◎地域便り


牛任せのフリーストール酪農

企画情報部


 近所の農業者仲間からは「カメちゃん」の愛称で親しまれる有限会社亀川農場
代表取締役亀川治久さん(41)は祖父の代から続く専業酪農家の後継者。県立松
任農高から同農業短大に進んだまでは順調だったが、学校で教わる酪農がどうも
気に入らない。自分の抱いていたイメージとシックリしないのであった。このた
め、今風にいう「登校拒否」状態に陥った。 

 最近では珍しくもないが、20数年前、しかも狭い地域社会の中でのことである。
「居場所がなくなった」というのもうなずける。

 そこで父和久さん(67)は「外国の空気を吸ってこい」と治久さんをオランダ
へ送り出す。大手乳業メーカーが主催した酪農後継者を対象とする研修派遣制度
を利用したもので、期間は半年。グローニンゲン市の個別経営酪農家に滞在した。

 搾乳牛90頭には驚きもしなかったが、うらやましかったのは50ヘクタールの牧
草地で粗飼料を完全に自給している点。そこで酪農経営に必要とされる「忍耐力」
を徹底的にたたき込まれた。これがその後の亀川農場の方向付けに大きな影響を
及ぼした。この酪農家は無類の機械好きだった。レーシングカーを独りで組み立
てるほどで、酪農のほとんどの作業が機械化されていたのである。

 元来が動物好きで酪農家になった治久さんに機械好きの要素が加わったのだか
ら、「やるとなったらフリーストール」。こうして帰国後もこの構想を温め続け、
5年前、和久さんから経営委譲されると同時に経営を法人化。フリーストール用
の牛舎も新築した。

 現在の経営は搾乳牛170頭のほかに、乾乳牛、子牛70頭の規模。半分以上が初
産牛で牛群はまだ若いが年7,600キログラム平均の生産を上げている。当初は蹄
葉炎(蹄に発生する病気で歩行困難などを示す)を発症するなどしたが、ようや
く安定し、夏冬を問わず成績も落ち着いてきている。

 2階にある管理室からは牛舎内を一望することが可能で、遠い所にいる牛でも
オペラグラスで様子が分かる。ほぼ放牧に近い状態で、ベッドに入らず通路でう
たた寝する横着者もいるが「すべては牛任せ」。これが治久さん流のフリースト
ールである。

 このフリーストール牛舎とは別棟に集められているのが生まれて間もない子牛
やポニー、ヤギなど。畜産経営のネックとなっている環境問題に理解を求める配
慮から小動物園的に近隣の居住者に開放しているのだが、障害を持った子供たち
もやってきて動物に触れ、無心に語りかける。その様子を見ていると、「酪農に
従事して良かったと感じるし、この土地で頑張っていこうという意欲が湧いてく
る」。
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【牛舎2階管理室で、後方は
フリーストール牛舎】

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