専修大学名誉教授 森 宏
1990年当時のアメリカ人のコーヒー消費は中高年層が多く(1人1日500g 前後)、若年層は少ない(20代は170g以下)。他方、コーラ類の消費は若年層 が多く(20代370g)、中高年層が少ない(それぞれ50代120g、60代はさらに少 なく70g)(詳しくは農務省による調査結果の表1参照)。 表1 アメリカ人の年齢階級別コーヒーおよびコーラの消費量 (男性1人1日当たり、1989〜91年) 出所:USDA Continuing Survey of Food Intakes by Individuals, 1989-91 米国でも人口の高齢化が進行している。もし同じ人でも中高年になるとコーラ の消費が落ちコーヒーに移るとすれば、2010年頃にはアメリカ全体としてコーヒ ーの消費は増え、他方コーラ類は減少すると予想される。 だが別の有力な見方もある。American Demographicsの1994年12月号に「あと 2年でクリントン(大統領)は50代を迎えるが、彼は相変わらずマクドナルド党 であろう」との見出しが載っている。若い頃にハンバーガーに慣れ親しむと中高 年になってもその習癖は持ち越され、ハンバーガー店に通うだろうというのであ る。この見方を先のコーヒーとコーラのケースに当てはめると、1990年当時20〜 30代の人達が、2010年頃中高年に達しても、コーラ飲用の癖は抜けず、かつての 中高年者と同じようにもっぱらコーヒーをたしなむということはないだろう。だ とすると、全体としてコーラの消費は増え、コーヒーの消費は減るだろうという 結論になる。 前者の見方は1990年当時に観察された年齢別消費の型が、これからしばらくは 変わらないとする立場であり、後者の見方は人生のある時期(恐らくティーンエ イジャーの頃)に形成された世代特有の飲食の習慣は、その後の加齢にかかわら ず持ち越されていくとする立場である。 しかし上記の単年度限りの統計からは、年齢効果が強いとみるべきか、世代効 果が優勢であるとみるべきかは決められない。 われわれはすでに日本人の食肉・魚介類の消費を年齢別に推計し、特に魚の消 費は中高年層で高く、子供を含む若年層で著しく低いことを明らかにした。(注 1)過去10数年の期間について年齢別の消費の動きを眺めると、魚の消費は確か に加齢とともに増えるが、子供・若い頃に魚をあまり食べなかった新しい世代は、 年を取って中年層に近づいても以前の中高年層程は食べないようであった。すな わちかなりの程度世代効果を引きずっているのではないかとの印象を持った。 問題をさらに難しくするのは、この10数年の期間に、全体的な傾向として魚の 消費が減少しているように見えることである。すなわち要因として年齢と世代に 加えて時代の影響が加わっている。直感的に3つの効果を識別、分離するのは不 可能に近い。 注1:森宏他(1997)「各種食肉消費と年齢」『平成8年度畜産物需要開発調査 研究事業』農畜産事業団、Lewis, M. A., Mori. H. and Gorman. Wm. D., 「Estimating Japanese At-Home Consumption of Meats and Seafoods by Age Groups」、「専修経済学論集」32巻2号など
表2は対象を10歳きざみで区分し、10年ごとに繰り返したある食品の消費 調査の抜粋である。このように作られた表を「コウホート表」と呼んでいる。見 方を説明しよう。 表2 ある食品の年齢階級別消費量 1970、1980および1990年(架空例) まず表中の@について、1970年に20代の人達は10kg、1980年に30代になって17 kgになった。調査は必ずしも同一個人を追跡している訳ではないが、彼らは1941 年から1950年に出生し、1950年に0〜9歳期、1960年に10〜19歳期を過し、この20 数年間の間に恐らく同じような人生、社会上の経験を共有している世代に属して いる。17−10=7kgの増加は、1つには20代から30代に10歳増えた加齢効果と、年 代が1970年から1980年に10年経過した時代効果(の差)の2つから合成されてい る。ただし両者の比重は分からない。 Aについて、1980年に30代は17kg、40代は20kg消費している。この3kgの差は 30代と40代の年齢による差だけではない。