◎調査・報告


畜産物需要開発調査研究から コレステロール代謝を改善する高付加価値牛乳開発のための基礎研究 −牛乳の新しい血清コレステロール低減化ペプチドに関する研究−

岐阜大学 農学部  助教授 長岡 利




はじめに

 現代日本の欧米型の食生活への移行は、身体の向上や栄養の改善をもたらし
たが、その一方で、肥満、高脂質血症、高コレステロール血症などの増加に伴
う、動脈硬化症などの心臓血管疾患すなわち、生活習慣病の増加が指摘されて
いる。これらの生活習慣病の増加の原因をともすれば、動物性食品すなわち、
卵・肉・牛乳などの畜産物に求める傾向があることも事実である。つまり、動
物性食品は生活習慣病との関連から敬遠されがちである。本当に、動物性食品
の摂取は健康に好ましくないことばかりなのだろうか。確かに、図1のように、
動物性脂肪の摂取量の多い国民は、心筋梗塞の死亡率が高いことが報告されて
いる。

 しかし、牛乳などの動物性タンパク質は植物性タンパク質と比較して、一般
にバランスのとれたアミノ酸組成を有しており、高いアミノ酸スコアを示すこ
とも知られている。実際に図2のように、日本においては、卵、牛乳、肉の消
費量の増加と平均寿命の伸びが密接に関連していることも報告されている。こ
の要因は、医療や生活環境の向上も勿論であろうが、食生活、特に動物性食品
の質・量の向上が大きく寄与していると考えられよう。

 以上のような相矛盾した報告がなされていることから、私は動物性食品の有
効性に関する真実の姿に迫りたいということをかねがね考えており、動物性食
品成分の評価に強い関心と興味を抱いてきたわけである。

◇図1:肉類・鶏卵・乳製品の消費量と平均寿命の変化◇

◇図2:世界各国の固形(動物性)脂肪と液状(植物性)脂肪の摂取状況と心筋梗塞死亡率との関係◇
折れ線グラフ:心筋梗塞死亡者割合(男子)
棒グラフ:液状脂肪(白)と固形脂肪(緑色)
(松崎俊久『老化と栄養』(篠原・森内・細谷編)第一出版(1988)より改変)


血清コレステロールと食品タンパク質・ペプチド

 高脂血症、特に高コレステロール血症は心臓病、特に虚血性心疾患の最も重
要な危険因子の1つと考えられている。事実わが国では、冠状動脈硬化症に基
づく狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患による死亡率の増加が著しい。この
ような背景から、高コレステロール血症の食餌による予防や改善も非常に有効
な方策と考えられている。すなわち、食餌タンパク質も血清コレステロール濃
度調節因子として、かなり有用な成分である。図3のように、一般的に動物性
たんぱく質に比べて、植物性たんぱく質で血清コレステロールは低値を示すこ
とが、これまで繰り返し語られてきた(参考論文1)。しかし、既にわれわれ
は、動物性食品たんぱく質である牛乳乳清たんぱく質の血清コレステロール低
下作用に関して研究してきている。詳細は既報(2〜5)を参照いただきたいが、
驚くべき事に、従来血清コレステロール低下作用を有することが明らかにされ
てきた大豆たんぱく質(6、7)よりも強力な血清コレステロール低下作用を牛
乳乳清たんぱく質が発現することを発見した。さらに、われわれの研究室では、
これまでに牛乳の乳清タンパク質であるβ-ラクトグロブリンのトリプシン加
水分解物(LTH)が、コレステロール代謝改善作用を有することも報告してき
た(5)。しかも、この作用は大豆タンパク質よりもはるかに強力で期待でき
る。さらにLTHを分画分取して、小腸上皮細胞の機能を発現するCaco-2細胞に
おけるコレステロールの吸収評価系により、吸収抑制作用を有するペプチドの
同定を行った。その結果、IIAEK、GLDIQK、ALPMH、VYVEELKPTPEGDLEILLQKの4
種類の新しいコレステロール吸収抑制ペプチドを発見した(8)。そのうち、
すでにIIAEKはラットにおいて血清コレステロールを医薬品のβ-シトステロー
ルよりも強力に低下させることも世界に先駆けて発見し報告した(8)。

