◎調査・報告


生ハム消費の現状と今後

財団法人外食産業総合調査研究センター 主任研究員 山腰 光樹


 消費者およびホテル・レストラン産業(業務用)での生ハム利用実態を把握す
るとともに、生ハムの今後の方向性を探ることを目的として調査した。調査の対
象は、首都圏・関西圏の百貨店、スーパー等の流通企業7社、ホテル、レストラ
ン、ビヤホール等の外食企業17社、生ハム輸入商社および国内生ハムメーカー5
社、合計29社の生ハム担当者にヒアリング調査を実施した。さらに、首都圏と関
西圏に居住する18歳以上60歳未満のモニター主婦600人を対象に郵送調査(メー
ルサーベイ)を実施した。その結果、首都圏265票、関西圏203票、合計468票の
有効回答を得た。以下、調査結果のポイントを紹介してみよう。

 なお、この調査は農畜産業振興事業団の指定助成対象事業「国産食肉等新規需
要開発事業」の一環として、財団法人日本食肉消費総合センターからの委託事業
として実施したものである。


国産生ハムの生産量推移

◆国産生ハム(ラックスハム)生産量は、約6千トン。最近3カ年の対前年伸び
 率は平成10年57%、11年16%、12年19%と増加傾向。

 近年、生ハムは高い伸びを示しており、11年の国産生ハム(ラックスハム)生
産量は、ハム製品群全体の4%のシェアしかないが、前年比16%と伸びており、
12年も19%増を示し、国内メーカーの商品開発が盛んに行われている。特に、8
年に世界的に有名な生ハム「パルマハム」がイタリアから輸入解禁され、9年の
記録的な赤ワインブームとイタリア料理人気を背景に、10年の国産生ハム生産量
は、前年比57%増と一気に増大した。一般にハム・ソーセージ類の消費が低迷す
る中で、まだ、物量的には小さい生ハムの消費が増加してきたことは、今後の市
場展望に明るい材料を提供していると言えよう。

◇図1:ラックスハムの生産量と対前年伸び率◇


輸入生ハムの動向

◆世界的に有名なイタリアの「パルマハム」が8年に輸入解禁。12年にはパルマ
 ハムと並び世界3大生ハムと称せられるスペインの「ハモンセラーノ」「ハモ
 ンイベリコ」も輸入解禁で生ハム市場は活況。

 11年の輸入生ハムの国別シェア(金額ベース)は、イタリアが55%と過半数を
占める。次いで、デンマーク18%、アメリカ13%、フランス3%と続く。その他
カナダ、スイス、ドイツ等から輸入している。11年の輸入量は881トン(13億4
千万円)で、前年比は16%減少したが、12年はスペインからの輸入が始まり、さ
らに増加傾向にあると推察される。

 生ハムというと「生もの」のイメージが強いが、欧州の生ハムは保存食品の系
譜にあり、使用する原料は豚もも肉に限られるなど、気候風土の条件の違いから、
日本とは異なる点に留意したい。イタリアのパルマハムはローファット、ローコ
レステロール、添加物を一切加えない天然塩のみ使用したナチュラル食品である。
一方、スペインのハモンセラーノは山のハムという意味で、スペインの山岳地帯
で作られていたことに由来する。白豚を原料としたハモンセラーノと、黒豚を原
料としたハモンイベリコがある。しっかりした歯応えと野性的な味わいが特徴と
される。


◇図2:輸入生ハム通関実績◇


百貨店・スーパーの生ハム取扱い動向

◆現在市場に流通している生ハムは実に多種多様。本来の生ハムは長期熟成を経
 た発酵食品。国産生ハム(ラックスハム)は日本独自の商品。

◆輸入生ハムは高級スーパー・百貨店ルート中心、国産生ハムは量販店中心の販
 売チャネルに二分。いずれも未だ伸びる余地のある商品という見方が多い。

 生ハム取り扱いの動機は、新しい食肉加工品を今後の育成商品、成長商品とし
て導入したところが多い。高級スーパーマーケットや百貨店では最先端の商品を
品ぞろえすることを一つのステータスととらえ、まだ法的な位置づけがなされる
以前(昭和57年以前)から販売しているケースもあるが、ほとんどはここ10年、
1990(平成2)年代に入ってからの導入が一般的である。品ぞろえは、高級スー
パーがイタリア、スペインなどの輸入品中心の品ぞろえに対して、生協を含む量
販店では圧倒的に国産品中心の展開である。取り扱いアイテム数は3アイテム程
度から20アイテムまであり、量販店では3〜4品目、高級スーパーで7〜8品目
位である。20アイテムを超す店もあるが、国内では別格とみられる。価格帯は10
0グラム当たり、300円程度の国産品から、上は3,000円(スペイン産ハモン・イ
ベリコ・ベリョータ)まであり、大きな差がある。輸入品の価格帯はイベリコな
どを除いて750〜1,500円、中心は1,000円前後に対して、国産の中心は400〜500
円程度で、約2倍の開きがある。この差は、そのまま原料、製造法、発酵・熟成
期間など品質の差とみなされる。包装形態は、相対的に高価格商品であることを
反映して、対面販売以外では1パック50〜70グラム程度の少量パックが多く、パ
ック単価で買いやすい価格を実現しようという努力がうかがえる。

