◎調査・報告


平成13年度の生乳計画生産・需給調整対策の概要

社団法人 中央酪農会議 広域流通対策室長 内橋 政敏


 13年度の生乳需給調整対策については、新制度移行に当たり、生乳需要に見合
った生乳供給をいかに確保するかを課題として、3月6日開催の指定団体長会議で、
以下のとおり決定された。


12年度の計画生産の現状と生乳需給

 12年度の計画生産数量は、牛乳消費自体が成熟化のなかで、少子化の影響や他
飲料との競合が避けられず、停滞基調を脱し切れないとの予測を踏まえ、出荷実
績対比100.2%で設定した。指定生乳生産者団体(以下「指定団体」という)に
は前年度目標と同量を配分後、新規就農枠、乳製品向けに限った単年度の特別生
産枠を設定した。また、11年度に続き、生産力ある地域に配分するための生産振
興調整枠(有償で売買する乳製品向け枠)を8万トン設定した。さらに、用途別
計画生産の実施に当たっては、飲用需要の大幅な増加が見込めないなか、飲用向
け販売競争を放置すれば生乳市場に混乱を来す恐れがあることから、11年度の飲
用目標数量に12年度飲用需要予測の伸び率を加味して実施することとした。

 12年度の生乳生産は、北海道が依然低迷し、一昨年秋から回復傾向を示してい
た都府県も、夏以降、急速に失速している。指定団体からの報告によれば、全国
計で対前年比99%強(北海道99%弱、都府県99%強)と目標を14万トン程度下回
ると見込まれる。直近の動向ではさらに下方修正も必至の状況となっている。

 一方、生乳需要については、全体で対前年度比99%(飲用牛乳等100.5%、乳
製品96.2%)と、当初の需要予測数量を1%、8万トンほど下回ると予測している。
需要はしかし、7月以降一転して好調となった飲用牛乳等が、直近でも引き続き
好調なことから、上方修正も十分有り得ると考えられる。

 12年度の新規就農枠は、14戸の酪農家に4,500トン弱を割り当てた。個人別出
荷目標数量の流動化については、上期に生乳生産が拡大していた状況での希望調
査では譲受希望が多く、12,000トン強が成立し、対価は5円/kgに上昇した。

 このように、生乳需給は第1四半期の緩和状況から、7月以降、均衡もしくはひ
っぱく状況へと転換したが、年度全体では、いわゆる「やや縮小均衡」状態と見
通される。北海道の生乳生産が回復せず、乳製品の製造は大きく落ち込んだ。懸
案のバター在庫も、前年に比べ増えないことも考えられる。従って、都府県の委
託加工とも補償も4〜6月に都府県の生産拡大に伴い大幅に増加したが、下期は年
末・年度末の極めて限られた余乳にとどまる見通しとなっている。


13年度対策策定の考え方

 13年度の計画生産は、12年秋、組織決定した「新たな生乳の需給調整手法につ
いて」に即して実施することとしたが、対策を策定する段階で整理した背景・課
題は以下のとおり。

@13年度から酪農関係諸制度が大きく変更され、加工原料乳を含めた全用途の生
 乳が自由取引となる。酪農の安定的な発展を図るためには、広域化された指定
 団体の機能充実と的確な計画生産の実施が必要不可欠である。供給過剰時の総
 枠の管理という面はあるが、今後は、弾力的かつ計画的な生乳供給、地域間調
 整を基本として一層の取組強化が求められる。

A13年度の生乳需要は一定の伸びが見込まれるが、生乳生産は伸び悩みも予測さ
 れ、残念ながら今後の生産見通しに強気の声はどの地域からも聞かれない。2
 年続きの猛暑の影響に加え、環境問題等による規模拡大の制約や、乳牛価格の
 高騰による導入の停滞などがその主因と考えられるが、今後も生乳生産の大き
 な伸びは残念ながら期待できないと推察される。

B今後、需給調整がより重要な役割を担うことから、広域指定団体を中心とした
 効率的な販売体制の整備、地域間調整の機能発揮が必要とされるため、生産予
 測を踏まえた用途別出荷・配乳計画に基づき、定期的な情報交換を行うととも
 に、全国連とも連携した的確な需給調整を進めることにより、生乳需給の混乱
 を防ぐものとする。