1980年に40代の人達は、1931年から 1940年に出生し、例えば戦中、戦争直後の飢餓的生活などについて、それ以降出 生の世代とは異なった体験を共有している世代である。そのような過去の経験の 違いによる世代効果の差が、純粋の年齢効果の差に加わっているとみるべきであ る。ただしここでも両者の比重は分からない。 Bについて、同じ30代の消費を見ると、1980年から1990年にかけ17kgから14kg に3kg減少している。これは1980年から1990年の10年間に所得や価格が変化した などの時代の変化によるものであるのは言うまでもないが、それだけではない。 1990年に30代の人たちは1951年から1960年に出生し、ティーン・エイジャーの時 代は高度成長期の真っ直中で、その前の世代とは価値観なり習慣形成において異 なっているかもしれない。従って3kgの差は単に年時の差だけではなく、そうし た世代効果の差によるところが少なくないとも考えられる。ただし両者の比重は 分からない。 さて表2のような年齢別消費のコウホート表が、年齢区分でも横に長く、調査 年次に関しても縦にもっと長くとれれば、上記の@、A、Bの説明においても、 従来の年齢、世代および年次ないし時代の影響を、それぞれ量的に分離しとらえ ることが容易になると期待される。 ただしこの分離の問題は、統計学の世界では、コウホート分析における「識別 問題」として議論は残されているようである。(注2)だが著者たちは、統計数 理研究所の中村隆教授の開発された「ベイズ型コウホート・モデル」の前提条件 を是とし、まだ完全からは遠いが一応PC用に作り上げたプログラムによって、年 齢、世代、時代の3効果を分離、推計しつつある。農畜産業振興事業団の委託に より実施した平成10年度畜産物需要開発調査研究事業を元に、その後さらに分析 を進めている。 次節以下でいくつかの畜産物と日本人の食生活の基本である米および魚につい て、分析結果の一部を紹介したい。 注2:Mason. W. and S. Fienberg, Editars(1985)「Cohort Analysis in Social Research : Beyond the Identification Problem」、Springer-Verlag、New York など参照
表3および表5〜7は、総務庁統計局が約8,000戸の世帯(単身者世帯を除く) について実施している「家計調査」の世帯主年齢階級別のデータから、世帯員の 年齢構成の行列を組み入れた連立方程式を解いて推計された世帯員個々の年齢別 消費の推移を示している。0〜4歳児および5〜9歳児についても推計しているが、 統計的に必ずしも安定した結果が得られていないので、表7の飲用牛乳を除いて 載せていない。 米(うるち米)の家計消費は1979年の1人当たり45.16kgから1997年の30.26kgへ 14.9kg、33.0%激減した。われわれの推計(表3)によると、1980年前後には10代 の未成年層と20代の若年層は1人当たり40kg前後、40代以上は60kg強であった。 その後どの年齢階級も消費は減少しているが、中高年層は20%前後の減少である のに比べ、若年層では半減、10代の未成年層にいたっては60数%も減少している のが見てとれる。 表3 米の個人年齢階級別家計消費量の推計値(1979〜1997) このような変化を年齢・世代および時代の3要因に分けて分析すればどうなる であろうか。SAS言語を用いた中村のベイズ型コウホート・モデルによる計測結 果は、表4のような形で算出される。 表4 米のコウホート分析結果の例 ある年次( t 年)年におけるある年齢階級( i 階級)の消費(μ i t )は、19 年×13階級=247のセルに共通のβ(総平均(効果))をベースに、狭義の年齢 i 階級に特有の年齢効果,βi A と、調査時 i 年に共通の時代効果,βt P が加わ り、さらにもう1項、それぞれのセル( t 年次に i 年齢階級の集団)が、いつ出 生し、成人期に達するまでにそれぞれ異なった経験を共有し培われたであろう特 有の世代効果,βk C が加わる。すなわち、 μ i t=β+βi A +βt P +βk C +誤差項…(1) (1)式のようにとらえることができると想定する。現実に近づくためにはもっ と複雑なモデルを用意すべきであろうが、計算は難しくなり、誤差も拡大する恐 れがある。 