◎地域便り


放牧を取り入れた酪農経営

宮城県/阿部 総明


 白石市不忘地区は、宮城県の南部、蔵王山麓の東側に位置し、標高500〜1000
mの高原地帯である。気候は冷涼で、降雪も場所によっては1メートルを超える。
地区の開発は、戦後の緊急開拓に始まり、その頃の農業は畑作、林業等が中心で
あったが、現在では草地型酪農が基幹となっている。

 この地区で、放牧を取り入れた酪農経営で成果を上げているのが岡部牧場であ
る。

 岡部牧場は、岡部聡(さとる)さん(33)が経営する地区の中核的な牧場で、
昭和50年頃、お父さんが成牛5頭を飼ったことに始まる。その後、草地面積の拡
大とともに経営規模も拡大。平成9年にお父さんからの経営委譲を機に、岡部さ
んは酪農ヘルパーの仕事を辞め、酪農専業となった。

 放牧は朝7時から午後4時頃までの日中で、期間は4月から11月までの8カ月間。
冬期は舎飼いする。以前はすべての牛を放牧していたが、牧柵から育成牛が逃げ
るので、今では成牛のみを放牧している。初妊牛の放牧馴致は特にしていない。
牧区は、牛の移動時間の短縮、省力化のため、特に設けていない。飲水は湧き水
から汲み入れ、常時与えている。放牧地の草種は、野芝、オーチャードグラス、
フェスク類、クローバー類。肥培管理は、毎年春に化成肥料とともに、完熟堆肥
(牛ふん+鶏ふん)を10アール当たり2トン散布している。

 放牧のメリットとしては、労力の省力化、発情の早期発見、健康な牛づくり、
所得率の向上の4点である。

 労力の省力化は、飼料給与、ボロ出し等の作業から開放されるので、年間労働
時間は経産牛1頭当たり50時間程度で、県平均110時間の約半分である。発情牛の
発見は、牧野でのマウンティングを見つければ簡単に分かるので、人工授精の適
期を逃さない。ほぼ1年1産を達成し、分娩は自然分娩で、その際の事故はほとん
どない。放牧は舎飼いでのストレスを発散させ、十分な運動と日光浴になる。関
節炎や内臓疾患とも縁がない。自由採食、デントコーンサイレージの通年給与に
より、所得率が約45%(平成10年)の良好な経営になっている。

 将来は、さらに放牧面積の拡大を図りながら、放牧の利点を最大限に活かした
酪農を続けていきたい、と夢を語ってくれた。

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