◎専門調査レポート


大規模法人経営の展開と ふん尿処理問題への対応 −日本酪農清水町協同農場を事例として−

帯広畜産大学 助教授 金山 紀久

 

 




1 .はじめに

 新しい食料・農業・農村政策では、農業経営体の育成に向けて法人化を推進す
るとしている。農業生産法人数は、有限会社の形態を中心に年々増加傾向にある。
農産物販売金額が200万円以上の農家を対象とした平成10年の農林水産省の調査
(「農業経営の法人化に関するアンケート」)では、法人化している農業経営の
割合は10%弱であるが、法人化していない農業経営のうち50%程度は法人化した
いという意向をもっている。

 このように、法人経営に注目が集まってきているものの、法人のメリットを十
分に発揮する条件が必ずしも整えられているわけではない。法人経営は、大きく
分けて、家族主体の法人経営タイプと数戸の共同または協業による法人経営タイ
プとがあるが、家族主体の法人が大半を占めている。酪農経営の法人化において、
共同経営による法人化では、労働生産性の向上や定休日の確保が容易なことなど
のメリットがあり、経営の継承性に優れている。反面、共同経営のため構成員間
の調整が難しいなどの問題もあり、法人経営の一般的な形態とはなっていない。
この問題をどのように乗り切るかが、共同経営による法人化の重要な課題の1つ
である。

 また、共同経営による法人化では、外部からの資金調達が容易になり、かつ、
労働生産性が向上することから、規模拡大が重要な戦略となってくる。この戦略
の結果、スケールメリットによる単位当たりコストの低減が図られる一方、多頭
化によるふん尿処理問題の解決が大きな課題となってくる。家族経営においても
ふん尿処理問題は発生するが、規模拡大を目指す法人経営ではより一層大きな問
題となる。平成11年11月1日に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に
関する法律」が施行されたことにより、この問題への対応が急務となっている。

 ここでは、農業の法人化が大きな話題になった昭和40年代に法人化し、規模拡
大を図りつつ、安定した企業的法人経営を行っている、北海道十勝支庁管内清水
町の有限会社日本酪農清水町協同農場(以下、「日酪農場」とする。)を取り上
げ、その企業的法人経営の展開と規模拡大に伴って必然化したふん尿処理問題へ
の対応についてレポートしたい。

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2 .有限会社日本酪農清水町協同農場の法人経営の展開

 清水町は、十勝支庁の西部に位置し、人口が1万1,313人、農家戸数489戸、乳
牛飼養農家戸数250戸、肉牛飼養農家戸数30戸、畜産の農業粗生産額が畑作の約
2.5倍と畜産の比重が大きい農業が中心の町である。日酪農場はその清水町の北
東部に位置している。

 共同経営での法人化は、共同経営を経験していないメンバーが多数である場合、
共同経営に関するノウハウの形成過程が問題となる。その法人経営の展開過程で
は、まず法人経営の体裁が整う創設期、次にスケールメリットを追求する拡大期、
そして安定期をそれぞれ経るものと考えられる。日酪農場も、創設期と拡大期を
経て現在に至っている。次にその展開過程をみてみたい。


設立経緯とその後の展開

 日酪農場が設立されたのは昭和42年である。39年、40年の冷害により、清水町
からの依頼もあって、営農を継続することが困難な農家から井上嚴二氏が14戸の
離農跡地200ヘクタールを購入した。土地を手放した14戸のうち8戸は完全に離農
し、残り6戸の農家は15万円から300万円の出資をして日酪農場に残った。資本金
総額は2,500万円であった。なお、この時期、いくつかの法人酪農経営が近隣に
誕生している。

 設立者の井上嚴二氏の経歴を知ることは、日酪農場を知る上で大変役立つので、
以下に簡単に氏の略歴を述べておく。井上嚴二氏は明治16年、広島県に生まれ、
日酪農場設立当時は福岡市内の株式会社中屋(貸ビル業、レストラン経営)の会
長であった。明治33年に単身渡米し、シアトル市を中心に、レストラン、養豚、
牧場を経営したことがある。この在米中に、後年の北海道酪農の指導者となった、
塩野谷平蔵氏、町村敬貴氏、宇都宮仙太郎氏と知己を得ている。米国における排
日運動の激化に伴い大正9年に一時帰国し、10年には朝鮮へ渡り、模範酪農村を
建設し、昭和14年には朝鮮明治乳業株式会社を設立している。戦後、21年に佐賀
市に引き揚げ、共同興産株式会社を買収してレストラン経営を始めた。

