◎今月の話題


酪農乳業情報センターの設立に当たって

酪農乳業情報センター 事業推進委員会 委員長 岩倉 捷之助








改革は着実に実行

 平成13年4月27日、酪農乳業関係者は、酪農乳業情報センターの第1回事業推
進委員会を開催し、センター組織に関連する諸規約と平成13年度事業計画・収支
予算を決定した。これによって、酪農乳業が共同作業で課題に取り組む新しいタ
イプの協議体が誕生し、その活動が正式にスタートすることとなった。

 会議終了後に開催された設立記念パーティーにおいて、農林水産省生産局の永
村畜産部長は、「センターの設立によって、酪農・乳業対策大綱は、富士山に例
えれば8〜9合目まで来た。」とあいさつされたが、私は、この言葉を、強い緊
張感の中で受け止めた。

 戦後のわが国農業と食品産業を規定し続けた「基本法農政」の改革議論が本格
的に開始されたのは、9年4月のことである。翌10年9月に「食料・農業・農村
基本問題調査会答申」として出された改革方向の最大の特徴は、「市場原理の活
用」であった。その後、改革は短期間かつ着実に実行に移された。「食料・農業
・農村基本法」が制定され、その方向を酪農乳業分野で具現化するため「新たな
酪農・乳業対策大綱」が打ち出され、ついに不足払い制度の改正が13年4月から
断行された。


対立から共生へ

 言うまでもなく、不足払い制度の改革は、酪農乳業政策の時代を画した抜本的
な転換を意味する。わが国の生乳価格は、加工原料乳の取引価格と生産者価格を
政府が決定する仕組みの中で、市場原理が生かし切れない保護的条件の下にあっ
た。さらに、生乳の広域流通が常態化した状況の下では、飲用原料乳価格もまた、
加工原料乳の価格水準の影響を免れない実態となってきたといえる。

 また古くから、「酪農乳業は車の両輪」であると言われてきた。これは、酪農
と乳業の経済的関係が安定的であって欲しいという「主観的な願望」ではあった
が、ほぼ、その願望は満たされてきた。これも、不足払い制度の持つ「過剰乳製
品の買い上げ・保管」機能等による処が大きい。

 しかし、こうした生乳の価格形成の基本的条件を抜本的に転換させたのが、今
般の制度改革であるという点で、今後、わが国の酪農乳業は、従来の延長線上を
進むことはできない。酪農と乳業は、全面的な市場競争という真っただ中で、今
後、自らの発展と自立を勝ち取らなければならない。酪農と乳業が、センター設
立に際して発した「対立ではなく共生へ!」という共同宣言は、そうした時代的
洞察によるものだ。酪農と乳業の新たな関係性の構築は、情緒的な願望ではなく
現実的で緊急の課題なのだ。


2つの機能と3つのテーマ

 酪農乳業は、センターに対し、2つの機能と3つのテーマを付与した。2つの
機能とは、「情報共有化機能」と「課題解決機能」、3つのテーマとは「共同し
た需給調整」「生乳取引の円滑化」「消費・流通対策」である。

 まず、2つの機能に関して述べるならば、これらの機能は相互補完的である。
なぜなら、経済動向や市場環境などの現状とその変化の方向を正確に認識し、こ
れを酪農乳業が共有化しなければ、課題解決への正しいシナリオは描けないから
である。しかし、これはさほど容易ではない。例えば、市場での価格決定1つを
とっても、食品市場が未成熟な時代は、コストが価格形成の重要な要因であった。
しかしながら、現状の市場環境は、生産から流通に至る多様な要因が複雑に絡み
合っている。特に、消費者の購買行動が極めて多様で、流通チャネルの構造的変
化も大変早い。既存の統計データを眺めているだけでは、正確な現状認識は生ま
れない。業界が時代的な感性を獲得し価値観を転換するという、苦しい自己改革
の作業が求められる。

 3つのテーマについて述べるならば、「需給調整」「生乳取引」は、酪農乳業
にとって極めて現実的なものである。センターの機能は、これらのテーマを通じ
てはじめて具体化される。「需給調整」「生乳取引」というテーマへの取り組み
は、今後の新しい経済条件と環境変化を見定め(情報共有化機能の発揮)、新し
いアイデアを創出(課題解決機能の発揮)するという作業に他ならないからだ。
一方「消費・流通対策」は2つの意味で質の異なるテーマである。1つは、「消
費・流通対策」を通して市場の情報が酪農乳業の各ステージに正確に伝えられ、
それが「情報共有化機能」を活性化させるという点である。もう1つは「消費・
流通対策」を通じて、酪農乳業の課題とその解決方向を消費者や流通関係者に理
解してもらうということが可能となり、それが「課題解決機能」をも強化すると
いう点である。

 いずれにしても、酪農乳業はいま、時代の変化に対応した新しい発想とアイデ
アを生み出しそれを実行に移すという「課題解決力」を自ら獲得できるかどうか
が問われていると思う。酪農乳業情報センターが、今後、そうした作業の推進力
となり得るよう、関係者のご協力とご指導を切にお願いしたい。

いわくら しょうのすけ  昭和40年東京農工大学農学部卒業、同年明治乳業株式会社入社。酪農部原乳課 長、酪農畜産部北海道酪農事務所長、酪農畜産部長を経て平成9年4月酪農部長、 11年6月取締役酪農購買部長。13年4月酪農乳業情報センター事業推進委員会委 員長。

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