◇図3◇

 そこで、本総説では、β-ラクトグロブリン由来ペプチドのコレステロール
代謝改善作用について、下記のような3点について検討した成果を紹介する。

注)上記のペプチドのうち、それぞれ、A:アラニン、D:アスパラギン酸、E
:グルタミン酸、G:グリシン、H:ヒスチジン、I:イソロイシン、K:リシン、
L:ロイシン、M:メチオニン、P:プロリン、Q:グルタミン、T:トレオニン、
V:バリン、Y:チロシンのアミノ酸を示す。

@ Caco-2培養細胞で発見した、コレステロール吸収抑制ペプチドが、in vi
 vo(体内で)で血清コレステロール低下作用を有するかどうかをマウスに食
 餌として与えて評価検討した。これまでは、ラットに経口投与で与えた実験
 系で評価したため、ラットとは別の種においても活性が観察されるかどうか
 を検討した。そのために、短期摂取による摂取条件をマウスで設定した。今
 回マウスを用いた動物実験系を構築する理由は、マウスは遺伝的な背景の解
 析がラットよりも進んでいる点、高価なペプチドの摂取・評価を効率的に展
 開できる点が有用であるためである。

A マウスの場合も、ラットの場合と同様に、IIAEKペプチドは医薬品であるβ
 -シトステロールと比較して、コレステロール代謝改善作用をより強力に発
 現するかどうかを比較検討した。

B IIAEK以外の、in vitro(体外で)でコレステロール吸収を抑制したGLDIQK、
 ALPMHペプチドのコレステロール代謝に対する影響について、マウスで検討し
 た。


研究内容

実験1

 動物実験(マウス)によるβ-ラクトグロブリンのトリプシン加水分解物由
来のペプチド(IIAEK)および医薬品β-シトステロールのコレステロール代
謝に対する影響

 ICR系雄マウス(初体重約20g)を用いた。20%カゼインに1%のコレステロ
ールを添加した飼料に、カゼイントリプシン加水分解物(CTH)、IIAEKおよ
びβ-シトステロールをそれぞれ0.3%添加した食餌を4日間摂取させた。食餌
組成は表1に示した。4日目にラットを心臓採血によりと殺した。各群はそれ
ぞれ6匹とした。体重は毎日、24時間の食餌摂取量は、4日目に測定し、ふん
の採取は2日目から4日目に行った。4日目にラットをエーテル麻酔下で心臓採
血によりと殺し、肝臓を摘出した。血清は遠心分離(3000回転、15分)する
ことにより調製し、分析まで凍結保存した。血清脂質は酵素法で測定した。
肝臓は表面に付いた血液などをよくふき取り、0.9%NaCl溶液で洗浄後、湿重
量を測定し、分析まで凍結保存した。肝臓脂質の抽出、精製は、Folchらの方
法(9)に従って行い酵素法で測定した。ふん中ステロイド排泄量は既報(10)
に従って定量した。

実験群は下記のようなものである。

@CTH:カゼイントリプシン加水分解物
Aβ-シトステロール
BIIAEK(β-ラクトグロブリンのトリプシン加水分解物由来のペプチド)

表1 実験食の組成(g/300 g)

1. CTHはカゼイントリプシン加水分解物をいう
2. AIN-93G ミネラル混合物.  食餌は、次のようなミネラルを含んでいる
 (mg/kg 食餌):
 Ca:5000,P:1561,K:3600,S:300,Na:1019,Cl:1571,Mg:507,Fe:35,Zn:30,Mn:10,
 Cu:6,I:0.2,Mo:0.15,Se:0.15,Si:5,Cr:1.0,F:1.0,Ni:0.5,B:0.5,Li:0.1,V:0.1.
3. AIN-76 ビタミン混合物.  食餌は、次のようなビタミンを含んでいる
 (mg/kg 食餌):
 all-trans-retinyl palminate:4000IU,cholecalciferol:1000IU,
 all-rac-α-tocopheryl acetate:75IU,phylloquinone:0.75,
 thiamine-HCl:6.36,rivoflavin:6.0,pyridoxin-HCl:7.29,nicotinic acid:30,
 Ca-pantothnate:16.31,folic acid:2.0,cyanocobalamin:0.025,biotin:0.2.