 レストラン経営の一方で、22年に九州酪農協会連合会を組織し、専務理事に就
任した。また、同年、唐津市虹ノ松原に九州高等酪農塾を併設し、出納陽一氏を
塾長として九州の青年に酪農を指導し、北海道の牧場において研修・実習を行い、
酪農技術の向上を図り、さらに、北海道から九州各地の牧場に乳牛の導入を推進
し、九州酪農の振興に寄与している(なお、出納氏は、清水町の離農跡地購入に
よる日酪農場設立の要請を、井上嚴二氏に仲介した人物でもある)。そして、24
年に東洋カーネーション酪農株式会社を設立した。この会社は25年に日本酪農協
同株式会社と名称変更し、現在は中屋興産株式会社(貸ビル業、ホテル経営)と
なっている。また、24年に福岡市と長崎市にミルクプラントを建設し、牛乳販売
事業を開始する。このミルクプラントは、32年に福岡市のプラントはグリコ協同
乳業に、長崎市のプラントは雪印乳業へそれぞれ譲渡されている。

 以上の経歴をみて分かるとおり、井上嚴二氏は一般の会社の経営者であり、か
つ、加工流通を含めた酪農全般を熟知した酪農の指導者であった。この井上氏が、
北海道で酪農法人を設立したのである。

 43年に牛舎を建設、塩野谷平蔵氏の斡旋で乳牛88頭を導入している。その後、
経営は必ずしも順調に展開していったわけではない。46年に共同生活に慣れない
2戸の農家が日酪農場をやめることになる。この年、社長の井上嚴二氏が亡くな
り、東洋ガラスの副社長をしていた長男の井上嚴三氏が社長に就任した。また、
福岡の会社(中屋フーズ株式会社)の専務をしていた植木昭司氏が日酪農場へ役
員として派遣される。しかし、植木氏は、出資した農家のうち最も出資額が多く、
その構成員の中心となっていた農家と意見が合わず、47年に九州へ戻っている
(植木氏は、九州へ戻った後も役員の職にあり、55年から63年まで社長の職を務
めている)。またこの農家も、井上嚴二氏が亡くなったことから、47年に日酪農
場をやめている。この年、九州で社員食堂の経営をしていた、現在社長の長尾氏
が日酪農場の役員として着任している。井上嚴二氏の亡くなる前は、日酪農場以
外からの資金の投入があったが、亡くなって以後、農場以外からの資金投入は基
本的に無くなり、採算性を考慮した収入と支出の管理が求められることになった。
そこで47、48年と牧場の収支のバランスをとるため、てん菜を4〜5ヘクタール栽
培している。ところが、このてん菜の栽培が開始された47年に、てん菜の蒔きつ
け後、農作業指示の変更のトラブルから3人の構成員農家が農作業のストを行っ
た。この時期には、役員と構成員農家間の意思疎通のギャップがかなり大きくな
っていたといえる。その背景には、冬場の仕事に対する考え方の違いなど、北海
道と九州の地域性の違いによる考え方のギャップもあった。最終的には、3戸の
農家が48年に日酪農場をやめることになった。結局、設立当初からの6戸の農家
は全戸、日酪農場を離れている。47年は、いろいろなことがあり、社長の井上嚴
三氏が飛行機事故で亡くなり、社長に井上嚴二氏の次男の井上哲氏が就任してい
る。その後、近所の農家が構成員に加わったり、実習生が構成員になるなどして
今日に至っている。

 47年に肉牛経営を始め、56年に酪農近代化事業により肉牛の牛舎を建設してい
る。当初は、自らの酪農経営から生産されるホルスタイン種の雄を肥育素牛まで
育成して出荷していたが、60年に肥育素牛の価格が低迷したことから、肥育まで
行うこととした。平成2年に事務所を建設し、6年には所帯持ち構成員のための社
宅を建設するなど、構成員の居住環境の整備も進めている。

 日酪農場の法人の展開過程を時期区分すると、昭和50年頃までが創設期、そし
て、現在もなお規模拡大を進めていることから、それ以降を拡大期とみなすこと
ができよう。

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【日酪農場事務所前の長尾社長】
現在の経営概況

 農場に常駐する役員は、代表取締役社長は長尾巳俊氏の他、乳牛担当の比良国
之氏、酪農部門全般の宮本秀也氏、肉牛担当の三宅正和氏4名で、このほかに役
員として取締役会長の井上哲氏がいるが、清水町の農場には常駐していない。役
員以外のスタッフは、乳牛部門で男子5名、女子2名、肉牛部門女子1名、管理部
門女子2名の合計10名である。この10名のスタッフの中にはパートを含んでいる。