 売れ行きについては3〜4年前は300〜400%の大きな伸びがあった企業もある
が、最近では2〜3%から数%増と小幅な伸びにとどまっているところが多い。

 仕入経路は国産品は各メーカーのルートセールス網を通じて仕入れている。輸
入品は専門商社経由が多い。コンシューマーパック商品は、ここ1〜2年で輸入
品(原木)を国内でスライスパック加工する専門業者が出てきており、輸入した
ものをいったんこうした業者の工場に運び、スライス・真空パックして仕入れる
方法が一般化してきた。ヨーロッパタイプの生ハムは発酵菌が生きていることか
ら、スライス加工する際の衛生管理が難しく、管理体制の整った専門業者での加
工は安心感のある方式といえる。原産地でスライス加工済みの商品もあるが、包
装資材の重量まで含めて運賃や関税を払わなくてはならなくなるため、コスト面
で問題が残る。生ハムのプロモーションで最も多いのは試食販売、とにかく味を
知ってもらうことに注力する企業が多い。食べ方もオードブル一辺倒からレパー
トリーがやや広がっているが、まだまだ食べ方(料理)の提案は不十分で今後の
課題といえる。

 今後の生ハム消費は、爆発的な伸びはないだろうが、まだある程度伸びる余地
はある商品というのが最大公約数的な見方である。発酵臭の少ない国産生ハム
(ラックスハム)は、フレッシュ感があってクセがなく、しかもソフト。刺身文
化の日本人に馴染みやすい商品として定着しつつあり、今後もこの路線は変わら
ないと思われる。また、ヨーロッパタイプの生ハムについて、無添加、自然環境
で育った商品という面を訴求して、さらに拡販意向の店もあり、価格要因をどこ
までクリアーできるかがポイントであろう。


レストラン・ホテルの生ハム取り扱い動向

◆ファストフード店やベーカリーレストランではパンとの相性の良さから、輸入
 生ハムが好評。レストランではディナーレストラン業態やイタリアンレストラ
 ン業態を中心に生ハム消費が増大。

◆ホテルの生ハム消費量は近年、ほぼ横ばい。特に宴会需要が低下。

 一口にレストラン・ホテルといっても業態、主力メニュー、客層とそれぞれが
大きく異なるため、生ハム取り扱い動向も大きく異なっている。

 生ハムメニュー導入の動機は、ファストフードタイプのコーヒーショップA社
は6年、業界内で最も早くパンメニューに生ハムを導入している。当初は国産生
ハムを使用。ソフトフランスパンに合う具材として生ハムとローストビーフの組
み合わせを開発し、評判となる。生ハムメニューは、従来のパンメニューの延長
線上からワンランク上のメニューとして開発している。さらに、11年9月からは
イタリア産生ハム使用のメニューを導入、国産と輸入生ハムを使った2つのパン
メニューを1年間の限定メニューで提供している。また、ファストフードB社は
パンメニューと相性が合う食材として4年前からパルマ産生ハムを使用しテスト
販売してきた。その後、スペイン産生ハムのキャンペーン企画として4カ月限定
で導入。1店舗平均の生ハムメニューの食数は35食。営業面積が10〜15坪の店舗
としては予想以上の売れ行きとなり、販売期間を2カ月延長している。ファスト
フードC社の場合は人気のチーズメニューに続く新たな定番メニューの開発とし
て、生ハムを使った新ハンバーガーメニューとしてスペイン産生ハムを使用した。

 一方、大手ファミリーレストランD社は、生ハムは従来一度も登場しなかった
食材で、コスト面からもメニュー開発の対象外だった。しかし、ワンランク上の
業態、つまりディナーレストランを開発する中で、生ハムは主役とはいえないが
最も重要視されてきた商材(必須アイテム)だった。ベーカリーレストランE社
では、パンとの相性から国産生ハムを15年前から導入。イタリアの生ハムが輸入
解禁されてからはパルマ産を使用。消費量は1店舗平均月間49キログラムとファ
ミリーレストランでは目立つ存在である。イタリアンレストランを多店舗化する
H社は11年まですべて国産だった。しかし、12年からパルマ産生ハムを使ってイ
タリア料理専門店化を強めつつある。イタリアレストランI社の生ハムは「イタ
リア・パルマ産プロシュート」。しかし生ハム使用量は横ばいである。これが増
加しない理由はコストが高く、今の景気低迷ではメニュー単価のアップは望めな
いからである。また、J社はファミリーレストランタイプでの生ハムメニューを
撤廃し、イタリアンタイプのレストランでの生ハムメニューを強化している。