13年度の生乳需要の予測数量

 生乳需給委員会の答申に基づく13年度の生乳需要量は、12年度の需要実績(見
込み)対比で、飲用牛乳等100.1%、乳製品101.4%で、合計810万4,000トン(カ
レントアクセス輸入分およびチーズ向けを除く)と予測された。この水準は、12
年度供給実績(見込み)を上回る。答申では、12年度カレントアクセス輸入に係
る未消化分の脱脂粉乳3,600トン(注)や、生乳取引環境改善緊急対策(バター
在庫軽減対策)ならびにハイファットクリームチーズの関税分類変更に伴う戻り
需要分は考慮していないため、これが最低限見込まれる需要量と考えられる。生
乳使用率の高まりから飲用牛乳等需要は強く、牛乳類表示の改善の影響がどう働
くか予測できない面もあるが、乳製品の需給は13年度中にもひっぱくする可能性
が十分考えられる。

 12年度までは、生乳需要の予測において、どちらかといえば脱脂粉乳の需要に
合わせ気味になっていることから、バター在庫の積み増しの恐れも否定できなか
ったが、現在では、バター在庫は急速に縮小しており、懸念が解消された。

13年度の生乳需給の見通し
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注:農畜産業振興事業団は1月17日に入札を
  実施し、3,600トンの買入れを決定した。


13年度生乳供給の水準と指定団体別設定

 指定団体全体の計画生産目標数量については、12年度の指定団体分の出荷実績
(見込み)対比で100.4%の773.1万トンとした。直近では生乳生産がより停滞色
を強める様相を呈している。13年度の計画生産は、地域の生産実態を反映し、生
乳の安定的な供給責任、地域の酪農振興に配慮しつつ、いかに市場実態に即した
効率的な生乳販売を実行できるか、が中心課題であるといえよう。

 指定団体ごとの目標数量については、新たな需給調整手法の下で、将来とも需
要に見合った生乳生産を確保するために、指定団体からの出荷希望申請等を考慮
することとした。具体的には、13年度の全国供給計画設定数量から、新規就農枠
数量1万トンを差し引いた772.1万トンの50%について、12年度基礎目標数量の指
定団体別シェアで按分し、残の50%について、指定団体から申請のあった13年度
出荷希望数量の指定団体別シェアに基づき按分し、その合計数量を13年度の第1
次目標とした。この第1次目標数量を基礎に、12年度計画生産要領に基づく未達
削減措置等を適用する。12年度の未達削減数量は、指定団体からの報告によれば、
6万トンを超える数量と見込まれ、この範囲内で、追加設定を行い、13年度の指
定団体基礎目標数量とする。

 新規就農枠は、近年ではメガファームが立ち上がる事例もあり、また一方で全
国的に生乳生産が停滞色を強めていることに鑑み、上限を個人500トン、法人1,5
00トンに拡充し、円滑な就農ができるよう環境を整備することとした。

 また、13年度出荷希望積み上げに当たっては、未達・超過の水準が明らかでな
かったことに加え、広域指定団体への移行期でもあったことから、現状の生産実
態と乖離した申請も見受けられた。

 このため、13年度期中で、基礎目標数量の無償貸借による調整措置を予め準備
することとした。これは、不需要期をにらんで計画生産の進捗管理を行うととも
に、生産実態に見合った目標数量調整を実施することを目的としている。また、
計画生産管理が広域単位になるので、ブロック内でより実力に見合った形での生
産ができる仕組みとなり、意欲ある者は安心して生産に取り組むことができると
考えられる。


計画的な供給を確保するための未達・超過措置

 今後の計画生産の運用に当たっては、出荷希望を反映させることにより、生産
意欲を損なわないようにすることが必要であるが、一方で、安定供給を図るため
には、積み上げの正確度を高めることが重要である。このため、金銭ならびに数
量による未達・超過措置を準備し、金銭の水準を生乳需給の状況に応じて決定す
る手法も必要と考えられる。ただし、13年度は移行期でもあり、数量措置のみと
した。なお、未達・超過措置の許容範囲は、12年度と同様、1%に設定した。