 経営面積は、牧草地152ヘクタール、デントコーン畑60ヘクタール、放牧地45
ヘクタールの合計257ヘクタールで、施設用地の面積は10ヘクタールある。なお、
このほか山林・原野94ヘクタールがあり、総面積は361ヘクタールである。施設
は、フリーストール方式の乳牛舎が4棟(400床)、ミルキングパーラーが1棟
(ヘリンボーン形式、16頭×2)、肉牛舎が5棟である。飼養頭数は、酪農部門で
経産牛417頭、育成牛259頭の計676頭、肉牛部門でホルスタイン種675頭、和牛と
F1が21頭で計1,372頭となっている。飼養頭数規模と経営面積規模から、家畜ふん
尿を経営内だけで循環させることは難しく、地域内循環が必要である。
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【農場の400床のフリーストール牛舎】

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【農場のミルキングパーラー】
 平成11年度の酪農部門の収入は2億8,500万円、肉牛部門の収入は1億2,000万円
であった。主な支出を見ると、飼料代は酪農部門で7,100万円、肉牛部門で5,600
万円、人件費は5,200万円、減価償却費が6,600万円であった。

 共同による法人経営では構成員間の調整が問題となる。一般に平等が重視され
るが、そのことは必ずしも個々の構成員の適切な労働評価を保証しない。逆に構
成員間の不満を招来する場合もある。日酪農場の構成員の給与は業務成績と年齢
を考慮して決定されている。このような給与の決定方法は、個々に酪農を営んで
きた農家を構成員とする共同経営の法人では採用が難しい。その意味で、日酪農
場は企業的経営体制が整い、企業的組織として安定期に入っているといえる。

 家族経営とは異質な企業的法人経営は、ともすると地域の農家のアレルギーを
引き起こすことがある。日酪農場ではふん尿処理によって生産されたスラリーや
たい肥を麦がらと交換したり、畑作農家との交換耕作によって畑作農家の地力向
上に貢献するなどして、地域の農家との信頼関係を築いている。


3 .家畜ふん尿処理利用に対する対応

 畜産では、規模が大きくなるに従い、ふん尿の処理利用問題が大きくなってく
る。日酪農場においても同様である。日酪農場の場合、酪農部門も肉牛部門もど
ちらも規模が大きく、また、肉牛部門とフリーストール型式による飼養方式をと
る酪農部門とで同一のふん尿処理方法をとることが難しいことから、それぞれ異
なったふん尿処理方法を導入している。そこで次に、酪農部門に導入される肥培
かんがいシステムと肉牛部門に導入されている高温処理発酵方式のふん尿処理シ
ステムの概要をみる。なお、肥培かんがいシステムは、日酪農場ではまだ実際に
稼動していないので、同様のシステムがすでに稼動している十勝管内芽室町の事
例を補足的に紹介することにする。


肥培かんがい方式による酪農部門のふん尿処理利用

 日酪農場の酪農部門のふん尿処理利用システムについては、10年より、美蔓ダ
ム肥培かんがい排水事業を利用して、肥培かんがいタイプのシステムの導入を図
っている。農場内のシステムは体験ほ場として先行して建設されているもので、
12年に完成の予定である。事業費は約3億円で自己負担額は5%である。
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【日酪農場の肥培かんがい
システム完成予想図】
(1)肥培かんがい(スラリーゲーション)システム

 肥培かんがいシステムは、従来のたい肥化利用システムと比べて、有機成分の
分解速度(無機化速度など)と家畜ふん尿の循環性に特徴がある。このシステム
は、@家畜ふん尿搬出システム、Aスラリー調整システム、B調整スラリー貯留
システム、Cスラリー搬送システム、Dスラリー施用システムの5つのサブシス
テムからなる。家畜ふん尿搬出システムは、ふん尿を舎外へ搬出するシステムで
あり、畜種、飼養形態、畜舎構造で異なってくる。スラリー調整システムは、畜
舎から搬出された家畜ふん尿の敷料を除去、均質化調整など、液状化する調整と、
スラリーの好気的分解調整(腐熟化)およびこれに伴う臭気負荷の軽減を行うシ
ステムである。このシステムが肥培かんがいシステムのコアとなる部分である。
調整スラリー貯留システムは、調整されたスラリーを貯蔵するシステムで、貯溜
容量や貯溜容器の耐蝕性などが考慮されなければならない。スラリー搬送システ
ムは、調整されたスラリーを圃場まで合理的に搬送するシステムで、パイプライ
ンシステム、スラリータンカーシステム、パイプライン+タンカー併用システム
などがある。スラリー施用システムは、肥培かんがいシステムの最終の位置にあ
り、施用時間やほ場周辺環境を考慮してスラリー施用効果が最大になるようなシ
ステムが選択される。例えば省力効果を求めるならば、パイプ自動巻取り式スラ
リー自動散布機(リールマシン)などが選択される。

