★ 農林水産省から


中山間地域等直接支払制度について

農林水産省構造改善局 中山間地域活性化推進室長  小風 茂




経緯

 中山間地域等においては、他の地域に比べ、過疎化・高齢化が急速に進展する
中で、農業生産条件が不利な地域が多いことから、農地等への管理が行き届かず、
耕作放棄地の増加等による多面的機能の低下が懸念されている。

 このような状況を踏まえ、食料・農業・農村基本問題調査会答申(平成10年9
月)では、中山間地域等への直接支払いについて、「真に政策支援が必要な主体
に焦点を当てた運用がなされ、施策の透明性が確保されるならば、その点でメリ
ットがあり、新たな公的支援策として有効な手法のひとつである。」とされ、そ
の導入が提言された。

 その後、「農政改革大綱」(10年12月)がとりまとめられ、中山間地域等に対
する直接支払いの枠組みが示されるとともに、その実現に向け第3者機関を設置
し、具体的検討を行うこととされた。

 これを受け、「中山間等直接支払制度検討会」において、農政改革大綱でまと
められた枠組みに基づき、11年1月から8月にかけて8地区における現地調査、農
業団体、経済団体、消費者団体からの意見聴取を行うとともに、9回にわたり、
制度運営の課題、適切な運営方法等につき検討を行い、また、与党においても精
力的に検討がなされ、11年8月10日に骨子がとりまとめられた。

 この検討会報告、制度骨子等に基づき、12年度予算案に「中山間地域等直接支
払交付金」が盛り込まれたところである。本年1月には各地でブロック説明会が
開催され、現在、12年度からの実施に向け、集落、市町村及び都道府県の各段階
で準備作業が進められている。以下はその制度案のポイントである。


中山間地域等直接支払制度のポイント

目的

 耕作放棄地の増加等により多面的機能の低下が特に懸念されている中山間地域
等において、農業生産の維持を図りつつ、多面的機能を確保するという観点から、
国民の理解の下に、直接支払いを実施する。


基本的考え方

1 わが国農政史上初の試みであることから、導入の必要性、制度の仕組みにつ
 いて広く国民の理解を得るとともに、国際的に通用するものとしてWTO農業協
 定上、「緑」の政策として実施する。

〈WTO農業協定での条件不利地域対策としての直接支払いの要件〉 

・条件不利地域とは、条件の不利性が一時的事情以上の事情から生じる明確に規
 定された中立的・客観的基準に照らして不利と認められるものでなければなら
 ない。

・支払額は、所定の地域において農業生産を行うことに伴う追加の費用又は収入
 の喪失が限度とされる。

2 明確かつ客観的基準の下に透明性を確保しながら実施する。

3 農業生産活動等の継続のためには、地方公共団体の役割が重要であり、国と
 地方公共団体が緊密な連携の下に共同して実施する。

4 制度導入後も、中立的な第三者機関による実施状況の点検や政策効果の評価
 等を行い、基準等について見直しを行う。


制度の仕組み

1 対象地域及び対象農地

 対象地域は、特定農山村法等の指定地域とし、対象農地は、このうち傾斜等に
より生産条件が不利で耕作放棄地の発生の懸念の大きい農用地区域内の一団の農
地とし、指定は、国が示す基準に基づき市町村長が行う。

 対象農地は、(1)の地域振興立法の指定地域のうち、(2)の要件に該当する
農業生産条件の不利な1ha以上の面的なまとまりのある農地とする。

(1)対象地域(自然的・経済的・社会的条件の悪い地域)

 特定農山村、山村振興、過疎、半島、離島、沖縄、奄美及び小笠原の地域振興
立法8法の指定地域

 現行過疎法は本年3月末で期限切れとなるが、現行過疎法の対象となっている
地域で新過疎法の対象外となる地域については、平成16年度までは一般地域並み
に扱う。

(2)対象農地(農業生産条件の悪い農地)

 @ 急傾斜農地(田1/20以上、畑15度以上)

 A 自然条件により小区画・不整形な水田(大多数が30アール未満で平均20ア
   ール以下)

 B 草地比率の高い(70%以上)地域の草地

 C 傾斜採草放牧地(15度以上)

