広島県/仙波 豊三
大平牧場(代表者佐古賢治さん(54))は、広島県の中部世羅台地で、31年前 に畜産を始めた。 女の子2人が大学進学を希望するにいたって夫婦で一大決心をして始めたのが 乳用種肥育牛の受託経営である。昭和60年に、肥育牛舎2棟新築、300頭の素牛を 預かった。頭数が増加して困るのがふん尿の処理である。牧場の下流は、農業用 水ダムがあり、野積みは許されない。やむにやまれず3,500万円の借金で1,300平 方メートルの巨大なたい肥舎を建設した。 肥育の受託料で生活費(夫婦に子供2人)は、一応賄えるので、ふん尿をたい 肥にし販売できればそれだけ所得が増える。たい肥舎の建設費、処理機の導入費 は合わせて、4,000万円程度。償却費を売り上げが上回ることになれば、それだけ ゆとりが生まれ、子供の教育も安心してできる。売り上げをいかに多くするかが 課題であった。 まず良いたい肥を作ること。そのためにはふん尿に混ぜたおがくずを十分発酵 させる必要があり、発酵期間を最低半年とした。しかし発酵にも種々あって、高 温で長くおくと、肥効のないたい肥になる。40〜60度の中温(温醸)で維持する ことが重要で、酵素も使う。さらに大切なことは半年間に20回の切り返しをする ことで適温が維持され、土壌や作物に有用な菌類が温存された有機資材として仕 上がる。 完熟したものは、全量の3分の1程度を袋詰めし、年間1万6,000袋がホームセン ターに出荷される。一度使った人が「またあれが欲しい。」と言ってくれ、次第 に人気が出て一種のブランド製品となり販路が安定した。残りは、ダンプ1台分 ごとにバラ売りしている。 佐古さんの次女が大学を卒業して結婚し、新婚の二人が目下後継者になるため に研修中である。 手間を惜しんで、金になるものを放置し、公害の原因をつくる例が多い中で、 ふん尿だけがうちのもうけだという佐古さんの経営哲学には、実績に裏打ちされ た重みがある。
【1,300平方メートルの巨大たい肥舎】 |
【切り返しを十分に行い、完熟させる】 |