実験2

 動物実験(マウス)によるβ-ラクトグロブリンのトリプシン加水分解物由
来のペプチド(GLDIQK、ALPMH)のコレステロール代謝に対する影響の検討

 ICR系雄マウス(初体重約20g)を用いた。20%カゼインに1%のコレステロ
ールを添加した飼料に、カゼイントリプシン加水分解物(CTH)、β-ラクト
グロブリントリプシン加水分解物(LTH)、GLDIQKおよびALPMHをそれぞれ0.3
%添加した食餌を4日間摂取させた。食餌組成は、表2に示した。4日目にラッ
トを心臓採血によりと殺した。各群はそれぞれ6匹とした。体重は2日毎に24
時間の食餌摂取量は、4日目に測定し、ふんの採取は2日目から4日目に行った。
4日目にラットをエーテル麻酔下で心臓採血によりと殺し、肝臓を摘出した。
血清は遠心分離(3000回転、15分)により調製し、分析まで凍結保存した。
血清脂質は酵素法で測定した。肝臓は表面に付いた血液などをよくふき取り、
0.9%NaCl溶液で洗浄後、湿重量を測定し、分析まで凍結保存した。肝臓脂質
の抽出、精製は、Folchらの方法(9)に従って行い、酵素法で測定した。ふ
ん中ステロイド排泄量は既報(10)に従って検討した。

実験群は下記のようなものである。

@CTH:カゼイントリプシン加水分解物
ALTH:β-ラクトグロブリンのトリプシン加水分解物
BGLDIQK:β-ラクトグロブリンのトリプシン加水分解物由来のペプチド
CALPMH:β-ラクトグロブリンのトリプシン加水分解物由来のペプチド

[統計分析]

実験1、2の実験結果の統計的分析には、Duncan's Multiple Range Testを用
いた。

表2 実験食の組成(g/300 g)

1. CTHはカゼイントリプシン加水分解物を、LTHはβ-ラクトグロブリンのト
   リプシン加水分解物をそれぞれいう
2. AIN-93G ミネラル混合物.  食餌は、次のようなミネラルを含んでいる
 (mg/kg 食餌):
    Ca:5000,P:1561,K:3600,S:300,Na:1019,Cl:1571,Mg:507,Fe:35,Zn:30,Mn:10,
    Cu:6,I:0.2,Mo:0.15,Se:0.15,Si:5,Cr:1.0,F:1.0,Ni:0.5,B:0.5,Li:0.1,V:0.1.
3. AIN-76 ビタミン混合物.  食餌は、次のようなビタミンを含んでいる
 (mg/kg 食餌):
    all-trans-retinyl palminate:4000IU,cholecalciferol:1000IU,
    all-rac-α-tocopheryl acetate:75IU,phylloquinone:0.75,
    thiamine-HCl:6.36,rivoflavin:6.0,pyridoxin-HCl:7.29,nicotinic acid:30,
    Ca-pantothnate:16.31,folic acid:2.0,cyanocobalamin:0.025,biotin:0.2.


研究結果

実験 1 (動物実験)(表 3 、 4 、 5 )

 体重増加量において、CTH群と比較して全群で有意な差は見られなかった。
食餌摂取量は、群間で変化がなかった。肝臓重量において、CTH群と比較して、
IIAEK群で有意に上昇した。血清脂質分析において、総コレステロール値
は、CTH群と比較してIIAEK群で有意に低下したが、β-シトステロール群では
有意な低下は生じなかった。HDL-コレステロール値は、CTH群と比較してIIAEK
群において上昇傾向が見られた。LDL+VLDL-コレステロール値は、CTH群と比較
してIIAEK群で有意に低下した。総コレステロールにしめるHDL-コレステロー
ルの割合(動脈硬化指数)を算出したところ、CTH群と比較して、IIAEK群で有
意に上昇した(表3)。

 肝臓脂質分析において、肝臓1グラム当たりでは、総脂質値は、CTH群と比較
してβ-シトステロール群で有意な低下が見られ、IIAEK群で低下傾向が見られ
た。コレステロール値は、IIAEK群でCTH群と比べて有意な低下が見られたが、
β-シトステロール群では有意な差は見られなかった。100グラム体重当たりに
換算すると、総脂質値及において、CTH群と比較するとβ-シトステロール群は
有意に低下したが、IIAEK群では有意な差は見られなかった。コレステロール
値において、群間で有意差は見られなかった(表4)。