世代を示す番号0から16は便宜的なもので、0が調査期間の始めに70歳以上だっ た人々、すなわち1909年以前出生の一番古い世代、逆に16は調査の最近年次に10 〜14歳であった人々、すなわち1985〜89年に出生した世代を示している。表4の 推計値を使って具体的な計算を試みてみよう。 計算@ 1984年に55〜59歳だった人々は1925〜29年に出生し、世代番号4に当たる。こ の集団の理論上の消費は(1)式から、 β+βA55−59+βP'84+βC4 =40.96+5.73+4.62+7.42=58.73kgと推計され る。ちなみに表3の該当セルの値は57.76kgである。 計算A 1994年に25〜29歳だった人々は1965〜69年に出生し、世代番号12である。同様 に(1)式からこの集団の理論値は、 β+βA25−29+βP'94+βC12 =40.96−9.29−6.10−4.58=20.99kg。これに 対応する表3の値は、21.29kgである。 表4の米についてのコウホート分析の結果を簡単な図にすると図1の(A)〜 (C)のようになる。(A)が年齢効果βi A 、(B)が世代効果βk C 、(C) が年次ないし時代効果βt P をそれぞれ示している。いずれの効果もゼロの線を 中心に左右にばらつき、集計すると差し引きゼロになるようになっている。(Σ βi A =0、Σβk C =0、Σβt P =0)。 ◇図1:米のコウホート分析の結果図(総平均=40.96kg)◇ (A)年齢 (B)世代 (C)年代 まず総平均(効果)が40.96kgである。 (A)の年齢(効果)は、30代の後半40代の前半を境にプラスとマイナスに分 かれる。狭義の年齢効果として40代以上は総平均40.96kgに+5.0kg前後が加わる。 それより若い年齢層では逆に▲5.0kgが加わる。すなわち前者は46kg前後、後者は 36kg前後になり、中高と若年の両階層間で10kg前後の差が開く。特に20代後半と 30代前半は▲9kg強の年齢効果を示し(40.96−9≒32kg)、さらに米を食べない年 齢階層であることが分かる。ただしこれらの階層が米消費の総量がそれほど低い かどうかは分からない。恐らく中高年層に比べ、特に女性の場合、外食の機会が 多く、その分米の家計消費が少ないという事情があるのかもしれない。(注3) われわれのコウホート分析はその中身までは明らかにしてくれない。 次に(B)の世代(効果)について、出生が戦中(1940〜44年)〜戦争直後 (1945〜49年)を境に、古い方はプラス、新しい方はマイナスと明確な差異が示 されている。特に1935〜39年以前に出生した世代(1995年現在50代後半より上) は、(総平均40.96kgに加えるに)+7kg前後、これに対し1955〜59年出生の世代 は▲2kg、さらに新しい世代になるほど負の値は加速度的に大きくなる。高度成 長期以降、特に1975〜79年出生の世代は▲12kg、1980〜85年のそれは▲15kg弱と 一層大きな負の効果を持っている。俗な言葉で表現すれば、新しい世代程「米離 れ」の傾向が顕著である。 これらの世代もやがて年を取り、例えば2020年代には40歳以上になる。図1の (A)の年齢(効果)をたどって▲5kgから+5kgへ10kg前後増えるであろうが、 そもそもスタートの世代特有の値が、例えば1995年に40代後半だった人達に比べ、 +2−(−14)=16kg前後低い"ハンディ"を引きずっていくことになる。とすると、 2020年頃の40代後半の人達の消費は、今後の時代の動きを無視すれば、1995年の その階層の消費量、42kg前後(表3)より16kg程度少ない25kg前後になるのではな いかと予想される。年齢・世代効果の図は、以上のように将来予測にも利用でき る。 1979年から1997年にかけて米の1人当たり家計消費は45.16kgから30.26kgへ減少 したが、この期間に調査家計の世帯員の年齢および世代構成は顕著に変化してい る。ちなみに世帯主が60歳以上の世帯は1979年に8,000戸のうち1,072戸だったの が、1997年には同じく2,442戸に増えている。すなわち人口の高齢化が進んでいる。 同時に1979年に60歳ないし70歳以上だった古い世代、すなわち世代番号0〜2の多 くは消え去るか著しく活動が鈍り、1980以降出生の世代が新しく加わってきた。 この期間における相対的な米消費の変化にそのような高齢化と世代構成の変化が 作用しているであろうことに疑問の余地はない。 