 肥培かんがいシステムの特徴として、@乳牛のスラリーC/N比は9〜12程度で
無機化速度が速く、生産速度と草地での分解速度のバランス性がある、A肥料成
分含有率が高く、化学肥料との代替性が高いことから化学肥料の投入を相対的に
減少させることができる、B搬送上の省力性と施用の正確性に優れる、C調整・
貯蔵・搬送・施用のシステム全般にわたって制御しやすく、省力効果が高い。D
複数の経営体による共同化が成立しやすい、などが挙げられている。なお、C/
N比は炭素と窒素の比率で、この比率が20〜30以上になると、有機態窒素の分解
が遅く、植物の摂取が可能な有機態窒素がすぐには放出されてこない。たいきゅ
う肥の生産速度とたいきゅう肥の分解速度とのバランスがとれていることが望ま
しいが、もしたいきゅう肥の生産速度が分解速度より速い場合は、たいきゅう肥
の利用率や循環率が低下する。特に、寒冷地ではたいきゅう肥の分解速度が遅く
なり易く、C/N比の低いたいきゅう肥が求められる。
 
(2)肥培かんがいの取組事例

 日酪農場では、実際に肥培かんがいシステムが稼動するのは12年以降なので、
具体的な事例として、十勝支庁管内芽室町の国営かんがい排水事業、芽室地区肥
培かんがいモデルほ場を取り上げてみてみたい。

 芽室町は清水町の東隣の町で、人口1万7,526人、農家戸数803戸、乳牛飼養農
家戸数80戸、肉牛飼養農家戸数30戸、畑作の農業粗生産額が畜産の約3.5倍と畑
作のウェイトが大きい畑作地帯に位置している。

 芽室地区は芽室町の十勝川支流、美生川両岸に展開する畑作、酪農を中心とし
た面積1万2,480ヘクタールの区域で、この区域を対象に、新たに農業用水を確保
し、干害、風害の防止、牛のふん尿処理用水(肥培かんがい)などの水の多目的
利用の方法として、国営かんがい排水事業が進められている。3年度より、肥培
かんがい事業の一環として上美生地域の3戸の酪農家の農場において共同利用方
式による肥培かんがいシステムが試験的に導入された。飼養頭数規模は3牧場と
も150頭を超えている。肥培かんがいシステムの概要を図1に示してある。
◇図1 肥培かんがいシステム図◇
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資料:帯広開発建設部資料
 これら3戸の酪農家はフリーストール型式の飼養方式で、肥培かんがい施設が
稼動する以前は、ふん尿処理が大きな問題であった。早くからフリーストール型
式による省力化で飼養頭数を拡大していたが、雨の日の夜などは、牛舎の周りを
歩くことができないほどだったという。この肥培かんがいシステムにより、牧場
内のふん尿処理の問題が解消された。スラリーの施用労働もリールマシンによる
自動化により省力化が果たせている。また、腐熟化されたスラリーの散布により、
飼料の品質向上と収量の増加の効果が得られている。

 事業費は、およそ3戸で3億円を超えるが、95%の補助により自己負担分は5%
である。この肥培かんがいシステムの問題は、@建設費が高額であること(した
がって施設の更新をどのように行うかという問題)、A固液分離装置の耐用年数
の問題(通常の耐用年数は10年とされるが、早い段階で故障が発生しやすいと言
われている)、などである。同様の施設を計画している農家は12年に調査設計が
開始される予定である。事業に参加している酪農家は、このシステム導入に期待
しているが、前記の不安もあり、今後、システムの建設費の逓減、装置の耐久性
の向上、畑作と酪農の連携の強化などを図っていくことが求められている。
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【芽室畜肥培かんがい事業モデル
ほ場の固液分離機】

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【攪拌総(曝気槽)】

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【共同貯留槽】

 

肉牛部門における高温発酵処理システムによるふん尿処理利用

 日酪農場は、肉牛部門について、10年に、他の3戸の酪農家と下美蔓2堆肥生産
利用組合を作り、道営担い手育成草地整備事業によって牛ふんたい肥処理施設を
日酪農場内に建設している。日酪農場以外の酪農家の牛舎型式はすべてスタンチ
ョン型式である。この道営担い手育成草地整備事業は、清水町の清水第一地区を
対象とした総受益草地面積が約1,853ヘクタール、受益農家戸数69戸の事業で、
大きく分けて草地整備改良事業、附帯施設整備事業からなっている。「下美蔓2
堆肥生産利用組合」の牛ふんたい肥処理施設は、この附帯施設整備事業によって
建設されている。約2億円の施設であるが、95%の補助を受けている。道営の事
業の場合、自己負担は22%程度あるが、8年〜12年までの北海道独自の事業であ
るパワーアップ事業により、自己負担が5%まで軽減されている。

