宮城県/阿部 総明
白石市不忘地区は、宮城県の南部、蔵王山麓の東側に位置し、標高500〜1000 mの高原地帯である。気候は冷涼で、降雪も場所によっては1メートルを超える。 地区の開発は、戦後の緊急開拓に始まり、その頃の農業は畑作、林業等が中心で あったが、現在では草地型酪農が基幹となっている。 この地区で、放牧を取り入れた酪農経営で成果を上げているのが岡部牧場であ る。 岡部牧場は、岡部聡(さとる)さん(33)が経営する地区の中核的な牧場で、 昭和50年頃、お父さんが成牛5頭を飼ったことに始まる。その後、草地面積の拡 大とともに経営規模も拡大。平成9年にお父さんからの経営委譲を機に、岡部さ んは酪農ヘルパーの仕事を辞め、酪農専業となった。 放牧は朝7時から午後4時頃までの日中で、期間は4月から11月までの8カ月間。 冬期は舎飼いする。以前はすべての牛を放牧していたが、牧柵から育成牛が逃げ るので、今では成牛のみを放牧している。初妊牛の放牧馴致は特にしていない。 牧区は、牛の移動時間の短縮、省力化のため、特に設けていない。飲水は湧き水 から汲み入れ、常時与えている。放牧地の草種は、野芝、オーチャードグラス、 フェスク類、クローバー類。肥培管理は、毎年春に化成肥料とともに、完熟堆肥 (牛ふん+鶏ふん)を10アール当たり2トン散布している。 放牧のメリットとしては、労力の省力化、発情の早期発見、健康な牛づくり、 所得率の向上の4点である。 労力の省力化は、飼料給与、ボロ出し等の作業から開放されるので、年間労働 時間は経産牛1頭当たり50時間程度で、県平均110時間の約半分である。発情牛の 発見は、牧野でのマウンティングを見つければ簡単に分かるので、人工授精の適 期を逃さない。ほぼ1年1産を達成し、分娩は自然分娩で、その際の事故はほとん どない。放牧は舎飼いでのストレスを発散させ、十分な運動と日光浴になる。関 節炎や内臓疾患とも縁がない。自由採食、デントコーンサイレージの通年給与に より、所得率が約45%(平成10年)の良好な経営になっている。 将来は、さらに放牧面積の拡大を図りながら、放牧の利点を最大限に活かした 酪農を続けていきたい、と夢を語ってくれた。