 D 市町村長の判断により、
  ・緩傾斜農地(田1/100以上、畑8度以上)
  ・高齢化率(40%以上)・耕作放棄率(田:8%以上、畑:15%以上)の高
   い農地
	を対象とすることも可能とする。

〈緩傾斜農地に係る国のガイドライン〉

 ア 急傾斜農地と連担する場合   
 イ 緩傾斜という条件に別の農業生産条件の不利性が加わる場合

 E 特認(地域の実態に応じた地域指定)

 都道府県ごとの農地の一定割合の範囲内(次のア及びイ)おいて、8法以外の
地域を含め、上記以外の耕作放棄の発生の懸念の大きい農地も国の負担する額を
引き下げるとの歯止め策を講じた上で準ずる地域として対象とできることとする。

 ア 当該県の8法地域内農地の5%以内。ただし、これを認めることにより対象
  農地面積の合計が8法地域内農地の50%を超えないこと。

 イ 当該県の8法外農地の5%以内

 特認指定農地が田に偏重することを防ぐため、指定農地のうち田については1、
畑及び草地については1.5で除した面積の合計値が上記ア及びイの範囲内である
こととする。また、総特認面積を8法内外にどのように配分するかは都道府県知
事の裁量とする。

〈特認のガイドライン〉

 ア 8法地域内の農地

 8法地域内の農地にあっては、田で傾斜度1/100以上又は畑で8度以上の農地と
同等の農業生産条件の不利性があり、一般的にこのような農地は他の農地に比べ
て耕作放棄率が高いこと。

 イ 8法地域以外の農地

 8法地域以外の農地にあっては、a、b、cいずれかの要件を満たす地域の中
でdの要件を満たす農地であること。

 なお、cについては、特定農山村法等の地域振興立法の要件等を考慮し、別個
の基準を定めることができる。ただし、特に、この場合においては国レベルの第
三者機関に必要なデータを提出し適正であることの承認を受けるものとする。

 a 8法地域に地理的に接する農地

 b 農林統計上の中山間地域

 c 三大都市圏の既成市街地等に該当せず、次の(a)から(c)までの要件を
  満たすこと

 (a)農林業従事者割合が10%以上又は農林地率が75%以上

 (b)DID(人口集中地区)からの距離が30分以上

 (c)人口の減少率(平成2〜7年)が3.5%以上で、かつ、人口密度150人/km2
  未満であること

 d 次の(a)から(e)までのいずれかの要件を満たすこと

 (a)傾斜農地(田1/100以上、畑8度以上)
 (b)自然条件により、小区画・不整形な水田
 (c)草地比率が高い(70%以上)地域の草地
 (d)高齢化率・耕作放棄率の高い農地
 (e)8法内の都道府県知事が定める基準の農地

(3)けい畔も対象面積に加える。

(4)限界的農地を林地化した場合、5年間に限り直接支払いの対象とする。

2 対象行為

 対象行為は、耕作放棄の防止等を内容とする集落協定又は第3セクターや認定
農業者等が耕作放棄される農地を引き受ける場合の個別協定に基づき、5年以上
継続される農業生活活動等とする。

 (注)

 @ 集落とは、一団の農地において合意の下に協力して営業・営農関連活動を
  行う集団をいう。

 A 協定は平成13年度以降に締結することも可能とする。

(1)対象となる農業生産活動等

 農業生産活動等に加え、多面的機能の増進につながる行為として集落がその実
態に合った活動を選択して実施する。

 注:農法の転換まで必要とするような行為(肥料・農薬の削減等)は求めない。

(2)集落協定

 ア 対象農地における耕作、適切な農地管理及び対象農地に関連する水路、農
  道等の適正管理

 (注)農地については必ずしも耕作が行われる必要はない。調整水田としての
   管理も対象となる。

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@一般部分(国が認める基準)

 地域振興立法8法の指定地域のうち、傾斜等により農業生産条件が不利な農地

A特認部分

 自然的・経済的・社会的条件が悪く農業生産条件が不利なものとして都道府県
知事が地域の実態に応じて定める基準に該当する農地

 特認については、国の負担割合を引き下げる(1/2→1/3)とともに、都道府県
ごとに面積の上限を設定する(注)。また、設定基準については、中立的な第三
者機関により審査を行う。