 ふん中ステロイド分析において、酸性ステロイド排泄量は、CTH群と比較し
て、IIAEK群で有意に上昇し、β-シトステロール群では低下傾向を示した。ふ
ん中のコレステロールの排泄量は、CTH群と比較して、β-シトステロール群、
IIAEK群で有意に上昇した。中性ステロイド排泄量においても、CTH群と比較し
て、β-シトステロール群、IIAEK群で有意に上昇した。従って、総ステロイド
排泄量において、CTH群と比較して、β-シトステロール群、IIAEK群で有意に
上昇した。(表5)

表3 マウスにおけるCTH、β-シトステロール、IIAEKの体重増加量、
肝臓重量、食餌摂取量、血清脂質に対する影響 1 , 2 , 3

1. 摂取期間は 4 日間.	     3. 異なった文字間で有意差あり(p<0.05).
2. 各群 6 匹の平均値±標準偏差.	4. LDL+VLDL-コレステロール=血清総コレステロール - HDLコレステロール

表4 マウスにおけるCTH、β-シトステロール、IIAEKの肝臓脂質に対する影響 1 , 2 , 3

1. 摂取期間は 4 日間.  2. 各群 6 匹の平均値±標準偏差.  3. 異なった文字間で有意差あり(p<0.05).

表5 マウスにおけるCTH、β-シトステロール、IIAEKのふん中脂質に対する影響 1 , 2 , 3

1. 摂取期間は 4 日間.  2. 各群 6 匹の平均値±標準偏差.  3. 異なった文字間で有意差あり(p<0.05).

実験 2 (動物実験)(表 6 、 7 、 8 )

 体重増加量、食餌摂取量において、群間で有意差は見られなかった。肝臓重
量において、CTH群と比較して、GLDIQK群(以下G群という。)、ALPMH群(以
下A群という。)で有意に上昇した。血清脂質分析において、総コレステロー
ル値は、CTH群と比較して、G群、A群で有意に低下したが、LTH群では有意な低
下は生じなかった。HDL-コレステロール値は、CTH群と比較して、全群で有意
な差は見られなかった。LDL+VLDL-コレステロール値は、CTH群と比較して、G
群、A群で有意に低下した。総コレステロールにしめるHDL-コレステロールの
割合(動脈硬化指数)を算出したところ、CTH群と比較して、G群、A群で有意
に上昇した。(表6)

表6 マウスにおけるCTH、LTH、G群、A群の体重増加量、肝臓重量、
食餌摂取量、血清脂質に対する影響1,2,3

1. 摂取期間は 4 日間.	     3. 異なった文字間で有意差あり(p<0.05).
2. 各群 6 匹の平均値±標準偏差.	4. LDL+VLDL-コレステロール=血清総コレステロール - HDLコレステロール


 肝臓脂質分析において、肝臓1グラム当たりでは、総脂質値は、CTH群と比較
して、A群はStudent's t-testにおいて有意に低下した。中性脂質およびリン
脂質は、CTH群と比較して、全群で有意な差は見られなかった。コレステロー
ル値は、CTH群と比較して、G群、A群で有意に低下した。100グラム体重当たり
に換算すると、総脂質値および中性脂質値では、CTH群と比較して、全群で有
意な差は見られなかった。リン脂質値は、CTH群と比較して、LTH群とG群で上
昇傾向を示し、A群で有意に上昇した。またコレステロール値は、CTH群と比較
して、LTH群、A群で低下傾向を示し、G群で有意に低下した。(表7)

 ふん中ステロイド分析において、酸性ステロイド排泄量は、CTH群と比較し
て、G群、A群で有意に上昇した。ふん中のコレステロールの排泄量は、CTH群
と比較して、LTH群で上昇傾向を示し、G群、A群で有意に上昇した。中性ステ
ロイド排泄量においても、CTH群と比較して、LTH群で上昇傾向を示し、G群、
A群で有意に上昇した。従って、総ステロイド排泄量において、CTH群と比較し
て、LTH群で上昇傾向を示し、G群、A群で有意に上昇した(表8)

表7 マウスにおけるCTH、LTH、G群、A群の肝臓脂質に対する影響 1 , 2 , 3

1. 摂取期間は 4 日間.   2. 各群 6 匹の平均値±標準偏差.   3. 異なった文字間で有意差あり(p<0.05).

