◎地域便り


都市の中での酪農と観光牧場経営

愛知県/企画情報部


 正式な法人名は(有)愛知兄弟社だが、地元では愛知牧場の略称「あいぼく」
として広く親しまれている。

 同社では現在、ふん尿の本格的な発酵装置の設置が進められており、この陣頭
指揮に当たる社長の尾関信一さん(52)が本社オフィスに戻ってきたのはもう陽
が西に傾きだした頃だった。

 牧場の敷地内を東名高速道がかすめ、正面入口前には愛知用水の敷設とともに
建設された愛知池が広がる。そして名鉄豊田線が横を通り、周囲には工場と住宅
が林立・密集する。これではおよそ酪農の立地条件としてふさわしくないと思わ
れるが、こうした環境変化にあっても「あいぼく」はたくましく生き抜いてきた。

 旧満州からの引揚者だった祖父が中心になって現在の地、日進市米野木町で農
業、酪農を興したのは昭和21年。当初は果樹栽培も手掛けたが、伊勢湾台風の災
禍から、酪農に専心した。

 41年には100頭収容の牛舎も完成するが、大きな転機となるのは44年。ミルク
プラントを新設し、搾るだけの酪農から「あいぼく」ミルクを供給する乳業メー
カーとなる。これらの設備投資を可能にしたのが、ほかならない愛知池や東名道
に係る土地収容補償費だったというから、都市化の波を上手に乗りこなしてきた
農業経営というべきなのだろう。

 現在の飼養規模は成牛105頭を含めて合計170頭。年間搾乳量は800トンと少な
めだが、これは「牛の健康を第1とし、無理をさせないためだ」。乳質へのこだ
わりはそのまま低温殺菌牛乳を目玉商品とすることにつながっている。通常の牛
乳もスーパー等では1リットル当たりで他メーカー製品に対して30円の価格差を
得る評価となって実を結んでいる。

 さらにソフトクリーム等の製造も行っているが「あいぼく」のもう1つの大き
な柱が観光牧場である。

 都市化、というよりも都市そのものの中に存在する「あいぼく」にとって、牧
場を訪れた人々が満喫する「自然と健康のイメージ」を「牛乳、乳製品の販売拡
大にリンクさせる」こと。これが同社では長く基本戦略とされてきた。

 これまで、有機栽培の家庭菜園、動物広場、乗馬クラブ、パターゴルフコース、
バーベキューガーデン等も完備してきたが、その効果は「数年前を境目にほぼ限
界にきている」のが現状である。

 パートを含めての従業員は総勢40人。「人が多いだけに経営の安定が1番」だ
が、新たな付加価値として何を経営に取り込んでいくか? 尾関さんの試行錯誤
が続く。
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【牛舎には乳牛がいて…】

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【乗馬もたのしめます】

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