★ 農林水産省から


加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の一部を改正する法律について

畜産局牛乳乳製品課 黒井 哲也




法律改正の背景・理由

 わが国酪農は、旧農業基本法の下で、零細な生産構造を脱却し、1戸当たりの
飼養規模で欧州をしのぐ水準に達するなど、主要な農業部門として順調に発展し、
安定的な生乳生産を通じ、国民の食生活の向上に貢献してきたところである。

 また、酪農の順調な発展を背景として、乳業もわが国の基幹的な食品産業に成
長し、国民への牛乳・乳製品の安定的供給に重要な役割を果たしてきた。

 このようなわが国酪農・乳業の順調な発展に当たっては、加工原料乳の不利性
を補正するための不足払いの実施をはじめとする加工原料乳生産者補給金等暫定
措置法に基づく措置の果たした役割は大きいものがある。

 しかしながら、現行制度については、国が行政価格を定めることにより加工原
料乳の生産者に一定水準の手取りが確保される結果、生産者に販売価格の動向が
伝わらず、生産者・生産者団体の生産・販売努力が促進されにくいものとなって
いるとの問題が顕在化している。

 このような状況を踏まえ、需要の動向に応じた加工原料乳の生産を促進するた
め、市場評価が生産者手取りに反映されるよう、安定指標価格、基準取引価格等
を廃止するとともに新たな生産者補給金制度に移行することとした。また、近年
における酪農生産の地域特化の急激な進展、輸送技術の高度化といった生乳の生
産、流通事情の変化に対応した指定生乳生産者団体の実現を図るため、現行の指
定制度の見直しを行うこととした。

 このため、これらの事項を改正内容とする「加工原料乳生産者補給金等暫定措
置法の一部を改正する法律案」を平成12年2月に第147回国会に提出したところで
あり、衆・参両院農林水産委員会での審議を経て、去る5月19日に成立し、同月
26日に公布された。以下では、この改正法の概要について説明する。


改正法の概要

加工原料乳の生産者補給金の算定方法等の見直し

 現行制度では、保証価格から基準取引価格を差し引いて補給金単価を求めてい
たが、このような不足払いによる算定方法を改め、市場実勢が生産者サイドに適
確に伝達されるよう、生産費等の動向を基本に一定のルールに基づいて毎年度あ
らかじめ算定される補給金単価による助成方式に変更する。

 この新たな生産者補給金の単価算定に 当たっては、

@ 生産者サイドからは、生産コスト等の変動を踏まえつつ、一定期間における
 生産者の経営判断等の目安となるよう単価をより安定すべき

A 消費者、納税者サイドからは、生産性の向上を的確に反映させた単価算定と
 すべき

との2つの観点がある。今般の制度改革につき実務的・実践的な検討を行ってき
た乳製品・加工原料乳制度等検討委員会において、これらの観点をともに満たす
算定方式について検討が行われ、他作目における算定方式も踏まえ、前年度の助
成単価に、生乳の生産条件(生産費、乳量等)の移動3年平均による変動率を乗
じるとの方式が同委員会において示されたところである。

 なお、13年度の補給金単価については、新たな制度の下での初年度単価となる
が、その決定に当たっては、制度の円滑かつ適正な移行に配慮しつつ、適切に設
定することとしている。

 また、あらかじめ不測の需給変動等による加工原料乳価格の低落に備えるため、
生産者の拠出と国の助成により造成する資金から価格低下の一定割合を補てんす
る経営安定対策を講じることとしており、新たな補給金は、この経営安定対策の
生産者積立金の積立てを行う者に対し交付することとしている。


指定乳製品・加工原料乳の価格安定措置の見直し

 これまで乳製品・加工原料乳の価格を硬直的・固定的にしていた安定指標価格、
基準取引価格等を廃止するとともに、この20年余りの間行われていない農畜産業
振興事業団による国内産の指定乳製品の買入れおよび加工原料乳生産者補給金等
暫定措置法の制定後行われていない農林水産大臣又は都道府県知事による加工原
料乳の取引に係る勧告等を廃止する。

 また、安定指標価格の廃止に伴い、農畜産業振興事業団による安定指標価格を
指標とした外国産の指定乳製品等の輸入および売渡しを見直し、指定乳製品の価
格が著しく騰貴し、または騰貴するおそれがあると認められる場合に、農林水産
大臣の承認を受けて実施することとする。

