畜産局自給飼料課 草地開発計画推進室長 木村 元治
平成11年7月に「食料・農業・農村基本法」が制定され、その中で、食料の安 定供給を確保するため、国内農業生産を基本として、可能な限り、その維持・増 大を図ることとされたところである。この新基本法を受け、12年3月に閣議決定 された「食料・農業・農村基本計画」においては、食料自給率目標が明らかにさ れるとともに、特に、飼料作物については、食料自給率の向上を図る上での戦略 作物の1つとして、生産努力目標を設定し、当該目標の達成に向け生産拡大を図 ることとされた。 これを受け、自給飼料の着実な増産を図るため、「飼料増産推進計画」(12年 3月24日新基本法農政推進本部決定、同年4月7日付け畜産局長通知)が策定され、 今後、当該計画の達成に向け、全国および地域段階において、行政、農業団体等 からなる「飼料増産戦略会議」を設置し、関係者が一体となった飼料増産運動を 展開することとなっている。 言うまでもなく、自給飼料の増産を図ることは、飼料自給率の向上を通じた食 料自給率の向上はもとより、生産コストの低減と経営の安定化、畜産環境問題へ の適切な対応等畜産経営上、重要な意義を有するものである。 特に、先般の口蹄疫の発生に関連して、輸入稲わら等の検疫が強化されたとこ ろであるが、こうした状況をかんがみた場合、今後の不測の事態への対応ととも に、何よりも、自ら生産することによって、良質かつ安全な粗飼料を確保すると いった観点から、自給飼料増産への取り組みを強力に推進する必要がある。 また、11年に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」が 施行され、家畜排せつ物の適正管理等により、畜産環境問題の早急な解決が求め られている。しかし、現実には、輸入飼料への依存により、海外からの飼料が家 畜排せつ物としてアウトプットされる一方向のフローとなっており、地域および 経営内の物質循環の収支均衡が大きく崩れつつあると言える。このため、畜産環 境問題の克服を図る観点からは、まず、元を断つ努力として輸入飼料への依存か ら自給飼料生産への転換を図り、土−草−牛の資源循環を推進していくことが重 要となっている。 さらに、担い手の減少、耕作放棄地の増大など地域農業生産構造の急速な変化 が見込まれており、こうした状況の中で、今後の地域農業の展開とともに、中山 間地域等の活性化、地域資源の循環、国土・自然環境の保全を図る上からも、畜 産を核とした土地利用の拡大が求められている。 もとより、自給飼料生産は、山から平場まで、採草利用から放牧まで、さらに 林地や稲わらの活用等多種多様な取り組みがなされている。それ故に、麦、大豆 等と異なり、技術指導面等での標準化がしづらく、取り組むに当たって課題も多 い反面、増産に向けて、これしかない、打つ手がないということで手詰まりにな るものではない。正面突破が無理なら、裏から表作へ、山から平場へ、さらに稲 わらの活用等地域の実情に応じた多様な展開が可能である。そのためには、漠然 とした取り組みではなく、地域、地域で水田、畑、耕作放棄地等の土地・資源や 担い手の状況等に応じた重点的かつ戦略的な取り組みを行うことが重要である。 自給飼料増産への道筋は、言うまでもなく、険しく長い道程であり、まさしく 粗飼料の「粗」の字のごとく「ラフロード」かもしれないが、この道を切り開い ていくことこそが、今後のわが国の大家畜畜産の経営安定を図る上での「王道」 であり、「近道」であろう。 まさに、自給飼料増産の今日的意義は、すでに述べたように、経営の安定、畜 産環境問題への対応等畜産経営上のミクロの政策課題と、土地利用、多面的機能 の発揮、さらに食料自給率の向上等地域農業およびわが国農政上のマクロの政策 課題が、自給飼料の増産という一方向のベクトルに集約されたところにあると言 える。文字通り、こうした課題の実現は、大家畜畜産経営が土地基盤に立脚して こそ可能であることを関係者一同、再度確認しつつ、自給飼料増産への取り組み を進めていくことが肝要と考える次第である。