(注)特認面積の上限設定
(1)8法地域内農地の5%かつ対象農地面積の合計が50%を超えない
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(2)8法地域外農地の5%
 適正な農業生産活動等に加え、地域の中で、国土保全機能を高める取り組み、
保健休養機能を高める取り組み又は自然生態系の保全に資する取り組み等多面的
機能の増進につながるものとして例示される行為(これに準ずる行為及び基盤整
備への取り組みも含む。)から集落が集落の実態に合った活動を協定上に規定す
る。

 (注)肥料・農薬の削減等農法の転換まで必要とする行為である必要はない。

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 イ 協定は一団の農地ごとに締結するものとする。ただし、複数の団地にまた
  がって1つの協定を締結することも可能。

 ウ 集落協定に規定すべき事項((キ)及び(ク)は任意的事項)

 (ア)対象農地の範囲

 (イ)構成員の役割分担

 農地の管理者及び受託等の方法、水路・農道等の管理活動の内容と作業分担、
経理担当者、市町村に対する代表者等

 (ウ)直接支払いの使用方法

 集落の各担当者の活動に対する報酬、生産性の向上や担い手の育成に資する活
動、鳥獣害防止対策、水路・農道等の維持・管理等集落の共同取組活動に要する
支出や集落協定に従い農地の維持・管理活動に協力する者に対する支出について
規定する。集落協定による共同活動を通じて耕作放棄を防止するとの観点から直
接支払い額の概ね1/2以上が集落の共同取組活動に使用されるよう集落を指導す
る。

 (エ)対象行為として取り組む事項(農業生産活動及び多面的機能を増進する
   活動)

 (オ)生産性や収益の向上による所得の増加、担い手の定着等に関する目標

 (カ)食料自給率の向上に資するよう規定される米・麦・大豆・草地畜産等に
   関する生産の目標

 (キ)集落の総合力の発揮に資する事項(以下、項目の例示)

   ・一集落一農場制度による機械コスト低減に向けての検討
   ・畜産農家との連携によるたいきゅう肥の活用
   ・集落外農家との連携、農地の受託

 (ク)将来の集落像についてのマスタープラン

 (ケ)市町村の基本方針により規定すべき事項

(3)個別協定

 個別協定の助成対象は引き受け分とする。(ただし、一団の農地全てを耕作す
る場合や一定規模以上の経営の場合(都道府県:3ha以上、北海道:30ha以上
(草地:100ha以上))は個別協定を集落協定とみなして自作地も対象。)

(4)生産調整との関係

 基本的には生産調整と直接支払いとは別個の政策目的に係るものであるが、農
政全体としての整合性を図るとの観点から、集落協定で米、麦、大豆等の生産目
標を規定し、関連づける。

(5)協定違反の場合の取扱い

 不可抗力の場合を除き助成金を返還する。

3 対象者

 対象者は、協定に基づく農業生産活動等を行う農業者等とする。

(1)農業生産活動、農地管理等を行っている者(小規模農家、農業生産組織等
 も含む。)を対象とする。

(2)農業を主業とするフルタイムの農業従事者一人当たりの所得(収入から負
 債の償還を含めたコストを差し引いたもの)が各都道府県の都市部の勤労者の
 平均所得を上回る農業者については、集落協定による直接支払いの対象としな
 いが、個別協定による直接支払いの対象とする。ただし、当該農家が水路・農
 道等の管理や集落内のとりまとめ等集落営農上の基幹的活動において中核的な
 リーダーとしての役割を果たす担い手として集落協定で指定された農家であっ
 て、当該農家の農地に対して交付される直接支払い額を集落の共同取組活動に
 充てる場合は、集落協定による直接支払いの対象とする。

(3)規模拡大加算については、新規就農や規模拡大した当該年度だけ交付する
 のではなく、継続して平成16年度まで交付する。

4 単価

 単価は、中山間地域等と平地地域との生産条件の格差の範囲内で設定する。

(1)助成を受けられない平地地域との均衡を図るとともに、生産性向上意欲を
 阻害しないとの観点から、平地地域と対象農地との生産条件の格差(コスト
 差)の8割とする。