 他方、ホテルの生ハム消費量は近年、ほぼ横ばい状況にある。特に宴会需要が
伸びないここ数年は、法人関係の立食パーティ需要が落ち込み、生ハムを活用す
る機会が低下している。ある大手ホテル関係者は、国産生ハムは熟成期間が短い
ためパルマ産のような味の深みがないと指摘し、国産メーカーは普及タイプに特
化しており、業務用では物足りないと、パルマハムタイプの国産生ハムの開発に
期待を寄せる声もある。


主婦の生ハムに対するイメージと意識

●生ハムのイメージ(純粋想起)

◆6割の人が「メロン」を思い浮かべる。次いで「オードブル」、「高級」、
 「サラダ」、「パーティ」がベスト5。

 「生ハム」といえば、6割の人が「メロン」を思い浮かべており、他を圧倒す
る。次いで、「オードブル」(33%)、「高級」(28%)、「サラダ」(24%)、
「パーティ」(19%)がベスト5である。その他では「高い」(13%)、「ワイ
ン」(12%)、「しょっぱい」(11%)、「サンドイッチ」(10%)、「おいし
い」(9%)が続く。

 生ハムの利用実態から、1カ月に1回以上利用する人を「ヘビーユーザー」、
2〜3カ月に1回利用する人を「ミドルユーザー」、半年に1回位利用する人を
「ライトユーザー」、生ハムをほとんど利用しない及び未購入者を「ノンユーザ
ー」としてイメージアイテムを見ると、「メロン」はヘビーユーザー(50%)→
ミドルユーザー(51%)→ライトユーザー(65%)→ノンユーザー(70%)と利
用頻度が低い人ほどメロンを想起する割合が高い。一方「サラダ」はヘビーユー
ザー(38%)→ミドルユーザー(26%)→ライトユーザー(18%)→ノンユーザ
ー(13%)と生ハム利用が多い人ほどサラダを想起している。同様に生ハム利用
頻度が多い人ほど「ワイン」を想起しており、興味深い傾向を示している。


●生ハムについての意識

◆「生ハムはワインやサラダに合い、食卓が豪華になる」と主婦の8割が指摘。
 「生ハムは好き」という声も74%ある。しかし、「価格が高い」という声は86
 %と多い。

 生ハムはワインやサラダ料理に合い、食卓が豪華になる、という意見が8割の
主婦から指摘されており、生ハムは好きだという声も74%を占める。生ハムに否
定的な声はわずか4%にすぎない。しかし、価格が高いという声が86%を占めて
おり、デフレ経済下の現状において、大きな課題といえよう。

 生ハムはヘルシーな食品という意見に対して、「はい」は16%、「いいえ」が
15%と態度は二分し、「どちらともいえない」人が約7割もいる。さらに、生ハ
ムは家族で気軽に使え身近な食品という意見には、「はい」は31%、「いいえ」
が29%、「どちらともいえない」人が40%を占めており、一般家庭にとっては身
近な商品とまでは至っていない。

◇図3:生ハムについての意見◇


生ハム購入(利用)の実態

◆主婦の8割が生ハム購入経験者。3分の2の主婦が外食店やパーティ、会合で
 生ハムを食べた経験を持つ。

◆購入頻度は「2〜3カ月に1回位」が最も多く25%、次いで「半年に1回位」
 が23%。生ハム購入者の平均購入頻度は月に1回。

◆生ハムヘビーユーザーは関西圏(39%)より首都圏(61%)に多い。ヘビーユ
 ーザーの7割は40・50代が占める。

◆普段購入(利用)する生ハムは「国産」が73%を占める。

 主婦の8割が生ハム購入経験者である。そして、およそ3分の2の主婦が外食
店やパーティ、会合で生ハムを食べた経験を持つ。また、生ハムを贈答品として
いただいた主婦は3割弱を占めており、今まで生ハムを食べた経験がない人は1
%と、ほぼ100%に近い人が生ハムを食べた経験を持っている。

◇図4:生ハム購入(利用)経験◇

 生ハムの購入頻度は「2〜3カ月に1回位」が最も多く25%、次いで「半年に
1回位」が23%、「1カ月に1回位」21%とかなりのバラツキがみられる。1カ
月に1回以上生ハムを購入する人は37%に達する。一週間に1回以上を4回、1
カ月に2〜3回を2.5回、1カ月に1回を1回、2〜3カ月に1回を0.4回、半年
に1回を0.2回として1カ月当たりの生ハム購入回数を求めると、生ハム購入者
の全体平均では1回(0.81回)となる。