飼料増産推進計画では、以上のような自給飼料の重要性等にかんがみ、地域の 実情に応じた効果的かつ着実な自給飼料の増産の推進を図るため@飼料作物の作 付面積等の数値目標A合理的な生産体系の実現に向けた生産指標B飼料増産のた めの具体的な推進方策−等を明らかにし、これにより、目標達成に向けた関係者 一体となった取り組みを推進することをねらいとしている。 飼料増産目標 22年度における飼料作物の国内生産水準として以下の目標を設定。 @生産量 508万トン (可消化養分総量(TDN) A10アール当たり収量 4,461キログラム/10アール B作付面積 110万ヘクタール (参考)作付面積の地域別内訳 飼料作物生産の指標 作付体系等により区分した主な地域の望ましい飼料生産の姿として以下の指標 を設定。 飼料作物生産指標 注: 1 ha当たり飼養可能頭数は、飼料作物の作付実面積 1 ha当たりの 家畜飼養頭数(育成牛等を含む)のうち乳用搾乳牛又は肉用繁殖牛 部分の頭数である。 日本型放牧の指標 注: 1 CD(Cow Day)とは、体重約500kgの成牛を 1 日 1 頭放牧で維持 できる草地の生産力を示す単位 飼料増産のための推進方策 @畜産農家等への土地利用集積及び団地化の推進 離農跡地の円滑な継承等による農地流動化、遊休農地の活用、作業受委託等に より畜産農家等への土地利用集積を推進する。また、スケールメリットを活かし た低コスト・省力生産を図るため、飼料作付地の団地化を推進する。土地利用集 積等に当たっては、農地流動化施策及び遊休農地解消活動、基盤整備事業、水田 農業経営確立対策等の施策との連携を図りつつ、飼料基盤の確保を推進する。 A水田等既耕地の活用及び耕種農家との連携 耕種と畜産の連携により、生産調整水田、水田裏、輪作体系等への飼料作物の 導入を推進する。また、地域資源の循環を通じた飼料増産を図るため、農協及び 集落等を単位とした組織的な取り組みを通じ、稲わらとたい肥の交換、地域内で の粗飼料生産・流通システムの確立等を推進する。 B中山間地域における飼料基盤の強化 中山間地域等においては耕作放棄地が増加していることから、中山間地域で実 施される施策の活用に併せ、集落・谷等を単位とした土地利用の再編、耕作放棄 地および林地との一体的な整備を推進する。また、急傾斜地、遊休棚田、林地等 を活用した低コストで省力的な放牧経営を確立する。 C草地整備の着実な推進 起伏修正、排水改良等の草地整備の計画的な推進により草地の生産性の向上を 図るとともに、草地整備を契機とした担い手への土地利用集積、団地化等を推進 する。また、土地条件、利用方法等に応じた低コストな造成工法等により草地造 成を着実に推進する。 D優良品種の普及、技術の高位平準化の推進 単収向上等を通じた飼料作物の増産と生産コストの低減を図るため(ア)奨励 品種の選定の効率化等を通じた優良品種の早期普及(イ)単収向上や効率的な生 産技術等の実証を通じた技術の高位平準化(ウ)草地の適正管理、適期更新によ る草地の生産力の維持向上−を推進する。 E飼料生産の組織化、外部化の推進 飼料生産の労力の軽減や低コスト化を図るため、飼料生産の共同化やコントラ クター(飼料生産受託組織)の育成を推進する。また、畜産農家の点在化等に対 処しつつ飼料生産の効率化を図るため、作物横断的な支援組織の育成等を推進す る。 F日本型放牧の推進 放牧牛の飼養管理や衛生対策等の総合的な指導体制を整備するとともに、モデ ル的な放牧経営の育成と実証等を通じ、集約放牧や周年放牧等地域の条件に適し た日本型放牧の普及定着を図る。 Gあらゆる地域資源の活用の推進 (ア)林地、野草地、河川敷、遊休桑園・果樹園などあらゆる土地・資源の活 用(イ)稲わら、食品加工残さ等の未利用資源の循環利用の推進(ウ)飼料用甘 しょ等の新たな飼料資源の開発・実用化−を推進する。 H粗飼料多給型畜産物の普及 粗飼料の多給による生涯生産性の向上、畜産物の品質・風味等を向上させる飼 料給与技術の開発を推進するとともに、放牧等粗飼料を多給した畜産物への消費 者の理解を深めてもらうための普及活動等を推進する。 飼料増産運動の展開 @飼料増産戦略会議の設置による推進体制 農業団体、行政機関、普及組織等幅広い関係者からなる飼料増産戦略会議を設 置し、自給飼料生産の有利性・重要性の啓発と、関係者一体となった飼料増産の 取り組みを展開する。 A増産に向けた制度・施策の普及・浸透及び取組事例等情報の提供 (ア)経営面での有利性等を明らかにした普及・啓蒙資料の作成・配布等によ る畜産農家等関係者への意識啓発を推進(イ)畜産農家、技術・営農指導者等に 対する農地流動化制度、自給飼料生産対策等関連制度・施策の普及・浸透(ウ) 土地利用集積、技術向上等増産に係る取組事例の紹介やマニュアルの作成・配布、 技術情報の提供−等を行い、地域段階の取り組みへのサポート体制を強化する。 B関連施策における推進活動との連携 「構造施策推進運動」、「水田農業経営確立運動」等関連施策の推進活動と連 携することにより、飼料増産運動を効果的に推進する。
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