表8 マウスにおけるCTH、LTH、G群、A群 のふん中脂質に対する影響 1 , 2 , 3

1. 摂取期間は 4 日間.   2. 各群 6 匹の平均値±標準偏差.   3. 異なった文字間で有意差あり(p<0.05).


研究考察

 これまでの研究から、大豆タンパク質の血清コレステロール低下作用には、
疎水性のペプチドが関与することが仮説として考えられてきた(11、12)。
しかし、in vivoでも活性を発現する大豆タンパク質由来の血清コレステロ
ール低減化ペプチドは未だに未発見である。われわれは世界で初めて、β-ラ
クトグロブリン由来の新しい血清コレステロール低減化ペプチドを3種類(II
AEK、GLDIQK、ALPMH)発見した。

 今回の研究により、マウスにおいて、飼料にβ-ラクトグロブリン由来ペプ
チド(IIAEK)を0.3%という極微量添加することにより、血清コレステロー
ルは劇的に低下した。しかもIIAEKは、医薬品であるβ-シトステロールより
も強力な血清コレステロール低下作用を発現した。今回、初めてマウスを用
いた短期評価系が構築されたことから、今後は、極微量で高価な合成ペプチ
ドの評価が可能となろう。また、経口投与と比べて操作が容易であることか
ら、今回の実験系も極めて有用であろう。IIAEK摂取時において、ふん中への
ステロイド排泄量を測定したが、対照群(CTH群)と比較して、有意なふん中
へのステロイド排泄量の増加が観察された。IIAEKは、小腸におけるコレステ
ロールの吸収を阻害している可能性が示唆された。

 さらに、β-ラクトグロブリン由来ペプチドであるG群およびA群を食餌とし
てマウスに与えた時の影響を検討した。G群やA群は、対照群(CTH群)に比べ
て血清コレステロールレベルを劇的に低下させた。肝臓コレステロールレベ
ルは、肝臓1グラム当たりにおいて、CTH群と比較して、G群、A群で有意な低
下を示し、G群では100グラム体重当たりに換算したあとでも、CTH群と比較し
て有意な低下が観察された。またG群、A群では、CTH群と比較して、ふん中の
酸性ステロイド排泄と中性ステロイド排泄のいずれも有意に上昇した。この
ことからG群、A群では、小腸におけるコレステロールの吸収を阻害している
可能性が示唆された。今後は、これらのペプチドが、どのような機構でふん
中へのステロイド排泄増加を誘導するのかを解明したいと考える。またIIAEK、
GLDIQKやALPMHが、どの程度どのような形態で吸収され、吸収後に肝臓などの
コレステロール代謝関連遺伝子発現に対して、どのように影響するのかを検討
するのは大変興味深いと考える。

 従来、タンパク質やアミノ酸のコレステロール代謝に対する影響は、ラット
などに、5%以上のレベルで食餌に添加した場合において観察されている場合
が多い。しかし、今回の研究で発見した3種類の新しい血清コレステロール低
減化ペプチドは、わずか食餌に0.3%添加で極めて強力な効果を発揮した。こ
のことから、従来のタンパク質自身やアミノ酸単独の摂取によるコレステロー
ル代謝に対する影響から考えられてきた概念(13〜16)では、これらのペプチ
ドの効果は説明不可能であり、ペプチドのコレステロール代謝に対する影響を
説明するための新しい概念の構築が必要である。その意味でもこれら3種類の
血清コレステロール低減化ペプチドの発見は注目に値すると考えられる。

 以上のような研究から、β-ラクトグロブリン由来のペプチドであるIIAEK以
外に、GLDIQKおよびALPMHが、血清コレステロール低下作用を発現することを
世界に先駆けて初めて発見した。これらのペプチドのコレステロール代謝改善
作用は、これまでに報告がなく、新たな畜産資源の有用性の発見として注目に
値する。これらのことは、畜産物の需要開発、需要増進に明らかに結びつくも
のである。

参考論文

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