(2)田・畑・草地・採草放牧地別に単価を設定するとともに、原則として急傾
 斜農地とそれ以外の農地とで生産条件の格差に応じて2段階の単価設定。

(3)1戸当たり100万円の受給総額の上限を設ける(第3セクター等には適用しな
 い。)。

5 地方公共団体の役割

 国と地方公共団体とが共同で、緊密な連携の下で直接支払いを実施する。

(1)市町村が対象農地の指定、集落協定の認定、直接支払いの交付等の事務を
 実施(都道府県及び国に中立的な審査機関を設置)。

(2)都道府県と市町村の負担割合も同等とする。年度間の調整を行うため、都
 道府県に交付金を収入とする資金を設け、都道府県の負担額と資金からの拠出
 額をあわせて市町村に交付する。

(3)地方公共団体の負担分については、地方交付税措置(一般分:1/2相当、特
 認分:1/3相当)が講じられる。

  また、急傾斜等の直接支払いの必要性の高い地域における直接支払いには特
 別交付税措置が、残余については普通交付税措置が講じられる。

(4)市町村は本対策を円滑に実施するため、基本方針を策定する。基本方針に
 おいて、市町村内の集落協定の共通事項、集落相互間の連携、集落内における
 交付金の使用方法についてのガイドラインや、生産性・収益の向上、担い手の
 定着、生活環境の整備等に関する目標等を定める。

(5)市町村、都道府県、国は、毎年、集落協定の締結状況、各集落等に対する
 直接支払いの交付状況、協定による農地の維持・管理等の実施状況、生産性向
 上、担い手定着等の目標として掲げている内容、目標への取り組み状況等直接
 支払いの実施状況を公表するものとする。

6 期間

 農業収益の向上等により、対象地域での農業生産活動の継続が可能であると認
められるまで実施する。

(1)集落については、担い手が規模拡大等により集落のコアとして定着するこ
 と等により、本助成がなくても集落全体として農業生産活動の継続が可能で、
 耕作放棄のおそれがなくなるまで助成を継続する。

 (注)具体的には次のケースを想定。

 ア 突出した担い手がなくても、特定農業法人、株式会社等により生産組織が
  完成。

 イ コアとなる担い手に相当の農地が集積され、これを残りの集落のメンバー
  が補完するという形での集落組織が完成。

 ウ 水路・農道の管理などの共同作業は全戸で行いつつ、数戸の農家に稲作を
  集中し、残りの農家で高付加価値型農業を営むという集落による複合経営の
  実現。

 エ 酪農については、個々の経営は負債から脱却し、フリーストール・ミルキ
  ングパーラー方式等により、所得を確保するとともに、単一又は複数の集落
  が新規参入者となりうる酪農ヘルパーや飼料生産のコストダウンに資するコ
  ントラクター組織を活用。

直接支払事業費等について

1事業費

 約700億円(国費:約330億円)

2単価
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 注:新規就農の場合や担い手が条件不利な農地を引き受けて規模拡大する場合
   は田で1,500円、畑・草地で500円上乗せする。

 また、市町村全体としてもほとんどの集落でこのような状態となり、未達成集
落の農地についても達成集落における担い手による引き受け等により耕作放棄の
おそれがないと判断されるまで助成を継続する。

 個々の農家については、農業を主業とするフルタイムの農業従事者一人当たり
の所得(収入から負債の償還を含めたコストを差し引いたもの)が各都道府県の
都市部の勤労者の平均所得を上回るまで助成を継続する(ただし、当該農家が水
路・農道の管理や集落内のとりまとめ等集落営農上の基幹的活動において中核的
なリーダーとしての役割を果たす担い手となっている場合及び当該農家が個別協
定により農地を引き受ける場合は、その後も継続する。)。

(2)5年後には市町村長が集落の取り組み状況を評価するとともに、中山間地域
農業をめぐる諸情勢の変化、協定による目標達成に向けての取り組みを反映した
農地の維持・管理の全体的な実施状況等を踏まえて制度全体の見直しを行う。

直接支払の実施体制
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 注:集落とは、一団の農地において合意の下に協力して営農・営農関連活動を
   行う集団をいう。

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