◎地域便り


ゼロ円リゾートと生命総合産業を柱に

山口県/企画情報部


 阿武郡阿東町にある…というよりも、社団法人日本農業法人協会会長の坂本多
旦さん(61歳)が代表を務める…と紹介する方が通りが良いだろうか、有限会社
船方総合農場は。昭和44年、5人の構成員によって発足した。

 以来、農業経営の第6次産業化を目指す過程で、第2次、第3次産業的役割を
それぞれ担う株式会社みるくたうん、株式会社グリーンヒルATOを設立し、現在、
それら3つの法人はみどりの風協同組合の下で指揮・管理されている。

 現在の経営概要は乳牛143頭、肉牛242頭に、草地21ヘクタールとたい肥18万
袋を生産。乳製品372トン、肉製品5トンを製造加工するほか、水田24ヘクター
ル、樹園2ヘクタールからのコメ130トン、鉢花5万鉢、花苗35万ポットが加わ
る。

 グループ全体での就業者数は55人。このうちの39人が非農家出身者で、生産基
盤を持たない青年たちに「新しい村への入口」を開くという法人化当初からの基
本方針は今日も貫かれている。

 これによってグループの各事業を支える担い手は確保されてきたのだが、多種
多彩な人材は急激に変化する時代的要請への対応をも可能にした。ふん尿のたい
肥化、水稲作の農作業受託等々、独立法人としてではなく、地域という枠組みの
中での農業の継続、維持を考えれば、同グループの存在とそれが抱える人材は地
域に不可欠なものとなっていった。

 だが輸入農産物の増大にはどうにも対抗のしようがなかった。そこで国内農業
者の1人として消費者にアピールするメッセージの必要を感じて始めたのが"ゼ
ロ円リゾート"だ。都市と農村との交流の先駆けともいうべきもので、昭和59年
から着手。38ヘクタールのうちの8ヘクタールを無料で開放し、年間8万人が来
場する。

 毎年やってくる保育園児たちが弁当持参でお金もつかわないのでは申し訳ない
と一升瓶を持ってきて「おいしい牛乳を売って下さい」と言ってくれた。これが
きっかけとなって独自のミルクプラントを設けたのだが、必要資金の1億円も70
0人に達するファンたちからのカンパにも近い投資で賄われた。

 感慨無量だったのは最近、就農希望の若者と面接した時。「小さい頃から何度
も来ていた農場であり、農業には親しんでいました」と。紆余曲折、苦労の連続
もどこへやら、「ここまでの30余年が決して無駄ではなかった」と実感した。

 畜産に耕種、園芸をプラスした複合経営の手法はわが国に根づいてきた環境持
続型、資源循環型の農業に最適であり、規模拡大一辺倒ではなく地域の歴史、風
土を背景にした経営こそが「生命総合産業」としてのあるべき姿と思う。
【阿東町の農場】

    
【来場した子供たちへの搾乳指導】

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