどの国でも、最低限必要と考える食料を得る権利、食料安
全保障の重要性が認められるべきです。

 この場合、今後の国際的な食料需給のひっ迫の可能性や開発途上国の飢餓・栄
養不足問題を考慮すれば、それぞれの国において、その国の国内生産が基本とさ
れるべきです。
☆食料安全保障は世界的な課題です。

●FAO世界食料サミットにおける整理(1996年11月)

 「食料安全保障は、すべての人がいかなる時にも彼らの活動的で健康的な生活
のために必要な食生活のニーズと嗜好に合致した、十分で、安全で、栄養ある食
料を物理的にも経済的にも入手可能であるときに達成される。」

 「生産力の高い地域及び低い地域において、家庭、国、地域及び地球レベルで
十分かつ信頼できる食料供給にとって不可欠で、(中略)持続可能な食料、農業、
漁業、林業及び農村開発政策と行動を追求する。」

☆農業生産は、次のような特質から、その需給は不安定になりやすいものです。

 @土地条件や水利、気象といった自然条件の制約を強く受ける。

 A生産量が変動しやすい。

 B生産に一定の期間を要し、生産物の貯蔵性も乏しいことから、需給事情の変
 動に迅速に対応することが困難。


3 輸出国と輸入国間の公平性
〈主張のポイント〉

 ウルグアイ・ラウンド農業合意により、輸入国には多くの義務が課せられ、国
内需給の状況にかかわらず輸入数量を制限することは原則として認められていま
せんが、輸出国には輸出数量制限の規律が緩やかであること等、現行のWTO農業
協定は公平性を欠いています。

 こうした状況を見直し、輸出国と輸入国間の公平性を回復することは、世界の
いずれの国にとっても公平で公正な貿易ルールを構築する上で不可欠です。
☆現行の農業協定の規律は、輸出国側に偏った内容となっています。

●輸入側と輸出側の規律に関する対比表
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4 途上国への特別な配慮
〈主張のポイント〉

 多様性と共存の時代である21世紀においては、それぞれの国の置かれた状況や
ニーズに配慮した対応が大切です。

 特にWTO加盟国の大半を占める途上国については、輸出先進国とは異なる立場
を理解していく必要があります。例えば、飢餓・栄養不足問題を抱える途上国の
最優先の政策課題である食料安全保障問題の解決のため、途上国の国内の食料生
産能力向上に向けた取り組みへの支援は欠かすことができないものです。

 この交渉では、途上国に対する支援を含め特別な配慮を払うことにより、先進
国と途上国との間の公平性を図り、途上国がWTO体制に積極的に参加できるよう
な貿易ルールを構築することが必要と考えます。
☆今回の交渉において途上国に配慮した対応を行うことは、WTO農業協定第20条
 にも明記されています。

●農業協定第20条(抄)

 「加盟国は、根本的改革をもたらすように助成及び保護を実質的かつ漸進的に
削減するという長期目標が進行中の過程であることを認識し、次のことを考慮に
入れて、実施期間の終了の1年前にその過程を継続するための交渉を開始するこ
とを合意する。

(C)非貿易的関心事項、開発途上加盟国に対する特別のかつ異なる待遇、公正
で市場指向型の農業貿易体制を確立するという目標その他前文に規定する目標及
び関心事項」


5 GMO等新たな課題への対応
〈主張のポイント〉

 近年、遺伝子組換え体(GMO)を含む食品の安全性、環境問題等に対する消
費者の関心が高まっており、これら新しい課題に適切に対応していくことが不可
欠です。

 例えば、遺伝子組換え食品の取扱いについては、その生産や輸出入、表示、権
利保護等多くの課題が生じています。

 このような市民社会の関心が高く、ウルグアイ・ラウンド交渉時には想定して
いなかったような課題については、現状分析、問題整理を多角的に検討するため
の場を設置し、幅広い視点から積極的に取り組んでいく必要があります。

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