◇図5:生ハム購入頻度◇

 生ハムの利用実態から、ヘビーユーザーは関西圏39%に対して首都圏では61%
を占め、ミドルユーザーにおいても関西圏40%に対して首都圏では60%と、生ハ
ムをよく購入する層は特に首都圏居住者に多い。

 年代別には、ヘビーユーザーの7割が40代(36%)と50代(34%)が占めてお
り、ノンユーザー層では20代(27%)と30代(34%)が61%を占めていることか
ら、生ハムをよく購入する層は40・50代の中高年層が中心であるといえよう。

 普段購入(利用)する生ハムは「国産」が73%と他を圧倒している。外国産で
は「イタリア産」が最も多く8%である。購入先は「大型スーパー」(76%)が
最も多く、次いで「デパート」(46%)、「食品中心の中小スーパー」(34%)
が続く。購入(利用)理由は「生ハムは美味しいから」(55%)、「オードブル
としてよく合うから」(53%)、「特別の日(誕生日やホームパーティ等)の食
卓に便利」(50%)、「生ハムはそのまま食べられてスピーディ」(49%)、
「生ハムは急な来客やもう1品欲しい時に便利」(38%)が挙げられ、普段、
「サラダ料理」(73%)、「そのまま(生で)」(66%)、「オードブル」(48
%)、「サンドイッチ」(32%)、「野菜と巻いて」(25%)、「フルーツと合
わせて」(25%)、「パスタ料理」「ピザ」「チーズ料理」「カルパッチョ」と
いった料理に生ハムを利用している。

◇図6:生ハム購入先◇

◇図7:普段の生ハムの使用料理◇


生ハムの満足度と不満理由

◆国産生ハム満足者は64%、不満者8%。不満理由は「塩辛さ」と「価格」。

◆輸入生ハム満足者は27%、不満者8%。不満理由は「原材料が不安」と「店頭
 で見かけない」。

 国産生ハム満足者は64%(「非常に満足」17%+「やや満足」47%)を占め、
不満者8%(「非常に不満」1%+「やや不満」7%)を大きく上回る。また、
輸入生ハム満足者は27%(「非常に満足」 5%+「やや満足」22%)、不満者8
%(「非常に不満」1%+「やや不満」7%)を上回るものの国産生ハムほどの
満足が得られていない。しかし、輸入生ハムを食べたことがない人が3割を占め
ており、未だ市場導入初期段階の位置づけにあることに留意されたい。

 国産生ハムの不満(非利用)理由は、「味が塩辛い」(37%)と「価格が高い」
(37%)がトップに挙げられ、次いで「生ハムを1枚1枚とろうとすると破れる」
(29%)、「味がまずい(まずそう)」(21%)、「おいしい料理方法がわから
ない」(17%)、「開封後の保管がしにくい」(15%)、「生臭い」(14%)が
7大不満要因である。

 輸入生ハムの不満(非利用)理由は「原材料が不安」(37%)、「店頭であま
り見かけない」(32%)が大きな要因である。次いで、「なんとなく」(22%)、
「衛生面で不安」(22%)、「価格が高い」(20%)、「味が塩辛い」(15%)
が指摘されている。

◇図8:生ハムの不満・非利用理由◇


今後の生ハム消費

◆国産生ハム増加意向者は44%、輸入生ハム増加意向者は27%。

◆家庭の食卓での生ハム増加意向者は46%、外食店での生ハム増加意向者は44%。

 今後3年くらいに生ハム消費量はどのように変わるか、4つのケース別に尋ね
た。

 結果は、国産生ハム増加意向者が44%(「非常に増加」4%+「やや増加」40
%)と、減少意向者2%(「非常に減少」0%+「やや減少」2%)を大きく上
回った。

 一方、輸入生ハムが増加するとした者は27%(「非常に増加」2%+「やや増
加」25%)、国産生ハムが増加するとした者(44%)ほど多くない。

 他方、家庭の食卓での生ハム料理が増加するとした者は46%(「非常に増加」
4%+「やや増加」42%)を占め、減少するとした者 3%(「非常に減少」1%
+「やや減少」 3%)を大きく上回っている。また、外食店での生ハム料理が増
加するとした者は44%(「非常に増加」6%+「やや増加」38%)を占め、家庭
の食卓で食べる生ハムとほぼ同じ傾向がみられる。

 属性別には、50代、年収1,000万円以上、生ハムライトユーザー層で他の層より
も外食店での生ハム増加意向者が多く注目される。

◇図9:今度3年間における生ハムの消費量の変化◇

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