そのような年齢効果と世代効果を除去した純粋の年代効果が、図1の(C)に 示されている。1979〜81年頃は総平均40.96に加えて+7kg前後だったのが、1987 〜89年に±0、1995〜97年には▲7kg前後にほぼ一貫して減少し続け、期間を通し て計14kg前後減少している。この値は上述の1人当たり単純平均値の減少とほぼ 一致するが、恐らく人口の高齢化の影響はかなりプラスの方向に働いたが、世代 交代の影響はマイナス方向で、たまたま相殺し合ったのかもしれない。それら2 つの効果の作用は、品目によって異なり、必ずしも米と同じではないのは後で見 るとおりである。 注3:例えば40代および50代は夕食の外食比率が12.2および10.5%に対し、20〜 24、25〜29および30代はそれぞれ20.7、18.4および13.6%であった(厚生省 「国民栄養の現状・平成5年調査」より)。
(1)牛肉 表5 牛肉の個人年齢階級別家計消費量の推計値(1979〜1997) 表5の1979年から1997年にかけての世帯員の年齢階級別の消費量(間接推計) のデータをコウホートの分析にかけると、図2のようになる。 ◇図2:牛肉のコウホート分析の結果図(総平均=3.12kg)◇ (A)年齢 (B)世代 (C)年代 まず年齢(効果)については、先の米の場合と同じように30代後半と40代前半 を境にプラスとマイナスに分かれる。中高年層は総平均(効果)3.12kgに加える に+0.4〜0.5kg、他方10代の未成年層を含み若年層は▲0.5kg前後で、米の場合同 様特に20代後半と30代前半は負の値が大きく、▲0.7kgを示す。恐らく外食機会 と関係しているのであろう。 それにしても年齢効果が、若年層で総平均の15〜20%に相当するマイナスと出 ることに奇異の念を感ずる読者がおられるかもしれない。農業総合研究所の石橋 喜美子氏が「家計調査」の個票を使って行った分析結果からも、全国的に、若年 層の牛肉消費が中高年層の水準に近づくのは輸入自由化以降のことで、それ以前 は若い層は豚肉に傾斜していたことが明らかになっている。(注4)本稿には載 せていないが筆者のコウホート分析でも、豚肉の場合若年層、特に10代の年齢効 果はプラスに推定されている。 世代(効果)については米の場合と全く対照的である。すなわち、1935〜39年 以前出生の古い世代は、総平均(効果)3.12kgに対し15〜20%のマイナス、他方 1945〜49年以降出生の新しい世代は、総平均に対し10%前後のプラスの効果を示 す。特に1970年以降出生の世代は15%のプラスの効果を持っていると推定される。 1995年頃20、30代だった人々が2020年代に40、50代になれば、図2の(A)の 年齢効果をたどって消費は1.0kg程度増えるだろう。他方1995年当時40、50代だ った世代に比べ、世代効果に関し0.5〜0.6kg多いから、今後の時代効果を考えな くとも、かれらの消費は現在の中高年層より相当程度多くなるのは間違いない。 人口の年齢および世代構成の変化による影響を除去した純粋の年代(効果)が 図2の(C)に示されている。年々の凹凸はあるが、1979〜81年当時の▲0.4kgか ら1989年にゼロ、1995年に+0.55と総平均(効果)3.12kgに対して全期間で30% 強の増加を示している。1996年に0.25に落ちるが、これは例のO157事件や狂牛 病騒ぎによる一時的な落ち込みをあらわしているのであろう。 世帯員1人当たりの単純平均は、1979年の2.46kgから1995年の3.61kgへ46.7%増 加した。その期間の人口の老齢化による影響(これはプラス)と、さらに重要な のは1980年当時60、70代以上だった古い世代が次第に消え、当時幼児、10代だっ た新しい世代が加わったことによる影響が作用している。これら2つの効果を除 去したのが上記の純粋の年代効果、約30%増である。この点を考慮せずに未加工 のデータで時系列の回帰分析をすると、需要弾力性が過大に推計される恐れがあ る。 注4:石橋喜美子(1998)「輸入自由化前後における牛肉の家計消費構造変化」 農業総合研究52巻4号、補論。また中村のベイズ型モデルについては、中村 隆(1982)「ベイズ型コウホート・モデル−標準コウホート表への適用−」 統計数理研究報29巻2号、Nakamura. T.