 輸入および売渡しの具体的な基準については現在検討中であるが、過去の一定
期間の乳製品価格の動向、価格変動の許容範囲、生乳生産の動向、需給事情(在
庫)、乳製品需要の見通し等を総合的に勘案した上で、価格の高騰が相当期間継
続すると認められる場合に放出する方向で検討している。


生産者補給金に係る主な変更点

全体としての需給の安定

○計画生産の的確な実施

○生乳販売体制の整備
 (一元集荷・多元販売の維持、指定団体の広域化の推進等)

○所要の国境措置・国家貿易

○調整保管への支援

○乳業再編の推進

現 行
−価格決定−
○保証価格(A)

 加工原料乳地域における生乳の再生産確保を旨とする手取り水準  
 【72.13円/kg】

○基準取引価格(B)

 乳業メーカーの支払可能乳代(安定指標価格等から算定)     
 【61.83円/kg】

○生産者補給金
 
 (A)−(B)       
 【10.30円/kg】

※金額は12年度のもの。

改 革 案
−単価決定−
○初年度(13年度)の助成単価

 加工原料乳の取引価格のみでは加工原料乳地域の再生産の確保が困難であるこ
とにかんがみ、制度の円滑かつ適正な移行に配慮することとし、適切に設定

○次年度以降の助成単価

 その水準が一定期間における生産者の経営判断の目安となるとともに、生産性
の向上を的確に反映させつつ、その安定的運営を確保する観点から、加工原料乳
地域における生産費、乳量等の動向を基本に、透明性が確保されたルールに基づ
いて算定

※当年度の助成単価=前年度の助成単価×生産コスト等変動率

−限度数量−

○生乳の生産事情、乳製品の需給事情等を考慮して毎年度設定

−限度数量−

○生乳の生産事情、乳製品の需給事情等を考慮して毎年度設定。また、限度数量の
 各指定生乳生産者団体への配分に当たっては、指定生乳生産者団体の加工原料
 乳の生産数量、当該団体の加工原料乳の販売計画数量等を勘案


指定乳製品
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加工原料乳
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 改正後は、価格低落時の影響を緩和するための生産者積立金の拠出に係る加工
原料乳を生産者補給金の対象とする。


指定生乳生産者団体の機能強化

 生乳の生産、流通事情の変化に対応した指定生乳生産者団体の実現を図るため、
現行の都道府県ごとの指定制度(知事指定)を見直し、複数県を1つの地域とし
て生乳受託販売の事業を行う生乳生産者団体の指定は農林水産大臣が行うことと
する。

 また、指定制度の適切な運用を図るため、指定要件として@生乳受託販売の事
業および生産者補給金の交付の業務を適正かつ確実に実施できると認められるこ
とA生産者補給金の交付の方法が一定の基準に従い受託規程に定められているこ
と−等を加えた。


その他

 改正法は、13年4月1日から施行される。ただし、補給金単価の決定の手続きや
生乳生産者団体の指定の手続きは、施行前に行うことができることとした。


おわりに

 新たな制度の下では、国があらかじめ行政価格を設定することなく、取引当事
者間で市場実勢を反映した価格形成がなされるようになることにより、

@ 生産者にとっては、創意工夫を生かした生産・販売努力を促進

A 乳業メーカーにとっては、製造コストの低減努力等により合理的な価格で乳
 製品を販売することを促進

B 消費者にとっては、合理的な価格で乳製品の供給を受けることにより、生産
 者や乳業メーカーの努力によるメリットを享受

といった効果が期待されているところである。

 また、現行の都府県単位の指定生乳生産者団体の下では、乳業者との対等な立
場での合理的な乳価形成が十分に行い難い状況にあることから、12年度末までに
都府県の指定生乳生産者団体の広域化を実現し、生乳の用途別計画生産、広域需
給調整等の効果的な実施を背景に、合理的な乳価形成を行っていくことが重要と
考えており、農林水産省としても、10年度から広域指定生乳生産者団体の設立や
生産者団体の再編整備の取り組みに対する助成など、指定生乳生産者団体の広域
化に向けた各般の支援措置を講じているところである。

 さらに、このような条件整備を踏まえ、生乳取引における相対取引のルール化
等透明性の高い公正かつ適正な価格形成システムの構築を図るため、生乳取引に
詳しい業界関係者等からなる検討チームを作り、生乳取引の実態及び問題点を踏
まえつつ、生乳取引の改善方向等について12年度内に結論を得るべく、現在鋭意
検討を進めているところである。

 今後については、政令・省令を含め、新たな制度の具体的な運用事項について
速やかに検討を進めていきたいと考えている。

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