 さらに、13年度の需要期には相当の生乳不足も予想されるので、需要期におけ
る超過は、超過措置から除外する特別規定を設けて供給を促進する。7月から10
月は実質、青天井の扱いとなる。


飲用調整金ペナルティー措置の廃止

 10年度より実施した用途別計画生産(飲用調整金ペナルティを措置した飲用等
および乳製品の年間目標数量設定に基づく)は、指定団体広域化により、指定団
体間の配乳調整が適正に機能することが期待されるため、13年度は廃止すること
とした。ただし、新制度では、指定団体が予め加工販売計画数量を国に届け出る
こととなっている。指定団体は月別・四半期別の用途別販売計画を策定し、その
情報を定期的に指定団体間で交換するとともに、全国連とも連携して的確な広域
調整を推進していくことが重要と考えられる。併せて、広域指定団体体制で具体
的な需要期生産の誘導策も、より実効が上がることが期待でき、生乳需給の混乱
を防ぐこともできるだろう。

 10年度より実施した用途別計画生産(飲用調整金ペナルティを措置した飲用等
および乳製品の年間目標数量設定に基づく)は、指定団体広域化により、指定団
体間の配乳調整が適正に機能することが期待されるため、13年度は廃止すること
とした。ただし、新制度では、指定団体が予め加工販売計画数量を国に届け出る
こととなっている。指定団体は月別・四半期別の用途別販売計画を策定し、その
情報を定期的に指定団体間で交換するとともに、全国連とも連携して的確な広域
調整を推進していくことが重要と考えられる。併せて、広域指定団体体制で具体
的な需要期生産の誘導策も、より実効が上がることが期待でき、生乳需給の混乱
を防ぐこともできるだろう。


13年度とも補償対策の取扱い

 12年度のはっ酵乳等向けとも補償による余乳処理対策は、全国連だけでなく、
広域指定団体自らが取り組めるように変更するとともに、バターの在庫が増加し
ていることに配慮し、はっ酵乳等向け補てん水準を引き上げるなど国の要領が拡
充された。これらを踏まえて、地域内・地域間調整など、計画的な取組みを徹底
することとし、一定の成果を収めつつある。

◇<参考>指定団体の生乳取引の概念図◇
cho-g.gif (20901 バイト)
 注:生クリーム等生産拡大促進事業を実施しない場合である。
   (ア)は、指定団体が、用途別取引を推進するため「はっ酵乳等向け生乳」
     等を拡大して取引する場合、補償金を交付する。
   (イ)は、指定団体が、生乳需給の変動等により、発生する余乳について、
     全国連への再委託を通じて、効率的に委託加工を行う場合に補償金を
     交付する。

 13年度のはっ酵乳等向けとも補償は、国の事業は、補てん率が80%となったも
のの、4分の3助成(12年度2分の1助成)に拡充された。これに伴い、4分の1の生
産者負担は基本的に参加指定団体の当事者負担とし、奨励金的な価格差補てん対
策に変更した。なお、12年度と同様に継続された委託加工とも補償を含め、生産
者には前年度と同額の需給調整資金の拠出をいただくことを決定している。


今後の計画生産の考え方

 計画生産は、広域指定団体体制の中で、供給過剰時の供給管理という面はある
が、今後は生産予測に基づき、日々の配乳調整を円滑に行うための地域間調整、
さらに全国連との連携による的確な広域需給調整にウェイトを置くこととなる。
そのためにも、指定団体と全国連は、お互いに計画を公表しつつ、取引の透明性
を確保し、市場実態に即した効率的な生乳販売体制を整備することが重要といえ
よう。

 また、4月から、生乳需給価格情報協議会(仮称)が正式に発足する予定であ
る。従来、中央酪農会議の生乳需給委員会で、学識経験者委員を中心に進めてき
た生乳需要予測の業務は協議会に移管されるなど、生産者と乳業者の協調体制の
下で各種対策も進められるものと期待されている。国内の乳資源は限られている。
時代に即応した需給調整の仕組みによる安定的な生乳供給の確保と国内生乳基盤
を基礎とした商品開発の展開を図るよう枠組みを創り、酪農乳業の将来が展望の
持てるようにしなければならない。

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