(1986)「Bayesiyan Cohort Models for General Cohort Table Analyses」Ann, Inst. Statist. Math., Vol.38, Part B, Tokyo など (2)鮮魚 年齢効果と世代効果の形は、先に詳述した米によく似ている。年齢効果として 40代前半を境に若い層がマイナス、年配層がプラスである。また世代的に、1950 年頃より以前に出生した世代はプラス、それ以降出生の新しい世帯は、新しい程 累進的にマイナスの値を示している。若い人というより新しい世代の「魚離れ」 が急速に進んでいるらしいことが統計的に裏付けられたと言ってよいだろう。 表6 鮮魚の個人年齢階級別家計消費量の推計値(1979〜1997) 世帯員1人当たりの平均消費量は1979年の14.57kgから1997年の13.64kgへ、約7 %減少しているが、年齢効果と世代効果を除去した純粋の年代効果は、図3の (C)にみるようにゼロの線を中心にばらつき、米のように一貫した減少傾向は 示していない。 ◇図3:鮮魚のコウホート分析の結果図(総平均=13.79kg)◇ (A)年齢 (B)世代 (C)年代 (3)飲用牛乳 表7の年齢階級別消費の推移をみると、1980年頃は幼児から30代前半くらいま での層が約30r弱、それより上の層は21〜24rくらいであった。その後、幼、小児 の消費は傾向的にほとんど変わらず、ティーンエイジャーは微増、20代と30代前 半はほとんど横ばいであったのに対し、30代後半以上層で顕著に増えている。特 に50代後半からの高齢層においては、ほぼ倍増に近い伸びをみせている。 表7 飲用牛乳の個人年齢階級別家計消費量の推計値(1979〜1997) これらの数値をベイズ型コウホート分析にかけると、図4のような効果が算出 される。飲用牛乳について、一生にわたる飲用慣習が形成される(≒「世代効果」 が固定する)時期は、牛肉や鮮魚などに比べるとより年少の時期、幼児期か小学 校の低学年頃ではないかという意見がある。 ◇図4:飲用牛乳のコウホート分析の結果図(総平均=29.49l)◇ (A)年齢 (B)世代 (C)年代 われわれは牛乳については、コウホート分析にかける年齢階級の最下端を、0 〜4歳、次に5〜9歳…などと何通りか試みた。いずれの試みからも常識に反する ような結果は生まれなかったが、同時にどの階級からスタートさせるのが最も良 いのかも判然としなかった。ここでは先の3品目に合わせて、10〜14歳を最下端 とした分析結果を紹介する。 まず(A)年齢(効果)については、10代前半が総平均24.49rから20%弱のプ ラス、10代後半から20代と逓減し、20代の後半でゼロ、30代後半が▲4.59で底を つき、その後増加して60代前半でややプラス、70歳以上層では+5r強の値を示す。 注目に値するのは(B)世代(効果)である。最も古い世代、1909年以前出生 の人々はややマイナス、1925〜1950年代出生の世代は総平均に対し10〜15%のプ ラスの値を示すが、1960年以降出生の新しい世代は、年齢効果を分離した世代効 果のみとして、総平均の10%以上のマイナスの値を持ち、最近出生の世代程マイ ナスの絶対値は逓増している。 単純に年齢が若いというのではなく、「高度成長」がスタートした後に生まれ た新しい世代は、それ以前出生の世代、戦後すぐに生まれ学校給食の牛乳(脱脂 粉乳)をありがたく飲んだ世代に比べ、世代の特性として+4.5−(−6.5)=11 r前後も低い値を持つと推定される。これらの世代は1995年当時30歳以下だが、 やがて年を取り、他方1930年代から戦争直後に生まれた世代に替わっていくにつ れ、その限りにおいて(次に述べる時代効果の先行きを考えなければ)牛乳消費 は減少していくかもしれない。 牛乳の家計消費は1979〜80年から1996〜97年にかけ、1人当たり単純平均で25. 1rから34.6rへ10r弱増大した。年齢効果と世代効果を除去した年代効果は図4の (C)に示される通りで、1979〜80年の▲6.6rから傾向的に増え、88〜89年を境 にプラスに転じ、1996〜97年には+8.0rと14r強の純増を示している。 ただし将来の需要総量をこの線を延長して予測するのは危険である。牛肉のよ うに、新しい世代がやがて消え行く古い世代と対照的にプラスの世代効果を持つ ケースとは逆に、牛乳については新しい世代が、古い世代に比べかなりマイナス の世代効果を持っているらしいことが分かった。今回のこの推計効果を、関係者 は十分銘記しておく必要があると思われる。