◎地域便り


こだわりの酪農と仲間づくり

福井県/垣内 秀志


 松本忠司さん(46歳、福井県勝山市平泉寺町小矢谷)は、昭和60年に自分の目
指す酪農の実践を決意し、経ケ岳の山麓(標高約400メートル)で、離農牛舎を
買取り、経営を開始した。

 松本さんの農業への価値観に「平地は水田農業、中山間地は草地活用の酪農」
があり、自分の行う酪農には牛の健康管理と草地の有効利用として放牧に対する
強いこだわりがあった。この放牧に適した乳牛としてホルスタインより小型であ
るが暑さに強く傾斜地向きのジャージーにこだわり、40頭規模、放牧地8ヘクタ
ールで経営を続けている。

 これらのジャージー牛は、冬期以外、毎日草地に放牧され、丈夫で長持ちする
健康的な飼育が行き届き、不受胎による淘汰はないと言い切るまでに繁殖成績は
良好に推移している。

 自分の生産する牛乳の安全性と品質に絶対の自信を持つ松本さんは、次にジャ
ージー牛の持つ乳成分に注目し、62年に差別化商品として宅配を中心とした牛乳
の販売事業を開始した。これらの牛乳は、週3回金沢市の乳業メーカーで委託製
造され、「ラブリー牧場ジャージー牛乳」として900ccにびん詰めされて中味400
円、びん代100円で販売されている。

 牛乳販売で経営基盤を固めた松本さんは、次いでソフトクリーム等の店頭販売
を手がけて、平成2年に「まきば舘」、7年に「みるく茶屋」と「モーちゃん」、
12年に「まきばの里」を開店している。

 事業拡張に伴って従業員仲間を現在15人抱えるまでになったが、牧場の目的と
して「自然と共に生活する人の輪を広げる」を掲げている松本さんは自分の生き
方に共鳴するこれらの人々とは、一緒に仕事をするだけでなく住居や生活までも
共にすることを原則にしている。

 そして、お互いの当番制で作る従業員仲間の食事を賄うために、米や野菜を栽
培したり、鶏を飼育するなど自分たちの納得のいく農産物づくりに努めながらで
きるだけの自給を心がけている。

 「農業はもっと、地球にやさしい生産活動が可能である」と提案する松本さん
は、それらの提案を「こだわりの酪農」として自ら実践すると共に、仲間を増や
しながら農業の持つ環境を守る役割に誇りをもって新しい時代を切り開こうとし
ている姿勢が非常に印象的である。
【平成7年に開業した「みるく茶屋」】

    
【放牧されているジャージー牛】

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