 牛ふんたい肥処理施設に採用されたシステムは、高温発酵処理システムである。
このシステムの特徴として、@外気温がマイナス20℃でも80℃以上の高温発酵が
可能(冬期間でもたい肥処理が可能)、Aいろいろな有機物を混合し同時高温発
酵処理が可能、Bたい肥中のリグニンの分解が可能などが挙げられる。そのたい
肥処理工程は、微量空気の送風により高温で20日間程度たい積する1次発酵処理
過程、続いて約25日間程度発酵かくはんする2次発酵処理過程、最終のたい肥調
整過程からなっている(図2)。農場内に広いスペースがあり、1次発酵処理場を
広く取って、時間をかけてたい肥化することができる場合は、2次発酵処理過程
はなくてもよい。しかし、処理スペースが限られ、ふん尿の処理量が多い場合に
は、より速く発酵を完了させるため2次発酵処理過程が重要な役割を担ってくる。
日酪農場の場合、下美蔓2堆肥生産利用組合で処理すべきふん尿の量に対して、
処理スペースが小さいことから、2次発酵処理過程を導入している。このシステ
ムによって生産されるたい肥は非常に高品質で、施肥効果が高い。さらに、副資
材(敷料)としても利用が可能である。
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【下美蔓2堆肥生産利用組合の
1次発酵処理施設】

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【2次発酵処理施設】

 

◇図2:高温発酵処理システム◇
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資料:北海道十勝支庁南部耕地出張所資料
 この施設が導入される以前は、牛舎のまわりに未処理の牛ふんが大量にたい積
されていた。しかしこのふん尿処理施設の導入によって、現在では、排せつされ
る速度に対して処理速度が大幅に向上したことから、この問題はほぼ解消されて
いる。

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【粉砕フルイ選別施設】


5 .おわりに

 ここで取り上げた日本酪農清水町協同農場は、1戸1法人の対極に位置する法人
経営の事例である。法人設立から今日までの経過を見ると、創設期を経て拡大期
にある。そして経営組織的には安定期にはいっている。この法人を特徴付けてい
るのは以下の2点である。第1に、社長が企業経営を経験しており、経営感覚が企
業経営的であることである。初代社長の井上嚴二氏は酪農に造けいが深く、かつ、
企業経営者であった。第2に、法人の創設期において設立当初からの農家すべて
がリタイアしていることである。このことは、結果として共同経営の法人で大き
な問題となる構成員間の調整問題を大きく緩和した。したがって、それ以降、よ
り企業的な経営管理を進めることができた。構成員の給与を業務成績を考慮して
決定することが可能になったのも、構成員が企業的経営を前提に日酪農場に就農
した人たちであったことが大きい。多数の構成員で組織される共同経営の法人で
は、構成員の労働意欲をいかに高めるかが重要なポイントとなる。業務成績の評
価は労働意欲向上にプラスに作用し、生産性を高めることになる。もちろん、構
成員の福利厚生を高めることも重要である。

 こうして、企業的酪農・肉牛経営を発展させてきた日酪農場では、飼養頭数規
模の拡大の結果、必然的に家畜のふん尿処理利用の問題が発生することとなった。
大規模な酪農、肉牛経営では、短時間で大量のふん尿が排せつされるため、処理
速度が速いふん尿処理施設が必要となる。日酪農場では酪農部門では肥培かんが
いシステムを、肉牛部門では高温発酵処理システムを補助率の高い事業を活用し
て10年より施設の共同利用という形で導入してきている。補助率が高いことから、
施設の導入に伴う実際の負担額はそれほど大きくはないものの、今後、修理や更
新時にどのように対応するかが課題として残されている。このことは、日酪農場
だけの問題ではなく、飼養頭数規模の大きな畜産経営のために、低コストで処理
能力の高いふん尿処理利用技術の開発が求められていることを意味している。

 日酪農場は、家族経営と対極に位置する農業経営といえる。畜産経営の形態は、
それぞれ畜産経営を営む人の考え方によって異なるのは当然である。今日、高齢
化問題や後継者問題にみられるように、農業経営の継承問題が深刻化してきてい
る。この視点から日酪農場の法人形態を評価するならば、畜産経営の継承性を内
包した、経済効率の高い畜産経営形態の1つであると評価できることは間違いな
い。

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